ダンジョンに黒い沈黙を向かわせたのは間違いではないはず   作:ピグリツィア

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   前回のあらすじ!
投稿した作品を後から見返したら2000文字近く吹っ飛んでた事に気づいた作者!
必死に自動保存をほじくり返して抉れた心臓部を辛うじて埋められたは良いもののどう告知しようか悩む作者!
がんばれ俺!バグや編集ミスに負けるな俺!さっさと赤い霧の方も更新しろ俺!
ハーメルン…俺涙が出そうだよ…
次回、Pigrizia, morte

訳:前回の話に抜けてるところがあったから埋めたよ。見てない人は見てね。


ジャイアントキリング

 さて、『女神の戦車』アレン・フローメルと相対している状況だが…流石に勝てる気がしないなぁ。

 レベル6、しかもオラリオ最速なんて呼ばれてる。かのオラリオ最強で有名なレベル7以上の速度となると流石に対応できる気がしない。

「ところで、あんたの女神様はそんなにベルにぞっこんなのか?」

「…」

「あ〜、マジでぞっこんなのか」

 アレンは何も語らないが、上の命令に気が滅入っている様子だ。この状況で平和的解決は無理そうだ。

 とにかく、交戦は決定事項だが…手袋をはめたは良いがここで手袋の能力は使いたくないな。そんな贅沢を言える余裕もないか。

「手加減はしてくれよ?」

「そんな弱音吐く程度じゃ見極める必要もなさそうだな」

 


 

 9階層に現れたミノタウロスを前に足が竦む。なぜここに、と呑気に考えていると、ズドンと聞いた事の無い爆発音らしき音で我に返る。

「まさかこんなに早くコレが役に立つなんて…!あの人は未来でも見えてるんでしょうかね!?ベル様、逃げましょう!」

 リリがカチャンと手元の筒を操作しながら逃避を提案する、ミノタウロスは…怯んでる?ともかくその言葉にうんと頷こうとした時、憧憬の後ろ姿を幻視する。

(階層主の単独討伐…)

 きっとローランさんが見たら僕の行為を叱責するだろう。それでも僕は彼女に近づきたい。

「…リリ、一人で逃げられる?」

「え?」

「僕が時間を稼ぐ。リリはヘスティアファミリアのホームまで戻ってローランさんを呼んで来て」

 時間を稼ぐ、なんて言ったけどそんなつもりは毛頭無い。やるなら最後まで、僕はミノタウロスを討伐する気でいる。

 それにミノタウロス相手にレベル1二人が逃げ切れる筈もない。なら長く時間を稼げる僕が残ってリリに助けを呼んでもらった方がまだ二人で生き残れる可能性も高い。

「…もう!ベル様、後5手程度ですが援護します!」

「リリ?!」

「ローラン様のくれた武器は予想以上に効果がありました!ベル様の攻撃でダメージが与えられるなら討伐も視野に入れられます!」

 改めてリリの持っている物を見てみる。ソレは今までに見たことがない武器だ。そしてローランさんから渡された武器、それなら信頼しても良いと判断する。

「これはクロスボウ…いえ、魔剣のような物です!扱いは今ので完全に把握しました!」

「…わかった!援護は任せるよ!」

「はい!」

 本音を言えば僕一人で戦いたい、でもこれ以上わがままを言う気も無い。

「ふぅ…行くよ」

「ヴオオオォォォ!!!」

 いつも通り、冷静に。僅かな隙から勝機を見出せ。

 


 

 アレンの攻撃をひたすらに受け流す、明らかに銃弾よりも早い槍捌きだけど、まだまだ本気とは程遠いだろうな。今はなんとか凌げているが戦況は完全に不利だ。

「おいおいおい、随分と消極的じゃねえか?あ?」

「流石に、キツイ、な?」

「ふん、まだ余裕があるみてえだな」

 これは文字通り『手段を選べない状況』だな…

(アンジェラ、準備は?)

(いつでも行けるわよ)

(ゲブラー、本当になんとかなるんだよな?)

