ダンジョンに黒い沈黙を向かわせたのは間違いではないはず   作:ピグリツィア

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黒衣の襲撃者達

 暗闇の襲撃者とアイズさんの戦いを見る。眼で追うことは出来ない、それでもわかる。これが一級冒険者の力。僕の付け焼き刃な技術とは違う、身体に染み付いた『自分の動き』。

「ッ!」

 その戦いから一つでも自分に足りないものを得ようと瞬きも忘れて見ていると、僕と神様を包囲するように4つの人影が降りてくる。

「神様、動かないで下さい」

「ベ、ベル君!?」

 状況は圧倒的に悪い。人数差もあるし相手の実力もわからない。そして僕は神様を守りながら戦わなくちゃ行けない。どうする、どうする…どうする!?

 思考を巡らせている内に相手は同時に仕掛けてくる…が、その足並みはアイズさんの戦っている相手と違いバラバラだった。

「これなら…っ!」

「っ!?」

 最速で向かってくる短剣使いに向かって駆け出す。僕が神様から離れるのが予想外だったのか咄嗟に短剣を突き出してくるがその動きは見切り易いものだった。相手のナイフを回避して胸部に飛び蹴り、反発力で神様の頭上まで飛び上がる。ここなら場所も相手も選びやすい!

「ファイアボルト!」

 六連射、二発はこっちの牽制用、三発は攻撃用、最後の一発は…

「うおっ!?嘘だろ!?」

 アイズさんの横、敵を狙いすまして打つ。レベル1の魔法なんか食らったところで掠り傷にもならない相手だろう。それでも完全な不意を突かれれば自ずと隙は出来る!

「クッソ!?予想以上に予想以上だ!」

「何言ってんだアホ!って言いたいが…」

「まさかあの状況でこっちにちょっかいかける余裕があるなんてな…」

 手に痺れが入る、けどまだ余裕はあるし脚に影響はない。相手はさっきの五発で怯んでいる。状況はこっちが有利!

「このっ!」

「ぐっ!?」

 怯んでいる相手の襟首を掴み足を払う。このまま相手の体重を利用して!

「せえいっ!」

「ぬおお!?」

 別の敵に向かって投げる!これで二人は少しの間止められる。

「ファイアっボルトォ!」

 ふと、魔法を覚えた後のローランさんとの訓練を思い出す。

 

「ベルの魔法って、凄く使いやすくて、速く真っ直ぐ飛ぶよな」

「そうですね」

「ふむ…よし、訓練メニュー追加だ!」

「え…し、死んじゃいます!」

「いいかベル、今回追加する訓練は、お前だけの為じゃない」

「へ?」

「仲間を守り、仲間を傷付けないための訓練だ」

「…わかりました!やります!」

 

 あの訓練を経て『魔法の撃ち方』を学んだ。死ぬかと思ったけど成果は大きかった。いつも使っている派手なものじゃなく、狙った所だけを撃ち抜く細く鋭い『ファイアボルト』。その成果を見せつけるように、僕の放った魔法は襲撃者の最後の一人の手に当たる。襲撃者はその衝撃で武器を手放し痛みで動きを止める。

「それ以上動かないで下さい」

 そう呼び掛けてから、アイズさんの方を見る。あちらも硬直状態になっている。

「…十分だ、退くぞ」

 一人がそう言えば集団は倒れた人達を回収して路地裏の闇に消えていった。

「………終わった?」

「みたいです、神様」

 魔法の連続使用で痺れている手を数度動かしてからアイズさんの方を見る。彼等が何者だったのか、ここで分からなくてもきっと僕の師匠が調べてくれるだろう。

 

 


 

 

 ダンジョンの一角、誰も立ち寄らないような場所にある小部屋でモンスターの断末魔『だけ』が部屋に響き続ける。

 俺は今、21階層に来ている。理由は簡単だ。こっちの世界に来てから鈍りきった勘を取り戻すため、数日に渡る実地訓練をすることにした。

「ああクソ、やっぱり鈍ってるな…」

 敵の動きを察知する感覚、敵との間合いの取り方、隙を突くタイミング、武器の選択…あらゆる要素から自分がどれだけぬるま湯に浸かっていたかを否応なしに教えられる。

「ゲブラーに相談しても当てに為らなかったし…いや、都市の住人からしてみれば俺の方が特異なんだが…」

 ゲブラーも元を辿っていけば特色フィクサー『赤い霧』だ。何かしらリハビリのコツがあるか聞いたが…「カーリーの時はそういうの無かったし、ゲブラーになってからは機械の身体だし…お前とは状況が違いすぎて何も言えん」と言われた。

 裏路地から巣に行けた奴なんて滅多にいないし、『巣には巣の痛みがある』なんて話もある。都市の住人で今の俺みたいな状態になるのはかなり難しいだろう。となれば感覚を取り戻すにはひたすら試行錯誤するしかない。

