◎反省会
朝になると、やや遅く起きた村人達はゴブリンの死体を片付け始める。
集めて持って行く先は村の外、コボルト術士が魔法で大穴をあけ、ゴブリン騎士が切り出した薪にやはり魔法で火をつける。
そこに次々にゴブリンと狼の死体が投げ込まれた。
「……やはり、みょうだ」
「何か変でしたよね……急に熊が現われたり。あんな高度な『隠蔽』ってゴブリンシャーマンはできるものなんですか?」
「少なくとも、私はきいたことがない。『隠蔽』でどこでもかくれられるとしたら、ひがいはこんなものではすまないはずだ」
「うーん……たとえば他の誰かが黒幕にいるとか、ですかね……?」
そこにゴブリンシャーマンの死体が運び込まれると、火に投げ込まれる前にゴブリン騎士が止めた。
「またれよ、ゴブリンシャーマンは儀式につかう毒薬などをもっているかもしれぬ。もちものをあらためよう」
「お、おう……ゴブリン騎士さん、あんたがやるっつうんなら、好きにしてくれ」
「わかった。どれ……これは」
ゴブリンシャーマンの持ち物を漁ると、いくつかの薬に装飾具、金貨がいくつか。
ゴブリン騎士が注目したのは薬袋の一つだった。
「……『甘い血』か。主よ、背後にいる者がわかったかもしれん」
「ホントですか!?その薬は何なんです?」
「まやくだ。のんだものを一時つよく、また愉快なきもちにするが、のんだものは一年ももたん」
ゴブリン騎士はじゃらじゃらと土の上に薬を捨てる。クコの実のような赤い小さな粒だ。
ブーツで完全に踏んで潰し、土と混ぜる。忌まわしいものを処分する時にはふさわしい仕草だ。
「……ひろく魔族がカネのかわりにつかうが、これを作れるのは吸血鬼だけだ」
「吸血鬼!それは厄介ですね……」
「へえー、吸血鬼、それはおもしろそうだねえ。じゃあひょっとしてこれも?」
火の横で水につけて血抜きされていた
これらは、村人のハンティングトロフィーとして活用される予定であった。
コボルト術者は布でその生首を洗っていたのだが、
「まちがいない。ゴブリンは傷ができてもぬったりせん。たまにそういう話をきく。魔族はたわむれにゴブリンをさらっては体を
「あーやっぱりねえ、これなんかすごく軽いよー。たぶん脳みそほとんど取られてるんじゃないかなー」
「むごい……」
テイマーは口を覆って痛ましそうに
「……主に悼んでもらえれば、こやつも少しは救われるだろう。だが、いずれにせよ巣穴はつぶさねばならん。後ろにいるものも」
「でも、それだと人手がたりないねえ、村も守らなきゃいけないし、誰かのこらないとねー」
「……ああ、それなら大丈夫です。昨日のことはギルドに伝書で報告したので、誰か援軍が来るはずです」
「よいのか?カネが余計にかかるだろう」
「あっ、それも大丈夫ですよ。こういう大がかりな駆除の時は国からお金がでますから」
「ふむ。よくわからんがそういうものなのか……」
噂をすれば影。村の入り口からぽっこぽっこと馬の蹄の音がした。
「おーい!テイマー殿!おられるか!援軍に来たぞ!」
村に大きく響き渡るは全身鎧を着た重装騎士の低い声だ。
「騎馬隊の登場ってワケだが……チッ、一足遅かったみてえだな」
横に目立つのは禿頭に黒衣。黒皮鎧の斥候だ。
「なんと!村は!テイマー殿は!?」
「見りゃわかんだろ無事だ。つまり勝ったんだよ」
「おお!それは喜ばしい!さっそく祝杯をあげねば!」
「おお!昼間から酒が飲めるのじゃあ!たのしみじゃなあ!」
「オイオイ……そんな簡単な話じゃねえだろっつうのに……しょうがねえなあ」