(お前もEGOはそこそこ扱えるんだろ?ならいけるだろ)

 ぶっつけ本番だが、やらないよりはマシか…一瞬の隙を作り出して『アラス工房』に切り替える。

「なっ、んなんだ、今の!?」

「手は選べないんでな、教える訳にもいかん」

 一瞬にして距離を詰めて攻勢に転じる。が、すぐに距離を取られて仕切り直される。

「悪いな、こっちが本命だ」

「あ?」

 『アラス工房』の上に更に大きな『金色のガントレット』が現れる。

「『黄金の道よ、開け』」

「詠唱!?」

 未知の魔法を相手にこっちに向かって全速で吶喊してくる。下手に退くより自分の速度で轢き殺した方が早いという判断だろう。

「じゃあなアレン、これが『試合に負けて勝負に勝つ』って奴だ」

 右腕のガントレットに身を任せてこっちからも突進を仕掛ける。アレンは受け流そうとガントレットに槍を当てた瞬間、弾かれるように横へ回避した。

「どんな重さしてるんだクソッ!」

 そのまままっすぐ通路の先にある魔法陣の描かれた壁へと突っ込む。行き先は9階層のどこかだ。ここからはアレンが追いかけてくるより前にベルを見つける。

「…は?消えやがった!?」

 追いかけて来なければ良いんだが…期待できそうには無いよな。

 

 魔法陣を抜けた先は…多分9階層だ。ダンジョンって同一階層だとどこも似たような風景だからここがどこか判らないな。

「ぐっ!ああ、キツイなこれ…」

 『黄金狂』を利用したワープ、俺が使えるかは博打だったがなんとか上手く行った。馬鹿みたいなコストと反動を除けばだが。

「おい、ゲブラー。話が違うぞ…」

(私が使った時はちょっと疲れる程度だったんだよ。もしかしたらEGOの効果だったのかもな)

「身体中がミシミシ言ってる…死にはしないけどちょっと落ち着いてから動くか…」

 さほど反動は無いって聞いてたんだけどなぁ?やっぱり赤い霧はEGO適正も別格だったか。

(仕方ないだろ、EGO使えるやつなんてそう多くなかったんだから。ロボトミー社の職員はそういう使い方できなかったし)

「やっぱり別格じゃねえか…ふぅ、少し落ち着いてきたな」

 できればもう少しゆっくりしたいがオラリオ最速に狙われている以上そんなことも言ってられない。今もベルは何かと戦っている筈だ、俺が弱音を吐く訳にもいかない。

「ほんっとうに厄介な奴らに目を付けられたもんだな」

(全くね、今後の調査に響かないと良いけれど)

 薄情な、と言おうと思ったがよくよく考えればベルと直接接点もある訳じゃ無いしこんな物かと思い直す。

「すぐに見つかってくれれば助かるんだけどな…」

 


 

 今、僕は死を間近に感じている。一ヶ月ほど前の僕なら脱兎の如く逃げ出していたかもしれない。そんな状況に置かれてここまで冷静に動けているのは全て師匠とも呼べるあの人の教えがあったからだ。

 

 

 

「いつか、どうしようもなく強大な敵と戦わなくちゃいけない時が来る。フィク…冒険者を長くやってれば必然とな」

「はい」

 黒衣の襲撃者と交戦した後日、訓練の時間に切り出された話題。思い出す度に夢でも見ていたかのような感覚に襲われるけど、これは夢なんかじゃないと言えるような人生最悪の日。

「そんな状況にならないようにするのも大事なんだが、そういう事を学ぶのはもうちょい先かな…で、そんな状況になった時ベルはどうする?」

「えっと…」

「あ〜…まだピンと来ないか。そう言えばミノタウロスに襲われた事があるんだっけ?」

「はい…あの時は一歩も動けなくなっちゃって…」

「それじゃ今同じ状況になったとしよう、その時と違うのはただ一つ。背後にヘスティアが居ると仮定しよう」

 その時、背中から嫌な汗が吹き出した。あの時はアイズさんに助けてもらったけど次は無いだろう。そして経験を積んだ今でも一対一で逃げ切れる保証もないのに、神様を連れて逃げる?そんな事無理に決まっている。

「もしヘスティアで想像しにくいならリリルカでも良いぞ?彼女と一緒にいる時にミノタウロスに会う確率の方が圧倒的に高いだろうしな」

 口が渇く、何かを言おうとしても喉が引き攣る。神様を連れて逃げるよりは生き残れる可能性も高いかもしれない…だからどうした、アレから逃げ切れる未来なんて一切見えない。

「今日からはそんな状況になった時の為の訓練も始めようか。これはマジでいつ来るかも判らないからな、やるなら早い方がいい」

 あの人はスパルタ式の訓練をしてくる。何時だって僕の処理能力を僅かに越えるかといった負荷を掛けてくる。でもその日から始めた訓練は性質が完全に違った。

「手加減はするけど…これで折れたら冒険者は引退した方がいい。遅かれ早かれ野垂れ死ぬだけだろうからな」

 真っ黒な手袋と仮面を着けて、そこらで拾ったような木の棒を構えた瞬間。

 

