ダンジョンに黒い沈黙を向かわせたのは間違いではないはず   作:ピグリツィア

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白兎と剣姫、おっさんとママ

 記者オルランドはとあるカフェで彼と出会う。

 

「まさかうちに取材の申し出があるとは思いませんでしたよ」

「いえいえ、確かに流通数や規模は小さいながらもこの業界では決して無視できない一大ファミリアと言っても良いものでしょう」

 

 酒飲みには外せない、あの『神酒』を生産しているソーマファミリアの団長【ザニス・ルストラ】その人である。

 

「取材を申し込んで頂いてなんですが、『神酒』の生産は主神のソーマ様の御趣味の副産物のようなものでして、我々眷属たちは失敗作の処理係に過ぎませんのであまり詳しくは語れないのです」

「ええ、ええ!わかっています、ですが今回はかの酒蔵まで見せて頂けるとか」

「はい、基本的に酒蔵に部外者を入れるような事は絶対に無いのですが…今回は特別です」

 

 今回の目玉は、業界で初となる全ての酒飲みが一度は夢見るあのソーマファミリアの酒蔵の一部公開だ。

 

 

 月刊オラリオ 【ソーマの酒蔵より】から冒頭抜粋

 


 

 酒蔵の警備は異様なまでに厳重だった。ザニスの言う通り『ネズミ一匹通さない』のだろう。

 取材には相応の経費が掛かったが…それに見合うだけの情報は手に入った。市販品クラスとは言え一杯『神酒』も飲めたしな。

「厳重な警備、酒蔵と言うだけあって環境にも相応に気を遣っていたな。高くてもレベル2とは言えあれだけの人数居たら侵入しようとも思えないだろうな」

 まさか酒蔵の見学の後にホームに招待されるとは思っても居なかったが、何より驚いたのはホームがスカスカだった事だな。あれだと主神よりも酒の方が大事だと言っているようなものだ。

「それに、お世辞にも清潔にしているとは言い難い物だったしな」

 軽く掃除はしたみたいだが端々に見える埃、長時間使われていなかったであろう家具の痕跡等を見るに、数多くいるファミリアの団員は各々で生計を立てて生活しているみたいだ。

「何と言うか、あそこはヤク中の巣窟みたいな所なんだろうな。リリルカはなんであんな所に居るんだか」

 酒が好きって訳でもなさそうだし…適当に入ったファミリアが大外れだったのか?

「ローラン君、何を書いているんだい?」

「ん?ああ、この間の情報を纏めてるんだ」

「ふ〜ん?まああまり根を詰めすぎないようにね!」

「ああ、気をつけるよ」

 

 あの取材の日の夜、ベルに魔法が発現した。なんか色々と様子のおかしい魔法だったが、今すぐにでも魔法を試したいと言わんばかりのベルは真夜中にこっそりとダンジョンへ突撃。魔法をバカスカ撃って昏倒する事となる。

「まったく、世話を焼かせるんだから…」

「あ、黒い人」

「うん?」

 俺がベルを叩き起こそうとした瞬間、どこかで聞いた女の子の声が聞こえてくる。

「…アイズ?」

「うん」

「アイズ、この人は?」

 横には見た事のないエルフが立っている。何と言うか、所作の一つ一つがお上品だ。

「えっと…黒い人」

「それは見たらわかる、もっと具体的な情報をくれ」

「あー、とりあえず名乗っておく。ローランだ」

「アイズ・ヴァレンシュタイン」

「リヴェリア・リヨス・アールヴだ」

 なんと、あのロキファミリアのトップ3の一角だ。たしかエルフの王族だっけ?

「あー、もっと畏まった方がいい?」

「いやいい、エルフでもないしな。まあエルフだからと言って無理に畏まらせる気も無いんだが」

「その子は?」

 アイズは俺の足元に転がっている哀れなウサギを見つめる。

「ベル・クラネル、同じファミリアに所属しているレベル1のペーペーだ」

「外傷はないようだが…毒か?」

「発現した魔法使ってたらぶっ倒れた」

「マインドダウンか」

 やっぱりそうか、前に調べた時にそんな症状があるのをみた。

「さて、そろそろ叩き起こすか」

「やめてやれ、マインドダウンは気合いでどうにかなる物じゃない」

 えー、こうなったのは自業自得だしボコボコにして耐久上げがてら起こそうと考えてたんだけどな…

「そう言えばアイズ、あの時は何でベルを助けたんだ?」

「リヴェリア、覚えてる?遠征の後の宴会で…」

「ああ、あの時の子か…」

 どうやら俺の知らないところで一悶着あったらしい。

「…リヴェリア、私はこの子に償いをしたい」

 おっと、予想以上に面倒な事になっていたか?