後ろからは麦の穂のような金髪の上に狐の耳、エルフのような白い顔(かんばせ)。狐人巫女だ。
前衛に壁役(タンク)、中衛に斥候(スカウト)、後衛に魔法職(シャーマン)。
バランスの良いパーティーといえるだろう。
「出迎えよう、主よ。そのような顔をするな。勝ったのだ。笑ってくれ」
「ええ……そうですね!いつまでもしょげてられません!」
「おーい重装騎士どの!私だ!ゴブリン騎士だ!」
「おお!その声は我が友、ゴブリン騎士殿!今行くぞ!」
馬のいななきと蹄の音が朝の村に響き渡った。
少しだけ、血の臭いが薄れた気がした。
◎作戦会議、そして乾杯の時間だ
「吸血鬼か……厄介だな」
黒皮鎧の斥候が顔をしかめた。
ここは村長宅。テーブルの上に簡易な村の地図を広げて昼飯を兼ねた作戦会議中だ。
場を彩る昼食はデミグラスシチューにクラッカー、水である。
さすがに作戦前の酒ははばかられたのだ。
「なんと……しかし、我が村にもうお金は……」
「ああ、心配すんな村長さん。吸血鬼狩りとなりゃあ、国と領主さまからカネが出るんだよ。あんたらの懐は痛まない。わかるか?」
「おお、それは助かります。皆も安心するでしょう」
「おう。それでどうする?テイマーさんよ」
黙々とシチューを喰らっていた重装騎士が横の狐人巫女に話しかけられる。
「のう、なんでこやつが仕切っておるのじゃ?」
「斥候殿はいちばんのベテラン故な。だが、ここはテイマー殿の顔を立てられているだろう」
「ほーん、まあ元々テイマー殿の受けた依頼じゃしのう。しかしまた儲かってしまうのー」
「静かに聞けよ!今はテイマーさんの手番(ターン)だろうが。空気読めよ……」
「うむ、すまぬ!」
「うむ、わかったのじゃ……」
テイマーはしばらくその会話を聞きつつ考えていたが、やがて決意に満ちた表情で言った。
「隊を二つに分けます。斥候さんたちのチームは村の防衛、私たちが巣穴を探して潰します。吸血鬼は……私たちが今日探して、明日の朝、全員で仕掛けます」
「逃げたら?」
「そのまま拠点を潰して追い払いましょう。うまくすれば、そのまま魔族領まで逃げ帰ってくれるかも」
「かも、の話だな……だがどうやって探す?」
「あっ、それねえ。ボク吸血鬼の魔力の匂い、覚えたよー。
「なるほど、それはうなずける。死に際に『不愉快だ』と言っていたからな。自分の死をそう言えるはずもなかろう」
「よし……じゃあ、それでいこう。だけど一つ追加だ。こいつを持って行け。ヤバそうだったら使え。すぐに駆けつける」
斥候が渡したのは火薬と狼煙を筒に詰めたもの……発煙筒だ。
「わかりました!」
「おっ、作戦会議はおわったのじゃな」
「うむ、村の守りは任されよ!吸血鬼退治とは、腕が鳴るものよ!」
「うむうむ、では験担ぎに飲むのじゃ!」
「おう!再会を祝して、そして再会を願って乾杯だ!」
重装騎士が魔法のポーチから鉄製のショットグラスを人数分、狐人巫女が巫女服の袖から清酒のビンを取り出す。
「いや、せっかくだがこれから戦うのだ。酒はぬいておこう」
「うむ、それも違いあるまい。故に気付け程度の小さな杯にしておいた」
「ぬかりないな……」
「ぬかりないとも、友よ」
全員に酒が行き渡った。皆が立ち上がり、杯を上げる。
「では、ゴブリン騎士殿。乾杯を!」
「ああ、友との再会に、そしてまたの再会に!」
『乾杯!』
高らかな金属音が村長の家に響いた。
人の家で何をやっているのだろうか。
だが、これは明日をも知れぬ戦いに赴く者の作法であり、故に村長は大目に見ることにした。