ゴブリン騎士と農民姫   作:照喜名 是空

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東国の侍⑤魔術師ギルド

◎魔術師ギルド

 

それから2日ほど休養を挟み、テイマー達は魔術師ギルドに向かった。

魔術師ギルドは昼なお暗い魔術街にある。石造りで、黒い傾いた屋根の歪んだ家々。

道行く人々すら黒いローブに身を包む魔術師と魔女ばかりだ。

魔術街は、黒く陰気で気取った街だった。

 

「なるほど、いかにも魔術師らしい」

「そうだねえ、神秘的だねえ」

「少し治安もよくなさそうですね……あっ、ここみたいです」

 

魔術師ギルドはやや大きめの平屋だった。

それでも、過剰に歪んだ尖塔や屋根、複雑な文様の刻まれた窓から、いかにも偏屈そうな雰囲気が見て取れる。

やや埃っぽいドアを押すと、きしんだ音を立てて開いた。

中にいる魔術師や魔女たちが一斉に振り向く。テイマーは息を呑んだ。

 

「われわれは怪しいものではない、ただの冒険者とその従者だ。どうかお気にされるな」

 

ゴブリン騎士が前に出て堂々と言うと、魔法使い達は視線を外してそれぞれの作業に戻った。

 

「うーん、すごいねえ。この大釜ほんとうに使ってるみたい」

 

コボルト術士は目を輝かせて魔術師ギルドを見る。

魔術師ギルドの中は中央に巨大な釜と篝火、正面に受け付け、両翼に酒場と雑貨屋が並んでいた。

 

「とにかく受付に行きましょう。すいません、冒険者なんですが、森の貴石を売りたいんですが……」

「ようこそ、魔術師ギルドへ。冒険者さん……ほう、森の貴石か。珍しい物を売りに来たな。いいだろう、話を聞こう。まあ、座れ」

「あ、はい……」

 

受付の男は、鋭い容貌だった。痩せた青白い顔に黒い長髪、上質なギルド制服をきっちり着こなしている。

目つきも鋭く、実戦経験の豊富さを匂わせる男だった。

テイマーが座り、横にゴブリン騎士とコボルト術士が控えた。

 

「それで、モノは?」

「あっ、これです」

 

テイマーは魔法のポーチからオーガの握り拳ほどもある琥珀色の丸い宝石を出した。

森の貴石。あるいはトレントの琥珀。

使い方によっては莫大な富を生むそれをテイマーはそっと受付のカウンターに出す。

受付の男がかすかに感嘆のため息をもらした。

 

「ほう、これはこれは……なかなかの大きさだ。状態も良い……透明度もある。どこでこれを?」

「はい、黒い森の奥地で大蛇のお腹の中にありました。依頼の途中で討伐したんです」

「なるほどな。あの森の奥地であれば、そのくらいのものはいるか……いいだろう。ではこのくらいでどうだ」

 

受付の男は脇にあったメモにそっと値段を書いて提示する。

おどろくべき金額だった。テイマーの暮らしならば、五年は遊んで暮らせるだろう。

今度はテイマーが息を呑む番だった。

 

「ひえっ、あっ、はい。それでお願いします。あっそうだ。そのー、少し値引きされてもいいですから、この子に図書室を使わせていただけませんか?」

「そのコボルトか?……ひょっとして、あなたは街で噂の闘技場で武家者と共に狼藉者を倒したテイマー一行か?」

「あ、はい。たぶんそのテイマーであってます。身分証を見せましょうか?」

「ああ、頼む」

 

テイマーが首に下がった冒険者証を外して受付に渡す。

 

「ふむ……間違いないな。なるほど街の英雄の頼みであれば、無碍にはできん。とはいえ、取れるモノは取らせていただく。値引きはこれほどで……それから、そのコボルトの魔術師ギルドへの加入を求める」

 

値引き金額はさほどでもなかった。5年分の金が、4年11ヶ月になったくらいだ。

 

「どうします?コボルト術士さん。一応説明を聞いて置いた方が良いかと」

「うん、ボクもそう思う。すごく光栄だけどね。ギルドに加入するとどうなるの?」

「ああ、説明しておこう。まずデメリットだが、年会費がかかる。このくらいだ。だが、論文を提出してそれが有益だと認められれば二年は免除される。それから、緊急招集の時は連絡がつき、来れる距離であるならば来て依頼を受けてもらう。メリットはここの地下図書館と資料庫が使えるようになる。さらにギルド加入店なら値引きもある。依頼を受けることもできるし、会報誌を受けることもできる……こんな所か。どうだ?」

 

年会費はテイマーには十分に払える額だった。

 

「いいかな?テイマーさん。お金を払ってもらうことになるけど……ボクは加入したいな」

「良いと思います。依頼を受けられたり、図書館が使えるなら十分です。値引きもありがたいですし」

「やったあ!ありがとうね!じゃあボク加入するよ!」

「結構。ではそちらのコボルト術士には、審査を受けてもらう。文字は書けるか?」

「もちろん!」

「ならよし。別室までついてきてもらう」

「うん!」

 

こうして、成り行きでコボルト術士は加入テストを受けることとなった。

 

◎テスト

 

魔術師ギルドの二階、普段は会議室として使われているであろう部屋でコボルト術士はテストを受けることとなった。

重々しい椅子と机が並び、前には黒板。まるで教室のようだ。

 

「ではこれを解いてくれ。制限時間は60分」

「わかったよ!」

 

入試問題はさほど難しくはなかった。魔術師であれば知っている基礎知識である。

むしろ知識面よりも、安全面や倫理面に配点が多いようなそんなテストだ。

さらさらと部屋にコボルト術士の羽ペンの音が響く。

 

