◎パーフェクトだ
テイマー達が街に帰ってきてから数日。十分な休養の後、テイマーとゴブリン騎士たちはドワーフの武器屋に来ていた。
石造りの無骨な店内で親方はいつものようにカウンター前で椅子を出して座っている。
「おう、お前ら。また手柄をあげてきたらしいな!」
「え、ええまあ……運が良かったというか、悪かったというか」
「うむ、かわりの剣をずいぶんつかってしまった。大丈夫だろうか?」
ゴブリン騎士が腰に吊されたショートソードを外して親方に渡す。
親方のドワーフは受け取ると手慣れた仕草で剣を抜いて、刀身に目をこらす。
「ふむ……相当切ったな。最後に打ち合ったのか?じゃが欠けも曲がりも少ない。修理費はいらんわい」
「それはよかったです。ゴブリン騎士さん、その剣もよく手入れしてましたから」
「うむ、見ればわかるわい」
「それで、てんしゅ……たのんでいたものだが」
ゴブリン騎士が兜の上からわかるほど、そわそわと期待した声で尋ねる。
ドワーフの親方は、ニッと笑うと立ち上がって店の奥から一本のショートソードを取り出す。
「素材は北方の鉱山の菱鉄鋼を鋼の街で精錬、そんでもって五千回折り返した鋼」
そこですらりと剣を抜いて、くるりと回して柄をゴブリン騎士の方に向けて渡す。
「持ち手はしっかりと手になじむ牛皮。鞘は頑丈で虫に強いローズウッド」
ゴブリン騎士はその美しい刃をみて息を呑む。
時に青白く、時に蛍のような緑に薄く輝く。
吸い込まれそうな美しさと、触れれば斬れそうな鋭さを感じざるを得ない。
「そこに単純強化を龍の鱗で三回。変質強化を月の貴石で二回。『溜め』と『纏い』が可能。当然、頑丈かつ鋭利。どうだ?」
「完璧だ、てんしゅ」
「恐悦至極ってな。まあ、見ただけじゃ解らんだろう。裏庭の試射場に来な。使い方を教えてやる」
「かたじけない」
ゴブリン騎士はよどみない仕草で剣を鞘に納めると、テイマー共々店の裏口を抜けて裏庭に行く。
「すごい剣ですね……」
「うむ、のうがきはわからんが、これはよいものだ」
裏庭は相変わらず雑草が隅に生え、それ以外は踏み固められた土、カカシや的が雑然と置いてある。
「そんじゃ、とりあえず振ってみな。じゃなきゃ解らんこともある。それから、『溜め』は使えるようになったか?」
「ああ、もんだいない」
「二、三日でモノにしたか。感心感心。んじゃ、あのへんのカカシ相手にやってみろ」
「ああ」
ゴブリン騎士はすらりと剣を抜くと走り出し、その間に『溜め』を完成させる。
カカシの足を切り落とし、脇腹を切りつけ、背中を上って首を落す。
巨人殺し流『三刀必殺』だ。
「すばらしい……もうしぶんない。いぜんより振りやすく、ずっと鋭い。水でも切っているかのようだった」
「へっ、そりゃそうだ。龍の鱗に月の貴石。こんだけいいもん使ったらそんくらいできなきゃドワーフの名折れよ。どれ、ちょっと貸してみろ。『纏い』を教えてやる」
「うむ、たのむ」
ドワーフの親方が手を差し出すとゴブリン騎士は剣を渡した。
「『纏い』っちゅうのはな。『溜め』をしたときの光があるじゃろ。あれを刀身に纏わせて、刀身を伸ばす技だ。切れ味もよくなるしの。どれ……」
ドワーフの親方は剣を横に掲げると刀身に手を添わせて柄から切っ先に移動させていく。
親方の手の触れた場所から、青白く、時に緑に変わる輝きが刀身からあふれ出す。
やがて切っ先の先からも光があふれ出して、ショートソードはロングソード、やがてはバスタードソードの長さに延長される。
