ダンジョンに黒い沈黙を向かわせたのは間違いではないはず 作:ピグリツィア
二人でベルを見送り、改めてヘスティアと向き合う。
「さて、悪いけど僕は用事があって今日の夜からしばらくの間ここを留守にする予定だから、手早く行こう」
「オーケーだ、俺もその方がやりやすいしな」
ベルが出た後、俺はこの世界の情報を手に入れる為、ヘスティアは俺の正体について知る為に話し合いをする。
「確か君は異世界人なんだっけ?どうやって来たのさ。そう簡単に異世界間を行き来出来るとは思えないけど」
「俺の知り合いにそういうのが得意な奴がいてな。仕事のために送ってもらった」
そういうのが得意と言うよりは大抵の事はなんでもできるだけな気もするが、細かいことは今はいい。
「仕事?何かしら目的があるのかい?」
「ああ、本探し…いや人探しか?」
「なんだい、随分と曖昧だね」
元は本だから本探しだけど、恐らくは赤い霧の姿でいると思うから人探しか?
「こう、赤髪で結構ガタイのいい女なんだけど知らない?」
「う〜ん、オラリオにはいろんな人がいるからねぇ、その情報だけじゃ流石にわからないな」
まあそうだろうな。期待はしていなかった。EGO発現なんて相応の相手と戦闘する時にしか使わないだろうし…そうだ。
「なんか、肉塊に大きな目玉が幾つか付いた剣を持っていると思う」
「ええ…そんな剣を持っている様な子見かけたら絶対に忘れないよ、というかすぐにガネーシャファミリアにお世話になりそうだよ」
これもハズレか。持っていないのか単純に見かけていないのかは分からないが…
「それじゃあこっちから質問するけど、君はどれくらい強いんだい?恩恵なしで六層から戻ってくるって、戦闘はヴァレン某に任せっきりだったとか?」
う〜ん、この世界で例える方法がわからないなあ。
「とりあえずベルよりは強いよ。それは間違いない。アイズ相手だと…勝ち目は無くは無いくらい?」
純粋な戦闘能力だけなら少なくとも赤い霧よりは楽に戦えるだろう。
「とんでもない強さじゃないか。彼女ってロキファミリアの幹部だぜ?そこらのレベル2や3に恩恵無しで勝てる可能性があるってだけでこの世界では常識外なんだけどなぁ」
流石にこの世界でも上の方らしい。これでクソ雑魚とか一般人未満とか言われたら速攻で帰る予定だったんだが…仕方ない。真面目に仕事をするとしよう。
いくつかこの世界の重要な情報について聞いて紙に書き記す。恩恵っていうのが特異点クラスの物になりそうだな。
「異世界人かぁ…う〜ん、どうしよっかなぁ」
「何を悩んでいるんだ?あまり隠し事はしないでもらいたいんだけど」
今はどんな情報でも欲しいからな。多分ヘスティアはあまり悪いことを考えられる様な性格じゃなさそうだけど。
「ああ、君を僕のファミリアに勧誘しようかどうしようかなーって」
「ファミリアか…それって恩恵受けなきゃダメなのか?」
「事務員として恩恵無しでファミリアに雇われている様な子もいるとは思うけど…」
「まあこのファミリアにはまだ必要なさそうだもんな」
そっち系の仕事も得意分野ではあるが二人だけのファミリアで雇う必要があるかと言われると…まあ無いな。
「かと言ってダンジョンに潜るには恩恵が必要だし…どうしようかなって」
「う〜ん、それなら一回保留にしてもらえるか?仲間と相談してみるよ」
「仲間と一緒に来ているのかい?」
「いや、元の世界とやりとりを出来る様にする封筒を貰っているんだ。これで手紙を出せば相談できる」
もっと楽な連絡手段があればいいんだけどな。まあアンジェラとビナーの二人でこの手段を選んだのならこれが最善なんだろう。
「へえ〜、面白いものを持っているんだね。わかった、とりあえず明日明後日は不在にすると思うからそれまでに決められたら教えておくれ」
「でもその間はどうするかな。とりあえず携帯食料で凌ぐか」
あまり気は進まないが今更数日の野宿程度で根を上げるほど柔じゃ無いからな。
「水臭いなぁ、ここに泊まってもらって構わないぜ?僕がいない間はベルくんの面倒を見てやってくれ。明日の怪物祭とかも僕の代わりに回ってくれてもいいよ!」
一緒に回りたかったけどね…と寂しそうにしているが、用事があるから無理なのか。確かにベルと外を散策するのもありだろう。
「まあ当てもないしお言葉に甘えようかな。ベルにちょっと戦闘訓練をつけるのも良いかもしれないし」
