ダンジョンに黒い沈黙を向かわせたのは間違いではないはず   作:ピグリツィア

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出張!ネズミ駆除業者!

 ダンジョン探索二日目、俺はリヴィラを目指して17階層の『嘆きの大壁』の前まで来た。ゴライアスってのは居なさそうだな。

「おい、そこの黒いの!」

「うん、俺か?」

「おおそうだ、リヴィラに用事だったら悪いが今は封鎖中だ、素通りするってんなら止めねえけど街には入れねえぞ」

 マジかよ、一目見てみたかったんだが…諦めるか。18階層より下に行くつもりはなかったからそこまで準備してないし。

「仕方ない、出直すとするよ。ところで何があったんだ?」

「色々だよ、マジで色々だ。後でギルドから情報が出るだろうからそれを見るんだな」

 こりゃかなりの大事みたいだな、後で詳しく調べてみるか。

 

 という訳で、今日も食糧庫乱獲でもしますかね。

「今回はこっそり狩るか、昨日は長期戦になったしな」

 ベルが殺されかけたと言う牛頭のミノタウロスはここら辺じゃかなりやりやすい方だ。戦い慣れた人型だしな、普通にヘルハウンドの方が厄介だ。とはいえ狼牙工房じゃモンスターに対して余りにも刃渡りが短すぎるので使うのはクリスタルアトリエだ。

「さ〜て、今日も稼ぐぞ〜」

 

 数時間後、そこそこ稼いだのでスキルの実験に入る。

「なんか良いEGOある?」

「そうね…L社の記録から出すなら『赤い目』か『彼方の欠片』かしらね」

「じゃあ『彼方の欠片』で」

 バチッという音と共に不思議な色をした槍が手元に生成される。TETHクラスのEGOでも手持ちの武器と比べても遜色無いくらいに強力だな。

「やっぱり維持にもそこそこ魔力を消費するな」

「そっちに存在しない物だから相性が悪いのかしら、本体もこっちにあるし…そこら辺も分析しなきゃね」

 EGOや人員の転送にはビナーの補助もあるらしい、補助なしだと魔力の消耗が跳ね上がるんだとか。

「まったく、ビナー様様だなっと」

 手近な所にいたミノタウロスに喧嘩を売ると怒りの声と共に突進してくる。それを横に回避して軽く数度つついてみる。

「ヴオォッ!?」

 ちょっとつついただけだってのに随分大袈裟なリアクションだな…そういえばこれ精神汚染するんだっけ。無闇矢鱈に暴れられると大変だしさっさと片付けるか。

「よっと」

 棒高跳びの要領でミノタウロスの頭上を取って、脳天に向かって投槍。これで終わりだ。

「アンジェラ、チェンジで」

「『赤い目』ね」

 槍が消滅して代わりに多数の目がついた黒いメイスが出現する。

「さて、次は…」

 少し遠くに見える犬を叩くか。

「ん?アンジェラ、これって何か変な効果ついてる?」

「簡単にいえば戦闘時の移動能力上昇ね」

「本当にEGOって何でも有りだな…消耗さえなければベルに適当なやつ貸しても良かったかもな」

 上昇した移動速度を利用して勢いよくハウンドドックの顔面を打ち据える。即死だな。

「いいね、もうちょっと深い所に行ったらEGOをメインで使うかもしれないな」

「その調子でそちらのモンスター素材を送ってちょうだい。皆が久しぶりの研究で盛り上がってるから」

 なんだかんだ言いつつも未知の物に惹かれてしまうらしい。特に研究者達だな。

「今は魔石の研究で手一杯だけど時々気分転換にモンスター素材で遊んでるわよ」

 ここでの遊びってのは適当な薬品をぶっかけて反応を見たりとかの実験のことらしい。

「もしかしたらその内面白い武器ができるかもしれないわね?」

「期待せずに待ってるよ」

 

