ダンジョンに黒い沈黙を向かわせたのは間違いではないはず 作:ピグリツィア
結局ヘスティアが帰ってきたのは次の日、ベルと朝の訓練をしている時間だった。
「ただいまベルくんローランくん!君たちの愛しの主神が帰ってきたぜ!」
「神様!おかえりなさい!」
「おう、ずいぶん長く開けてたけど何してたんだ?」
俺の質問に対してヘスティアはふっふっふ〜と変な笑いを浮かべながらベルに近づく。
「実はね…ベルくんの武器を作ってもらいに行ってたのさ!」
「僕の武器!?」
「へ〜、どんなもんか見せてもらえるか?」
正直言ってヘスティアの武器を見る目は信用ならない気がする。荒事とかとは縁遠そうだし、そういう趣味を持っているような事もなさそうだ。これでもしなまくらを高額でつかまされていたらと思うと…まあその時は俺が改めて武器を探すか。
「もちろん構わないぜ!とは言えこれはベルくんの武器だからね、まずはベルくんに見てもらいたいな!」
「それでいいよ、別に急いでもいないしな」
ベルは差し出されたいかにも高級ですよといった装飾を施された小箱をゆっくりと開く。
「これが僕の…!」
俺にも見えるように箱から取り出したのはパッと見何の変哲もない短剣だ。漆黒の鞘からの抜き出した短剣の刀身も鞘と同じように漆黒。目測ではなまくらも良いところだが、刀身にびっしりと施された神聖文字を見るに恐らくは何かしらの能力を秘めたEGOみたいな武器なのかもしれない。
そう考えていると刀身が光り出す。それが収まると不思議なことに駆け出しが使う程度なら十分な程度の出来になっている。
「へえ、文字通りベルの短剣って訳だな」
「ああ!ボクの神友は凄いだろう?」
他人の手に渡った途端なまくらになる短剣か。確かにユニークな性能だ。とは言えそんなおもしろ機能程度でヘスティアがこんなドヤ顔をするとは思えない。つまり他の機能もあるということだろう。
「それで、他にはどんな機能があるんだ?」
「ふふ~ん、心して聞くが良い!なんとこのナイフはね…成長するんだ!」
成長…ただ単純にでかくなるって訳じゃ無さそうだ。なら切れ味がよくなるとかそういう方向だろうな。ベルは目を輝かせながら短剣をいじくり回している。
「それで、どうやったら強くなるんだ?ご飯をあげたりおしめを変えたりしてじっくり時間をかけて我が子のように育てれば良いのか?」
「武器にどんな機能を求めてるのさ、ベルくんが強くなれば一緒に強くなるぞ!凄いだろう!」
つまり今まで通りで良いってことだ、分かりやすくて良いな。
「どうだいベルくん!その様子だと気に入ってもらえたようだね!」
「はい!ありがとうございます神様!」
「とりあえず目下の目標はその武器を狼牙工房よりも良い武器にするところかな」
何の気なしにそんなことを言ったら、ヘスティアが勢いよくこっちに振り向く。
「…え?これより良いナイフ持ってるの?」
「ん?ああ、これだ」
そういえばヘスティアには見せたことがなかったか。手袋から狼牙工房を取り出す。
「おいおいおいおい!どっから取り出してんの!?それ手袋だよね!?」
「そうだけど…もしかして」
「そんな武器を収納できる手袋なんてボク知らないぞ!?」
ああ、やってしまった。普通に都市の感覚で手袋の能力を使ったのはまずかったかもしれない。
「そんなのヘルメスの所の子でもないと作れないと思うよ…ねえ、まだトンチキアイテム持ってたりしないよね?」
「あとは仮面くらいだよ…ほれ」
認識阻害の仮面を取り出して着けて見せる。これは余程のことがない限りは使う気もないが。
「あ〜、その程度なら…多分大丈夫?」
「よし、使うのは控えておくか」
少なくとも手袋は人前では絶対に使わないようにしよう。ちょっと世間知らずのベルを揶揄う程度だった物がずいぶんとデカい厄ネタになってしまった。
「やっぱりおかしいですよね!?そんな手袋からポンポン武器出てくるの!?」
「ポンポンってそんなに大量に収納してあるのかいローランくん!?」
見事にベルが火に油を注いだ。仕方がないからとりあえず主に使っている武器を全て取り出す。
「予想以上に多いし大きいよ…この大剣なんてローランくんより大きいじゃないか」
「魔法って謎技術があるからこれくらいなら普通かなって思ってたんだよ…」
正直この二人に当てられて脇が甘くなっていたのも否めない。この二人といるとなんか気が抜けるんだよな…。
「とりあえず当面の間は人前で使うのを自粛してくれ。こんなマジックアイテムを持っていると知られたらとんでもない騒動になるから…」
「肝に銘じておきます…それじゃあデュランダルだけ常に出しておくかぁ」
