ダンジョンに黒い沈黙を向かわせたのは間違いではないはず 作:ピグリツィア
リリルカを中心とした騒動から三日後、どうやらベルはリリルカと共に行動する事にした様だ。今日はヘスティアと共にリリルカの面談をする。
「お〜い、ベル君!」
「待たせたな」
「神様!ローランさん!」
リリルカの方を一瞥する、その表情は暗い。
「すいません、僕のために時間を作ってもらって…」
「大丈夫だよ、ボクはファミリアの事を第一に考えているんだからね!」
「俺もヘスティアファミリアの一員だから流石にすっぽかせないな」
年長者としてベルのフォローもしてやらないとだし…リリルカは脛に疵を持つ身だ。リリルカがどう考えていようとソーマファミリアの奴らが何かしら仕掛けてくる可能性もある。今の所可能性はかなり低いが。
「それじゃあベル、椅子を持ってきてくれ」
「あ、そうですね。すみません今持ってきます!」
ベルが離れていったのを見てヘスティアに着席を促す。
「悪いねローラン君…さてと、前置きは省くよサポーター君。君はまだ打算を働かせているかい?」
一応ヘスティアはこう聞いているが、俺が調べた限りでは自らの痕跡を消して『死んだ人間』として振る舞おうとしている事を知っている。
『残念ながら俺はカヌゥ達の三人は助けられたがもう一人は駄目だった』事になっている、つまりソーマファミリアから見てもリリルカは死んでいる筈だ。それを知った後のリリルカの行動は速かった。
「ありえません、リリはベル様に助けられました。もう、あの人を裏切る真似なんかしたくない」
「…うん、わかった。君のその言葉はまず信じよう」
ヘスティアの言葉で緊張が解けたのかゆっくり息を吐きながら肩の力を抜くリリルカ。
「君のやってきた事、その動機とかもある程度はベル君から聞いている。君に安い同情をするつもりはないし、その過去について今更ボクがとやかく言うつもりはないよ…ただ」
ヘスティアはそこで一呼吸おいて、正に神と言える威厳を背にリリルカを見つめる。
「もし同じ事を繰り返して、あまつさえあの子を危険に晒したら、ボクは君の事をただじゃおかないからな」
その後「まあその前にローラン君が何とかすると思うけどね」と小さく呟く。神からの信頼が重いな。
「…誓います、もう二度とあの様なことはしないと、ベル様にも、ヘスティア様にも…何より、リリ自身に」
どうやら俺には誓ってくれないみたいだ。まあ只のヘスティアファミリアの一団員でしかないからな。
「万が一どうしようもない問題が起きたときには真っ先にローラン様に相談することも誓います」
「ああうん、そうだね。彼はとっても頼りになるから問題は大事になる前にローラン君に相談してくれ!」
「すっごい信頼されてるのな俺」
まさかのトラブル全投げ宣言だ、まあ隠されるよりは良い。
「ところでローラン様ってレベルはどれ程なのでしょうか?言いたくなければ詮索はしませんが…」
「絶対に言いたくない。というか言えない。悪いねサポーター君」
「は、はい…」
レベル1って言っても絶対に信じられないだろうしな。それくらいは俺でもわかる。
「ではとりあえずレベル3、4程の強さという認識で大丈夫でしょうか?」
「…ローラン君、君は何をやらかしたらほぼ初対面の子にレベル4だと思われるんだい」
ヘスティアからそっと眼をそらす。冷静に考えれば単独バントリー乱獲なんてレベル2じゃ絶対に出来ないもんな。
「サポーター君、君はどういう根拠でローラン君のレベルをそこまで高く見積もっているんだい?」
「え、えっと、単独でバントリー乱獲が出来るならそれ位かと…」
ヘスティアが頭を抱えて項垂れる。仕方がないだろ、俺は冒険者初心者だぞ。
「ローラン君、後でオハナシしようか?」
「…ハイ」
「ごめんなさい!遅くなりまし…た?」
項垂れる主神と気不味そうにする俺、それを困惑した表情で見るリリルカの事を見たベルは、一瞬動きを止めてそっと二脚の椅子を置いた。
