ゴブリン騎士と農民姫   作:照喜名 是空

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装備を整えよう!

◎お金はゴブリンがもってた

 

テイマーはとにもかくにも家で一晩じっくりと休むこととした。

テイマーの家は城塞都市のすぐそばにある大きめの村にある。

もっとも、住民はそこは都市の一部であり街であると考えていたが。

家々は石垣が積み上げられ、白い壁にレンガでできた牧歌的なものだ。

 

「ゴブリン騎士さんも家に入りませんか?」

「いや、私があがっては家がよごれる。そのかわりおおきめの木箱が3つ4つ、あとはてごろな縄と藁があればねどこくらいはつくってみせよう」

「うーん……わかりました、探してみますね。あ、ええっと……もし気にならないのでしたら、家畜小屋を掃除してつかってもらっても」

「ありがたい。ならば藁と箱を2つほどたのむ。板もあればなおよい」

「わかりました」

 

家畜小屋はゴブリン騎士がおもったより快適そうだった。

地面は固くならした土、四方の壁は木製で屋根もある。

ゴブリン騎士は開いている檻を掃除すると、藁をしいて、木箱の一つを収納、もう一つを机に、残りをばらして素材とした。

ナイフで削り、縄を使い、簡易な盾にしたり、枕代わりにつかうための木片を作ったり……

やることは多いのだ。

 

「ふわあ~、ゴブリン騎士さん、お夕飯置いておきますね……」

「かたじけない、ちそうになる」

 

テイマーは夕方までゆっくり眠り、起き抜けにゴブリン騎士に肉粥をおいていった。

ゴブリン騎士はスプーンを器用に使い、粥をすくって食べる。

 

「う、うまい……!ひとのりょうりとはかくもうまいのか!」

「ふふふ、大げさですよ。私の料理は普通くらいじゃないですかね」

「主よ、かんしゃする……このほどこしは戦働きでかならずかえそう」

「うふふ、期待してますね」

「そこで、そうだんなのだが……これならばそうびをととのえるのにじゅうぶんだろうか?」

 

ゴブリン騎士は懐から小袋を取りだし、テイマーに渡した。

ずしりと重く、じゃらじゃらした感触がある。硬貨だ。

 

「お金ですか?どうやって……あー」

「ゴブリンは人をおそうが、金にはきょうみがない。こうかんはかんたんだった」

「なるほど……どれどれ。うわっ、金貨と銀貨ばっかり!これ、すごいお金ですよ!」

 

テイマーが小袋をあけると物の見事に金貨と銀貨がずっしりと詰まっている。

これならば全身鎧にそこそこの剣と盾が買えるだろう。

 

「そうか、ならばそれは主のものだ。その中からそうびをかってくれ。どうせ、せわになるからな」

「い、いいんですか……?」

「いい、そのかわり……」

「そのかわり?」

「かぶとをかならずかってくれ。こういうかんじのだ」

 

ゴブリン騎士は地面に家畜小屋に墜ちていた木の棒でガリガリと描いて見せる。

それはアーメットと呼ばれるいわゆる騎士らしい兜だ。

 

「わかりました!たぶんオーダーメイドになると思うんですが……明日にでも買いに行きましょう!」

「ありがたい」

 

かくして、夜は更けていく……

 

◎装備を調えよう!

 

ゴブリン騎士とテイマーは街へと入った。

検問で嫌みの一つ二つは言われたが、ゴブリン騎士には覚悟していたことなので、耐えた。

街中ではじろじろと無遠慮な視線にも見回れたが、素知らぬふりをした。

仕方のないことだ。マントと覆面で隠していてもどう見てもただの小汚い亜人なのだから。

 

「これが、まちか」

「ええ、ちょっとごちゃごちゃしてますけど便利な所ですよ」

「ふむ……」

 

灰色の石畳に、レンガ造りの重厚な建築。

目抜き通りには市が立ち並び、新鮮な肉野菜、所によっては絨毯の上に雑貨を並べている。

ゴブリン騎士はあらためて人間の力というものを目の当たりにしていた。

要はお上りさんである。

 

「お邪魔しまーす」

「なんだ、嬢ちゃんか。今日はどうした」

「えっと、この人の装備を……見ての通り訳ありなんですけど」

 

やがてテイマーは剣と盾の看板のある木の扉をくぐり、ゴブリン騎士もそれに続いた。

中は薄暗い武器屋だ。壁に所狭しと飾られた剣、数打ちのものはタルに無造作に突っ込んである。

カウンターの中にはいかにもそれらしいドワーフの親方が座って剣を研いでいた。

 

「ほう……なるほどな、深くは聞かねえよ。小人かコボルトあたりか?仲間かテイムした亜人か知らんが、お前さん口はきけるかね?」

「ああ」

「剣を見せてみろ。そのナイフもな」

「わかった」

 

ゴブリン騎士は腰の剣とナイフをためらいなく抜いて渡す。

ドワーフの親父は丁寧に剣を受け取ると左右から見たり、軽く叩いたりして鑑定をする。

 

「ほう、お前さんずいぶんこいつを大切に扱ってきたね。そんでもってずいぶん使い込んでる。ショートソードか……まあお前さんの体格ならこの手のが良いだろうさ。だが、一番じゃない。こいつはお前さんにあつらえたもんじゃないからな」