「できたよ!」

「うむ、受け取ろう。なるほど……では地下二階にいくんだ。そこで実技を見る」

「うん!」

 

コボルト術士は尻尾をふりふり動かしながら機嫌良く地下二階に行く。

彼は機嫌が良かった。ここではコボルトではなく、魔術師として扱ってもらえている。そんな気がしたからだ。

そして、こういった魔術師の巣窟で勉強をすることこそ、コボルト術士の夢の一つなのだから。

 

「よく来たねえ、小僧。じゃあ、実技を見せてもらうよ。このゴーレムを倒してみな。まあ、できるもんならね」

 

地下二階にいたのはしわしわの魔女だった。かぎ鼻で偏屈そうで、目には知性がある。

いかにも魔女という雰囲気でコボルト術士は大層よろこんだが、言葉には出さなかった。

顔は笑顔で尻尾が揺れていたが。

 

「わかったよー!」

 

ゴーレムは丁度人くらいの大きさで、目も鼻も無いつるんとした粘土人形に見える。

 

「『魔力は収束し、敵を狙う矢となる。さらに加えること一節。魔力の矢よ我が魔力を食らい、太く鋭くなれ。我が意のままに飛んで行け『魔力の太矢』」

 

 

コボルト術士の背丈ほどもある大きな杖に光がまばゆく集まり、轟音と共に魔力の太矢が放たれる。

ゴーレムはぼちゃ、と音を立てて大穴が胴に開くが、粘土のようにあっという間に修復される。

 

「んー……じゃあこれかな……『魔力よ、凝り、固まり、結晶となれ。我が意のままに飛んで行け。『魔力結晶の矢』」

 

コボルト術士の杖の先から光が溢れ、やがて水色に輝く結晶となり、ゴーレムに向かって飛んでいく。

しかし結果は同じだ。また再生する。

 

「ひっひっひ、それで終わりかい?」

「ううん、もうちょっと試して良い?」

「やってみな。好きにね」

 

老魔女は意地悪そうににやにやと笑っていた。あるいは、いたずらが決まって楽しそうに。

 

「『魔力よ、集まり、流れ、奔流となり敵を飲み込め。『魔力奔流』」

 

コボルト術士の杖から太い光の帯が放たれる。まさに瀑布のような勢いだが、ゴーレムは倒せない。

しかし、コボルト術士は納得した様子だった。

 

「ひーっひっひ!まあ、大した術だねえ、まだやるかい?やめときな」

「じゃあ、あと一回だけね」

「一回だけだよ。ああ、もちろんこの婆やこの地下室が壊れるようなことになったら失格だ」

「うん。なるほどね。じゃあ……『魔力よ矢となり飛んでいけ。『魔力の速矢』」

 

ダーツのような小さな魔力の矢は狙いを過たずゴーレムの頭を吹き飛ばした。

そして、ゴーレムは崩れた。

 

「ほう、やるねえ。お前さんどんな仕掛けだか気づいたのかい?」

「うーん、条件は全部は特定できないけど、これたぶん殺気とちょうど殺せる威力じゃないとダメ、かな?強すぎるのだと再生しちゃうみたい。あとは他の属性攻撃にもよるのかな……」

「ま、そんなところだ。よくいるんだよ。張り切りすぎてでっかいのぶっ放しちまうやつ、もったいぶって奥の手を隠し続ける奴。人一人殺すのに必要な火力は人一人殺せるだけの火力でいいんだよ。まあ、せいぜい力に溺れないこったね」

「はーい!ありがとうございました!」

「ま、がんばりな。受付で待ってるんだね」

 

かくして、コボルト術士は試験に隠されたリドルを解き明かし、受付に戻った。

 

「どうだった?コボルト術士どの」

「たのしかったよ!たぶん上手く行ったと思うけど」

「そうか、それはよかった……」

 

しばらくすると、受付の男が戻ってきて、メダルがはまったペンダントのようなものを出してきた。

 

「よかったな、合格だ。銅級からはじめてもらう。森の貴石の支払いはこっちに。今から君は魔術ギルド会員だ。図書室も好きに使え。もちろん、本を傷つけず、騒がないようにな……」

 

じゃら、と白金貨の詰まった袋をテイマーの横に置き、コボルト術士には銅のギルド証が渡された。

コボルト術士は目を輝かせて受け取り、それをつけた。

 

「どう、似合う?」

「いいですね!可愛いと思いますよ」

「えへへ、そうかな」

「それじゃあ、コボルト術士さんとゴブリン騎士さんにも分け前です。受け取って下さい。現金がないと困るときもあるでしょう?」

「うむ……では私の分は半分はコボルト術士どのに。いずれそれで文字を教えてもらおうと思う」

「えっ、今?うーん……ボクはしばらく図書室で本を読みたいけど、それが終わってからでも良い?」

「ああ、かまわない」

「じゃあ決まりだね!」

「うむ、これからもよろしくたのむ……夢がかなってよかったな。コボルト術士どの」

 

ゴブリン騎士はいつか、テイマーの家の家畜小屋で夢を語り合った夜を思い出す。

いつか、図書館に行きたいと……あの時の夢は叶った。

自分も、気づけば皆に認められる勇士となった。

思えば遠くにきたものだ。だが、満足だ。

 

「うん、みんなのおかげだよ!ありがとうね!」

 

コボルト術士はゴブリン騎士とテイマーにそれぞれハグをして図書室へと向かった。

この後、数日ほどコボルト術士は図書室に入り浸り、そこで魔術師仲間もできたようだった。

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