ゴブリン騎士と農民姫   作:照喜名 是空

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東国の侍②闘技場

◎闘技場

 

武家者の計らいで、テイマー一行は個室の控え室を与えられた。

試合も、武家者の勢い任せの交渉術でほどなく行われる事となっている。

控え室は扉の反対側に小さめの窓がつけられ、四方の壁こそ土壁だが、ソファやテーブルなどはかなりいい木の家具が備え付けられている。

 

「ううむ……まさかこのように大きな舞台でとは……ううむ……」

「いいなあ、ボクも出たいよ。名を上げるチャンスだよねー」

「それはそうなのだが、しかし……私はゴブリンだ。このような場所で……ううむ」

 

ゴブリン騎士は思いきり緊張していた。場の熱気に呑まれていたのだ。

 

「とにかく、死なないで下さいね。多少、恥をかいてでも生き残って下さい」

「ああ……」

 

テイマーが声をかけても上の空である。

そのとき、ドアが激しくノックされた。

 

「おう!おるかゴブリン騎士どん!陣中見舞いじゃあ!」

「武家者どの!?」

「えっ、いいんですか武家者さん!?」

「よか、よかじゃ!」

 

さっさとドアを開けると武家者はどっかりと絨毯の上、ゴブリン騎士の前に腰を下ろし、酒瓶を見せた。

ゴブリン騎士も、武家者にならい、丁寧にゆっくりと座る。

 

「ははは、やっぱい緊張しとるか!」

「ああ……情けない事だがな」

「そんな時は気付けの酒じゃあ!テイマーどん、杯ばもってこんね」

「あ、はい」

 

白い徳利(とっくり)に入れられたのは、この地で作られた武家者の故郷の製法による芋焼酎である。

武家者は杯を受け取ると、それを容赦なく入れていく。自分に一杯、ゴブリン騎士に一杯。

 

「ゴブリン騎士どん、乾杯じゃ!」

「ああ、そうだな……我らの剣に、乾杯」

「おう!よか酒じゃ!」

 

二人はグビリと酒を飲み交わす。コボルト術士もテイマーもあえて割って入らなかった。

これから勝負を行う二人のための酒なのだ。

 

「むう……なかなか強い酒だな」

「おう、強かぞ!……まだほぐれちょらんようじゃの」

「すまん」

 

ここで武家者はゴブリン騎士の兜に覆われた顔に顔を近づけ、目を合わせる。

 

「ゴブリン騎士どん、(おい)ば見ろ。こりゃ、どこまで行っても(おい)とお(はん)の勝負じゃったい。外野が何を言わんが聞くな!(おい)が文句ば言わせん!お(はん)が勝負するのは(おい)ったい!」

 

じっと、黒い目とゴブリン騎士の目が合った。

真剣な目だ。全てを飲み込むような黒い目だ。

戦場の匂いのする目だった。

ゴブリン騎士は、その匂いに目が覚める心地がした。

 

「うむ!私も目が覚めた!情けないところをお見せした。この借りは勝負と、その後の酒で返させてもらおう!」

「よか!ほいなら楽しみにしちゅうぞ!」

「ああ!」

 

ゴブリン騎士の心に、炎が灯った。闘志の炎だ。

それを見届けると、武家者は徳利をもって嵐のように出ていった。

 

◎東国の剣技

 

『さあ!次の催しは異邦人のチャンピオン!武家者とゴブリン騎士の一騎打ちです!』

 

拡声の魔法具でコロッセオを囲む観客席に実況の声が響き渡る。

 

『ゴブリン騎士……ですか?』

『はい、最近歌に歌われる『辺境勇士ゴブリン騎士』ですね。なんでも、この街に来る際も武家者と共に三〇人の盗賊を倒したとか』

『なるほど、少なくとも実力はあるようですね。楽しみです』

 

闘技場の闘士達の血が染みついた土を踏みしめて、両者が対峙する。

闘技場はよくある競技場(スタジアム)と同じように円形の舞台を穴の底として、その周囲を観客席が取り囲む形だ。

白い荘厳な石造りで、柱や壁の彫刻は見事に尽きる。

だが、その見事な装飾も、いわんや観客席の熱狂も、二人の間には見えない。

ただ焼け付くようにお互いを見ている。

 

「胸をおかりする」

 

ゴブリン騎士が見事な騎士の一礼をして、木剣を構える。

 

「おう!来い!」

 

対する武家者もさっとお辞儀を返し、木刀を構えた。

 

『では、初め!』

 

その声と共に武家者は刀を横に構えて突撃を始めた。

 

