ダンジョンに黒い沈黙を向かわせたのは間違いではないはず 作:ピグリツィア
ベルのナイフ紛失事件の翌日。朝食を済ませて各々の仕事に向かう直前だ。
「今日もリリルカと一緒に行くのか?」
「はい、ローランさんも一緒に来ますか?」
あんまりあの子とは二人きりで行動してほしくないんだけどなあ…
「いや、今日は野暮用があるからいいかな」
ヘスティアがじっとこっちを見てくる。まあ隠してもないしお見通しか。
「ってことで俺の分まで稼いできてくれたまえ!」
「はい!頑張ります!」
「ローラン君もあまりやんちゃしないでくれよ?」
ヘスティアの発言にベルが首をかしげている。わかるわけもないか。
「程々にしておくよ、今日は遅くなるから飯は二人で食べてくれ」
「ああ、気を付けてね」
今俺はベルとリリルカを尾行している。過保護だって言われそうだけど昨日の今日だしな、リリルカにナイフを盗られたって事にすら気付いて無いし俺が見ておかないとな。
のんびり話しながら下へ下へと進んでいく、この程度の階層ならもう余裕か。
「残念ながらリリも魔法は発現していません。一生自分の魔法を拝めない人は多々いると聞きますので、リリルカも例に漏れずそのケースかと」
さらりと嘘をつく。もしかしたらスキルでの変装かもしれないけど…アレはまあ魔法だろう。
うーん、冒険者として鳴かず飛ばずだったからサポーターとして稼いでいるのか。都市でのサポーターの扱いはあまりよろしくは無さそうだ。あの子も苦労してきたんだろうなぁ。
リリルカのサポーターとしての動きは見事な物だった。やっぱり俺もサポーターを雇うかな。手袋は使えなくなるけどそれならデュランダル一本で戦えばいいしな。
稼ぎの方はきゃっきゃとはしゃいでいるあの二人を見れば一目瞭然だ。討伐ペースも結構速かったしかなりの稼ぎになったんだろう。
ベルが分け前を半分程渡すとリリルカの動きが止まる。恐らく相場以上、もしかすると素直に渡されたことに驚いているのかもしれない。その辺りはあらためて調べておこう。
ベル達が二人で打ち上げをした酒場から帰る道中、見覚えのある小柄な黒髪ツインテールの女神が二人を見るなり涙を流しながらどこかへと行ってしまった。何をやっているんだアイツは。
ベルと別れたリリルカを追跡する、ソーマファミリアのホームとは別方向だ。
「やっぱりファミリアでの扱いは良くなさそうだな…そもそもソーマファミリアの中身もキナ臭いんだが」
空いた時間で軽く集めた情報には『ソーマファミリアの冒険者達は文字通り稼ぐことに死に物狂いになっている』なんて噂もあった、現にギルドで複数回問題を起こしているらしい。後で調べなきゃいけない事がどんどん増えていくな。
リリルカは今日の稼ぎの一部を分けて貸金庫に入れるとそのまま宿屋に消えていった。俺も色々と調べてから帰るか。
「ぬぁぁぁぁぁ…」
情報収集をしていたら朝方になってしまった。教会に帰って来たらヘスティアの唸り声が聞こえるしなんだって言うんだ。
「おーいヘスティア?どうした…酒臭っ!二日酔いか?どれだけ呑んだんだ」
「わからない…」
どうやら記憶を失くす程呑んだみたいだ。まったく大の大人がなにやってるんだか…
「大丈夫ですか神様?」
「ダメだな、こりゃ手遅れだ」
まるでダメな女神様だ。威厳のかけらもあったもんじゃない。
「み、みずをおくれ…」
「ミミズだってさ、そこら辺の土をほじくりかえしてきてきな」
「ローランさん、ふざけてる場合じゃ無いですよ。神様、水です」
わたわたと甲斐甲斐しく酔っぱらいの介護をする。涙ぐましい努力だ。
「ベル君、ダンジョンに行かなくていいのかい?」
「今の神様は放っておけませんから、今日は休むことにしました」
ほう、今日は休むと…
「じゃあリリルカはどうするんだ?」
「あ、そうですね…一回今日は休むことを伝えに行かなきゃ」
「それなら俺が行くよ、俺もサポーターってのを使ってみようと思ってたしな」
真の目的は見極めるためだが、それは言わなくてもいいだろう。
「じゃあお願いします、手間を掛けさせてすみません…」
「いいって、渡りに船って奴だよ。ヘスティアの事は任せたぞ」
「はい、いってらっしゃい」
「きをつけるんだぞぉ〜」
本当に大丈夫かヘスティアは。
「って事で俺がリリルカを雇う事になった」
「は、はい、よろしくお願いします」
一回顔を合わせた事はあるから結構すんなりと話は通った。
「じゃあ最初にやることと言えば…」
「言えば…?」
「報酬の設定だな、サポーター雇うのって初めてなんだけど固定給?それとも出来高?まあ昨日のベルと同じで良いならそれで行けるけど」
昨日の様子を見るに割合かつ後払いっぽいけどな。
「結構人それぞれだったりしますね、上級冒険者になったりすると固定給の方が安上がりになるのでそっちが多いですし、ベル様は報酬から頭割り、半々でしたね」
「へ〜、半々って事は前金とか払ってなさそうだな…後でそこら辺教えておかなきゃな」
契約ってのはとても大事だ、いざこざを避けたりする為にもそういうのは明確にしておかなくちゃな。
「前金に関してはリリが断ったので…でもそうですね、そういうのはしっかりするべきだというのは賛成です」
「あ〜、それと緊急時に撤退するとして、何層までなら一人で撤退できる?俺は一人で18まで潜れるからそんな事ほぼ起きないけどな」
「じゅっ!?…リリは全然強くないので死ぬ気で頑張って8層で五分五分ですかね」
それなら一応ダンジョン初日の『アレ』が出来るか?