 

ドワーフの親父は剣を見るなりゴブリン騎士を気に入ったようだ。

手入れを丁寧にしていたのと、振るった跡から解る歴戦の戦士ぶりを見抜いたのだろう。

 

「わかっている。ひろいものだ」

「それから、普段は盾も使ってるだろ。どうした、壊しちまったのか」

「ああ、強敵とたたかったときに」

「種類はなんだ。ターゲットシールドか、いや、バックラーだな?」

「そうだ、あそこにあるのとおなじやつだ。私がつかっていたのは木のやつだが」

 

ゴブリン騎士は小さな盾を指さす。中央部が円形に盛り上がった皿、そう形容するのがふさわしい矮小な物だ。

だが、この最低限の防御こそ、使いこなせば変幻自在の武器と化すのだ。

 

「フン、鉄のにしときな。防御の要だろ」

「ああ、それがいい」

「よし、じゃあとりあえずはショートソードにバックラーだな。防具はどうする?」

「兜にアーメットがほしい。それいがいはじつようてきなのでたのむ。かるいものがいい……皮鎧ではふそくか?」

「ああ……まあお前さんの体格でガチガチに固めてもな……解った、アーメットに皮の胴鎧、だが手足くらいはまともなもんつけときな。鉄入りの革靴に膝当てすね当て、後は手甲、って所だな。服は……まあ小人用のを見繕ってやる。色はどうする。白か黒しかねえが」

 

ゴブリン騎士はしばし悩む。騎士らしく白が良い。だが、どうせすぐ汚れるだろう。

 

「くろだ。すぐよごれる」

「わかってんじゃねえか。よしちっと待ってろ。とりあえず服だ。着とけ。上着はどうする。マントか?外套か?」

 

ドワーフの親父はすばやく店の奥に品を取りに行くと、ゴブリン騎士に投げ渡した。

 

「どっちがやすい」

「外套はいいもん買った方が良いぞ。長持ちさせにゃならん。マントは……まあ、安モンを2着買って着回すのも手だな」

「マントでたのむ」

「色は黒だな?」

「ああ」

「試着室はあっちだ。その辺で着替えるなよ」

「わかった」

 

ゴブリン騎士は試着室に服を持って入ると、四苦八苦しながら着始めた。

 

「で、お嬢ちゃん。ご予算は?」

「このくらいで……」

 

テイマーはゴブリン騎士からもらった全額を見せた。

 

「十分だ。おつりが来るさね……で、あいつゴブリンだろ?大方捕まった所をテイムしたわけだ。だがありゃ只者じゃねえな。どこで見つけてきた」

「えっと……西にある星の丘あたりなんですが……初めて会った時からあんな感じなんです」

「ふん……レアものってわけだな。ありゃゴブリンってのを差し引いてもなかなか使えるぞ。手綱を放すなよ」

「はい、でもなんでそこまで良くしてくれるんですか?その、言ってはなんですけど……」

「ふん、ドワーフたるもの得物を見れば腕前はもちろん人柄もおおよそわかるのよ……ありゃ相当の変わり種だね。ゴブリンにしとくのが惜しい」

「そうですね……私もそう思います」

 

しゃっとカーテンがめくれる音がしてテイマーとドワーフの前にゴブリン騎士が戻った。

黒いシャツとズボン、そして黒いマントに覆面。なかなかぱりっとした格好だ。

 

「どうだ」

「馬子にも衣装だな」

「私は良いと思いますよ!」

「そうか。ところで剣はどうする。つくってくれるのか?」

「お前さんはどう思うね?」

 

ドワーフの親父が試すように尋ねる。

 

「いまの剣はよいものだが、もうそろそろげんかいだ。ていれしてもながくはもたん」

「だな。ありゃ予備にして新しいのを買え。最初のは悪いことは言わん、鋼にしとけ。いくつかわしが見繕ってやる。少し待て」

「ああ」

 

ゴブリン騎士は覆面の奧でかすかにうれしそうに答えた。ドワーフの親父はにやりと笑うのを隠さない。

やはり騎士を目指す者として武器を選ぶ時間というのは楽しいものなのだろう。

そしてドワーフは的確な答えに満足した様子だ。

ドワーフの親父は店の中を回って3本、ショートソードを持ってくる。

 

「この辺だろう。振ってみろ」

「ああ」

 

ゴブリン騎士は丁寧に感触を確かめながら素振りしていく。最初は型をなぞるように。やがて実践的な素早い振りに。

 

「これかこれだ。こっちはながさはよい。だが持ち手がややふとい。こっちは重心と持ち手はいいが、ややながすぎる」

「なるほどな。じゃあこっちをベースに少し削るか。良し!兜と鎧と合わせて夕方までにはやってやる。また来な」

「ああ。かんしゃする。主にもかんしゃを」

「いえいえ!装備がそろったらまた冒険に出れますね!」

「ああ、たのしみだ」

 

二人が会計を行い、店を出るとドワーフの親父はその背中を見ながらぽつりと呟く。

 

「巨人殺しの剣術をゴブリンがねえ……へっ、面白くなって来やがった。簡単にくたばるんじゃあねえぞ二人とも!……さて、仕上げちまうか」

 

ドワーフの親父は工房に剣を持っていき、程なくして槌の音と砥石の響きが空気を振るわせた。

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