「硬すぎるぞアイズ…そうだなこれなら彼にとって十分だろうな」

「なんか変なことするつもりじゃないだろうな」

 ベルは何と言うか、厄介事を引き寄せる体質だからな…

「まあ変なことと言えば変なことか?」

 リヴェリアは俺に向かってにやりと笑って、アイズに耳打ちをする。

「…うん…そんなことでいいの?」

「ああ、彼にとっては十分だろうさ…ではローラン、向こうで少しいいか?」

「…ああ、いいよ」

 流石にヤバい事はしないだろうと踏んでリヴェリアと共にこの場を離れる。

 

「で、何をさせたんだ?」

「なに、ただの膝枕だよ。男にとっては十分だろう?」

 おおう、なんて幸運だ。思い人の膝枕なんて願っても叶わないぞ。

「どうやら効果覿面みたいだな?」

「ああ、クリティカルヒットだ」

 二人で顔をにやけさせる。もしかしたらリヴェリアが考えているのとは少し方向性が違うかもしれないが、まあ大差はないだろう。

「それで話って?」

「ああ、君は以前アイズに会ったのだろう?その時のことを聞きたくてな」

「あの時かぁ…そうだな、あの日も今日みたいベルが倒れてたんだ。その時は満身創痍、疲労困憊って感じだったな」

 そこまで言ったところでリヴェリアは少し気不味そうに視線を彷徨わせる。

「あぁ、うん、続けてくれ」

「おう、それで通りすがりの俺はベルが倒れるちょっと前にすれ違って、切羽詰まった様子だったのが気になって追いかけたんだよ」

「…うん?君は違うファミリアの人間なのか?」

 …やっべ〜、完全に油断してた。大失言だ。

「あ〜、今は同じファミリアだよ、細かいことは聞かないでくれ。まあその道中でアイズも加わって一緒にベルを見守ってたんだよ」

「ふむ、その後は?」

「俺がベルを背負って、アイズに前を任せてとりあえず地上に戻った。その後はアイズがベルのファミリアを知っていたからそこからホームを特定して、ヘスティアファミリアのホームにたどり着いたんだ」

 あの時は雰囲気で前を任せたけど結果的には正解だったな。そもそも俺は道わからなかったし。

「ほう、そこで別れたのか」

「…そう言えばアイズの様子がおかしかったな」

「どう言う風に?」

「ヘスティアファミリアのホームって廃教会なんだけどさ、入る時に俺の後ろにくっついたり、ヘスティアの嗚咽が聞こえるなり入ってから少しもしないうちに帰っちゃったりと…リヴェリア?」

