ダンジョンに黒い沈黙を向かわせたのは間違いではないはず 作:ピグリツィア
廃教会の地下にいた何か、『ベルくん』とやらを求めていたな。もしかしてこの少年のことか?
とりあえず少年が起きてくれなきゃ話が進まない。とは言え怪我人を強引に叩き起こすのもな…
「地図を見た感じヘスティアファミリアのホームとやらはここであってそうだな…もしかしてアレがヘスティアか?」
ファミリアを協会や事務所の様な物だと思っていたが、もしかしたら図書館の方が近いのかも知れない。人外をトップに置く組織か…都市伝説級の何かじゃないか?
「うう…あれ、ここは…?」
俺がこの世界の組織について考えている内に少年が目覚めた様だ。これで情報が集められる。
「起きたか、大丈夫か?」
「え?は、はい。少し傷が痛みますけど…特に問題はありません」
とりあえず意識ははっきりしている様だ。これなら問題ないだろう。
「まず君の名前を聞いて良いか?」
「はい、ベル・クラネルです…僕ダンジョンにいたと思うんですけど…」
「あーベルで良いかな、そうだ、ダンジョンで倒れていた君を見つけてギルドまで運んだ後、君のホームの場所を聞いてここまで来たんだけど…」
本当にここであっているのかなぁ、ベルくんがこの子なのは良いとしても正直アレの前に出すのは少し気が引けるな…
「え?あ、ほんとだ、ここであってますよ」
どうやらこの廃教会がベルのホームらしい。もしかしなくてもさっきのアレがヘスティアだったのかも知れない。
「あ〜、もしかしてだけどさ、白い服着た巨乳で黒髪ツインテールのちっちゃい子がヘスティアだったりする?」
「はい、僕の神様です」
どうやらアレがベルの神だったらしい。随分とジメジメした雰囲気を纏っていたから何かしらの良く無い物かと思ってしまった。
「マジかぁ…とりあえず入るか」
「か、神様…ただいま戻り」
「ベルくん!?ベルくんかい!?」
ベルがそっと扉を開けて中に入るとすぐさまヘスティアがすっ飛んでくる。
「こんな時間までどこに行ってたんだい!こんなボロボロになって!もしかして…ダンジョンに?」
「はい…」
俺の存在は忘れられている様だ。そもそも眼中にないと言うべきか。
「それで…この人に助けてもらったんです」
「この人…?うわあ!すまない!気づいてなかったよ!」
「あ〜、うん、大丈夫です」
本当に眼中になかったらしい。気配を殺しているわけでもないのに見落とされるとはさすが考えてなかったな。
「ベルくんを助けてくれてありがとう!こんな何もないファミリアだから大したお礼もできないけど…君の名前は?」
「ローランだ、しがない元九級フィクサーだ」
「フィクサー?なんだいそれ?」
オーケー、やはりフィクサー協会は無さそうだ。
「とりあえずベルくんはシャワーを浴びておいで。いつまでもそんな格好じゃ病気になっちゃうからね。その間僕はローランくんと話をしているから」
「わかりました…」
どうやら気を使って話の場を設けてくれる様だ。こちらの事情を察していてもおかしくないが…どう出るかな。
「さて、今回はベルくんを助けてくれてありがとう。君はどこのファミリアの所属なんだい?」
やっぱりファミリアか…とりあえずでっちあげてみるか。
「あ〜、俺はチャールズファミリアって所に…」
「…?何故そこで嘘をつくんだい?」
ああ、そう言う系か、嘘は通じないと来たか。不味いな。
「ああ、嘘は通じないんだな」
「…どうやらかなりの訳ありの様だね?一応教えておくと神は人間の嘘を見破れるよ?誰でも知ってると思ってたんだけどな」
マジか…こっちでは神が嘘を見破れるのは常識らしい。問題はここでどこまでの情報を渡すべきかだな。
「君は何者なんだい?所属ファミリアをすぐに答えられないと言うことは…闇派閥ではなくとも、それに近しい何かかな?」
そしてだんまりはもっとよろしくない様だ。明らかに不味い雰囲気だな。
「闇派閥っていうのがどんなものか知らないけど、俺はファミリアってのには所属してないよ」
「…あれ?ダンジョンでベルくんを助けたんだよね?」
やはりダンジョンに入るのはファミリアに所属していることが前提らしい…これは厄介な事になってきたな…
「ああ、そうだ」
「え?じゃあ恩恵はどうしてるの?」
また新しい用語か。おそらくファミリアに所属して恩恵とやらを貰っているのがダンジョンに入る前提なんだろう。
「そんな物ない」
「…嘘だろう?いや、嘘じゃないのはわかるんだけど…ベルくんを何層で助けたのかわかるかい?」
「ベルを拾ってからギルドまで六回階層を上がっているから六層かな」
ヘスティアが驚愕で目を丸くさせる。ああ、どうやら明らかな異物とわかったらしい。
「き、君は何者なんだい?」
この世界の情報がなさすぎるからなんと言えば良いか…悪人ではなさそうだし、貸しを作っていることだしここを拠点にするか?
