ゴブリン騎士と農民姫   作:照喜名 是空

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村の防衛③反省会と作戦会議

◎反省会

 

朝になると、やや遅く起きた村人達はゴブリンの死体を片付け始める。

集めて持って行く先は村の外、コボルト術士が魔法で大穴をあけ、ゴブリン騎士が切り出した薪にやはり魔法で火をつける。

そこに次々にゴブリンと狼の死体が投げ込まれた。

 

「……やはり、みょうだ」

「何か変でしたよね……急に熊が現われたり。あんな高度な『隠蔽』ってゴブリンシャーマンはできるものなんですか?」

「少なくとも、私はきいたことがない。『隠蔽』でどこでもかくれられるとしたら、ひがいはこんなものではすまないはずだ」

「うーん……たとえば他の誰かが黒幕にいるとか、ですかね……?」

 

そこにゴブリンシャーマンの死体が運び込まれると、火に投げ込まれる前にゴブリン騎士が止めた。

 

「またれよ、ゴブリンシャーマンは儀式につかう毒薬などをもっているかもしれぬ。もちものをあらためよう」

「お、おう……ゴブリン騎士さん、あんたがやるっつうんなら、好きにしてくれ」

「わかった。どれ……これは」

 

ゴブリンシャーマンの持ち物を漁ると、いくつかの薬に装飾具、金貨がいくつか。

ゴブリン騎士が注目したのは薬袋の一つだった。

 

「……『甘い血』か。主よ、背後にいる者がわかったかもしれん」

「ホントですか!?その薬は何なんです?」

「まやくだ。のんだものを一時つよく、また愉快なきもちにするが、のんだものは一年ももたん」

 

ゴブリン騎士はじゃらじゃらと土の上に薬を捨てる。クコの実のような赤い小さな粒だ。

ブーツで完全に踏んで潰し、土と混ぜる。忌まわしいものを処分する時にはふさわしい仕草だ。

 

「……ひろく魔族がカネのかわりにつかうが、これを作れるのは吸血鬼だけだ」

「吸血鬼!それは厄介ですね……」

「へえー、吸血鬼、それはおもしろそうだねえ。じゃあひょっとしてこれも?」

 

火の横で水につけて血抜きされていた大型(ウォリアー)ゴブリンと熊の首を指さすコボルト術者。

これらは、村人のハンティングトロフィーとして活用される予定であった。

コボルト術者は布でその生首を洗っていたのだが、大型(ウォリアー)ゴブリンの髪をかきあげると、そこには痛々しい縫い目があった。

 

「まちがいない。ゴブリンは傷ができてもぬったりせん。たまにそういう話をきく。魔族はたわむれにゴブリンをさらっては体を()()()のだと」

「あーやっぱりねえ、これなんかすごく軽いよー。たぶん脳みそほとんど取られてるんじゃないかなー」

「むごい……」

 

テイマーは口を覆って痛ましそうに大型(ウォリアー)ゴブリンの首から目を背けた、

 

「……主に悼んでもらえれば、こやつも少しは救われるだろう。だが、いずれにせよ巣穴はつぶさねばならん。後ろにいるものも」

「でも、それだと人手がたりないねえ、村も守らなきゃいけないし、誰かのこらないとねー」

「……ああ、それなら大丈夫です。昨日のことはギルドに伝書で報告したので、誰か援軍が来るはずです」

「よいのか?カネが余計にかかるだろう」

「あっ、それも大丈夫ですよ。こういう大がかりな駆除の時は国からお金がでますから」

「ふむ。よくわからんがそういうものなのか……」

 

噂をすれば影。村の入り口からぽっこぽっこと馬の蹄の音がした。

 

「おーい!テイマー殿!おられるか!援軍に来たぞ!」

 

村に大きく響き渡るは全身鎧を着た重装騎士の低い声だ。

 

「騎馬隊の登場ってワケだが……チッ、一足遅かったみてえだな」

 

横に目立つのは禿頭に黒衣。黒皮鎧の斥候だ。

 

「なんと!村は!テイマー殿は!?」

「見りゃわかんだろ無事だ。つまり勝ったんだよ」

「おお!それは喜ばしい!さっそく祝杯をあげねば!」

「おお!昼間から酒が飲めるのじゃあ!たのしみじゃなあ!」

「オイオイ……そんな簡単な話じゃねえだろっつうのに……しょうがねえなあ」

 

