ゴブリン騎士と農民姫   作:照喜名 是空

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村の防衛②戦と言えば火と血と鉄

◎戦と言えば火と鉄と血

 

<火だ!火をかけろ!>

 

先頭にいたゴブリンの一匹が大声で叫んだ。

 

「火だそうだ。たいまつがくるぞ。主よ、いかにする」

「コボルト術士さん、火種が全部落ちたら魔法で消火してください!」

「はーい」

 

テイマーたちは生け垣の輪であえて開けてある村の入り口部に立っていた。

大きな戸板に支柱をつけて地面に固定した大盾の後ろで、村の男たちとゴブリンを待ち構えるのだ。

 

「今見えるのは……ゴブリンライダーが23、シャーマンが1です!弓が撃てる方はシャーマンを狙って下さい!」

 

テイマーは目を瞑って叫ぶ。よく見えれば、テイマーの瞼の上にかすかな魔法の文字が光って見える。

この数日の内に彼女はフクロウと会話して協力者としていた。

契約魔法により、今のテイマーはフクロウの視界を得ることができるのだ。

 

「ライダーは手はず通りにここ、村の入り口で迎え撃ちます!柵が突破された時は遊撃隊の方は集団で頭を狙って殴って下さい!勝てる戦いです……村を守りましょう!」

「おう!俺たちの手で村を守るぞ!」

「おおー!」

 

そうして、村人達の鬨の声に呼応するように松明が投げ込まれた。

ほとんどは茨の生け垣に阻まれて落ちたが、わずか数個が屋根の上や街道上に落ちる。

 

<赤肌の武神よ、汝に戦火を捧げよう!我に戦果を与えたもう!汝の炎の舌に供物を!『火炎高揚』>

 

ごう、と松明の炎が爆発するような異様な勢いで炎を増して燃え広がる。

村人からわずかにどよめきがおきた。

 

「炎を煽る魔法だねー、打ち消すよー『偉大なる白銀の騎士神よ。暴れ狂う炎の災禍にあなたの鉄槌を『消火』』」

 

しかし、勢いを増した炎がまるで見えざる巨大な手でもみ消されたかのように一瞬で潰し消される。

村人から今度は歓喜のどよめきがおきる。

 

<バ、バカな!?わしの魔法が打ち消されただと!?おのれおのれ冒険者め!誰だ!不届きな魔法使いは誰だ!くそっ!『赤の蝋燭、燃える石炭袋、飛び散る火花!『鬼火』!>

 

ゴブリンシャーマンの杖の先から青白い球炎がゆらりと飛んでくる。

それに対し、コボルト術士は面白そうに鬼火をしばし見た後呪文を紡ぐ。

 

「へえーそういう炎魔法もあるんだねえ。すごいなあ『魔力は収束し、敵を狙う矢となる。我が意のままに飛んで行け『魔力の矢』」

 

コボルト術士の杖の先が青白く光り、秒も数えるほどで鏃の形にまとまって鬼火めがけて飛んでいく。

二つの魔法は相殺しあって派手な爆発音と共に火花となって夜空を彩った。

 

<おのれ、おのれ!おのれ!何を見ている!わしがこうやって引きつけているうちに行くのだライダーども!やれ!はやくやれ!>

<い、いやだ、いちばんにいったら死んでしまう>

<ええい!一番槍のものには『アレ』をやる!専用の女を与えてもいい!いいから行け!>

<お、おおう!アレか!アレのためなら俺はやってやるぞ!>

<へ、へへへ。女、女ぁ!>

 

褒美に乗せられてわずか五頭ばかりのライダーが応じた。

したたた、と足音を響かせて狼に乗ったゴブリンライダーがやってくる。

 

「来ます!ギリギリまで引きつけて石を投げて下さい!」

「おう!舐めるなよゴブリン共!」

 

石が、弓が、ゴブリンシャーマンとコボルト術士の魔法が。

双方からの攻撃が夜の空に飛び交う。

ゴブリンライダーは一人二人と倒され、やがて異様な目つきをした二体が残った。

 

