ダンジョンに黒い沈黙を向かわせたのは間違いではないはず   作:ピグリツィア

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ローラン、異世界へ行く

 休憩時間に珍しくビナーが下層に来たので一緒に紅茶を嗜んでいるとアンジェラが声をかけてきた。

 

「ローラン、この前の戦闘訓練の時の事。覚えてる?」

「ん?ああ赤い霧の奴か」

「ええ、それの進展に伴って貴方に仕事を頼みたいから…ビナーもいるしここで話すわね」

 

「結果から言うと、どこに行ったのかは分かったわ」

「そうなんだ、それじゃあそこから連れ戻せば解決ってわけか」

「ええ、問題はそれが『世界の底を流れる川』を伝ってとても遠くまで行ってしまった、つまり全く別の世界にあると言うことよ」

 

 どこまで行ったんだうちの伝説サマは。

 

「それで?まさか俺にとってこ〜いなんて言うんじゃ無いだろうな」

「その通りよ、いちばんの適任が貴方だったから」

 

 冗談で言ったつもりがマジだった様だ。異世界旅行なんて始めてだぞ。紫の涙じゃあるまいし。

 

「何で俺?ビナーとかゲブラーの方が良さそうだけどな」

「ビナーの特異点の力を応用して世界間の行き来を可能とさせているのだけど、こっちに戻ってくる為にビナーの力が必要なのよ」

「正確には私は只の釣り人に過ぎない。アンジェラとカーリーの繋がりを糸として、其を伝ってお前を川に投げ込むだけだよ」

「それじゃあゲブラーは?いくら弱くなっているとは言えまだ俺より強いだろ」

「貴方は急に目の前に自分と全く同じ存在が出てきたらどう思うかしら?」

 

 納得してしまった。まだ見知らぬ赤の他人のほうがマシだな。

 

「それじゃL社の皆…もしかしてそっちの世界も危ない?」

「私の力なしで戦えるのは貴方だけでしょう?異世界まで私の力が届くか解らないわ。幻想体のようなものも確認したから」

「俺が行くのが最善な訳か…連れ戻さなかったら何かしら問題が起きてもおかしくなさそうだな。仕方ないな」

 

 

 スーツ良し、武器良し、仮面良し、手袋良し。

 

「仮面はつけて行った方がいいかな」

「警戒されるだけだからやめておいた方がいいと思うわ。見た感じあちらの世界にも人がいる様だし」

「それじゃしまっとくか。食料も持ったし、準備はいいかな」

 

 まったく、今回の仕事は苦労しそうだな。異世界で赤い霧を探せ!って感じか。

 

「今回の目的は『カーリーの回収』と『別世界の情報収集』よ。運が良ければ便利な力が手に入るかもしれないから」

「遺跡調査みたいなものか、まあ死なない程度に頑張るよ」

「こちらからの観測は不安定よ、物を送る分には安定しているけど今のところ見たり聞いたりするのは厳しいわ。だから渡した封筒でこちらに情報を送ってちょうだい。封をすればこっちから引っ張り出すわ」

 

 きっと色んな不思議技術で何とかしてくれるのだろう。理論とかは聞いても分からないだろうから聞かないでおこう。

 

「フィクサー時代を思い出すなぁ、ちょっと特殊な形式ではあるけど仕事としては楽な方かもな」

「油断するなよ、まあお前は一級フィクサーだし余程の相手でもない限りへますることはないと思うがな」

 

 センパイからの期待が重い…あの赤い霧から仕事前にフィクサーとして声をかけて貰えるのは少しいいな!

 

「今回の相手はその余程の奴なんだけどな。正気を失って暴れていないことを祈ろう」

 

 

「ビナー、準備はいい?」

「妖精達は解放を待ち望んでいるよ」

「そう、じゃあ皆ローランから離れてちょうだい。巻き込まれるわよ」

 

 アンジェラの呼び掛けで司書の皆が俺から離れていく…ちょっと遠すぎない?

