ダンジョンに黒い沈黙を向かわせたのは間違いではないはず   作:ピグリツィア

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一攫千金!バントリー乱獲!

 アイズとベルが鍛錬を始めてから三日、今日も鍛錬を見守ったらベルと別れてホームへ帰還。ホームで幾つかの本を読んでいると教会の隠し扉が開かれる。

「ローラン様、お仕事の時間です!」

「どうしたリリルカ、随分と唐突だな」

 ホームに突入してきたのはベルの雇っているサポーター、リリルカだった。後ろにベルもいるな。

「『バントリー乱獲』をします」

「本当に唐突だな?」

「いやまぁそっちはオマケなんですけどね。バントリーに行く用事ができたのでついでにやってみようかなと思いまして」

 そうだな、ここらで一気に荒稼ぎするのも悪く無いかもな。ここ数日ダンジョンに潜ってないし…

「わかった、準備は済んでいるのか?」

「今から私が準備しに行きます!ベル様の分のバックパックも必要でしょうね!」

 すっげえ目がキラキラ輝いてる…そっとしておこう。

「では!私は準備してきますね!ダンジョンの前で待っていてください!」

「お、おう…」

「が、がんばってね…」

 なんか随分と元気いいな…

 

 ダンジョンの前に到着してから三十分もしない内にリリルカと合流できた。

「では行きましょう!」

「ず、随分と早く準備が終わったね?」

「まさに一攫千金のチャンスなんですよ!気合いが入らない方がどうかしています!」

「それで何がどうしてバントリーに行くことになったんだ?」

 普通なら前日に予定をつけるような仕事だと思うんだけど、まあ何かしらのきっかけがあったんだろ。

「ベル様がクエストを受けまして、『ブルーパピリオの翅』の収集です」

「ああ、それでバントリーで待ち伏せするって事だな」

「流石はローラン様ですね、その通りです。翅を回収したら後はボーナスタイム、ウハウハの一攫千金です」

「その言い方やめない?」

 なんかあれだろ、その言い方ちょっと嫌だな。

 

 特筆することもなく、バントリーまでたどり着いた。

「では先に『ブルーパピリオの翅』を確保しましょう。ローラン様、これを使って身を潜めましょう」

 リリルカからカムフラージュを受け取って身を包む。必要は無いけど無いよりはマシだからな。

「おう、リリルカ達はどうするんだ?」

「じゃあベル様!このカムフラージュに一緒に入りましょう!」

「え、ええ!?別々の奴じゃ無いの!?」

「イヤーオモッタヨリオカネガナカッタンデスヨネー」

「すっごいカタコト!?」

 ああ、そういうね…問題を起こさないなら好きにやってくれ。

「俺は少し離れているから、ブルーパピリオを倒すのはベルに任せるぞ」

「は、はい!」

 

 ここは綺麗だな〜、隠れていれば平和だし。そういえばオラリオの外に行ったことが無いな…外はどうなってるんだろうな、外郭みたいに危険じゃないみたいだしいつか行ってみたいなぁ。あ、ブルーパピリオの群れだ。綺麗だなぁ~…ベルが皆殺しにしちゃった。表情から読み取るに良い感じに素材を回収できたみたいだ。

「ローラン様、そろそろお仕事の時間ですよ」

「ん、おお…じゃあやるかぁ」

 今回は手数が必要だから『クリスタルアトリエ』を持ってきた。遠距離攻撃手段である『ロジックアトリエ』はこの世界の銃器の発展から見るにあまり表立って使わない方が良さそうだ。

「よし、じゃあ二人は隠れててくれ。戦場をゆっくり移動させていくからそれを追いかけながら素材回収する感じで頼む」

「はい!ベル様も頑張って下さいね!」

「うん!」

 よ~し頑張るぞ~。

 

 

 

 3時間後、そこには息を切らしながらも満面の笑みを浮かべるリリルカと、倒れ伏したベルの姿があった。

「へへっ、えへへっ。凄いですねぇバントリー乱獲…一回でこんなに稼げるのに何で誰もやらないんでしょうね…うひひっ」

「僕の姿を見てわからない?すっっっごい疲れるよこれ」

「それはベル様が解体に慣れてないからでしょう。しばらくはこれでお金を稼ぐのも良さそうですねぇ」

 今はベルの限界が来たので休憩しているところだ。リリルカもハイテンションになって気付いていないがベルよりも身体が小さい事もあってかなりの疲労が溜まっている。いざという時の為にも無理はさせられないからな。

「これなら狩る方に回った方が…無理だ、やっぱ死んじゃうよね…」

「レベル2になれば出来なくは無さそうですけどね、とりあえず今回はローラン様に任せましょう」

「おう、任せておけ」

 もうちょっと休憩したら再開するか。その前にバントリー中央の柱をちょこっと削って持って帰ろう。

 