 僕は死んだ。

 

 そう感じただけだ、実際に死んだ訳じゃない…と思う。多分。今でも思い出すだけで自分が生きているか不安になる。あれが所謂、殺気と呼ばれる物なんだろう。正直半信半疑だった、あれは物語の中だけの存在だと思っていた。

 達人じゃないと感じ取れないなんて物じゃない。どんな人生を歩めばあんな技術を会得する羽目になるんだろう。今からお前を殺す、なんて意思表示を身体全体で浴びた。

 腰が抜けて涙が出てきていた。漏らしていなかった事を誇っていいのだと思う程に追い詰められた。

「こんな殺気を浴びせられるなんて事、実戦じゃ全くといっていいほど無いけどな」

「あ、あぁ」

「こんな気配をダダ漏れにしたら一般人にすら気取られるし、無駄に疲れるだけだからな」

 少なくとも今のオラリオじゃまず使わない無駄技術だな、なんて気の抜けた声で話していた。

「とにかく、この状況で動けるようになれば並大抵の状況じゃ動揺しなくなるだろ?」

 確かに、そうだろう。こんな化け物と比べたら、ミノタウロスなんてただの気性の荒い牛同然だ。

「それに、予想以上には耐えられてるよ」

 

「ローラン君、これは、どういうつもりだい?」

 背後から聞こえる神様の声、目の前の物と質の違う威圧感が漂ってくる。

「ただの訓練だよ」

「これが!唯の訓練であってたまるか!」

 聞いたこともない怒声が飛び威圧感が強まる。しばらくすると威圧感が収まると同時に大きく息を吐く音が聞こえる。その音と共にこの訓練の本質を思い出す。

「いや…もしかしたら君にとってはこれも必要な事なんだろう。でもこれは…ベル君にはいくらなんでも早すぎる」

「…そうか、悪いベル。少し焦りすぎたかもしれな…」

 立ち上がり、武器を構える。後ろにいる己が主神を守る為に。膝は生まれたての子鹿よりも震えているかもしれない。顔なんて色んな汁でぐしゃぐしゃだ。それでも、守る為には立ち上がらなくちゃいけない。

「…上出来だな。予想以上だ」

 そう笑って殺気を収めていく。緊張が解けると同時に目の前が暗くなっていく。

「ベル君…最高にかっこいいよ」

 最後に聞こえた神様の言葉は少し上擦っていた気がした。

 

 

 

 ああ、あの時に比べればなんて気が楽なんだろう。後ろにいる味方は僕の後押しをしてくれて、敵は切れば血を流す。何よりも、絶望する程の威圧は無い。咆哮を受ければ少し全身が痺れるが、それだけだ。

「ファイアボルト!」

 今までローランさんに与えられた試練が全てこの時の為に有ったかのように、主導権は僕が握り続けている。

 

 ふと、誰かの声が聞こえた気がした。聞いたことの無い声、女の人の声だ。

 何を言っているかはわからない。それでも僕は、その声を聞いて何故か安心感を覚えた。

 

 呼吸を整える為に一度距離をとる。気付けばリリの後ろに何人かの冒険者が居た。そしてその中には。

(あ、アイズさんだ)

 彼女の存在を意識した時、一瞬だけ誰かの声が少し大きく聞こえた気がした。

(今は目の前の敵に集中しなきゃ)

 手負いの獣が一番恐ろしいと言うのはローランさんだけじゃない、僕の故郷でもよく聞かされたくらい有名な話だ。

 そういえばいつの間にか、凄く落ち着いた気分になっていた。リラックスしている訳じゃない、かといって緊張しているわけでもない、不思議な感情だ。

(きっとこれが、ローランさんが言っていた状態なんだ)

 相手の動きがよく見える。次に自分が何をするべきかわかる。そして大きな問題点も。

(決め手がない!)

 最初の方こそそこそこ大きなダメージを与えられていた。だけど今は数回に一度、それも掠り傷程度のダメージしか与えられていない。

 このまま行けばスタミナの差で押し切られかねない。早急に打開策を考えなければ。

(神様のナイフは既に警戒されている。僕の持っている他の武器じゃ刃が立たない…あとは、あれだ)

 ミノタウロスの持っている大剣、使ったことはないが前に借りたデュランダルの要領で使えば形にはなる筈だ。

(あれを奪う手段…あの技なら?)

 出来るか?一度見ただけの技を、今の相手に通用するレベルで?

(あの技は本来一撃毎に変わる武器が脅威だけど…急加速一瞬の方向転換によって相手を惑わす効果もある。その部分だけなら僕にも…!)