 

「…ちょっと待て、どうやって移動するんだ?ろくでもない方法じゃないだろうな」

「私とカーリーの繋がりで出来た道を妖精でこじ開けてローランを吸い込ませるわ」

「よくわからないけどとても危険そうな方法ってのはわかった」

 

 掃除機みたいなものだろう。問題はとんでもない勢いで吸い込まれそうな予感がするところだな。

 

「移動中はあまり動かないでね、バラバラになるわよ」

「こえーよ、動く気はないけどさ。ほんとに大丈夫?」

 

「準備は出来ているようだ。では精々足掻いて見せてくれ」

「え?ちょまっ!」

 

 いきなりビナーが手を振り翳すと空中に穴が空き、凄まじい勢いで辺りの空気を吸い込み始める。思わず少し抵抗してしまったが努力も虚しく俺は謎の穴へと吸い込まれてしまったのだった。

 

 

 

 暫くすると地面に投げ出される。

 

「ああクソ!アイツはそういうことする奴だったな!まったく…ここは何処だ?」

 

 周囲は…石?人工物っぽいけどこの壁は何で出来ているんだ?煉瓦っぽいけどな…取り敢えずデュランダルで叩いてみるか。

 

「うん、普通に砕けるな。何で出来ているかはまったく解らないけど」

 

 取り敢えず人を探そう。幻想体みたいなのもいるって言ってたから警戒しながら移動するか。

 

 

 暫く歩いていると階段を見つけた。下り階段か…ここが上か下かもわからないし取り敢えず降りてみるか。

 

「おっと、あれが幻想体もどきか?」

 

 目の前には…なんだアレ、ちいさくてかなりわるそうな見た目をしているヤツがいる。略してちいかわだ。

 

「もしかしてこっちの人間はあんな形をしていたり?」

 

 緑色の肌に尖った耳と鼻、腰巻きとかも着けているからギリギリ人間とも言えなくはない…少なくとも捻れたヤンよりは人間みたいな見た目だ。

 仮称ちいかわを観察していると後ろから何かの気配。敵意はなさそうだが移動速度はけっこう速い。

 

「なんだあれ。白い子供?」

 

 こっちも幻想体にいそうな見た目だなぁ。幻想体の種類が多すぎるのもあると思うが。白い子供は俺の横を通りすぎてちいかわの首を刎ねた。敵対存在ではあったらしい。

 

「第一村人発見か…手がかりもないし追いかけてみるか」

 

 幸いそこまで早くもない。見た目通りの年だとするととんでも無く早いとは思うけどな。俺が追いかけるだけなら問題はない。

 

 

 しばらく少年を追いかけながら階段を下っていくと、ある階層でスピードを落とす。どうやらここで戦闘をする気の様だ。

 

「こっちの世界の子供は皆こんなんなのかよ…そこそこのフィクサー位の戦闘力はあるんじゃないか?」

 

 まさに大立ち回り、と言っていい戦いっぷりだ。問題は戦闘ペースを考えられていないのと、技術がない身体能力任せの戦闘で負傷が多いところか。

 

「あいつ帰りのことは考えてるのか?あれじゃ体力が持たなそうだが」

 

 どう考えても持たなそうだ、今にも倒れそうなくらいフラフラしている。そして今ここに何かが向かってきているが…

 

「どうしたもんかな、明らかに強そうなやつが来たぞ?とりあえず話しかけてみるか」

 

 次は金髪の子供だ。こっちは明らかに戦闘慣れしている。敵対したらただでは済まなそうだしこっちから話しかけてみるか。

 

 

「そこのお嬢さん、こんな所で何をしているのかな?」

「うん?貴方は誰?」

 

 ここで名前を出すか?一応伏せておくか。

 

「ただの通りすがりの冴えない司書のおじさんだよ。そこにいる少年の様子が気になって追いかけてきたんだ。君は?」

「アイズ、ロキファミリアの。私もその子を追いかけてきたの」

 

 あまり会話が得意じゃない?いや、それもあるだろうけど知ってて当然と言った感じでもある。もしかしたら有名人なのかもな。

 

「そうか、君はあの子と知り合いなのか?」

「…一応?」

 

 なんだそりゃ、煮え切らないなあ。一方的に知ってるだけとか?