「…何があったの?」
「さ、さあ?」
「ええい、ともかく、ともかくだ!パーティーの加入は許可する!ダンジョン内外のベル君のお守りも任せる!ついでにローラン君が常識外れの行動をしようとしたら止めること!」
ベルとリリルカの目が見開かれる。ベルはお守りが必要だと言われた事に、リリルカはいざとなったら俺を止める様に言われた事に驚いているのだろう。
「ぼ、ぼくそんなに頼りなく見えますか…」
「無理ですよヘスティア様!?レベル1の木端サポーターが一級冒険者を止められる訳ありませんって!」
「異論は聞かないぞ!ベル君は悪女にもホイホイ騙されそうだし、ローラン君がボクの目が届かないところで奇行をしようとしたら止められるのはサポーター君だけなんだぞ!」
奇行をするとまで言われてしまった。ベルの評価については…ノーコメントで。
「正直まだローラン君が変な事しないか疑っているんだぞ?へファイストスの所で真っ先に出した提案のせいでね!」
「何やろうとしたんですかローランさん」
「いやあ?何か手伝える事があったら手伝いますよ〜って言っただけだぞ?ほら、俺って少しばかり器用だからな」
嘘は言ってない。正直2億なんて借金を返すには手段を選んでいられないだろうから半分くらいは本気で言ってた。
「…まさかリリが死んだ事になっていたのって?」
「ローラン君!?アレな手段使ってないよね!?」
「使ってない使ってない、誰かを身代わりにしたとか無いから」
ほら、ベルがギョッとした表情でこっち見てるじゃないか。あまり変な事を言わないで欲しい。
お茶を飲んで一度落ち着く。3人の視線が痛い。
「…そういえば、今リリは寝泊まりする家がないんだよね?」
「はい、以前からそうでしたが料金の安い宿を転々としています」
なんともまあ優しいと言うか…お人好しが過ぎるな。流石に甘過ぎると思うが。ベルの目配せには我関せずと答える。
「リリ、もしよかったら僕たちのホームに来ない?」
「…え?」
「もし希望するなら、ヘスティアファミリアに入らないかな?まだ団員が二人しかいないけど」
ベルはまだオラリオ初心者でファミリアの事をよく知らないだろうが、ファミリアの脱退や移籍には『現在所属しているファミリアの主神の許可』が必要になる。そして未だにリリルカがソーマファミリアに居るという事は、そういう事だろう。
「ヘスティア様はよろしいんですか…?」
「ボクは家庭を司る神だぞ?身寄りの無い子供をほったらかしになんて出来ないさ。そしてローラン君はファミリアの方針に警告こそすれども決定に口出しはしないと思うよ」
俺は恩恵こそ貰っているものの、立場的には外様だ。目的を果たしたら図書館に帰らなければならない。いつか去り行く人間が我が物顔でファミリアに口出しするのもな。
「ありがとうございます、ベル様、ローラン様、ヘスティア様。そのお気持ちだけでリリは十分です」
「え…どうして!?」
「これ以上ご厚意に甘えるのは心苦しいのと、リリはまだソーマファミリアの一員ですから」
ここでヘスティアもリリの厄介な事情に思い当たったようだ。こっちに視線を送ってくるが流石に今の俺にはどうしようもない問題だ。
「…ローランさん、何か手はありませんか?」
「バレなきゃ問題ないとはいえそれは根本的な問題の解決じゃないしな。金なら時間さえあればどうにか出来るけど…俺の持っている情報だとソーマはともかくザニスがどれだけ吹っかけてくるかって所だ」
この言葉にベルとヘスティアが首を傾げ、リリルカが唖然とする。
「…どこまで情報を握っているんですか?」
「下っ端はファミリアより金の方が大事みたいだぞ?」
ちょっと金を掴ませれば聞いた事は出てくる位には口が軽かった。酒蔵は厳しく箝口令が敷かれているから情報入手に手間取ったけどな。
「…私は絶対にヘスティアファミリアを敵に回してはいけないと、今心の底から感じました」