 リヴェリアが顔を伏せて痙攣している、それはもうぶるぶると。

「ブフッ、あっはっはっはっは!」

 固く閉じた口から空気が漏れ出た後、大爆笑を始める。何が何だか…

 その後数分にわたって笑い続けた後、息を切らしながら理由を説明してくれた。

「ふぅ、ふぅ…そうだな、これは一応アイズの弱点になるから口外しないで欲しいんだが」

「うん」

「アイズはな…ふふっ…おばけが苦手なんだ」

 …あ〜、そう言う事ね。あのヘスティアの啜り泣く声をおばけと勘違いして、俺にベルを任せて逃げ帰ったってオチね。

「あの有名な剣姫にもそんな可愛らしい面があったんだな」

「悪いな、迷惑をかけて…ふふっ」

「ぜんぜん悪びれないじゃん。まあ結果的に問題はなかったから良いんだけどさ」

 とはいえ問題があったらマジで恨んでたとは思うが。流石にあの場面で逃げ帰るのは予想外だった。

「いやあの子のそう言う面を見られるのは滅多にないからな、少し嬉しくて」

「子供が子供らしくしているのが微笑ましいって事か」

「まあ、そんな所だな」

 リヴェリアも随分と苦労してそうだ、アイズはこの世界の子供にしては感情の起伏が薄いしな。きっと何かあるんだろう。

「まあなんだ、悪かったな。色々と迷惑をかけたようで」

「その様子を見るにわざとって訳でもないんだろ?なら別に気にしてないよ…俺はな」

 まあベルもそういうのを引きずるような性格じゃないけどな。

「それなら良いんだがな…あの日は本当に色々あったな」

「随分苦労してたんだな」

「ああ、信じられるか?モンスターが私たちに恐れをなして逃げるなんて」

「まあモンスターも生きてるんだし、それ位はあるんじゃないか?」

 何かおかしなこと言ったかな、笑われちゃったぞ。

「いや悪い、そう言う視点は持ってなかったからな…君にとってはモンスターも野生の獣も然程変わらないんだろうな」

「そうだなぁ、確かに違うところは多いけどちょっと強くて凶暴な獣みたいな物だろ?獣にも色々いるんだしさ、殺せる分まだ普通の生き物してるよ」

 ねじれとか幻想体みたいな元人間って訳でもないだろうしな、俺からしてみれば敵か味方かもわからない赤の他人の方が怖いかな。

「…君は随分と面白い価値観をしているんだな?」

「まあ色々と経験してきましたからね」

「それをエルフの王族の前で言える胆力と自信も凄まじいな。是非ともその武勇伝を聞かせて貰いたい所だ」

 聞いても面白い物じゃないだろうけどなぁ…まあ気になるものは気になるんだろう。もうこうして顔を突き合わせる機会が来るとは思えないけど、次会った時はちょっとだけ話しても良いかもな。

 

 道中で魔法の事を確認しながらダンジョンを出て、バベルの前でリヴェリアと別れる。片や零細ファミリアの一団員、片やオラリオの二大ファミリアの片割れのトップ。もう会う事はないはずなんだが…な〜んかそんな気はしないんだよなぁ。フィクサーの勘ってヤツだ。

「…あ、赤い霧について聞けば良かったか」

 よくよく考えれば博識で知られるエルフの王族、そしてオラリオで頂点に君臨するファミリアの幹部となれば俺では手に入れられない情報も持っているだろう。失敗したかな…

「まあまだ一月も経ってないんだ、焦らず行こう」

 …一月経ってないのかぁ、マジで言ってる?なんか普通に三ヶ月以上経ってる感覚だったんだけど。

 その後はベルがアイズから逃げ帰ってきたことを聞いて、俺は頭を抱えてしまった。もうちょっと良い感じに接点を作れよ…

 

 さて、その日の翌日。現在は情報を纏めるついでに先日の『取材』の内容を纏めた記事を書いている。これをオラリオの適当な雑誌に投稿しておけば仕事は終了だ。多少の小遣いにもなるかもな。

「そういえばさ、ベルが時間潰しに読んだ本ってどんな物なんだ?」

「あ、それボクも気になる」

「これです、豊穣の女主人で忘れられてた本らしくて、しばらく持ち主が来てないから少しくらい借りて行っても構わないって事で…」

「ふ〜ん?どれどれ…『自伝・鏡よ鏡、世界で一番美しい魔法少女は私ッ 〜番外・目指せマジックマスター編〜』…なんだコレ」

「題名からして地雷臭が半端ないね…」

 ぱらぱらとざっと中身に目を通す。どうやら魔法についての解説書みたいだけど…暗号でも仕掛けられているのか文の間にびっしりと、何かしらの模様とも取れる文字が描かれている。