「う〜ん…なあ、昨日のベルと同じ風に稼ぐのと、アホみたいに稼げるけど長時間大量の解体作業をするならどっちが良い?」
「…後者について詳しく」
「食糧庫乱獲」
「……………ローラン様の腕を直接見たことがないので普通の探索でお願いします」
すっごい悩んでた、むっちゃ苦渋の決断って感じだった。
「じゃあ12階層まで潜るかぁ」
「12ですか…流石に怖いですね」
「やめとく?」
「いえ!食糧庫乱獲よりは断然ハードルが低いのでそれで大丈夫です!正直18階層まで降りるって言うかと思ってましたから」
ちょっと考えてたけど流石に事前準備なしでヘルハウンドは荷が重すぎるだろうからな、そこは自重した。
「じゃあ報酬は前金なし、総収入を半々で良いか?」
「はい!大丈夫です!」
「よ〜し、頑張るぞ〜」
「はい!頑張りましょう!」
頑張るとは言ったけど所詮は12階層、問題なんぞ起きるはずもなく…
「いや〜、まさかインファントドラゴンが出て来てくれるなんてな!良い収入になったな!」
「リリは死を覚悟しましたよ…確かにローラン様ほどの腕前なら食糧庫乱獲もさほど危険でもない収入源になるでしょうね…」
今回の総収入は端を切って35000ヴァリス、インファントドラゴンの魔石が大きかったな。
「それじゃあこれな」
分前として半額渡して収入は17500ヴァリスだな。やっぱり稼ぐだけなら乱獲の方がいいんだろうな、戦闘効率が良くなったところで暇な時間が増えただけだった。
「…ローラン様も素直に渡してくださるのですね?」
「そりゃ契約だからな、書面に残してないとは言えこんな端金で信頼をなくす気はないぞ?」
都市でやらかしたやつをごまんと見た、何なら俺も契約でやらかしたしな。ソレの重要性はよく知っている。とはいえ今のリリルカの発言でサポーターがどういう物なのか何となくわかった。
「次があったら食糧庫乱獲するか〜」
「その時は流石に波が切れるまで隠れてますからね?…待ってください、その時の収益は?」
「18400だな、拾い切れなくて半分以上の魔石が無に帰したけどな」
「ひ、一人で今回の分前分以上の収益を…」
次はベルも誘うか?収入は増えるし長期戦闘に慣れてもらうのも悪くないかもしれない。
「とりあえず飯食いに行くか?」
「そうですね、もうお腹ぺこぺこです」
「それじゃあリリのおすすめの店でも教えてもらおうかな?」
「任せてください!ローラン様を満足させて見せます!」
言うじゃないか、これは期待できそうだ。
いや〜、やっぱオラリオも広いな!こんな店があるなんて知らなかったぞ、また今度来てもいいかもな。
「そう言えばリリってソーマファミリアなんだよな?」
「…はい、そうです」
「市場に流れてるのが失敗作ってのは有名だけどさ、成功作ってのはどんなもんなんだ?」
リリルカの表情を見るにあまりいい物じゃないんだろうけどな。
「…あれは、駄目です」
「ふーん?」
「一口、いえ、一滴でも飲めばそれの事しか考えられなくなる、そう言うモノなんです」
随分とおっかない代物みたいだ、まるでエンケファリンだな。
「ローラン様ならもしかすると耐えられるかもしれませんが…お勧めはしません、まあ市場に流れてない以上手に入れようもないでしょうけど」
「それもそうか、聞いて悪かったな。あまり聞かれたくない事だったみたいだし」
「いえ…ソーマファミリアと聞けば誰でも気になる事でしょうし今更気にしませんよ」
ソーマファミリアの実態が見えてきたな…こりゃ下手に事を起こせないぞ、ソーマファミリア自体規模だけはいっちょまえにデカいしな。
「なあリリルカ」
「なんでしょう」
「なんか困ったことがあったら、その時は出来るだけ早くいってくれ」
「…何故ですか?」
「ほら、俺はともかくベルは何も考えずに首を突っ込んで大事にしそうだろ?それならいっそのことさっさと話して貰ってさっさと解決した方が被害が少ないからな」
「…ふふ、そうですね。ベル様なら確かにそうしそうです」
洒落でも何でもなく心からの本心だ。リリルカの様子から察するにファミリアは当てにならないだろうし、なんならファミリアの仲間を仲間と思っているかすら怪しい。問題が起きてベルが知ったら…まあとんでもなく厄介な事になりそうだしな。
「わかりました、もし巻き込みそうになってしまったら真っ先にローラン様に話しますね」