<い、い、一番槍だぁああ!>

<そうか、あの世への先駆けだ。名誉に思え>

 

大盾まであとわずか、と言うところで盾の裏に隠れていたゴブリン騎士が影のように走り出た。

風のようにするりと走り抜けると、まず狼の足が斬れた。次にゴブリンライダーの首筋が斬れて派手に血を吹き出した。

あ、と思う間もなく、ゴブリン騎士の左手から放たれた鍵縄がもう一体のゴブリンライダーの肩に食い込み、痛みに顔をしかめる頃には飛び上がったゴブリン騎士により肩から心臓を突き刺されていた。

行きがけの駄賃に狼の首を撥ねて着地、急いで大盾に戻る。

 

「あんまり来ませんね……ゴブリン騎士さん、何か挑発を!」

「まかされた。<よい一番槍であった!褒美に目がくらんだだけの愚か者であったとしてもな!それで貴様らは何をしている!ぐるぐる回るだけか?そこのシャーマン!お前が大将首か?とてもそうは見えんな……群れの後ろにいる臆病者が!かかってこい!>」

<馬鹿者!ゴブリンの言葉を話しながら人に味方する、盾の後ろに隠れた愚か者はどいつだ!前に出るシャーマンがいるか!>

<し、しかしお頭……>

<くそっ、くそっくそっくそっ!よくない流れだ……こ、このままでは……>

 

そこにがさりと音がした。

思ったよりも近くだ。生け垣のすぐ後ろ……そこにいつの間にか黒い塊がいた。

 

<このままでは、何だ?余はこれでよいと作戦を命じた。『隠蔽』の術、ごくろうだったなゴブリンシャーマン。後は任せるが良い。行くぞ!来いゴブリン共!鬨の声を上げろ!良いか、戦の先駆けとはこういうものを言うのだ!>

<うおおお!>

 

ばきばきと音がして生け垣に穴が開く。そこから見えたのは熊に乗りまさかりを担いだ大型(ウォリアー)ゴブリンだった。

その穴からゴブリンライダーが次々に乗り込んでくる。

防衛線は突破されたのだ。

 

「う、嘘でしょ……なんで熊が!?いえ、狼を術で従えたということは、熊でも手なづけられるのかも……でも……」

「あるじよ、まよっているひまはない!私をあの大将首に!ガルムよ、背を貸してくれ!」

 

数秒考え、テイマーは賭けに出た。

 

「……わかりました、ガルム!お願い!」

「ガウッ!」

「かたじけない!」

 

大盾の後ろにいた妖精狼(ガルム)はゴブリン騎士の前に出る。

 

「乗りこなせますか?」

「乗りこなしてみせるとも……!ガルム。今は戦だ。わかるな。主を守るためだ。共に戦うぞ」

 

ゴブリン騎士が兜の奧から妖精狼(ガルム)に視線をぶつける。

ガルムもその視線に真っ向から目を合わせる。

何かが、通じた気がした。

 

「……ウォン!」

 

ガルムは一声なくと、ゴブリン騎士の前で背を向けた。乗れ、という意志が見えた。

 

「いくぞガルムよ!」

「ウォォン!」

「ゴブリン騎士さん!加護を!『従魔の加護・盾』!」

「かたじけない!」

 

ゴブリン騎士は颯爽とガルムに乗ると熊に乗った大型(ウォリアー)ゴブリンに向かっていく。

 

<今度はこちらの一番槍だ!>

<ほう、さっきの……貴様を倒せば士気も落ちよう。よかろう一騎打ちだ!一番に血祭りにあげてやる!>

 

熊がゆっくりと速度を上げて街道を突っ走る。対するゴブリン騎士も妖精狼(ガルム)の上でしかと剣を構えて不動の姿勢だ。

 

<死骸をさらせ!>

<首をもらう!>

 

