ゴブリン騎士と農民姫   作:照喜名 是空

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村の防衛④再会

 

◎ゴブリンの巣穴はこれに限る

 

昼過ぎ。ゴブリン騎士たちは山の中を分け入ってゴブリンの巣を探していく。

狼の足跡、ゴブリンが作った侵攻のための獣道。手がかりは多く、容易に巣穴は見つけられた。

テイマーが通るためにゴブリン騎士は藪を切り開く必要があったが。

 

「巣穴だな……主よ、どうする。やはり、あれか」

「そうですね、これです!」

 

テイマーは魔法のポーチから薬草と燃料が詰められた素焼きの壺を出す。

 

「それなあに?」

「これはですね、睡眠薬が入った壺です。火をつけると煙が出て、巣ごと無力化できますし、中に万一人質がいても無傷で取り戻せます」

「べんりだねえー。でもゴブリン退治って巣穴に入るものじゃないの?」

「それは一昔前のやり方ですね。今はこれが主流です。普通に巣穴は危ないので」

 

名も知れぬ冒険者が発案したこれは、『ゴブリン殺しの壺』として多くの冒険者に親しまれている。

人質さえいないのならば、わざわざ危険を冒す必要は何も無い。

常に便利な手段を模索する。それが人の強さなのだから。

 

「なるほどねー。じゃあ、見張りがいたら?」

「それは倒します……けど、今日はいませんね。おかしいですね……」

 

崖を掘った巣穴があるが、見たところ誰もいない。

静かだ。

ただ木々が風に揺れているだけだ。

 

「いちはやく逃げたのかもしれん。いずれにせよ、ここは潰す」

「そうですね!」

 

警戒をしつつそっと巣穴の前に立って、火をつけた『ゴブリン殺しの壺』が転がっていき、わずかな煙と薄い匂いのみを残して透明な睡眠ガスが広がっていく。

やがて煙が晴れるまで、数時間がかかった。睡眠ガスを吸わないように注意しつつ、テイマーたちはゴブリンの巣穴に入っていく。

 

「もぬけのからだ。にもつもほとんど引き上げられている……どうやらにげたようだな」

「じゃあ吸血鬼のすみかをさがさないとね!にげたゴブリンはどうしよう」

「かのうならば、殺しておくべきだが……しかし、それには時間がない。吸血鬼のすみかだけでもさがそう。あるいは何か手がかりがあるかもしれん」

「夕暮れになりそうだったら、途中で切り上げて村に戻りましょう。夜になったら吸血鬼とは戦えませんし」

「うむ、正面からあたるべきではない」

出がけにコボルト術士の魔法で巣穴を崩していくのも忘れない。

それから山歩きをすることしばらく。夕暮れ寸前にテイマー達は吸血鬼の住処を発見した。

木を切り出して作った真新しいログハウスがそれだった。

 

「んー、あれだね。あの家そのものから吸血鬼の魔力のにおいがするんだよねー。たぶん魔法で木をあやつって作ったんだろうね」

「なるほど……しかしどうする?今せめるわけにはいかないが、もう少しようすをみるか?」

「いえ、ここは気づかれる前に引いたほうが良いと思います……あれっ?」

「どうした、いやこれは……血のにおい?」

 

そのときログハウスの扉から大量の血があふれ出し、次いで吸血鬼本人が傷だらけで転がり出る。

 

「馬鹿な……馬鹿なああ!」

「貴様の血、たしかにもらい受けたぞ……もう用済みだ。死ね」

 

大きな影が吸血鬼の心臓を大鉈で突き刺し、吸血鬼は灰になった。

それは大柄なゴブリンだった。しかし常と違うのは立派な胴鎧に赤いマント、壮麗な貫頭衣(チュニカ)を身につけ、手には赤い大鉈(マチェット)を握っていた。

しかしそれら、豪華な装備よりも目を引いたのは……左目についた大きな傷、片耳。

 

「ばかな……おまえは、あの時ころしたはず……!」

「ひえっ……」

 

テイマーが尻もちをつき、その音が相手に届いた。

すなわち、ゴブリンチャンピオンに。

 

◎再会

 