 EGOの試運転も済ませたし遅くなる前に帰還する。昨日の素材も一緒に鑑定に出して昨日より少し多めの収入だ。

「おお、ベルだ…あの子供、いや小柄な獣人か?知り合いかな」

 丁度ダンジョンから帰った来た所みたいだな、換金所のあるこっちに向かって歩いてきてる。

「あっ!ローランさん!」

「おうベル、そっちの子は?」

「っ、サポーターのリリルカ・アーデです…」

 ふ〜ん、ベルの様子は…変わった様子も無いな。泳がしている様子でもないしあとでお説教かな。

「どこのファミリアに所属しているんだ?」

「『ソーマ・ファミリア』です」

 ソーマファミリアかぁ、あの神酒で有名なファミリアの冒険者ね。

「今から換金か?」

「はい!リリも頑張ってくれたので今日はすごい稼げましたよ!」

「へえ、随分と自信満々じゃ無いか。これは期待しても良さそうかな?」

 椅子から立ち上がってベルの頭を雑に撫でる。そのついでに『そこ』を見れば…やっぱり見事に抜かれているな。まったく、脇が甘すぎるぞ。

「っと呼ばれたな、先に行ってるけど…ちょっと用事があって帰るの遅くなるかもしれないから先に帰っててくれ」

「はい!またホームで!」

 リリルカはこちらにお辞儀をしてくる。さて、後ろには何が居るんだか。

 


 

 適当な物陰で仮面をつけて、換金所でベルと別れたリリルカを尾行する。

「『響く十二時のお告げ』」

 物陰で一言呟くとリリルカの容姿が小人族の少女に変わる。あれが魔法か、随分便利そうな魔法だな。

「『貴方の刻印は私のもの。私の刻印は私のもの』」

 再び魔法の詠唱らしき行為をすれば次は小人族の男らしい顔に変わる。容姿を変える魔法か、体格は大きくは変えられなさそうだな。

 そのまま路地裏の、看板に『ノームの万屋』と書いてある店に入る。

「お願いします」

 耳を澄ませれば店の中の声が鮮明に聞こえてくる。

「ふぅん、これまた変わったものを持ってきて…少し待っとってくれ」

 静かに、少しだけドアを開いて中の様子を伺う。年代物の武器や美術品、結構な数の宝石、ここはそういう所っぽいな。

「何じゃいこりゃあ?そこのゴミ捨て場からでも拾ってきたのかい?」

「なっ…」

 帰ってきた店主の第一声にリリルカが声を失う。そういえばあのナイフは文字通りの『ベル専用』だったな。正確にはヘスティアの恩恵を受けた者専用だった筈だけど…細かいことはどうでも良い。重要なのは今あのナイフは刃を潰された見た目だけのナイフって所だ。

「押しても引いても何も切れはしないし、特殊な力がこもっとるわけでもない。それによくわからんが、死んでおるよ、刀身そのものが。まあ本物のガラクタじゃな」

 そういう武器とは言え散々な評価だな、つい仮面の下で苦笑いしてしまった。

「珍しいのぉ、お前さんがこんなもの掴まされるなんて」

「ま、待ってください!そんな筈は…」

 随分とこういう事に慣れているみたいだな、今回はハズレを摑まされた訳だが。

「といってもなぁ。間違ってもこんなモノ、お得意さんに回すわけにはいかんし…ウチでよければそこら辺に飾るよ?30ヴァリスでどうだい?」

 2億ヴァリスのナイフが30ヴァリスで横流しされそうになっている。危うく噴き出す所だったぞ。

「また来ますっ!」

「おうおう、今度は期待しとるよ。…でもあのミミズがのたくったようなワケワカメな文字、ジジイどっかで見たことがあるような…」

 もしかしたら神聖文字が読める人間だとまた違う値段が付いたかもしれない。とりあえず店から出てきたリリルカを再び尾行しよう。

 


 

 困惑した様子で手元のナイフを見つめている。おそらくベルが使っているところを目の当たりにしたんだろう。それが子供の小遣いにもならない値段で引き取るなんて言われたら納得いく筈もないな。