「本当、自分が情けないな!」

 モンスターの飛び道具を弾きながらまた一体敵を切り伏せる。そういえば俺が地下に潜ってからそろそろ二日程経つか。ヘスティアは結構心配性だし一回帰っておくか…

「確かアイズとの訓練もそろそろ終わりだった筈だしな、最後くらいはちゃんと見ておくか」

 


 

「って事で気持ち早めに帰ってきたつもりだったんだがな?何でベルはこう頻繁にトラブルを呼び込むのか…」

 つい昨日ベルが謎の集団に襲われたと聞いて、俺はもう何というか、呆れてしまった。そんなに治安悪いのここ?

「こ、今回はベルくんのせいじゃないぞ!?きっとヴァレン何某を狙った犯行だ!」

「いやそんな訳ないだろ。それならベルに合わせた強さの襲撃者を用意する必要もないし、最初の奇襲でベルを叩けばアイズと襲撃者で9対1だ」

「…つまり、あの襲撃は…?」

「十中八九ベルを狙ったものだな、目的はわからないが」

 襲撃者の「予想以上に予想以上」なんてアホみたいな発言から考えるとベルの強さを見たかったのか?だけど誰が何のために?また仕事が増えてしまった…

「少なくともアイズを狙ったものにしては不自然すぎる。一応調べるけど期待しないでくれ」

「わかりました…」

「任せたよローラン君!」

 期待するな、とは言ったものの多対一とは言えアイズと渡り合える程度のレベルがある冒険者なんてかなり限られる。アイズから情報を得られれば案外すぐに特定できそうだ。

「鬼が出るか蛇が出るかなんて言うが…それで済めばいいな」

「不吉なこと言わないでくれローラン君!?」

 

 次の日、アイズとベル最後の訓練の日だ。ベルもアイズの動きに慣れてきている事もあるとはいえかなり喰らい付けるようになっている。

「…すごいね、ベルは」

「そんな事…ありませんよ」

 ベルのその目が見つめる先は遥か高みに居る、つい先日レベル6に成ったアイズ・ヴァレンシュタインだろう。

「でも詳しくは言えないけどステイタスの伸びも凄いだろ?もしかしたらレコードホルダーの座をアイズから奪えるかもな」

「そうなの?」

「そんな!?畏れ多いですよローランさん!」

 こんな風に謙遜しているがベルの成長速度が異常なのは既にヘスティアから聴いている。その理由がスキルに依るものだという事も聴いているのでアイズの前で言えるものじゃないが。

「実力的にはレベル1の中でも上澄みなんだろ?ならあり得ない話じゃないだろ」

「そう、なんだ…」

「ハードル上げないで下さいローランさん!」

 まあレベルアップには偉業の達成なんていうふわっとした条件があるから、そこら辺は運になるけど…ベルのトラブルを呼び寄せる体質なら案外すぐチャンスは来るかもしれない。

「因縁有るミノタウロスの単独討伐とかどうよ」

「偉業としては十分すぎると思うけど…」

「無理無理無理無理無理!三秒で死にますよ!?」

「ミノタウロスは大体初手で咆哮を使うからもうちょっと掛かるよ?」

「それって絶対逃さないし抵抗もさせずに確実に殺すって事じゃないですかぁ!」

 そういえばあれって格下の動きを止めるんだっけ、となると流石に分が悪いか。

「まあ冒険者続けてればその内機会は来るだろ」

「うん、君ならきっとレベル2になれるよ」

「アイズさん…!」

 アイズの言葉は俺の言葉より深く響くらしい。ベル、俺涙が出そうだよ。

「僕、絶対にレベル2になります!」

「がんばれ」

 アイズの激励を受けてベルのやる気は最高潮だ。その調子で大量に金を稼いでくれたまえ。

 

 ベルを先に帰らせて、アイズと共に街を歩く。

「やっぱり先日の襲撃はフレイヤファミリアか?」

「多分そう…でも私を狙ったにしては不自然な襲撃だった」

「俺の予想じゃベル狙いなんだけど…動機がなぁ」

 なぜレベル1のベルを狙うのかわからない。殺しに来ている訳でもないし、腕試しだとしても何でフレイヤファミリアが冒険者になりたてのベルを狙ったのか…全くわからん!