「ちぇえええいっ!」

『出た!武家者の得意技、二太刀不要(にのたちいらず)!東国でもさらに奥地の秘剣!その基礎にして奥義がこれです!』

『突進と共に渾身の一撃。シンプルですが、基礎を極めた者はいつでも強い。ほとんどの闘士がこの一撃で沈んでいます』

『さあ開幕からの必殺の一撃にどう出る?ゴブリン騎士!』

 

ゴブリン騎士は猛獣のような勢いで迫る武家者を見据えながら冷静に計算を始める。

盾で受け流(パリィ)す?却下。盾ごと腕を破壊される。

剣でカウンターを?却下。あの勢いは止らない。相打ちになる。

回避。それしかない。ギリギリまで引きつけてその瞬間に全てを込めて最速で避ける。

 

『おおっと、ゴブリン騎士かわした!二太刀不要をかわした!だが名前とは裏腹にまだまだ連撃は続くぞ!』

「ちえええい!」

「ぬうう!」

 

五連撃。かすれば肉も骨も持って行かれるような剛力と、並大抵では避けられぬ精密さと速さ。

それをかわす、かわす、かわす。

時に前にローリングを行い、時にその小柄さを生かした速さで回避し、時にその技量でギリギリのところで身をかわす。

やがて、連撃は終わり、武家者は素早く下がる。

ゴブリン騎士も息を整え、戦いの場は一時の膠着を見る。

 

(おい)のチェストをかわすとはやるのう、ゴブリン騎士どん」

「見事な突撃だった。本当に危なかった。今度はこちらから行かせてもらう」

「来いやあ!」

「おおおお!」

 

しかし、巨人殺し流に突進技は少ない。あったとしても、二太刀不要を超えるものではない。

ならばどうするか。

 

『おおっと、ゴブリン騎士もこれは……二太刀不要を!?』

 

あの一撃を再現する。二太刀不要の最初の一撃を。

模倣し、再現する。ゴブリン騎士の得意技だ。

盗賊との戦い、そして直に身に受け、観察は十分。

 

「よかチェストたい。ばってん、慣れが足らん!」

「いいや、これでいい」

『おおっと、やはり猿真似に過ぎなかったのか!完全に受け止められた!鍔競り合いではゴブリン騎士が不利!さあどうするか!』

 

練度と膂力が不足するのは計算積み。あとは賭けだった。

そして、ゴブリン騎士は賭けに勝った。

受けられたその力を利用し、天高くジャンプする。

 

「巨人殺し流、兜割りが崩し……二刀必殺!」

 

武家者の頭上にジャンプして、木剣を思い切り振り下ろす。

だが武家者もまた、たぐいまれな強者。木剣の一撃に対し、頭突きで正面から迎撃した。

結果。

 

『出血だ!武家者、闘技場で初めての出血だ-!額が割れているぞ!大丈夫か!』

『ゴブリン騎士も吹っ飛ばされましたね。さあどちらが早く立ち直るか』

 

動き出すのは同時だった。

武家者が繰り出すはやはり二太刀不要。

対し、ゴブリン騎士は三刀必殺を選択した。

 

「ちぇえええい!」

「うおおおお!」

 

どちらが先に一刀目を入れられるかの勝負だ。

ゴブリン騎士の足を挫く一撃か、武家者の肩ごと首を持って行く袈裟懸けか。

 

『ゴブリン騎士だ!ゴブリン騎士が二太刀不要を避けたぞ!そのまま足への一撃を決めた!』

 

先を取ったのはゴブリン騎士だった。そのまま三刀必殺の流れに入る。

背面に回り一撃。さらに肩に乗って首に一撃。

さすがに武家者もこれにはたまらず、そのまま押し倒され、マウントポジションを取られてしまう。

ゴブリン騎士は追撃ではなく、武家者の首筋に剣を突きつけ、言った。

 

「勝負ありだ」

「ああ、(おい)の負けったい」

『決着ゥううー!なんとこのレベルの戦いで両者死なずに決着だ!あらたなチャンピオンの誕生かァー!?』

『タイトルマッチではなく、エキシビジョンなので、チャンピオンにはなれませんね。しかし、ゴブリン騎士、意外というか見事な戦いでした』

『いまはただ両者の健闘を称えたい!すばらしい戦いでした!』

『勝者、ゴブリン騎士!』

 

ゴブリン騎士はマウントをやめ、武家者に騎士の一礼をすると、観客の方に剣を掲げて勝利を誇った。

 

「だいじょうぶか、武家者どの」

「かっはっは!ああ、負けったい。よか!よかチェストじゃった!」

 

ゴブリン騎士が手を貸して、武家者がなんとか立ち上がり、一礼を返す。

二人の間には、血と汗のにおいがあったが、たださわやかな風が吹いていた。

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