「ああ、これからもよろしくな」
「嗚呼、無情…僕の渾身の稼ぎが片手間に越された…」
「まあもうちょっと戦いに慣れないとな」
ホームに帰ったらヘスティアはピンピンしていた。どうやら完全に復帰したようだ。
「サポーターって良いな、上手く利用できれば稼ぎを跳ね上げることも出来るだろ」
「はい!いやぁリリを雇って本当に良かったです!」
「そんなに変わるものなんだね〜」
いつかベルとリリルカを連れて食糧庫乱獲で一攫千金をしたいなぁ。
さて今日は、久しぶりにオラリオの情報収集だ。特にソーマファミリアについて重点的に調べる。
「ソーマファミリアなぁ、アイツらはよく戦利品を換金するときに揉めるんだよな。なんつーか、金の亡者っつーの?とにかくめんどくせーんだよな」
「確かに何度か騒ぎを起こしているのを見ましたね。それも同じ人ばかりって訳じゃなくて、本当にソーマファミリア全体としてそういう人が多いですね」
「噂だけどよ、どうやら団員に随分なノルマを課してるらしいぜ?主神の話は殆ど聞かねえけどあそこの奴らが金にがめついってのは有名だしな、子は親に似るって奴かね」
でるわでるわ良くない噂、これが原因でリリルカがああいう手を使っているんだろうな。だけどそこまで束縛が激しいなら脱退者が相応に出そうなものだけどな…もうちょっと調べないとな。
「神酒か~、市販の奴を一回呑んだけど、アレは格別だったね!叶うことならもう一回呑みたいけど、値段がなぁ…」
「ソーマねぇ、私は何も分からないわ。と言うか誰も知らないんじゃないかしら?彼って公の場に一切出てこないし、何を生き甲斐に下界に居るのかしらねぇ」
「ソーマと話してみたいってぇ?あの根暗陰キャとぉ?ムリムリムリ!団員とすらろくに話せてないって聞くし部外者なら尚更だろ!」
どうやらソーマは極度の人見知りか何からしい。よくファミリアをここまで大きくできたな。
ともかくソーマと直接話すのは無理そうだ、かと言ってその下と話してもなぁ。どうしたもんか。
「っともうこんな時間か、そろそろ帰るか」
いつの間にか日も落ちてきていた、情報も集められたし一回帰らないとな。ついでにヘスティアの迎えに行くか。
「ヘスティア~迎えに来たぞ~」
「ろ、ローラン君…もうこんな時間だったのか…」
ヘスティアは死にかけていた。過酷な労働に耐えられなかったのだ。
「今日は随分こっぴどくこき使われたみたいだな?」
「昨日休んだから…ヘファイストスに叱られて…」
そういえばそうだったな、なんだ自業自得だったか。
「これに懲りたら酒は節度を持って嗜めよ」
「そうだね…次の日に引かない様に気を付けるようにするよ…」
酒は飲んでも飲まれるなって言うしな。ここ最近は酒関連で色々あるな。
「ヘスティアは神酒って飲んだこと…あるわけ無いよな」
「随分と失礼だけどその通りだよ、ヘファイストスに世話になってた頃もそんな高級品飲ませて貰えてないしね」
だよなぁ…うーん手詰まり感。
「君が気にしているのは彼女のことかい?」
「そうだな、ソーマファミリアについて調べたけどあまりいい噂を聴かないからな」
「ベル君の事が心配なんだね?悪いけどあまり力になれそうに無いかなぁ」
とりあえずもうしばらく調べてから対応を考えるか。流石にすぐ問題が起こるなんて事はない筈だしな。
あれから三日、一日はダンジョンに潜ったがそれ以外は情報収集だ。ベルはリリルカから数日休みたいと言い渡されてからやけにやる気が無さそうだ。そして俺はと言うと…
「ダンジョン18階層、通称『リヴィラの町』で大規模なモンスター発生、被害者は少なくないか…」
この間あった事件の概要を見て時間を潰す。これからとある人物と会う予定がある、そろそろ時間だが…
「お待たせしました、オルランドさん」
「いえいえ、こちらこそお手数をお掛けして…どうぞお座りください、ザニスさん」
ソーマファミリア団長【酒守】ザニス・ルストラ、こいつが悪の親玉ってところか。
〜ローランの異世界見聞録〜
とりあえずネツァクに送る酒は決まったな。何とかして完成品の神酒を手にいれよう。
問題はソーマファミリア、無茶苦茶きな臭い上にソーマ自体は趣味に没頭していてファミリアの管理を殆どしていないようだ。つまり親玉はその一個下、団長あたりが怪しい。鬼が出るか蛇が出るかって感じだな。