「…よし、ここからは絶対に他言無用だぞ?」
ヘスティアがブンブンと首を縦に振る。
「俺は異世界から来た。人探しでな」
…リアクションがないがおそらく今の言葉を処理しているんだろう。あまりにも現実離れしているからな。
「………ええええええええええ!!!!?」
バカみたいな大声で驚愕の声を上げる。ほれ見ろ、シャワー室からどったんばったんと音がしてくるぞ。
「な、何があったんですか神様!」
「べ、ベルく、わきゃあああああ!」
ヘスティアはベルくんのベルくんを見て真っ赤になって顔を隠す。神なのに初心なのかよ。
「どうしたんですか神様!」
「あーベルくん?とりあえず何か着たらどうだ?」
「え?………わあああああああ!?」
もうてんやわんや、真面目な話をしていたはずなのにおふざけみたいな空気になってしまった。どうしようかこれ。助けてアンジェリカ。
「た、大変失礼しました…」
「ごめんよローランくん、なんかぐだぐだになってしまって…」
「別に良いよ、とりあえず話を進めようか?」
ベルは大慌てで浴室まで戻って服を着てきた。ヘスティアはまだ顔が真っ赤だ。それでも神か。
「とはいえ少し夜更かししすぎたね、一回寝ないかい?」
確かにベルを運んできた時には既に日が沈んでいたな。しばらく話し込んだしベルも疲労で倒れているから…
「そうだな、特にベルは休んだ方がいい。一回倒れてるんだしな」
「はい、そうします…」
ベルはまだベルくんを見られたことを引きずっているらしい。無理もないか。
「ローランくんはどうするんだい?」
「とりあえず床で寝るかな」
「流石に恩人を床で寝かせるのはちょっと…でも怪我しているベルくんはベッドに寝かせたいし…そうだ!僕とベルくんが一緒にベッドで寝るからソファを使っておくれ!床よりはマシだと思うし」
なんか邪な思考を感じるが…気にしないでおこう。流石に赤の他人が寝ている横でおっ始めないとは思うし。
「すみません、気を使わせちゃって」
「別に良いよ、ソファで寝るのも慣れてるしな」
なんか無駄に疲れたしな。一回仕切り直しも兼ねて寝るとするか。
そこそこ寝たが何かの物音で目を覚す。ベッドの方か?
「まさかマジでおっ始めた訳じゃないよな」
そっと寝室の中を覗く…ベルが上半身を脱いでヘスティアに背中を向けている。その背中には見たこともない文字が書かれている。
ヘスティアが背中に手をかざす…血か。おそらく血を与える事が目的なのか?
