◎東国の侍
魔術師ギルドへは王都にほど近い交易都市、輪の都まで馬車で行くこととなった。
辺境である黒い森の街から三日ほどかかる。野営を行い、時に宿場町を利用し、二日間は何も無かった。
事件が起こるのは3日目の昼だった。
「主よ、戦のにおいがする。ちかくで戦いがあるらしい」
「遠くで弓矢の音がするね」
馬車が歩いているのは街と街を結ぶ街道。道はこれ一本しかない。
今もぽっこぽっこと
踏み固められた土の街道の外は、デコボコのただの草原である。
場所によっては背の高い草や木が生い茂り、半ば林になっているところもあった。
テイマーはバッグから双眼鏡を取り出して前を見る。
「本当ですね……馬車が襲われています。盗賊……でしょうか。珍しいですね」
「どうする、主よ」
「うーん、できればやり過ごしたいですけど、そうもいかないでしょうね……行きましょう!加勢します!」
「わかった。準備をしよう。コボルト術士どのもそなえられよ」
「うん、やるよー」
テイマーが水妖馬に鞭を入れ、馬車は走り出した。ほどなく、戦いの場が見えてくる。
賊は30名ほどだろうか?馬車に対して草原から遠巻きに弓を射かけている。
馬車からも散発的に魔法や弓が飛ぶが、どうにも劣勢に見えた。
「賊におそわれているとおみうけする!助太刀いたす!」
ゴブリン騎士が
その度にゴブリン騎士の剣がひらめき、草原に血の花が咲いた。
「なっ、何だおめえは!」
「私はゴブリン騎士!騎士たるもの、賊から民を守るが務め!」
「くそっ!横槍か!相手は一騎だ!構わずこいつの馬車を焼け!」
「一人じゃないよー。ボクもいるよ『魔力よ矢となり飛んでいけ。『魔力の速矢』!」
テイマーの馬車に火炎瓶を投げつけようとした賊にコボルト術士の魔力の矢が飛んでいき、腕ごと貫く。
おぞましい悲鳴が上がって、撃たれた賊は倒れた。長くはないだろう。
「なんだ!なんだってんだ畜生!くそっ……第一隊、第二隊はあっちの馬車に攻撃を続けろ!第三隊は……ぐえっ!」
指揮官らしき男の胸にもコボルト術士の魔法が放たれる。
賊達が混乱してゴブリン騎士たち一党を注目した瞬間。元々襲われていた馬車の扉が内側から蹴破られて、中から一人の戦士が飛びだした。
「お見事!お見事なり!絶好の潮じゃ!取らせてもらうど!ちぇえええええいっ!」
手には刀、身につけるは軽装の具足に皮の胴鎧。
その独特な意匠から、東国の武者、あるいは侍と呼ばれる者とわかる。
黒髪にやや平たい顔も東国のものの特徴だ。
侍は鬨の声を叫びながらやや長めの刀で賊を一人二人、三人とあっという間に切り捨てていく。
その剛力は凄まじく、袈裟懸けに着られた者は肩ごと首をもっていかれるほどだ。
「首ばおいてけやぁ!」
「むう、あれは異国の騎士か?なんともすさまじい……負けていられんな!」
「援護するよー上手く使ってね」
「コボルト術士殿!ありがたい!」
侍とゴブリン騎士が前衛、コボルト術士が後衛となって、あっという間に賊は切り捨てられていく。
一〇人以上がそれからさらに斬られると、賊は退却した。
「なんだ……なんだこいつらは!くそっ!話が違うじゃねえか!退け!退け!」
侍は刀を振って血をぬぐうと、去って行く賊を見送る。じっと、鉛玉のような底知れぬ目で。
「よし!追うど!ついてくる者はおるか!」
「同行しよう。しかしなぜ深追いしてまで追う?」
ゴブリン騎士が侍の近くに
「一度叩いた敵は潰すまで目を離してはいかん!どのみち後で向こうから襲うてくるのじゃ。息が整わんうちにさぱっと斬らねば」
「なるほど道理だ。理解した」
「よか!ならば御者どん、馬ば借りていくど!」