「それは良いね!なんせベルくんが初めての眷属で先輩から戦闘方法を学ぶなんてことも出来なかったから、そういうのを教えてくれるのは凄い助かるよ!」
ああ、だからあんな無茶苦茶な戦い方だったのか。戦闘のせの字も知らない訳だ。
ひとまず恩恵についての情報を中心にこの世界のことを教えてもらえた。ヘスティア様様だ。
「じゃあ僕は今日の準備があるから出かけるけど、君はどうする?」
「土地勘もないしとりあえず今日は手紙を書いておくかな。結構な量書きそうだし」
「わかったよ、ベルくんが帰ってきたらよろしく言っておいてくれ」
「了解だ、気をつけろよ〜」
ヘスティアを見送って鞄から手紙と便箋を出す。
「なんかあの二人なら今も俺のことを見てそうな気もするけどとりあえず手紙は書いておくか」
ダンジョンのモンスター、ファミリアと神、そして恩恵。どれか一つを取っても革新的な情報だろう。
特に恩恵はヤバそうだな。子供でも凄まじい力を手に入れられるなんて夢の様な技術だな。相応の対価か何かが必要そうだが。
神と敵対した時に勝てるかどうかは…正直全くわからない。相手の実力の底が知れない、身体能力は一般人並みっぽいんだけどな。
そしてダンジョン、これはもう全くもってわからない。殺せる幻想体みたいなのがうじゃうじゃいる感じだ。なんというか、初心者向けの遺跡か?自分で言っておいてなんだがよくわからない例えだな。
「そんでここから赤い霧を探すのか…俺でも強い方なら赤い霧ならすぐに見つかりそうだな」
伊達に伝説のフィクサーではないのだ。しかも強化されてるし。ここで居候してるだけで情報が入ってくるんじゃないか?
「よし、とりあえず恩恵についても聞いただけの情報は書いたし、多分これで大丈夫だろう」
これで封をすれば…おお、消えた。これで大丈夫なのか?
「とりあえず果報は寝て待つかぁ」
ソファで寝るか。何もやることないし。
〜ローランの異世界見聞録〜
いろいろ情報を得た。一気に纏めてしまおう。
まずはここ、オラリオについて。
ここは世界最大の都市らしい。ダンジョンを目当てに世界中から人々が集まって大きくなっていったらしい。
治安はかなり良いようだ。もしかしたら巣と同レベルかもしれない。少なくとも裏路地と比べるのは烏滸がましいな。殺人は違法だし、盗みも厳罰だ。人が毎日の様に死ぬなんてことはないらしい。死んだとしてもそれはダンジョンの中でモンスターにやられるか病死か老衰かと言った所らしい。老衰で死ねる?あっちじゃ考えられないな。
ここの世界の特異点とも言えるのはやはり神々の存在だろう。
人間に恩恵を与えることによって身体能力の向上や調律者の様に特殊な技術を自由に使える様になったりするらしい。相応の経験や素質が必要とは言えこれは夢の様な技術だな。
恩恵は神から授かる物らしい。生殺与奪の権を奪われたり、一定以上の眷属を集めたら化け物になったりはしないらしい。
基本的にはメリットばかりの様だ。一番メジャーな物だと身体能力の上昇か。魔法が使える様になったりもするらしい。これは特異点と遜色ない性能だな。
恩恵は更新する必要があるらしい。更新によって初めてステイタスが上がって多少の身体能力が向上する様だ。それ以外にも偉業を成すとレベルアップと呼ばれる現象が起こり、この場合大幅な身体能力の向上が見込めるとのこと。となるとアイズは相応のレベルということになるな。
やはり一番気になるのはダンジョンか、オラリオの冒険者は全員あそこの探索によって金やら力やら名誉やらを手に入れようとしているらしい。とりあえず目先の資金調達の手段になりそうだな。
幻想体もどきはモンスターというらしい。
俺が最初に見たのはゴブリンと教えてもらった。最弱なんだそうだ。
こいつらを倒した時に出る石ころが主な稼ぎになるようだ。あとはドロップアイテムと呼ばれる副産物だ。これはそのモンスター固有の素材らしい…EGO装備みたいなものか?これは大体の場合そのモンスターの魔石よりも高値で売れるらしい。とりあえず拾えたらラッキー程度に捉えるべきだろう。
ダンジョンの最下層は未だに踏破されておらず何があるかは不明らしい。数百年は後かもしれないとも言われている様だ。
他にも有益な情報はあったけどとりあえずここで一区切りしておこう。