「タイトルこそトンチキだけど普通の学問書って所か?ほれヘスティア」

「ありがとうローランくん!へえ、中身は思ったよりしっかり…」

 記事の編集に戻ろうとした瞬間、ヘスティアの言葉が詰まる。

「どうしたんだヘスティア…あ〜あ、嫌な予感しかしない」

 気になってヘスティアの顔色を見てみれば、それはもう見事に真っ青になっていた。これは問題発生か。

「…これは、グリモアじゃないか」

「ぐ、ぐりもあ?」

「グリモア!?嘘だろ!?」

 この世界の特徴でもある魔法について調べた時に一緒に目に入ったそれ。上質な物だと俺みたいな魔法を覚える枠、スロットがない者でも覚えられるようになるとか。

「え、え?神様!?ローランさん!?…もしかして、やっちゃいました?」

「…落ち着いて聞いてくれ。グリモアは、使い捨ての道具なんだ」

「効果は魔法の強制発現だよ…」

 さあっとベルの顔が青くなる。自らの過ちを理解してくれたようだ。

「…よし、この本は無かったことにしよう。ボクたちはなにも知らないんだ」

「いや、俺達が借りた時には既に使われた後、ただの学術書だったんだ。いやぁ誰が使っちゃったんだろうなぁ」

「流石に無理がありすぎますって!素直に謝って弁償するのは…?」

「最低ウン千万の借金をか?返済に何年掛かると思ってるんだ」

 なんなら慰謝料その他こみこみで億になるかもしれん。ヘスティアの個人的な借金も有るってのにそんな余裕は無い。

「どどどどどーしよどーしましょ!?」

「なんだそのリズム…マジでどーすんのさコレ」

「やっぱりしらばっくれるのが一番じゃないかな?」

「もしくは豊穣の女主人も巻き込んで責任を分散するか」

 誤魔化すにせよなんにせよあそこの人たちと口裏を合わせておかなきゃな…

「分かりました、とりあえずシルさんのところに行ってきます…」

 ベルはとぼとぼと肩を落として教会から出ていく…とりあえずなるようになれだ。

 

 暫くするとベルが戻ってきた。どうやら店主に『落とした奴が悪い、得したと思って気にすんな』と説得されたらしい。

「まあそれならそれで良いんじゃないか?とりあえず今は新しい力のことを考えようぜ」

「僕の魔法のことですね!」

「ああそうだ、またダンジョンでばかすか撃って気絶しないためにもミアハの所でマジックポーションを買っておけよ」

 とりあえずアレさえあれば一度に何連発もしなければ間に合うはずだ。燃費も良さそうだったしきっと間違いない。

「分かりました!慎重に使います!」

「よし、俺がついて行っても良かったんだけどコレがあるし…あまり無理はするなよな」

 ソーマファミリアの取材のまとめは期限が明確に決まっている訳じゃないけど、俺が付いていくほどの問題でもないしリリルカに任せればなんとかするだろ。

「じゃあ行ってきます!」

「おう、がんばれよ」

「気をつけてね〜」

 ヘスティアと一緒にベルの背を見送る。足音が聞こえなくなった辺りでヘスティアはソファでうつ伏せになる。

「ふい〜…一時はどうなるかと、これ以上借金が増えたら洒落にならないしね」

「本当だよ、こっちはお前の二億で気が気じゃないってのに…ほれ、ヘスティアもさっさと準備してバイトに行くんだよ」

 ソファでうつ伏せになりながらこっちを睨んでくる。なんだその反抗的な目は。

「あんな事があったんだからちょっとくらい休憩しても…」

「それはそれ、これはこれだ。こんな事で使いたくなかったよまったく…お前は甘やかしたらどんどん自堕落になっていくからこうやって目が届く間だけでも尻を叩かなきゃいけないんだよ」

「もうちょっとお手柔らかに頼むよ~」

「別に俺は構わないが…へファイストスが許すかな?」

「あ〜もう行かないとな〜!ようし、ローラン君も無理はしないようにね!」

 やっとやる気になってくれたか、これで俺も仕事に戻れる。




〜ローランの異世界見聞録〜
魔法ってのはこの世界の冒険者の中でも選ばれた奴だけが使える物だ。火や雷で攻撃したり、人の傷を癒したりと人によって魔法は千差万別みたいだ…ここだけ聞くとEGOみたいだな。『光の種シナリオ』が上手くいったら都市の人間全員がこれと似たようなものを使えるようになったのかもな。
魔法は『詠唱文』と『魔法名』で構成されているらしいけど…ベルの魔法は『魔法名』だけで発動する。なんと言うか、インチキだ。成長速度といい異質な魔法といいもしかしてベルってなんと言うか、こう、赤い霧の幼体的な何かだったりする?
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