一面の密林。南国めいた木々には豊かな果実がなり、森には無数の獣がいる。
食べ物の豊富な豊かな森だ。ただ一つ常の密林と違うのは、この密林が荒野の真ん中にある事だ。
「すばらしいな。ここが我が国になるわけか」
「トレントの
ゴブリン英雄は森の果実をひと囓りしてうなずき、隣に控える悪魔術士が得意げにうなずく。
「ごくろうだったな。あとは我が国民を誘致してくればいいだけか」
「その通りです。今は近くの洞窟に待機させています。一つ演説を短めにお願いできますか?」
悪魔術士が手をかざすと鏡面のようなものが空中に浮かび上がった。
「
「いいとも。下したやつらに演説をぶつ。これこそ王者の楽しみだ」
「では、行きましょう。内容はそうですね……こういう感じで」
「なるほど……ではこういう演出はどうだ」
「いいですね」
転移門をくぐると、松明のわずかな灯りでおびえたようにうずくまるゴブリンたちがいた。
<ようこそ!我が最初の国民よ!俺はゴブリン英雄。貴様らに勝ち、貴様らを率いるものだ!>
とりあえず平伏はするが、ゴブリン達は興味なさげだ。
<お前達に餓えない土地をやろう!お前達に文化の楽しみを教えよう!そしてお前達は国民となる!まずは最初の施しだ。俺は与え、貴様らは俺のために働く!>
ゴブリン英雄は悪魔術士に目配せすると、悪魔術士は短く呪文を唱えた。
「『
その声と共に、大量の肉と酒瓶がゴブリン達の前におちてくる。
ゴブリンたちはおそるおそるゴブリン英雄を見る。ゴブリン英雄は王者の威厳と愉悦たっぷりにうなずいた。
<まずは呑め!まずは食え!これが俺がお前達に与えるものだ!>
<ウオオオ!>
ゴブリンたちはあっというまに肉と酒に食らいついた。
ここで、悪魔術士はさらなる魔法を使う。
「『空耳』<ゴブリン英雄万歳!王を称えよ!>」
音源が悪魔術士と気づかれずに、ゴブリンの誰かが言ったように見せかけて叫び声を作り出した。
<お、おう……ゴブリン英雄万歳!>
<王様万歳!>
<万歳!万歳!ゴブリン王万歳!>
薄暗い洞窟の中で王を称える声が響き渡り、それは彼らが食事を終えるまで続いた。
<さて、腹も膨れただろう。次の贈り物だ。お前達に餓えぬ土地を与える!俺についてこい!>
<お、おう!ゴブリン王ばんざい!>
悪魔術士が手をかざすと、ふたたび「
<どうした!これは安全な魔法だ。ついてこい>
<へ、へえ……>
最初はおそるおそる。しかしやがて坦々とゴブリン達はついていく。
門をくぐってゴブリン達が見たのはゆたかな密林。果物が狂い咲きのように実り、獣の気配もする。
<ここが俺がお前達に与える安住の地である!ここにあるものは全て好きに食って良い!ここには人間も敵となる種族もいない!自由の地だ……お前達ゴブリンのための土地だ!喜べ!>
<おお……おおお!>
<ゴブリン王万歳!王様万歳!>
喝采が静まるのを待ってから、ゴブリン英雄は続ける。
<俺はお前達を餓えさせん。それは王の義務だからだ。だが、それ以上が欲しいのであれば……俺のために働け!兵となり戦うのだ!働くものだけにそれ以上は与えられる!女が欲しいか!酒が欲しいか!ならば兵となれ!俺のために働くのだ!>
ここでめざとい数匹が王の前に出てきた。
<お、俺はやる!兵士になる!>
<お、俺もだ!人間共から奪ってやる!>
<いいだろう、勇敢な戦士達よ。お前達こそゴブリン国最初の戦士である。祝福せよ!>
喝采はいつまでも続き、それが終わるとゴブリン達は与えられた土地の豊かさに驚くこととなった。
■
演説を終え、悪魔術士とゴブリン英雄は森の隅に作った小さな石造りの砦で休んでいた。
ゴブリン英雄の私室には大きなテーブルと藁のベッドがあり、ゴブリン英雄は椅子に座ってゆっくりと酒を楽しんでいる。
「しかし、課題は山積みだな……ゴブリン共に娯楽を教え、さらに欲を煽らねばならん。貨幣経済もせねばならん……文官が欲しい。ゴブリンシャーマンを大量に仕入れられれば良いのだが……」
ゴブリン英雄は吸血鬼の血肉を取り込むことで、人間らしい知恵というものを手に入れていた。
その知識がささやくのだ。統治のためにはパンだけでは駄目だと。
娯楽を与え、欲を高めることで国に忠誠を誓わせるのだと。
だが、娯楽を与えても、娯楽を理解するだけの教育が必要なのだ。
「地道にやりましょう。まずはシャーマンの確保により教育を。教育をすることで、娯楽も理解できるようになるでしょう」
テーブルの反対側に座る悪魔術士が優雅にワインを飲む。
「とりあえずはめぼしいやつらを勧誘するか……女はどうする?」
「それでしたら、国の根幹に関わる実験を今試しておりまして……修道院をいくつか支配下におきました。いつでもゴブリンを受け入れる女を『出荷』できます」
「ほう?だがそれだけではないのだろう?」
ゴブリン英雄はがぶりとハムの原木にかぶりつく。
「ええ……めぼしい聖女の胎をいじりましてね。上手く行けばメスゴブリンが量産できるでしょう。そして教育もその女達から施させれば良いのです」
「すばらしい……お前はまさにゴブリンにとっての希望だ。ゴブリンの女、か……ごくまれにしかいないが、それが当たり前に増えれば……」
「はい、ゴブリン国は国として成り立ちうる。小さな一歩を積み重ねて行きましょう」
「ああ、先は長い。楽しんでいこう……」
夜が深まり、闇の中の企みも深まっていく……