 

「あの子とはどんな関係…おっと、ありゃ不味そうだ」

 

 少年の身体が大きくふらつく。今にも気を失なうといった感じだ。

 

「俺は彼を支えるから周りの敵は任せていいか?」

「わかった」

 

 うわ、すごく速いな。文字通り一騎当千だ。一級フィクサーもびっくりだな。

 

「お~い、大丈夫か?まあ死ぬような怪我はしてないし大丈夫か」

 

 気を失っているだけだな。自殺志願者でもあるまいし、起きたらなんでこんな事をしたのか聞いてみるか。

 

「終わったよ。その子は大丈夫?」

「深い怪我は無さそうだし大丈夫じゃないかな。取り敢えず安全なところまで連れていこうか。俺が背負うから道案内頼める?」

「わかった」

 

 これで町まで行けそうだ。この世界の町がどんな物かわからないが、23区の裏路地とかでもない限りここよりはマシだろう。

 

 

 しばらく上に登り続けていると、人工的な明かりが見えてきた。

 周囲を見渡すと…なんというか、役所って感じだな。少なくとも荒事をするような場所ではなさそうだ。

 

「おお…文明って感じだな」

「?」

 

 おっと、口が滑ったな。誤魔化しておくか。

 

「独り言だから気にしなくていいぞ。この子の家とかわかる?」

「わからない。とりあえずギルドの人に聞いてみよう」

 

 ここはギルドって言うのか。会話からいくつかの情報を手に入れられそうだ。

 

「すみません、誰かこの子のホームが何処かわかる人いますか?」

「はいは~いこんな時間に誰ですか、って…剣姫!?」

 

 剣姫?二つ名みたいな物か?職員のリアクションからかなりの有名人であることは間違いないな。

 

「えっと、そこの人が背負っている子のホームですか?主神がわかればなんとかなるかもしれないけど…誰か神聖文字読める人いたかなぁ…」

「たしかヘスティアファミリア」

「ヘスティアファミリアですね、ちょっと調べてきますね。少々お待ちください」

 

 ファミリアは多分協会か事務所みたいな意味だな、もしかしたら事務所の方が近いか。ヘスティアとかロキって言うのが主神?組織のリーダーの名前か?

 

「そういえば貴方は何処のファミリアに所属しているの?」

 

 …やっべー、どうするかな…無所属って言うか?いや、ファミリアに所属しているのが前提のような言い方だな。ええいままよ!

 

「あ~弱小ファミリアでな…多分わからないと思うけど…」

「言いづらいの?無理に言わなくていいよ」

 

 あっぶね~!いざとなったらチャールズファミリアとか言おうかと思ってたけどあまり出鱈目は言いたくなかったから助かった。

 

「悪いな、気を遣わせちゃって」

「大丈夫、悪い人じゃ無さそうだし」

 

 この子ちょっとチョロくない?そのお陰で助かってるからどうこう言う気は無いけどさ…

 

「お待たせしました、アイズさん。ホームの場所がわかったのでこちらで地図を用意しました。どうぞ」

「ありがとう。それじゃ行こう」

「ああ、わかったよ」

 

 とは言えあまり目立ちたくはないな…適当な理由をつけてアイズと別れるか。

 

「アイズはファミリアに戻らなくていいのか?皆が心配してるんじゃないのか?」

「うん…そうだね、ヘスティアファミリアの前まで送ったら戻るよ」

 