 向かいから人が…豊穣の女主人の従業員だなアレ。なんでこんなところにいるんだ。

 ともかく、リリルカは人が来たのを確認してナイフを袖の中に隠す。

「待ちなさいそこのパルゥム」

 おっと?何故か二人の内のエルフの方、リューがリリルカを呼び止める。

「袖にしまったナイフ、それを見せてほしい」

 思わず顔を顰めてしまった。仲間がいないかもう少し泳がせたかったんだけどな。

「リュ、リュー?」

「…何故ですか?」

「知人の持ち物に似ていたので、もし良ければ確認させてほしいのですが」

「…生憎ですがこれは私のものです。あなたの勘違いでしょう」

 しらを切るのは悪手じゃないか?確実にバレてるしこいつは確か…

「抜かせ」

 ああほら、むっちゃ気性が荒いんだよ。これは相当痛い目に会いそうだな。威圧どころか殺気を振り撒いてるし。

「『神聖文字』が刻まれた武器の持ち主など、私は一人しか知らない」

 もうちょっと周りの迷惑も考えてほしい、この子血の気がありすぎるんだけど。

「動かないでください」

 こんなか弱い女の子に馬鹿みたいな殺気なんてぶつけておいて動くなは無理がない?あ、今は男の見た目か。

 おお、良く足が動いたな。脱兎の如くと言うには足取りが覚束ないが一生懸命に逃げようとしている。

「警告はしました」

 こいつは食べ物で遊ぶなと親から学ばなかったのか?リンゴは投擲武器じゃないぞ。

 パァンなんて音と共にリリルカのナイフを持った左手に衝突したリンゴが木っ端微塵に砕ける。そんな攻撃を喰らってナイフを持ち続けられる事もなく、取り落としたナイフにリリルカが気を取られた瞬間。

「腹に力をこめた方がいい」

 うわっ、えっぐい。遠慮無く脇腹を蹴っ飛ばしたぞ。似たようなこともそれ以上のことも俺がベルにやってるって?アレは訓練だからセーフ。

「ふぎゃあっ!?」

 悲鳴を上げて吹っ飛ばされるリリルカ。俺は今のところここまでやる予定はなかったんだけど…そのままリューはナイフを回収して大勢の猫の鳴き声を背景にリリルカを追う。

 

「リ、リリ!?」

 大通りに出ると目の前にはベル。多分ナイフを探してここに来たんだろうけどなんて偶然だ。

「ちょ、どうしたの!?何かあったの!?」

「そ、その声は…ベル様!?」

 突然目の前に満身創痍の知り合いが居たらびっくりするよな。俺も何度か経験があるから気持ちはわかるぞ。

「実は凶暴な女…じゃあなくてっ、野良犬に襲われてしまいまして…」

「だ、大丈夫なの!?」

 ベルよ、木端とはいえ冒険者をそこまで満身創痍にさせるレベルで凶暴な野良犬はもうモンスターだぞ。気づけベル。

「まさか逃げられるとは…」

 おっとここで凶暴な野良犬のエントリーだ、匂いでバレるかもしれないが大丈夫なのか?

「今度はリューさん!?な、何が起こってるんですか一体!」

「ああ、ちょうど良かった。実は貴方の…」

 見てる見てる、むっちゃリリルカを見てる。どうするリリルカ?

「『響く十二時のお告げ』『貴方の刻印は私のもの。私の刻印は私のもの』」

 おお!ここで勝負に出た!変身だ!

「クラネルさんどいてください」

「え、ちょ、ちょっと!」

「ひゃっ!」

 ベルを押しのけてリリルカのフードに魔の手が伸びる!さあどうなる!?

「………失礼しました」

 セーフ!リリルカ選手、勝利しました!何とか逃げ切った!