 

 

 狩りを再開して4時間後。モンスターの量が目に見えて少なくなり、バッグの余裕も無くなってきたので撤退することにした。

「うひゃっほ〜い!これだけあればしばらくは遊んで暮らせますよ!まさかクエストの報酬が端金に見える程までに稼げるとは!」

「リリ、落ち着いて…」

「キャラが変わってるな…」

 リリルカが小躍りしながら先頭を走っている。通りすがりのモンスターには「リリルカちゃん大盤振る舞いです!ばっきゅ〜ん!」と言いながらクロスボウを打ち込んでいく。おいサポーター、それでいいのか。

「今のリリに怖いものなどありません!いざとなればベル様もローラン様もいますしね!」

「ならもうちょっと落ち着いてベルの後ろに着いてくれ」

 げらげらと笑いながら小躍りしている今のリリルカはちょっと怖い。懺悔で殴っといた方がいいかな。

「お二人ともこの魔石とドロップアイテムの山を見て何も感じないのですか!?」

「今のリリの奇行を見たら誰だって落ち着くよ…」

「そうだぞ〜さっきからお前、側から見たらほぼほぼヤク中だぞ」

 俺たちの言葉でようやく動きが止まる。

「…そこまででしたか?」

「言ってやれベル」

「今のリリにはちょっと近づきたく無いかな…」

 ベルの言葉を受けてリリルカがその場で崩れ落ちる。

「べ、ベル様にそう言わせる程に…!?………ああああああ!?わ、忘れてくださいベル様!?ちょっと今までの人生で見たことがない程の収益に目が眩んでしまいまして!?」

「う、うん。わかったから落ち着いて欲しいかな」

 本気で我を忘れるくらい有頂天になっていたようだ。いや、ある意味では今も正気には戻れていないのかもしれない。

「うああぁぁ…リリはどうかしていました、お金に目が眩んで奇行をするなんて…」

「ソーマファミリアの連中と比べたら可愛らしい暴走だったけどな」

「そこと比べられる時点で終わっているんですよ…」

 

 リリルカが正気に戻ってからは静かな帰路だった。ギルドに到着して素材の換金をリリルカに任せてベルと雑談している時、何人かの冒険者が『奇妙な噂』を口にしていた。一度ベルに静かにしてもらって聞き耳を立てる。

 

「おい聞いたか?7階層でもモンスターの大量発生だってよ」

「はぁ?またかよ、ついこの間24階層でも大量発生だって言ってなかったか?」

「ああ、ついさっき戻ってきた奴らがいうには確実に普段よりもモンスターの数が多かったってよ。それに様子もおかしかったんだと」

「様子?どんな様子だったんだ?」

「なんつーか、恐慌状態って感じだったらしい…やけに攻撃的だったかと思えばこっちを無視して慌ててどっかに行こうとする奴もいたりって感じらしい」

「ふ〜ん?眉唾だけど明日は注意しとくかぁ」

「それがいいな。ったく、最近はどこも物騒で敵わねえな」

 

「7階層か…そんな様子なかったんだけどなぁ?」

「そうですね、僕たちの通ってないルートで起こったんでしょうか?」

 丁度今日狩りを行った階層での異常事態、流石に気づかない訳もないと思うが…バントリーに居たから気づかなかったのか?

「お待たせしました!ローラン様、ベル様!見てくださいこれ!」

「うわぁ…!ぼ、ぼくこんな大金始めて見ますよ!」

「そうだな、これでまた暫くはダンジョンに潜らなくても済みそうだ」

 リリルカに分前を渡してから俺が金の入った袋を受け取る。ベルに持たせておいたら何かしらのトラブルで無くしそうなんだよな。

「後はベル様の受けたクエストの分の材料を渡して報酬を貰えば今日のお仕事は終了です!」

「ああ、ナァーザから受けたんだっけ?」

 ベルの贔屓にしている道具屋の犬娘だったはずだ。俺はそういう道具をほとんど使わないから滅多に行かないんだよな。

「さあさっさと終わらせてご飯に行きましょう!」

「おー!」

「おー」

 

 ベルが先頭で『ミアハ・ファミリア』のホームに入る。

「すいませーん、こんばんはー」

「…ベル?」

 ベルの声に答えたのは、いつも眠たげな犬耳少女ナァーザだ。ミアハファミリアの団員はこの子一人らしい。

「…ローラン様」

「うん?」

 リリルカに呼びかけられてそちらを向くと彼女は随分と警戒心を高くして辺りを伺っているのがわかった。

「ここ…やってますね?」

「何を?」

「…えっ?」

「えっ」

 マジでリリルカの言っていることが分からん。え、ここってリリルカでも分かるくらいヤバい事やってんの?