「あぁ…なんかへファイストスの所で土下座していた時よりも疲れたよ。主に精神的に」
ぐぅ〜っとヘスティアが伸びると背丈に似合わぬ豊かな双丘がたゆんっと揺れる。それを見たベルが顔を赤くして視線を逸らした。
「そういえばさ、ヘスティアって何歳なんだ?」
「おいおいローランくん、女性に歳をきくのはデリカシーってもんに欠けてるぜ?」
「いやさ、この間ベルくんのベルくんを見て顔を真っ赤にして絶叫してたから、もしかして神とか言いながら実は年齢は俺たちとそう変わらないのかなって」
デリカシーなんて物は知らん、とは言わないが相手が超常の存在だとそういうのも薄れるんだよなぁ。職業病だろう。
「…あー、うん。聞きたい事はわかったけど、やっぱりちょっと答えにくいかなって。少なくとも君のウン十倍は長生きしているはずだよ」
「神にも色々あるんだなぁ…」
「色々あるのさ、僕たちにもね…って事でベルくんのステイタス更新をしようか!その後はとうとうローランくんに恩恵を刻むぜ!」
「神様!今回は自信ありますよ!」
ベルが得意げに胸を張っている。まあ正気ではなかったとは言え格上のモンスターを倒したんだ、相応の経験にはなってるだろう。
「お?そんなにローランくんのしごきが厳しかったのかい?」
「それはもう…とんでもなかったです、死ぬ所でした」
ヘスティアに半目で見つめられる。生きてるし後に引く怪我もさせてないから大丈夫だろ。
「まあ目立った怪我もなさそうだし今回は不問としておくよ。でもあまり無茶苦茶しないでくれよ?」
「ダンジョンで死ぬよりはマシだろ?」
「…これは結構重症かもね」
「ですよね…」
この二人とんでもなく失礼だな。後悔先に立たずと言うし何を言われても手を抜く気はないが。
別室に行くのもなんだからと、地下室のリビング(実際は違うが便宜上こう呼ぶ)でステイタスの更新をすることになった。
「ほ〜う、面白いな」
「そうかい?下界の子供達でこれを読める子はかなり少ないんだけど、読めるかい?」
「いや全く」
ヘスティアが血を垂らすと波紋が広がり、文字を指でなぞればそれはどんどん描き変わっていく。見てるだけでも少し面白いな。
「…」
ヘスティアの顰めっ面を見るにどうやら面白くないことが書いてあるようだ。俺の視線に気付いたヘスティアは唇に人差し指を当てた。何も言うな、と言うことだろう。
「どうですか神様?」
「ああ、すごい成長したね。見違えるほどだよ…」
どうやら大躍進とも言える程の成長ぶりを見せたらしい。後で聞いてみるか。
ステイタスを背中の文字とは別の文字、一般人にもわかる共通語で紙に書き写していくが、どう見比べても明らかに文字の量が少なすぎる。
「ほら、これがベルくんのステイタスだよ。本当にすごい成長っぷりだよ」
ベルのステイタスはざっくりと、耐久がかなり低く俊敏は頭ひとつ抜けて高い。魔力は魔法が使えなければほとんど育てられないらしいので除外。力と器用も400を超えているので低くはなさそうだ。
「確かステイタスの最高は999だよな。それならこれはかなり良い数字なんじゃないか?」
「うん、そうだね」
いくつか疑問はあるが、とりあえず後にするか。
「今後は耐久を上げるためにも死なない程度にボコボコにするかぁ」
「やめてください死んでしまいます」
「そういうところだぞ、君」
耐久を上げるのに一番手っ取り早い方法だからな。痛いのが嫌なら死ぬ気で避けろ。
「じゃあ次はローランくん、かぁ…」
「なんだよそんな顔して」
さっきよりテンション低めだな、何かあったのか?
「いや、どんなトンチキスキルが出てくるのかなって…だって君アレだろ?」
言わんとしている事はわかる。確かに俺は色々と人生経験豊富だからな、規格外の何かが出てもおかしくないと言う事だ。
「正直好奇心よりも恐怖とかの方が勝っちゃうかな、僕のファミリアってマジで出来たてほやほやだからあまり変なのが出てくると…ね?」
「その時はその時、だろ?それともやめておくか?」
「その選択肢だけは無いよ、なんてったって君が入ってくれるって言ったんだから!どんな困難でもかかって来いってんだ!…でも手心は加えて欲しいかなぁって…」
最後のセリフで台無しだ、とは言えそれ程までに一杯一杯なんだろう。ベルのアレはどんな爆弾なんだろうか…。
「ええい!女神は度胸!ほら!背中見せて!」
色々と吹っ切れたようだ。それならばとヘスティアに背中を晒す。
背中に微かな液体の感触、その後に指で背中をなぞられていく。
「え?これって…」
「…」
なに!?何があったの!?ヘスティア何か言って!?ビビるんだけど!?
