ダンジョンに黒い沈黙を向かわせたのは間違いではないはず   作:ピグリツィア

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対フレイヤ会議

 ベルとリリルカをバベルの治療施設に預けてから、俺はヘスティアに事の顛末を報告する。

「…ごめん、もう一回言って?」

「だからベルがミノタウロス討伐したけどそこそこ怪我してるからバベルの治療施設に預けて来たんだって」

「何があったらそんなことになるんだよ…というか!ローラン君も何やってるんだい!そういう事になった時のために向かわせたんだぜ!?」

 ぐうの音も出ない正論だ、今回は俺の実力不足が招いた結果だろう。

「『女神の戦車』さえ居なかったらなぁ」

「『女神の戦車』?」

「ほら、あれだよ。フレイヤファミリアの。都市最速」

「都市最速」

 ヘスティアはうーんうーんと唸ってから、首を傾げて俺を見る。

「ローラン君、君はここを出てから何があったんだい?」

「そのままベルを追いかけてダンジョンに向かったんだよ。そしたら『女神の戦車』が邪魔してきてさ」

「都市最速が?」

「都市最速が」

「マジで?」

「マジで」

 そんな事確認しなくても嘘じゃないってわかるだろうに。現実逃避も程々にして欲しいもんだな。

「それってさ…フレイヤの所と敵対したって…コト!?」

「多分そう、部分的にそう」

「わァ…あ…」

 泣いちゃった!俺も泣きたい位には理不尽な状態ではあるけども。

「遺書書いてくる…ベル君のことはへファイストスに任せよう…」

「諦めるなって、とりあえず出来る事はしてみようぜ?」

「ローラン君…!」

 殺しに来てたわけじゃないし見極めるなんて事も言ってたからすぐに潰される事はない…はず。

「いざとなったら俺は古巣に戻るけどな」

「ローラン君…」

 流石に本気になったアレンには勝てないし、オッタルなんて夢のまた夢だろ。

「それは置いといて、この後の事だけど…ベルに何かしらの変化があると思うんだよな」

「変化?」

「因縁あるミノタウロスを倒したんだ、何かしらの心境的な変化があってもおかしくないだろ?それこそランクアップとかな」

 もしくはスキルが生えてくるか。少なくともランクアップはしてると思うんだけど…リリルカが銃で援護してたからもしかしたらランクアップ出来ない可能性もあるかもしれない。

「確かにレベル1がミノタウロスを倒すってのは十分な偉業だね…これはもしかしたらもしかするかもしれないぞ!」

 キャッキャとはしゃぐヘスティアを尻目にベルの倒したミノタウロスの角を眺める。普通の個体とは違った色合いだな、つまりは変異種って事だ。

 明らかに人工物の大剣を持った変異種のミノタウロスが偶然ベルを襲う…なんて事は無いだろう。アレンがあのタイミングで妨害しに来たならフレイヤファミリア辺りが一枚噛んでいるのは間違いない筈だ。

「なんだってこんな事になるんだか…こうなったらしばらくはリリルカに銃を持たせておくか」

 中層の雑魚ならどんな相手でも効果はあるだろう。流石にインファントドラゴンとかゴライアスになると効果は薄いだろうけどな。

 

 浮き足立っているヘスティアを背に紅茶を淹れる。安物の茶葉でも淹れ方によって味が変わる、ビナーもそう言ってた。

「そういえば、まさかあの訓練が本当に必要になるなんてねぇ」

「うん?なんの事だ?」

「アレだよ、ベル君をマジで殺しに行ったアレ」

 アレかぁ…ヘスティアに大真面目に説教された奴だ、ベルに本気の殺気を向けた奴。

「あの時は本気で「何やってんのこの子!?」ってなったもんだよ…本気でベル君を殺すんじゃないかと」

「なんの理由もなしに殺さないよ、俺をなんだと思ってるんだ」

「環境が生んだ悲しき殺戮マシーンだね、アテナやゼウスでもあんな殺気は滅多に出さないよ」

 なんだそれ、って思ったけどこの世界の住人に言われたら否定できないのが悲しいな。

「あの殺気は全盛期のロキとかゼウスが出す奴だもん。神々の殺し合い全盛期のヤツ」

 ずいぶんと高く評価されてるみたいだ。喜べば良いのか悲しめば良いのか。ヘスティアの前に紅茶を置いて俺も席に着く。

「アレを経験したらミノタウロスの威圧感なんて屁でもないだろうね!なんならゴライアス相手でも立ち上がれると思うよ!」

「そんなこと言われて俺はどうリアクションしたら良いんだ」

「…まあ、戦いに携わる者として誇りに思っても良いんじゃないかな?」

 目を合わせて言ってくれ。視線をあっちこっちに飛ばしながら言っても説得力のかけらもないぞ。

「それでも僕は認めないからな!同じ訓練をするにしてももっと段階を踏んでくれよ?次やったらボクも容赦しないからな!」

「わかってるって、次は加減するから」

 相当根に持ってるなぁ、無理もないんだろうけどさ。この調子じゃ『(規制済み)』を見せる事は出来なさそうだな。

「なんか変なこと考えてないかい?恋する女神レーダーがすっごい反応してるんだけど」

「気のせいだぞ、気のせい」

 ヘスティアのツインテールがうにょうにょと俺の方へ反応している。それは神の力の内に入らないのか。

「次からはボクに相談してからやってくれよ?ああいう訓練は」

「でもヘスティアは絶対に反対するだろ?」

「あ・た・り・ま・え・だ・ろ!本当に反省してるかい君ィ!?」

 反省はしているが後悔はしていない。現にこうやって成果はあったんだからな。

「その顔は「反省はしている。後悔はしてない」って顔だなぁ!ヘラに不倫がバレた時のゼウスと同じ顔しているぞ!」

「なんだその不名誉すぎる例え!?」

 