「リリ!」

「はい!」

 意を決してミノタウロスへと真っ直ぐに突っ込む。

 

 


 

 

 聞き慣れた、この世界で聞く筈の無い音が遠くから聞こえる。

「リリルカが戦闘に参加しているのか…クソ、間に合ってくれよ!」

 音の方向へと全力で駆ける。程なくして戦闘現場に到着して目に入ったのは…

「…ああ、あの動きを真似たのか」

 いつかベルに見せた技。武器はナイフのみ、動きは拙いし機動に身体を持ってかれている。それでもその特徴的な動きを見れば俺ならわかる。

「フリオーソ…」

 ミノタウロスの武器を弾き飛ばしながら背後に回る。刺突を腕で受けられたらすぐにナイフを引いて深追いしない。高速軌道で敵に狙いを定めさせずに攻め続ける。

「喰らええええ!」

 弾き飛ばした大剣を拾いミノタウロスの顔面目掛けて振り下ろす。ミノタウロスは角で受け止めたが…次の手を用意していたベルの方が早い。

「ファイアボルト!」

 ミノタウロスの目に短剣を突き刺し魔法を使う。一度だけでなく何度も、敵が倒れるまで連射する。

「ファイアボルトッ!ファイアボルトォ!」

 バゴンッと聞き慣れない音が響く。流石の俺でも生きている牛の頭蓋骨が内側から爆散する音は聞いたことがない。

 魔法の連射で力尽きたのか爆風に吹き飛ばされてきたベルを抱き止める。

「終わったか」

「…はい」

 そう返事だけして気絶する、おそらく魔力を使い切ったんだろう。ショットガンを持ったリリルカもこっちに駆け寄って来る。

「ローラン様!遅いですよ!こうなるってわかってたならすぐに助けに来てください!」

「無理言うなって。こんな事になってるなんて知らなかったし、『女神の戦車』にも妨害されてたし…」

「『女神の戦車』!?お前、あいつを相手に撒いてきたのか!?」

 横入りしてきた声の主の方を見ると…リヴェリアとロキファミリア幹部の面々だ。殆どは会った事はないが人相くらいは知っている。

「おう、奥の手を使う羽目にはなったけどなんとかな」

「ダンジョンという閉鎖空間で都市最速を撒ける奥の手ね…どんな手か教えて貰いたいな?」

 そう言いながらゆっくり歩いてきたのは小人族だ。ここで出てくるロキファミリアの小人族なんて一人しか知らない。

「あ〜、お前のことは知ってるけど一応名乗ってくれるか?」

「おっと、失礼した。ロキファミリア団長、フィン・ディムナだ」

「ヘスティアファミリアの平団員、ローランだ」

「お前のような平団員がいるか」

 リヴェリアのツッコミを黙殺してフィンの方を見る。う〜ん、食えない奴だな。

「君がローランか…話したいことは山ほどあるけど、僕達も遠征の途中なんだ。後の事は任せても大丈夫かい?」

「ああ、俺が責任持ってこいつらを地上に送る。見守ってくれてありがとな」

「『冒険』を邪魔するなんて僕達には出来ないさ…一つだけ聞くよ。彼は本当にレベル1なのかい」

「俺はそう聞いてるぞ。ヘスティアが出鱈目言ってなかったらレベル1の筈だ」

 レベル1冒険者がほぼ一人でミノタウロスを討伐するなんて、彼らには信じられないんだろう。

「そうか…きっと彼はランクアップを果たすだろうね。先んじて祝福と、礼を言おう。見せ物扱いになってしまうけれど、とても面白いものを見せてもらったよ」

「ベルにも伝えておくよ。『勇者』に褒められてたぞってな」

「ああ、頼んだ。さあ皆、戻ろう。」

 フィンの号令でロキファミリアの面々は踵を返していく。遠征途中と言っていたしそう長く離れる事はできないんだろう。

「よし、俺たちも帰るか。リリ」

「はい!」

 まったく、一ヶ月でこんな事になるなんて…先が思いやられるな。




〜ローランの異世界見聞録〜
なんか一気に大ごとになってきた感があるなぁ。だってオラリオ二大派閥がベルにガッツリ関与してるんだろ?ロキファミリアはともかく、フレイヤファミリアはヤバい。俺の手には負えない。何か手を打たなきゃな。
ミノタウロスは人型に近いから比較的戦いやすい方だ、基本力押しだしな。とはいえ普通のレベル1でなんとかできるレベルでは無い。俺の見立てでもランクアップは確実だろうなぁ。
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