「そこに誰かいるのか!出てこい!……いや、この匂いは。ああそうか、お前か……ゴブリン騎士!」

「コボルト術士どの。テイマー殿をたのむ」

「わかったよー」

 

テイマーは震えて使いものにならない。故にゴブリン騎士は前に出た。

守るために。誓いを果たすために。因縁に決着をつけるために。

藪をかき分けてログハウス前の開けた所に出る。

ゴブリン騎士の姿を見て、ゴブリン英雄はにやりと笑う。

 

<一足遅かったな、ゴブリン騎士。ここの奴らは皆死ぬか俺に降った。ああ、あのちんけな村の事ならば気にするな。俺には興味がない。せいぜい小さな成功をかみしめているがいい>

<なぜ貴様が生きている……?>

<さあな、貴様と同じように、俺もまた運命に出会ったと言うことだ。まあ、そんなことはどうでもいい。さて、どうする?>

 

ゴブリン騎士は無言で剣を構え、突きつけた。

それは開戦礼と言われる騎士の宣戦布告。

ゴブリン英雄の地の底から響くような笑いがそれに返礼した。

 

<くっくっく……俺にまた挑むか。あの時の俺ではないぞ。俺は強くなった。もう負けん。誰にも、何にもだ!>

 

そうして戦いが始まった。

あの時と同じ、ゴブリン英雄が大鉈を振り下ろし、その隙にゴブリン騎士が『溜め』を完成させて、盾で大鉈を払い、青い光を伴ってカウンターの斬撃が繰り出され……

しかし、ゴブリン騎士の一撃はゴブリン英雄による見事な蹴りで振り払われた。

明らかに何らかの武術をかじった蹴りだ。

 

<やった!>

<くっ……!>

 

ゴブリン騎士はごほ、と咳き込み、なんとか体勢を立て直そうとする。

胴部の皮鎧があったおかげで、死なず、また骨折もせずにすんだ。

だが、ダメージは大きい。

それでも、立ち上がる。

 

<ふん!貴様も魔剣を手に入れたようだな!だが、魔剣とはこのようなものを言うのだ!>

 

赤い大鉈が赤黒い光を発する。そう、『溜め』だ。

『溜め』と共に大上段で振り下ろされた一撃は、赤い魔力を伴って光波を出した。

ゴブリン騎士は盾でいなそうとする。……失敗。

盾もろとも、ゴブリン騎士が吹っ飛ばされて木にぶつかって止った。

 

<ふふふ……ははは!勝ったぞ!ついに貴様に勝ってやった!どうだ!俺の気持ちが少しでもわかったか!>

 

ゴブリン騎士は兜の中で血を吐くと、なおもゆっくりと立ち上がろうとショートソードを杖にする。

 

<貴様……何を企んでいる。何をしようとしている……!>

 

ゴブリン騎士の瀕死の様子にしかしゴブリン英雄はとどめを刺さない。

 

<俺は王になる。ゴブリンの国を!ゴブリンの文明を作る!俺は貴様の言う夢というものがわかったぞ。俺もまた、使命を得たのだ……>

 

ゴブリン英雄は赤い夕暮れの空を見て、遠くに思いをはせる。

その、夢見る目つきは、ゴブリン騎士のよく知っているものだ。

自分に、良く似ていた。

そこに、がさがさと数人の足音がする。

 

「その勝負、待たれよ!この重装騎士、友として助太刀いたす!」

「チッ、もう始まってるのかよ……なんだ、こいつは……!わかんねえが畜生、敵か!」

「やべーやつなのじゃ……故に囲んで叩くのじゃ!」

 

駆けつけたのは重装騎士、黒皮鎧の斥候、狐人巫女だ。

顔色の悪いテイマーの横には、発煙筒がたかれて、落ちていた。

間に合ったのだ!

 

<フン、興が削がれた……貴様との決着は、ここではふさわしくない。もっと強くなれ……そして俺を追い詰めてみせろ!俺の建国神話の礎になれ!ははは!はははは……!>

 

そう言うと、ゴブリン英雄は貫頭衣のポケットから小さな貝殻を取りだし、それが光る。

ごう、と一陣の風が吹き、強く光ったと思うと、もうそこにはゴブリン英雄はいない。

ただ、夕暮れの太陽にくすぶる吸血鬼の血溜まりだけがあった。

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