「…ま、まあいいでしょう。ローラン様はそこでじっとしていてくださいね?」

「お、おう?」

 なんだかよく分からないがとにかく、これからリリルカのやることを妨害しなければいいんだろう。

「はい、報酬ね…ポーション2ダース」

 俺たちがそうこうしている内にベルはナァーザから報酬を受け取ろうとしている。

「ちょっと失礼しますベル様。代金は後で払いますので」

 ベルの手を遮りリリルカが木箱からポーションを一本抜き取り、香りを嗅いでから一滴舐める。

「まったく、ローラン様は本気で気付いてないのでしょうか。このポーションが500ヴァリスなんて、ぼろい商売ですねぇ?」

 …ああ、そういう事か。まってくれ、言い訳させてくれ。

 そもそも俺は中層より下に行くことなんて滅多にないんだよ。そして上層なんかで怪我する訳もない。って事はだ、ポーションなんて使う事ないだろ?ベルが勧めてくれたし他の所でポーションを買う必要もないからそこまでの劣悪品だなんて知らなかったんだよ…今度ベルの身の回りの装備品について見直した方がいいかもな。

「元の溶液を薄めていらっしゃいますね?これでは効能も半分以下でしょう。ポーション特有の甘味も調味料で誤魔化していますね。ええ、よくある手口です」

 本当によくある手口じゃねーか!混ぜ物なんて都市でもお馴染みだわ!やっばい、すごく恥ずかしくなってきた!「異世界だからこんなもんなのかな〜」じゃねえんだわ俺!

「せいぜい200ヴァリスといったところでしょうか…今回の報酬にはこれぽっちも見合いません。さぁ、どうやって落とし前をつけてくださるんですか?」

 

 

 

 話し合いの席に座ってはいるが、今俺は自己嫌悪の真っ只中だ。頭の中で小さな天使が「なにアホみたいに初歩的なミスしてるんですかローラン!」って俺をタコ殴りにする幻覚がみえる…

「ろ、ローラン君?大丈夫かい?」

「はなしはきいてる…」

「重症みたいだね…」

 だってさ、一応元1級フィクサーだぞ?それがこんなミスしたなんて知られたら…一週間は恥ずかしさで表にも出られない。頭の中で小さな赤い霧が延々と説教してくる幻覚も見える…

「ふはははははっ、邪魔するぞおおおお!」

 聞きなれないおっさんの野太い大声で少しだけ現実に引き戻される。

「今月分の借金を取り立てに…この男は大丈夫か?強い精神性ショックを受けているように見えるが」

「そっとしておいてあげておくれ…」

「そうか、まあ時間経過で治りそうだし放置でいいな。では気を取り直して…借金を取り立てに来てやったぞ、ミアハ!」

 どうやらこのおっさんはディアンケヒトらしい。大手の医療系ファミリアの主神だな。

「だ、大丈夫ですか?」

「ダイジョウブデス…」

 ディアンケヒトの横にいた少女にまで心配されるほどに俺は燃え尽きているらしい。だってさ?この道二十年の俺がだぞ?こんな初歩的なミスを…

「ふはははは!帰るぞ、アミッド!と、その前に…」

 頭に軽い衝撃が二、三発入る。どうやらディアンケヒトに叩かれているらしい。

「な、何やってるんですかディアンケヒト様!?」

「なんだこいつ、随分と頑丈だな?いいかアミッド、こういうっ!アホ面をっ!晒すほどにっ!呆けている奴はなっ!…叩いて直すくらいが丁度良かったんだがなぁ…ゼェ…こいつのレベルは幾つだ?儂の全力の治療を受けてびくともせんとは…」

「流石に荒治療がすぎますよ…時間が経てば治るならそれで良いじゃないですか」

「それもそうだな、ではさらばだ貧乏人共!ふはははは!」

 

「あの〜ミアハ様、ローランさんは本当に大丈夫なんでしょうか?」

「何があったかは分からないが、これは結構時間がかかりそうだ。そしてこういう症状はな、自ら立ち直るのを待つしかないのだよ」

「ヘスティア様は何か知っているんじゃないんですか?私達の知らないことも知っているようですし」

「流石にこんな状態になる原因には心当たりはないかな…」




〜ローランの異世界見聞録〜
薬に混ぜ物してかさ増しって…都市でも常套手段だったろ?しかも倍以上って…もうフィクサーやめた方がいいんじゃないかな?あ、もうフィクサーじゃないんだったわ。ハハハハハー
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