後ろからは麦の穂のような金髪の上に狐の耳、エルフのような白い顔(かんばせ)。狐人巫女だ。

前衛に壁役(タンク)、中衛に斥候(スカウト)、後衛に魔法職(シャーマン)。

バランスの良いパーティーといえるだろう。

 

「出迎えよう、主よ。そのような顔をするな。勝ったのだ。笑ってくれ」

「ええ……そうですね!いつまでもしょげてられません!」

「おーい重装騎士どの!私だ!ゴブリン騎士だ!」

「おお!その声は我が友、ゴブリン騎士殿!今行くぞ!」

 

馬のいななきと蹄の音が朝の村に響き渡った。

少しだけ、血の臭いが薄れた気がした。

 

◎作戦会議、そして乾杯の時間だ

 

「吸血鬼か……厄介だな」

 

黒皮鎧の斥候が顔をしかめた。

ここは村長宅。テーブルの上に簡易な村の地図を広げて昼飯を兼ねた作戦会議中だ。

場を彩る昼食はデミグラスシチューにクラッカー、水である。

さすがに作戦前の酒ははばかられたのだ。

 

「なんと……しかし、我が村にもうお金は……」

「ああ、心配すんな村長さん。吸血鬼狩りとなりゃあ、国と領主さまからカネが出るんだよ。あんたらの懐は痛まない。わかるか?」

「おお、それは助かります。皆も安心するでしょう」

「おう。それでどうする?テイマーさんよ」

 

黙々とシチューを喰らっていた重装騎士が横の狐人巫女に話しかけられる。

 

「のう、なんでこやつが仕切っておるのじゃ?」

「斥候殿はいちばんのベテラン故な。だが、ここはテイマー殿の顔を立てられているだろう」

「ほーん、まあ元々テイマー殿の受けた依頼じゃしのう。しかしまた儲かってしまうのー」

「静かに聞けよ!今はテイマーさんの手番(ターン)だろうが。空気読めよ……」

「うむ、すまぬ!」

「うむ、わかったのじゃ……」

 

テイマーはしばらくその会話を聞きつつ考えていたが、やがて決意に満ちた表情で言った。

 

「隊を二つに分けます。斥候さんたちのチームは村の防衛、私たちが巣穴を探して潰します。吸血鬼は……私たちが今日探して、明日の朝、全員で仕掛けます」

「逃げたら?」

「そのまま拠点を潰して追い払いましょう。うまくすれば、そのまま魔族領まで逃げ帰ってくれるかも」

「かも、の話だな……だがどうやって探す?」

「あっ、それねえ。ボク吸血鬼の魔力の匂い、覚えたよー。大型(ウォリアー)ゴブリンの頭についてたんだー。たぶんあの大型(ウォリアー)ゴブリン、吸血鬼の操り人形だったんじゃないかなあ」

「なるほど、それはうなずける。死に際に『不愉快だ』と言っていたからな。自分の死をそう言えるはずもなかろう」

「よし……じゃあ、それでいこう。だけど一つ追加だ。こいつを持って行け。ヤバそうだったら使え。すぐに駆けつける」

 

斥候が渡したのは火薬と狼煙を筒に詰めたもの……発煙筒だ。

 

「わかりました!」

「おっ、作戦会議はおわったのじゃな」

「うむ、村の守りは任されよ!吸血鬼退治とは、腕が鳴るものよ!」

「うむうむ、では験担ぎに飲むのじゃ!」

「おう!再会を祝して、そして再会を願って乾杯だ!」

 

重装騎士が魔法のポーチから鉄製のショットグラスを人数分、狐人巫女が巫女服の袖から清酒のビンを取り出す。

 

「いや、せっかくだがこれから戦うのだ。酒はぬいておこう」

「うむ、それも違いあるまい。故に気付け程度の小さな杯にしておいた」

「ぬかりないな……」

「ぬかりないとも、友よ」

 

全員に酒が行き渡った。皆が立ち上がり、杯を上げる。

 

「では、ゴブリン騎士殿。乾杯を!」

「ああ、友との再会に、そしてまたの再会に!」

『乾杯!』

 

高らかな金属音が村長の家に響いた。

人の家で何をやっているのだろうか。

だが、これは明日をも知れぬ戦いに赴く者の作法であり、故に村長は大目に見ることにした。

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