 とりあえず人前で話せない会話は済ませたし、ヘスティアと一緒にベルを迎えに行く。何時の間にか夕暮れ時になってたのか。

「べ〜るく〜ん!よく頑張ったねぇ!怖かっただろう!ボクの胸の中で思う存分思いをぶちまけるが良いさ!」

「神様、恥ずかしいですからそんなにくっつかないでください!ローランさんが生温い目でこっち見てますから!」

「大丈夫だ、俺のことは気にせず存分に乳繰り合ってくれ」

 色々忙しかったしな、人肌恋しくなる事もあるだろう。俺は何も言わん。

「ほ〜れ、あっつ〜いヴェーゼを!ン〜!」

「ちょ、ローランさん!助けてください!?」

「ヘスティアもすごく心配してたからな、大人しく色々な物の捌け口になってくれ」

 なんというか、ヘスティアって異様に押しが強いよな。童貞臭いというかなんというか…色々と拗らせているからかな。流石は何万年も純潔を守ってきただけはあるな。

「…ローラン君、さてはとてつもなく失礼な事を考えてるな?」

「なんの事だかわかりませんね」

「がっつり嘘をついてるんじゃない!」

 ヘスティアに脛を蹴られるがこれでダメージを負うほど俺も柔ではない。遠慮なく失礼な事を考えさせてもらうぞ。

「ベル君!睾丸だ!ローラン君の睾丸を攻撃して神の怒りを思い知らせてやれ!」

「無理無理無理無理です神様!返り討ちに合いますから!今回の怪我より酷い目に遭わされますから!」

「ムッキィ〜!覚えてろよローラン君!何時かベル君がボクに代わって裁きを下すからなぁ!」

 その時が来るのを楽しみに待たせてもらうか。ベルなら出来るかもしれないな。

 

「ふう、ふう…で、ベル君はもう家に帰れるのかい?」

「経過を見るために一日入院するらしいです…今日のご飯は二人で済ませてください」

 流石にミノタウロスと戦ってその日の内に解放とは行かなかったみたいだ。そりゃそうか、ベルはまだレベル1だもんな。

「しょうがないか…それじゃまた明日迎えに来るぜ!」

「じゃあなベル、大人しくしてるんだぞ?何かあったら大声を出しながらホームまで戻ってくるんだぞ」

「は、はい…」

 絶対に何かある気がする。ここ最近事件が起きすぎじゃないか?

「やっぱり晩御飯食べたら寝ずの番をするか」

「流石に申し訳ないですから寝てください…」

 本当に大丈夫かなぁ。次はオッタル襲来とか起きるんじゃないか?

「ベル君なら大丈夫だって!多分、きっと…そうであってくれ…頼む!」

「まあ流石にバベルでやらかすアホはいないと信じるか」

 街中でシルバーバックには追いかけられたけどな…ダメだ、考えれば考えるほど不安な要素しか出てこない。

 

 後ろ髪を引かれる気持ちを振り切ってベルと別れる。本当に何もなければ良いんだけどなぁ。

「気持ちはわかるぜローラン君、ここ最近は色々と忙しいよね」

「だよなぁ、この世界だとこんなものなのかなって思ったけどやっぱ色々起き過ぎだよな?」

 都市でももうちょっと…いや、ベースがおかしいだけだわ。殺人が日常茶飯事な都市と比べるのはオラリオに失礼だな。

「とにかくフレイヤファミリアの対策を考えないとだな」

「…もし、ベル君がランクアップしたら、神会で何か出来るかもしれない」

「神会?」

 どっかで見たな…確か神の集会だ。定期的にやっている事は知っている。

「神会では新たにランクアップした子の二つ名を決めるんだ。もしフレイヤがベル君に興味があるなら」

「ベルの二つ名を決める場に来るってことか」

 確かにそこでフレイヤ本人と会話できるのは大きい。大きいが…

「ヘスティアが話すのかぁ」

「な、なんだいその目は!」

「大丈夫かなぁ」

 ヘスティアは単純で抜けてるところがあるからなぁ…一人で相対するにはかなり不安があるな。

「信じてくれよぉ!そりゃローラン君に比べたらちょっと心許ないかもしれないけどさ?へファイストスも誘うからぁ!」

「なら大丈夫か」

「ちょっと!へファイストスの名前を出した瞬間に安心するのはどうかと思うんだけど!」

 へファイストスなら謀が得意じゃなくても露骨な誘導には惑わされないだろう。これで一安心だな。

「くっそ〜、納得いかないぞ。そりゃへファイストスと比べたらボクもちょっと抜けてるところがあるかもしれないけどさ…」

「とりあえずベルがランクアップしない限りはその手も打てないからな。とりあえず明日を待とうか」

「それもそうだね、よ〜し、何かいい物食べに行っちゃおうぜ!ローラン君もお金はいっぱい持ってるだろう?」

「まぁまぁかな、でも今日は疲れたし奮発するか」

 ベルの慰労は今度リリルカと一緒にやれば良いだろう。




〜ローランの異世界見聞録〜
ミノタウロス変異種か、変異種っていうのは魔石を食べたモンスターがなるらしいからやろうと思えば意図的に産み出すことも出来るだろうな。
大方オッタルベルにぶつけるために育てたんだろう。最近上層に滞在していたらしいし。
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