 外は真っ暗、どれだけ強くてもこんな真夜中に女の子が一人で外を歩くのは良くない…と思う。もしかしたらこっちの世界では普通なのかもしれない。この子凄い強いし。

 それよりもアイズやギルド職員の反応から夜に大きな危険が無いのはわかったのは大きい。裏路地の夜みたいに掃除屋が出る危険はなさそうだ。

 

「それじゃあ先導してくれ…地図の見方はわかるよな?」

「わかる。ついてきて」

 

 

 もしかしたらアイズに先導を任せたのは間違いだったかもしれない。

 

「…本当にここであってるのか?」

「多分…地図にも廃教会って書いてあるし…」

 

 どうやらおかしいのは俺の目でも、アイズの地図の読み方でも、俺の常識でもなくこの子の住み処のようだ。

 

「もうちょっとちゃんとした家を想像してたんだけどな…なんか出そうだな、とりあえず入ってみるか。アイズは帰るか?」

「…一緒に入る」

 

 そう言うとやけにぴったりと背中にくっついてきた。ちょっと距離近すぎない?

 廃教会の扉を軽くノックする。返事がないので少し強くノックする。

 

「…入るか。ごめんくださ~い」

 

 待っても返事が来ないのでそっと扉を開けて中に入る。

 どう見ても人が住んでる気配はない。朽ちた椅子がそこらにあるだけだ…微かに聴こえるすすり泣く声以外は。

 

「…ごめん用事を思い出した地図は渡しておくね後は任せるよじゃあね」

「え?あっおい!…マジかよ…」

 

 矢継ぎ早に捲し立ててさっさと帰ってしまった。いきなりどうしたんだ。

 とりあえず声の発生源の方に向かう。

 

「…る…ん……どこ………だ………べ………」

 

 女の声だ、何を言っているのかは判らないが泣いている様だ。

 声のする方へ近づくと隠し扉の様な物を見つけた。どうやらこの先に声の主が居るらしい。

 

「何が出るかな、幻想体じゃなきゃ良いんだけど…」

 

 少年を側に下ろして慎重に、音を立てない様に扉を開ける。

 

「ベルくん…どこに行ったんだい…寂しいよう…」

 

 部屋に入ると少女の様なものがソファで横になりながら啜り泣いている。纏う雰囲気からして少なくとも人間ではなさそうだ。

 

「…ベルくん?」

 

 何かに気が付いた様にこちらの方を向く。見た目だけなら可愛らしい少女ではある。独特な服装だが。

 

「…ベルくぅん…」

 

 俺に気づかなかったからか、また横になって泣き始めてしまった。一体何者なんだこいつは…

 

 

 未知の存在を刺激しない様に一度上に戻る事にした。少年が起きてくれれば良いのだが。

 

「おい、起きてくれ。ああクソ、なんでアイズは帰っちゃうんだよ」

 

 まだ起きる気配もない。アレは刺激したくないし、とりあえず廃教会の外で待つか。




〜ローランの異世界見聞録〜
自分の本を書きたいとは言ったけどまさか初めてのちゃんとしたものがこんな形になるなんてな。
とりあえずこの世界の特異点っぽいものとか、怪しいものとかそう言う色々なものをアンジェラ達への報告のために記録していこうと思う。

例の幻想体もどき、倒されると灰になって石ころ一個しか残さないみたいだ。随分と綺麗な石ころだ。宝石か何かかもしれない。いくつか確保しておこう。
あのアイズとか言う少女、とんでもなく強いな。なにがって身体能力がやばい、流石に追いつくのは無理そうだ。攻撃を当てる手段はあるだろうけど…どれも確実とは言えないな。
科学技術はぱっと見だと都市よりもかなり低そうだ。道は石畳だし、建物も古くて原始的な作りだ。だけどこの子やアイズの身体能力が異様に高いところを見るにそっち系の技術はあるんだろう。見た目では分からない辺り結構優れてる技術だろうな。もしこれがこの世界の普通だったらお手上げかもしれない。
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