「ちょっとこれにはボクもびっくりだよ…ベル君がサポーター君と行動するようになってから情報を集めたんだろ?」
「まあ得意分野くらいはな、地元じゃこの筋でそこそこ有名だったんだぜ?」
一応元とはいえ一級フィクサーだ、危機管理や情報収集も得意だぞ。
「まあ、ほぼローラン様の予想通りお金の問題になると思います…ソーマ様はザニス様にファミリアの運営を一任していますから、実質ザニス様とリリの問題になってしまいます」
「数百万で済めば御の字ってレベルかな。流石に四桁は行かないだろうけど確実にザニスを黙らせるなら1000万は欲しいか」
レベル1のサポーター相手にそこまで吹っ掛けることもないと思うけどあそこは金にがめついから余裕を持つならこの程度だろう。
「1000万…」
「リリもそのくらいだと思います、自分にそこまでの価値があるなんて言えませんけど…もしヘスティアファミリアとの繋がりがバレたらもっと高額になる可能性もあります」
「正直にいえば数億よりは現実的な数字で安心できるよなヘスティア?」
ヘスティアに思いっきり足を踏まれる。ついでに脛を数回蹴られる。
「そりゃ数億なんて数字よりは現実的ですけど…どこからそんな数字が出てきたんですか?」
「ぱっと思いついただけだ、最上級の装備だとそんなもんかなって」
「そうそう!ボクがへファイストスの所でアルバイトしているから!わかりやすく武器で例えてくれたんだよね!?」
例えば真っ黒で不思議な力を持ったナイフとかな。
「流石に数億かかる武器なんてそれこそ『猛者』の使っている武器クラスじゃないと行かないと思いますけど…」
「ベルもいつかそれに見合うくらいの冒険者になろうな」
「はい!」
閑話休題、リリルカの問題に向き合おう。
「でも確かリリは自分からソーマファミリアに入った訳じゃないよね?それでも脱退って難しいの?」
「そこら辺は主神によるかな、ローラン君とサポーター君の口ぶりから察するにソーマはファミリアについてはノータッチみたいだから…なんでファミリアを興したんだか」
「自分の趣味のためらしいぞ、ソーマファミリアって言ったら酒ってくらい有名だけどあれって全部ソーマ自ら作ってるらしいし」
ヘスティアはソーマの放任主義に憤っているがこの世界の神の大半はそんなもんらしい。ヘスティアが神一倍お人好しなんだろう。
「リリもそのうち改宗を打診しに行きますけど、暫くはこのままの状態で動こうと考えています。その時に改めて相談させてください」
「それじゃあ、その間はどう動くんだ?」
「顔馴染みのお店…リリにとってはちょっと違うんですけど、気の許せるノームのお爺さんがいるので、そこでしばらくお世話になろうと考えています」
おそらくベルのナイフを30ヴァリスで買い取ろうとした爺さんの所だろう。盗品を扱うような店と考えると少しアレだが…店主は根っからの悪人って訳でもなさそうだし口出しはしないでおこう。
「おいおい、そんな押しかける真似して平気なのかい?なんだったらボクのバイト先を紹介してあげようか?」
「いえいえ、リリは火の元の扱いを間違えて、バイト先の露店ごと大爆発させる真似だけは御免なので、丁重にお断りさせてもらいます」
「何?また借金増やしたのか?」
「また?え、神様借金があるんですか?」
「うわあああぁぁぁ!?なんか芋づる式に色々暴露されていく!?や、ちょっと待って、一回整理させて。順番に答えていくから…」
外に目を向けているうちにヘスティアが何かやらかしていたみたいだ。あとで何が起きたのか調べなければいけなくなってしまった。
〜ローランの異世界見聞録〜
子供のファミリア所属問題だったり改宗問題だったり、リリは現代ファミリアの問題点のオンパレードみたいな人生を歩んでいるんだな。裏路地の子は裏路地の子って奴か。
金を稼ぐのは構わないけど際限なく出費が増えていくのは勘弁して欲しいなぁ。