「アイズと訓練している事に目をつけられたか?」

「多分そうだと思う…それ以外に思いつかない」

 それでもそこまでするかってなるけどなぁ…俺の方に来るならわからなくは無いんだけどな。

「少なくとも殺される事はないはずだし、こっちから喧嘩を売っても絶対に勝てないから警戒止まりだな」

「そう…気をつけてね?」

「ああ、と言っても一番気をつけなきゃいけないのはベルだけどな」

 

 アイズと別れて俺の仕事に手をつける…まあフレイヤファミリア相手じゃ打てる手もそう多くはないけどな。

「襲撃時、アイズはレベル6…って事は敵のレベルはスキルや魔法込みで最低でも4か?」

 それでも範囲は広いな…オラリオ最強と名高いオッタルはこの襲撃に参加してなかったのが救いか。

「ソーマファミリア辺りに何か吹き込まれ…たとしても動かないか。そんなコネもない筈だしな」

 とにかくフレイヤファミリアについての情報を集めよう。話はそれからだ。

 

 その日は日が暮れるまで情報収集に徹した…がアイズから提供してもらった情報がかなり詳細だった事もあって新しい情報はそこまで手に入れられてない。それでも情報の精査は済ませてあるので今からベルとヘスティアに襲撃者の情報を共有する。

「まずベルが返り討ちにした奴らが何者かは解らなかった、がおそらくレベル1の木端だな…そしてアイズの方を襲ったのは『女神の戦車』と『炎金の四戦士』で間違いないだろう…つまりフレイヤファミリアだな」

「フレイヤぁ!?なんでフレイヤがベル君にちょっかいを…まさか!?」

「いや、俺もベルが見初められたのかと思ったんだが…どうやらいつもとは手口が違うらしい」

「見初め…?手口…?」

 そういえばベルもまだオラリオに来て長くはないのか。これは説明が必要そうだな。

「フレイヤファミリアは知っているな?あそこの主神は気に入った他の派閥の団員を強引な手段で引き抜く事で有名なんだ」

「魅了して自分から移籍させるんだっけ?とにかく手癖が悪い事で有名だったよ!」

「え、って事は僕もそのフレイヤ様に…?」

 すっかり空気がお通夜状態だ。無理もないな、片やオラリオ二大派閥の片割れ、片や結成数ヶ月の出来立てひよっこファミリアだ。衝突したらどうなるかなんて赤ん坊でもわかるな。

「ろ、ローラン君!どうにかしてくれ!」

「無理だな、相手が悪すぎる。オラリオの外にでも逃げるか?」

「それは嫌です!僕はレベル2に…いえ、あの人に追い付くって決めましたから!」

 まあそうだよなぁ。一応直ちに影響はないかもしれないとはいえ、いつまでも肉食系女神に見つめられてると考えたら気も落ち着かないか。

「今のところ近い時期に手を出される可能性は低いけど…それもフレイヤの気分次第だな」

「それまでにファミリアの力を大きくする?」

「そんな短期間でオラリオ最強が所属しているファミリアに追いつけるか?」

 ヘスティア、撃沈!流石にここで「できらぁ!」とか言い始めたらミアハに頭を見て貰わなければいけなくなっていたところだ。

「それに『猛者』がきな臭い動きをしているのも気になるしな」

「『猛者』が?」

「そいつが中層で徘徊してるとかなんとか。流石に今回の件と関係あるとは思えないけどな」

 金策にしても、俺と違ってダンジョンに慣れているであろう『猛者』ならもっと深い階層で狩りをした方が手っ取り早いだろうし、何をしているんだか。

「一応明日も情報を集めてみるけど期待しないでくれ」

「ごめんねローラン君、君にばかりこういう仕事を任せて…」

「大丈夫だよ。こういう仕事は得意ではあるし、今回の件はどうにも気になるからな…ベルも警戒しておいてくれ、もしかしたらダンジョンで襲われる可能性もあるからな」

「わかりました、リリにも伝えておいた方が良いですかね?」

 もし『その時』が来たらベルがリリルカを守れる可能性は低いか…打てる手は打つべきだな。

「そうだな、明日は一回俺からリリルカに事情を説明するよ」

「はい!」

 

 

 