「できた。これで重さは変わらん。魔力が続く限り伸ばせるが、伸ばしてる間は魔力をそれなりに食うから気をつけな。慣れたもんだと、必要な時だけ延ばして、すぐに『纏い』をやめる。こんな風にな」
輝く長い剣から血を振り払うような仕草で剣を振ると、刀身に纏わされていた神秘の光が霧散して宙に消えていく。
残ったのは元の薄く輝くショートソードだ。
「うーん、やっぱりマジックアイテムって良いですね……私も何か持とうかな……?」
「ああ、金があるんならなんか武器をもっとけ。あると無いとじゃ大違いだ」
「そうですね、後で買います」
一方のゴブリン騎士はまるでおとぎ話の聖剣のようだ、と感動しつつ、さてあれを使えばどれほど戦術が広げられるか、と考えていた。
「おお……すばらしいな、てんしゅ。『纏い』とは『溜め』の先にあるわざなのか」
「ああ、まあな。溜めてるときの光を安定して纏わせる。だから『纏い』ってえわけだ。いいか、大事なのはイメージだ。伸ばした時の剣の形をしっかり思い浮かべて、手先に『溜め』てみろ。慣れた使い手なら、槍にも鎌にもできるようになるらしいぜ」
「なるほど……やってみても?」
「ああ、やってみな」
ドワーフの親方はゴブリン騎士に剣を渡すと、ゴブリン騎士は先ほど親方がやったように剣を掲げて刀身に手を添わせる。
ゆっくりと光がまたたき、やがてあふれ出す。切っ先から手を離すと、ロングソードほどの長さになっていた。
「おお……これがか。して、『纏い』をやめるには?」
「剣に吸われてる魔力を絞って、それから光を振り払え。まあやってみな」
「ああ!」
ぶん、と剣を振ればたちまち光が霧散する。
ゴブリン騎士はもう一度剣を掲げて『纏い』をして、素振りをして、また『纏い』を切る。
兜ごしではあるが、満足そうな様子が見て取れた。
「おお……なるほど。おおむねりかいした。このいつも光っている光を消すには?」
「それも使い手のイメージと魔力運用だな。剣に対して治まれ、落ち着けと呼びかけるんだ。そうすりゃただの剣と同じくらいの輝きになる」
「なるほど……こうか?」
何もせずとも淡く光る剣から、光が失せていく。やがて、見た目だけならただの上質な剣に見えるようになった。
「おお、それよそれ。夜戦じゃあ、光るのが不利なこともあるからな。あとはまあ……『纏い』も練習すりゃあ一瞬でできるようになる。修行あるのみだぜ。しばらく試射場を貸してやるから、手になじませておきな。俺ぁ、テイマーの姉ちゃんの武器を見繕ってやらにゃならん」
「何からなにまでかたじけない。ところで、この剣の銘は?」
ドワーフの親方は顎髭をさすって、少し考える。
「ああ、それか……わしは作っている時は単に『月明かりの小剣』とか『ひかり丸』とか呼んでたな」
「おお、それはよい。月明かりの小剣……気に入った」
「そっちかい……まあええ、それはもうお前さんのもんだ。満足したか?」
「ああ、満足だ」
これがあれば、あのゴブリン英雄とて倒しきれるだろう。ゴブリン騎士は言葉には出さず、そう思った。
なお、テイマーは乗馬鞭と投げナイフ、それから魔法の符をいくつか買った。
『月明かりの小剣』
ほの暗く蛍色に輝くショートソード。
ドワーフがゴブリン騎士のためにあつらえた、しかしただの鉄剣であった。
古竜に授けられし月の貴石による強化がされており、『溜め』と『纏い』を可能とする。
月の魔力を纏った一撃はより鋭く、重く、敵の体を切り裂くのだ。
移り気な月の力を宿した鉄剣はしかし主を決してうらぎらず、ずっとその冒険の側にあった。