斧が振り下ろされ、剣が()()()()と共に突き出される。

それは『溜め』攻撃による神秘の光だ。ゴブリン騎士はこの土壇場で妖精狼(ガルム)による騎乗突撃も、『溜め』攻撃も成功させてみせたのだ。

たぐいまれなる勝負強さである。

 

<バカな!>

 

ゴブリン騎士からすれば巨大とも言える斧はしかしゴブリン騎士に当たることなく、逆に突き出されたショートソードは大型(ウォリアー)ゴブリンの胸をえぐり、熊の上から落馬させた。

 

「ガルムよ!」

「ガウッ!」

 

ゴブリン騎士が体捌きでガルムに方向を指示する。

妖精狼(ガルム)は三角飛びで壁を蹴ってターンすると大型(ウォリアー)ゴブリンにトドメをさすべく向かう。

 

<チッ……肺をやられたか。もういい!撤退しろ!不愉快だ!>

<とどめだ!潔くされよ!>

 

地に伏せる大型(ウォリアー)ゴブリンにゴブリン騎士の一閃が決まる。

首筋に切れ目が走り、派手に血をぶちまけた。

 

「ガオオオ!」

「貴公もいたな!熊どの!ガルムよ!」

 

熊の爪はガルムの巧みな走りにより回避。さらにそこからゴブリン騎士の指示で屋根の上に飛び乗り、頭上からの攻撃をしかける。

 

「巨人殺し流……『兜割り』!」

 

()()()が流れ星のように落ちる。

まっすぐに、熊の頭骨にゴブリン騎士のショートソードが突き立った。

さらにゴブリン騎士はショートソードを軽くひねり、熊の脳を刻む。

どう、と熊が倒れた。

 

「敵将!討ち取ったり!」

「お、おおお!おらたちもやるぞ!ゴブリンの騎士に負けていられねえ!」

「おお!やってやる!」

 

方やコボルト術士とゴブリンシャーマンの魔法合戦も終盤を迎えていた。

 

<ぐっ……『雷精』!>

「それもできるんだねえ、じゃあ『魔力結晶の矢』」

 

幾度目かわからぬ魔法の相殺。ゴブリンシャーマンは今や完全に敗北を悟っていた。

これは、遊ばれている。あるいは、あえて時間稼ぎをされている。

どっちにしろ、相手の方が魔力量も魔法の運用も上。勝ち目がない……

 

<はあ、はあはあ……馬鹿な……わしは、あの方に術を習ったのだぞ……こんなところで……くそっ『酸の……>

「『魔力よ矢となり飛んでいけ。『魔力の速矢』」

 

そこに、ようやっと村人の投石がゴブリンシャーマンに届いた。

石は腹に当たり、その隙にコボルト術士の魔力の矢がゴブリンシャーマンの頭を吹き飛ばした。

そのとき、村人の松明の光がコボルト術士を照らし、死にゆくゴブリンシャーマンの目にも届いた。

 

<あ、相手は……コボルト、だったのか……そんな、馬鹿な……>

「うーん……死んだね。ちょっときのどく……まあ、しかたないね」

 

コボルト術士は黒い目で魔法が飛んできた闇を見て、へっへっへっと舌を出した。

その真っ黒な濡れた目はどこか、虚無的なものをテイマーに感じさせた。

 

「ご、ご苦労様です!やりました!ゴブリンシャーマンを倒しましたよ!あと一歩です!」

「やれる、やれるぞ!」

「おらたちの勝ちだ!」

 

村人達の槍が、弓が、投石が。ゴブリン達の数を減らしていく。

 

「大将首、討ち取ったり!主よ、追撃に出る!」

「ゴブリン騎士さん、あまり深追いはしないで下さいね!」

「ああ!」

 

そう言っている間にもゴブリン騎士はゴブリンライダーに追いすがりすれ違い様に切って捨てている。

闇夜に青い光が、あるいは鉄の煌めきが舞う度に血がしぶくのだ。

村には戦の異様な狂熱が朝まで続いた。

やがて、日の光にゴブリン達の死骸が映し出されるまで。

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