 次の日、朝食を済ませてキッチンでパタパタと後片付けをしているベルの後ろ姿を、ヘスティアと共に茶を片手に眺めている。

 そんな中バキリと、ヘスティアの手元から音が鳴る。視線を向けてみればカップの取っ手が砕けているのが目に入る。

「…」

「ヘスティア?手、大丈夫か?」

「ん?ああ、怪我はないよ…」

 確かに怪我はなさそうだが、ヘスティアの表情はかなり暗い。

「ローランさん、終わりました!神様、火の元だけお願いします!」

「…ベル君、ステイタスの更新をしておこう。ほら、最近やってなかったし」

「へ?」

 何か思う所でもあったのかな。俺は急いでないし、ここはヘスティアの方についておくか。

「まあこの間襲撃されてたしな。一応やっておいた方が良いかもな」

「はあ、わかりました?」

 そそくさとステイタス更新の準備を始めるヘスティア達を見ながら、取っ手の砕けたマグカップを処理する。こういうのを『縁起が悪い』って言うんだろうな。

「ははっ、凄い伸びだね。剣姫に揉まれただけの事はあるね」

「…は、ははっ」

 そういえば俺がダンジョンに潜った日にバレたんだっけ。そんな事より襲撃の方に気を取られて忘れかけてたな。

「ローラン君の扱きもすごいのは知っているけどね…手心を加えてあげた方が良いとは思わなくもないよね」

「次の日に引かないように手心を加えているぞ?」

「ローラン君もこうだからなぁ…」

 冒険者なら生き残るために技術やステイタスを上げられるだけ上げた方が良いのは誰にでもわかるだろう。そこで手を抜く訳にもいかないな。

「…ローラン君」

「あ!神様ごめんなさい!僕もう行きますね!」

「悪いヘスティア。帰ってきてからな!」

「あ…」

 どたどたと慌てて出ていくベルを追いかける。リリルカと少し話をしたら一度ここに戻ってくるか。

 

 ダンジョンの入り口の前でリリルカと合流する。

「あれ、ローラン様?今日はローラン様も一緒に来られるのですか?」

「いや少しだけ話があってな…ちょっと場所を移そうか」

 ベルには待機してもらって人気の少ない場所へと移動する。

「こんな所に連れ込んで、どんな話ですか?」

「そうだな、まずは…」

 先日の襲撃とフレイヤファミリアの話をする。案の定渋い顔にはなるがそこまで悲観的にはなっていないみたいだ。

「また厄介な相手に目をつけられてますね…これはもう気にしてもどうしようもありませんが」

「ああ、それで俺は出来るだけの事をやっておこうと考えてな」

「はぁ」

「リリルカにはこれを渡しておこうと思う」

 リリルカに『ロジックアトリエ』と高電圧弾を手渡す。これなら中層のモンスターの動きを止めて小さくないダメージを与えられる事も確認してある。

「これを渡しておこうと思う。使い方は今から教えるぞ」

「なんですかこれ…」

 

 リリルカに口頭で武器の扱い方を教えてベルの元に戻る。

「ベル様、ただいま戻りました」

「待たせたな、じゃあ気をつけてな」

「はい!」

 何もなければ良いが…不安感が拭えないな。

 

「ヘスティア〜、戻ったぞ」

「ああローラン君…」

 ホームに帰ると随分と暗い表情のヘスティアが出迎えてくれた。

「帰ってきて早々に悪いけど、今日はベル君について行って貰えないかい?」

「さっき言いたかったのはそれか…わかった、今から追いかけてみよう」

 帰り道に少しのんびりしちゃったな…いまから急ぎ足で追いかければ10階層辺りで追い付くかな?

「ごめんね、迷惑だと思うけど…」

「いや、そう言う勘は大事にした方が良い。何もせずに手遅れになるよりはな。ほれベルのことは俺に任せてバイトに行きな!俺がいれば安心だろ?」

「うん…ベル君の事任せたよ」

「任されたよ」

 

 

 

 フレイヤファミリアが早々に手を出してくるなんて考えてもいなかった。ベルはまだレベル1だから、数ヶ月に一回ちょっかいをかけてどれだけ成長したのか確認する程度だと考えていた。

「…で?俺お前に何かしたっけ?」

「いや、初対面だな」

 8階層、そこで足止めを喰らう。相手は猫の耳と尻尾を持った男。手袋をはめながらそいつと相対する。その瞬間、ベルの危機を察知する。

「じゃあそこどいてくれないか?」

「断る」

 まさかこんな上層で『女神の戦車』が俺に対して仕掛けてくるなんて、考えてもいなかった。俺はこのオラリオだと無名だから。

「はぁ…何が目的なんだ?」

「…」

 返答はない。相手は構えてこそいるが自ら仕掛けて来る事もない。しかし、俺には急ぐ理由が出来た。

「仕方ないな…押し通らせてもらうぞ」

「させる訳ねえだろ」

 どうやらヘスティアの勘は当たっていたようだ。ああ、俺は何時も、肝心な時に役に立たないんだな。




〜ローランの異世界見聞録〜
『フレイヤファミリア』…美の女神の狂信者集団にしてオラリオ二大派閥の一つ。ホームにて団員同士で殺し合いとも見て取れる程の訓練をしているらしい。
フレイヤが気に入った相手はフレイヤ自ら魅了して掻っ攫っていくのは有名な話みたいだ。危険度はトップクラスだな。そんな相手に目を付けられるとは…ベルのトラブル体質もここに極まれりだな。



まさか此方で追伸を付ける羽目になるとは…このピグリツィアの目をもってしても読めなかった!!

なんか最後の方2000文字くらい丸っと消えてたんですけどぉ!ふざけるな!ふざけるな!バカヤロォ!
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