「なんと言うか、すごいね。うん、すごい」
「どう凄いんだ?」
「う〜ん…ベルくん、悪いけどかなりプライベートなところに突っ込んでるからローランくんと別室で話してくるよ。その間は…」
「わかりました!ダンジョンに行ってきますね!」
そう言うや否や速攻で準備を終わらせて出ていってしまった。アレは武器を一刻も早く使ってみたいと言うのもあったのだろうが…気を使わせちゃったかもな。
ローラン
Lv:1
力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
《魔法》
《スキル》
【黒い沈黙(継承)】
・戦闘中に使用した武器数に応じてステイタス上昇
・武器を切り替えた時、極短時間の間ステイタス大幅上昇。この効果は累積する
【EGO適正】
・EGO装備の使用時、負担軽減
【オルランドの歌】
・敵が多い程ステイタス上昇
・敵の数が味方より多い程ステイタス上昇
【消えた天使】
・感情が昂った時のみ発動可能
・発動時に黒い沈黙を無効化
【王冠の司書】
・図書館の能力を行使できる
・高位能力の行使には魔力が必要
「なんと言うかまぁ、すごいね。どんな経験を積んだらこんなにスキルが発現するんだい?」
「死線をくぐり続けたらかなぁ」
他の特色と戦ったり、都市の星を少数で倒したり…図書館での一連の出来事だけでもお釣りが来るな。
「レベルが上がらない代わりにスキルになったって考えれば…いやそうなるとやっぱりとんでもない経験をして来たって事になるよね…」
「まあ一応一級フィクサー…都市のフィクサーの中でもトップ層ではあったからな」
スキルをざっと確認したらヘスティアが手を叩く。
「まず先に総評から行こうか」
「おう、実際のところどんな感じだ?」
「ベルくんなんて比較にもならない。これ公表したらヤバい。もうオラリオ全部しっちゃかめっちゃか」
そこまで言うか。いやなんとなく察してはいたけど。
「恩恵なしでダンジョン潜れる時点で大概だけどスキル多すぎ。図書館って何?もうなんもわかんないよぉ!」
「図書館なら心当たりあるぞ」
もしかしなくてもアレだろう、アレ以外に心当たりないし。
「教えてくれ!今はどんな些細な情報でも欲しいんだよ!」
「俺が元いた世界で所属している組織だな。こっちの世界基準なら十分悪の組織だ」
「すっごい聞きたく無くなっちゃった!でも聞かなきゃダメなんだよなぁ!」
仕方がないだろう。あっちは街中で殺人なんて結構普通だったんだから。むしろ向こうにこっち基準でまともな施設があるなら教えて欲しいな。
ひとまず図書館の仕組み、本の集め方、幻想体についてをざっくりと教える。
ヘスティアの反応は…こう、察してくれ。
「地獄かな?いや普通に地獄よりキツい気がするぞ?」
「とにかく、俺が探している人は図書館の不手際でここに流れ着いて、俺はそいつを探しているって訳なんだ」
「見つけたら殺すとか言わないよね…?」
「正直まったくわからん。何も言わずに連れ戻されてくれるならそれで良いし、抵抗されたとしてもこっちに居て問題なさそうならアンジェラ…図書館の館長だな、そいつと相談してから処遇を決める感じだからな」
向こうに深刻な悪影響があったら穏便には済ませられないだろうし…とりあえず見つけてから考えよう。
「う〜ん…まぁそこら辺はおいおい考えようか。それで、具体的にどんな事が出来そうっていうのはわかるかい?」
「さっきからなんか出ないか試してるけどうんともすんとも言わないな」
「魔力が足りないのかな?でも魔法は魔力が足りなくても出そうと思えば出た筈だしなぁ…」
「とりあえず後回しにするか…黒い沈黙も普段使いは難しそうだな」
「あの手袋を使えば効果的に使えそうだけど…アレを人前で使うのはねぇ」
マジでなんも使えなくね?他のスキルは条件厳しかったり戦闘にほとんど影響しないし…
「数が多いだけじゃねえか!クッソ!無駄に精神ダメージ負っただけじゃねえか!」
「あはは…気持ちはわかるよ」
「そんでさ、これベルにどう説明するよ。折れる事は無いにしてもあまり良い影響は無さそうだけど」
「そうだねぇ…出来ればベルくんには隠し事はしたくないんだけどね」
これを丸々見せたら訓練やダンジョン探索にも影響しそうだしな…全部隠すってのもアレだし…
「どうしようかコレ…」
「俺が聞きたいよ…」
二人して仲良く頭を抱える。本当にどうしたものか…
「そうだな、とりあえず黒い沈黙だけ教えて、その他はベルは隠し事が出来ないから伏せておくって言うか。どうせ使えないし」
「ぐう、ベルくんの擁護をしたいけど出来ない…しかたない、それで行こうか」
とりあえず直近の問題は対応出来そうだ。後は何とかして図書館の力を使えないか試すか。
〜ローランの異世界見聞録〜
スキルっていう物はその人の心境やら体質やらを表す物らしい。
EGO適正…俺は発現できるわけでもないし何時使うことになるやら。王冠の司書の効果で持って来れたりするか?
黒い沈黙は…正直色々思う所はあるけど、今度ベルにも話してみるか、本物の黒い沈黙の武勇伝。
オルランドの歌は良くわからないな。消えた天使、ノーコメント。今度ゆっくり考えよう。