背中に血が触れたからか波紋が広がる。ヘスティアがベルの背中ををなぞると、書かれている文字が変わっていく。
(これが恩恵か?後で解読できないか試してみるか)
変化前の文字と変化後の文字を記憶して観察を続ける。ヘスティアはゆっくり文字を読み進めて…ある場所で指を止めた。
(重要な事が書かれているのか?少なくとも何かしらありそうだな)
その後はヘスティアが紙に何かを書いてベルに渡す。背中の文字を写したんだろう。
(後で報告しなきゃな…あっちの研究者たちならすぐに解読できそうだしな)
何かを話し込んでいるが俺に気を使ってるのか小声で聞き取れない。一回ソファに戻るか。
ソファで横になっていると、ヘスティアが部屋に入ってきたようだ。
「ローランくん、起きてるかい?」
「ん?さっき起きたところだ」
大きなあくびをしてソファから起き上がる
「とりあえずご飯にしようか、今日は用事があるからあまり長くは話せないけど、出来るだけ教えられることは教えておくよ」
「ベルには話したのか?」
ヘスティアが首を横に振る。ベルに話すかは保留にしておこう。情報を集めてからでも問題はないはずだ。
「あ!ローランさん!昨日はありがとうございました!」
「いや、大事なさそうで安心したよ。あまり無茶はするもんじゃないぞ?」
「すみませんでした…」
反省はしている様だ。昨日何故あんなふうに向こう見ずな戦い方をしていたのかは聞かないでおくか。
「あ〜、これは…」
目の前には実に質素な食事が並ぶ。揚げ物の山以外はまあこんなところに住んでいるんだし予想できない物でもなかったな。
「えへへ、まだ弱小ファミリアだからこんな食事しか出せないんだけど、いつかファミリアを大きくして贅沢な食事をお腹いっぱい食べられる様にするのさ!」
「神様!僕も頑張ります!」
「金出そうかって言おうと思ったけど俺も碌なもの持ってないからなぁ…」
持っている食料は保存食の類だし、金目のものなんて持ってない。俺もこの世界では素寒貧だ。
「では、いただきまーす!」
「いただきます!」
「お、おう。いただきます」
とりあえず食事にしよう。美味いなこれ。
「この揚げ物うまいな、後で作り方教えてくれ」
「じゃが丸くんかい?いいとも!」
じゃが丸くんに舌鼓を打ちつつ、情報を集めるべく話しかける。
「そう言えば昨日さ、俺以外にベルを助けにきた子がいたんだよな」
「へえ!どんな子なんだい?」
「金髪の強い女の子で、確かアイズって名前だ。ロキファミリアだって」
ベルとヘスティアが口に含んでいたものを吹き出す。汚いなぁ。
「あ、アイズさんが!?」
「ロキのとこのヴァレン何某が!?」
こいつらは芸人か何かか。いちいちリアクションが大きいぞ。
「ど、どうしよう、また助けられちゃった…」
「ぐぬぬ…またヴァレン何某か…」
二人の反応は違ったものだ。ベルは羞恥心、ヘスティアは怒りか?どうやら知り合いの様だ。
「アイズって何者なんだよ。口振りから察するに相当な有名人だった様だけど」
「オラリオの一級冒険者さ…憎っくきロキファミリアに所属しているね!」
「前にも一回僕を助けてくれたことがあって、その時のお礼も言えてないのでいつかお礼しに行こうと思ってたんですけど…」
一級冒険者…つまりすごい強いってことか?フィクサー基準で考えたら相当の手練れだけど、この世界の基準がわからないからな。もしかしたらあのレベルが掃除屋くらいうじゃうじゃいるかもしれないし。
「う〜ん、そんな有名人にポンポン会えるとは思えないしなぁ。でも知り合いが恩人にお礼を言えなかった事をずっと引きずっていたのも知っているし、早めにお礼を言えるといいな」
「はい!その為にも一刻も早く強くならないとですね!」
やる気があるのはいいが…いや、まだこの世界について何も知らない、口出しはしないでおこう。
食事も終わり、ベルはダンジョンへ出る準備を始める。
「じゃあベルくん!くれぐれも気をつけてくれよ?」
「はい!ローランさんもありがとうございました!」
「おう、あまり無理はするなよ」
何がベルをそこまで駆り立てるのかはわからないが、本人がしたくてしているなら横から口を挟む気もない。精々死なないでほしいなぁ、程度だ。
「では行ってきます!」
「行ってらっしゃ〜い!」
「お〜う」
さてと、ベルも見送ったしそろそろ大人同士の秘密の会話といきますかね。
〜ローランの異世界見聞録〜
廃教会の幽霊の正体は女神だった。正直神っていうのは碌でも無い物しか居ないイメージだったんだけど、こっちの世界だと随分と俗物的というか何と言うか…人間と感性は大差なさそうだな。
どうやらベルやアイズみたいな身体能力は恩恵と呼ばれる物の力の様だ。すっごい胡散臭いな。最終的に化け物になったりしない?大丈夫なのか?とりあえずヘスティアから情報を集めることにしよう。