「な、何しちゃってるんですか貴方は!リリ、大丈夫!?」

「は、はぃ…」

「すいません、人違いでした。少々気が短くなっていたようです」

 九死に一生を得たリリルカ選手、おもわず脱力して地面に崩れ落ちました。セコンドのベルがそれを支えます。

「リュ…ローランさん?何やってるんですか?」

「うおあ!?ああシルか、いやなんかそこで騒ぎがあったみたいでさ」

 アホな脳内実況をしていると背後からシルに声をかけられた。

「ああ、それは多分…そうだ、リュー!食べ物をあんな風に使っちゃダメ!お母さんに怒られるよ!?」

「それは困ります…」

「よっ、ベル。ま〜た厄介事か?」

「ローランさん!ポーション持ってませんか!?」

「ほれ」

 ベルにポーションを投げ渡す、それをリリルカに飲ませている間にリューの方を見る。

「それで、何がどうしてこうなったんだ?リューが随分殺気立ってるけど」

「クラネルさん、貴方は今あの黒いナイフを持っていますか?」

「あ、そうだった!?二人とも上から下まで真っ黒なナイフを見かけませんでしたか!?」

「何だベル、無くしたのか?ヘスティアが号泣じゃ済まないぞ〜」

 なんなら首を吊るかもしれん、数日で2億がパーだからな。

「これですか?」

「うああああああああああああああっ!!」

 良かったなベル、そのナイフが30ヴァリスに変わってなくて。

「ありがとうッッ!!本っ当にっ、ありがとうございますっ!!」

 勢いそのままにリューの両手をガシッと力強く握る。エルフは他者に触られるのを良しとしないから反撃のグーパンが飛んでくるぞ。

「…クラネルさん、その、困る。このようなことは私ではなく、シルに向けてもらわなくては…」

「おっと満更でもなさそうだな?これは危ういかもしれないぞシル、もっと積極的にならなきゃ取られるかもな?」

「リューなに言ってるの!?ローランさんも茶化さないでください!」

 怒られてしまった、反省はしている。それはそれとして今後も隙あらばこのネタで揶揄うが。

「あぁ良かった…神様ゴメンナサイ、もう二度と落としたりしませんっ!」

「落とした?」

 ベルの手元で切れ味を取り戻し紫紺の輝きを帯びたナイフをリリルカが目を見開かせて眺める。

「すいません本当に…このナイフどこにありましたか?」

「あった、というより一人のパルゥムが所持していました」

「パルゥム?」

 おっとリリルカ選手、再び危機に陥る…訳でもないか。既に自分の種族が獣人だって見られているからな、容疑者からは外れる。

「もしかしてさっきのは…」

「ええ、先ほどまでそのパルゥムを追いかけ回していたのですが逃げられてしまい…この場にいた彼女を疑ってしまいました。すいません、私の早とちりです」

 もしここで俺が「隠しているその手を見せてみろよ」なんて言ったら…流石に可哀想だし黙っておくか。

「早とちりってことは…」

「はい、彼女は犬人のようですし。それに私が追っていたそのパルゥムは男性でした」

 この発言に思わず安堵の息を吐くリリルカ。本当の本当にこれで彼女にとっては一件落着なんだろう。

 

 結局、落としたナイフをそのパルゥムが拾ったんだろうなんて結論に落ち着いた。リュー達は買い出しの途中だったらしいし早々と解散という流れだ。

「…あまりおいたしちゃダメよ?」

 シルとリリルカがすれ違う直前、リリルカの耳に一言だけシルが呟く。表情に出なくて良かった、どうやらシルはリリルカの事に気づいているみたいだ。随分と勘がいいとは思っていたけど…な〜んか臭うなぁ。

「リリ、今シルさんに何て言われたの?」

 どうやらベルには聞こえていなかったようだ。まあそういう風に囁いたのだが。

「べ、別に…あ、あの、ベル様?」

「なに?」

「あの人達は、何者なんですか?」

 そういえば何者なんだろうな、従業員が異様なまでに強いし…引退冒険者を雇っているのかなぁ?

「酒場の店員さんなんだ。『豊穣の女主人』っていうところの。結構有名みたいなんだけどリリは知ってる?」

「…ベル様」

「?」

「絶対に、リリをそこへは連れていかないでくださいね…」

 それはそれはとても心のこもった一言だった。可哀想に、こんな事になるならギルドで俺が捕まえておけば良かったかもな。

 


 

 リリルカと別れて教会へ帰る道中、端的に言えばお説教の時間なんだが…落としたって事になったしどうすっかなぁ。

「ベルよ、ヘスティアが居ない内にお説教の時間だ」

「…ハイ」

「言いたいことはわかるな?」

「…ハイ」

 まあ流石にわかっているか。俺の本当に言いたい事とはずれているだろうけどな。

「まったく、まさか武器を失くすなんて思ってなかったぞ。今回は運良く戻ってきたけどそれは天下のヘファイストス印の武器なんだ、次は無いと思えよ?」

「ごもっともです!肝に銘じます!」

 まあしっかり反省はしているし、今回はこれだけにしておくか。




〜ローランの異世界見聞録〜
まったく、まさかベルが質の悪いネズミに目を付けられるとはな。さっさと巣を叩いておきたい所だけどあまり手荒な方法を使って悪目立ちするのもな…とりあえず処理方法については保留かな。
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