「ええっ、この馬がいなけりゃ、どうやって街まで行くんで?」
侍は自分の馬車の馬を引いていこうとする。
「どうでんなる!馬ば無きゃ歩け!馬が欲しくば賊の馬でん取ればよか!」
「は、はあ……わかりました。せめて鞍はもってってくだせえ」
御者はあわてて馬に鞍をつけて侍に渡す。侍は慣れた様子で馬に乗ると、馬上からゴブリン騎士に声をかけた。
「よか!いくど小さか騎士どん!」
「ああ、行こう。私はゴブリン騎士。そちらは?」
「
「ボッケモン?」
「
「ああ!武家者どの!」
二人の戦士はたった二騎で草原を駈ける。残り十数人の賊を狩るために。
「ゴブリン騎士どん!迂回ばすっど!敵ば腹から叩く!」
「ああ、わかった……しかし意外だな。武家者どのはそのまま進むかと思ったが」
「戦ば、何でん使える手はたたっこまねばならん。正面から食い破れれば痛快じゃっどん、いつもそうとは限らん。ゴブリン騎士どんもそういう質じゃろう。違うか」
武家者は横のゴブリン騎士に顔を向けてにやりと笑う。獣のような笑みだった。
「いや……違わない」
ゴブリン騎士も兜の下で静かに笑った。
「よか!いくど!」
「おう!」
◎
結論から言えば、二人は難なく賊を倒した。まさにばったばったと倒した、というやつだった。
「よか!よか
「にせ、とは?」
「若人のことじゃ。ゴブリン騎士どん、おいはお
ゴブリン騎士はポーチからボロ布を出して剣についた血をぬぐう。
林が近くに見える草原には、青空の下に賊の死体がごろごろと転がっていた。
「ありがとう、武家者どの。しかし……名乗った通り私はゴブリンだ。それでも、友誼を結んでくれるか?」
「
「……そうか。かんしゃする。その褒めことば、うけとろう」
「まあよか。ゴブリン騎士どん、この後一手勝負はどうじゃ」
「ほう?何で勝負する」
黒髪をざんばらにした武家者と兜の奧で目を光らせるゴブリン騎士の目が合った。
「もちろん、これったい」
「剣か。いいだろう、しかし真剣で?」
「なんじゃ、臆したか?」
「友は斬れん。斬りあいに臆する心はないがな」
武家者はかっかっと笑うとゴブリン騎士の背中を親しげに叩いた。
「かっかっか!そいなら木剣でよか。じゃっどん、
「構わん。それで討たれるのであればそれまで、ということだ」
「よか!ほんならついで来っど!どうせ交易都市までいくったい?そこの闘技場でどうじゃ」
「胸をおかりする」
「よか!」
そういうことになった。
武家者は呵々と笑うが、後でゴブリン騎士はテイマーにこってりと怒られた。
◎コロッセオ
「……すまん、成り行きで闘技場とやらで戦う事になってしまうとは」
「騎士道はいいんですけどね、ただ、軽々しく約束をしちゃうのはどうかと思いますよ」
テイマーたちと、武家者たちの馬車は関所を抜け、交易都市の中に入る。
遠目に見える都市はレンガ造りの高層建築が立ち並び、黒い森の要塞都市よりもはるかに栄えているのが解る。
関所を通るときに見た城壁もとてつもなく高かった。
「すまん、ところで、闘技場とはまさか」
「……あれですね」
遠目に見える交易都市。その高い建物の中でひときわ目立つ円形のもの。
そう、
「なんと……!」
どうやら、戦いは思わぬ大舞台で行われる事となりそうだ。
ゴブリン騎士の驚愕のつぶやきが風に消えていった。
『武家者の刀』
分厚く、長大な刀。
東国ソラリアの珍しい曲剣として刀は知られる。
その刃は美しく、鋭く、しなやかで鉄をも斬ると。
刀の中でも特に頑丈で長い。
武家者の蛮用にも耐えるが、細やかな手入れもまた必要とする。
そのあり方は、どこか彼の国の騎士である侍のあり方にも通じるだろう。