ゴブリン騎士と農民姫   作:照喜名 是空

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東国の侍⑥新たなる決意

◎新たなる夢、新たなる決意、新たなる冒険

 

コボルト術士が勉強している間に、テイマーたちと武家者はささやかながら勝利の宴を催すことにした。

ランプの明かりが白壁と木の窓をやさしく照らし、清潔なテーブルクロスの上の皿には七面鳥(ターキー)とその腹の中に詰め物(スタッフィング)が並ぶ。

黄金色の輝きを放つ蜂蜜漬けの四角い料理はなんだろうか?

そして酒はもちろん武家者の故郷の清酒だ。

 

「おう、乾杯じゃ!」

「うむ、我らが剣に」

「私たちの出会いに!」

 

キン、と小さなグラスに注がれた酒が乾杯される。

 

「うむ、良か酒じゃ!」

「ああ、強いが悪くない……それにしても、武家者どのは色々と風変わりな物をもっている。この酒にしてもそうだが。それほどの遠国から何の用でこのロンド王国に?」

 

話を切り出したのはゴブリン騎士からだった。今も兜を被って口元だけ開けている。

 

「おう、そいか!そいはのう、わいらは貿易に来たのよ。わいらはこっちじゃ珍しかもんもっとる。じゃっどん、この国のもんも向こうに持って行けば珍しか。じゃけん、交換じゃというわけじゃ」

「よ、よいのか。聞いておいてなんだが、それは国の大事ではないのか」

「いずれ皆知る。知らねばならん。わいらの功を広めるに超したことはなか!そいに、どうしてもまずか事はさすがに酒の席ではしゃべらんたい」

「そうか。ならば良いのだが……やはり交易の品は貴公の国の見事な剣か?たしか……そう、カタナだ。あれはすばらしいサーベルだ」

 

ゴブリン騎士が酒を飲みつつ大いに肉を食べる。気づけば、その緑の口元は微笑みを描いていた。

 

「おう!刀は()の国の誇りじゃっどん、それだけではなか。そいもそうぞ」

 

武家者はテーブルの上の黄金の皿を指さす。蜂蜜にまみれた四角く甘い固まりだ。

 

「これは……何かの穀物のようだが」

「これ美味しいですよ。甘くて」

「そいは良かじゃ!そいは芋よ。甘芋(スイートポテト)じゃ。わいらの国も昔にトゥアの国から仕入れたもんよ。こいはのう、荒れ地でも育って簡単に増やせるったい。土地も痩せにくか。よか芋じゃ」

 

これに食いついたのはテイマーだ。

 

「それはすごい作物ですね!救荒作物ってものですか?これだけおいしくて荒れ地でも簡単に育てられるとなると……これって戦略物資じゃないですか?」

「おう。兵も民も食わさねばならん。じゃっとん高く売れ申した。テイマーどんは農民の出か?」

「あっ、はい。すごく田舎で家畜の世話をしてました。畑もちょっと」

「そいがあしこほど強か冒険者になるとはのう。じゃっとん、ないごて都ば出て冒険者になったと?やっぱい、田舎は嫌か」

 

話はテイマーの手番に移った。ゴブリン騎士も知ることのなかった主の一面を知る良い機会だと思った。

 

「まあ……そうです。田舎は嫌ですね。でもそれ以上に都会が輝いて、夢で一杯だったんです。都会で便利で愉快な暮らしをしながら、牛でも飼いたい。なんてバカな事を考えてたくらいですから」

「夢か。よかでなかか。街中で飼えんとも、少し足を伸ばせば飼えるでなかか」

「ええ、冒険者を引退したらそれもいいかなって思いますね」

「人生は一度じゃ!這ってうつむいて生くるも、駈けて夢見て死ぬも同じぞ。そいならできるうちにしといた方がよか」

 

引退して片田舎で牧場をして余生を過ごす……そこに自分の居場所はあるのだろうか?自分は主の足かせになってはいないか?

今はただ、七面鳥の詰め物を食らうことでその疑念をごまかした。肉汁とパン、香草の素晴らしい香りも、心なしか色あせて感じる。

 

「ただ……その、今は色々冒険者としてできることが増えて……それだけじゃもったいないかなって」

「そいならもっとでかか夢を目指せばよか!受勲でもして荘園の領主なんかどうね?」

「ええ。ええ……今はまだ形が決まってなくって。ただ漠然と珍しくて強い使い魔をいっぱいテイムして牧場もちょっと弄って。そういうのができたらなって」

「そいならあれよ。力が強か獣を平時ば牛馬の代わりとす。いざとなれば兵として使えばよか」

「……いいですねそれ。それに、都の人にも動物と触れあう機会を作って理解を深めてほしいんです!」

 

テイマーの夢は酒を潤滑油代わりにして形を持ち始めた。

 

「よかね。まず畑ば持って、獣に耕させ、暇があれば見世物にす。いざとなれば兵として己が領地を守る。そいなら……まず貴族に話ばつけ、人を雇い、世話をさせるがじゃ。テイマーどんはめずらしか獣ば冒険ばいって取ってくればよか」

「楽しそうですね!夢、かあ……」

「おう良か夢ぞ!どうしたゴブリン騎士どん。剣ば捨てて畑を耕せと言われんか怖かか?」

「う、うむ……正直にいうと、そうだ。そのぼくじょうに兵のいばしょがあればよいのだが」

「かっはっは!どのみち獣追いの兵はいると。ゴブリン騎士どんは睨みば効かせ、テイマーどんの領地を守ればよか!」

「そ、そうですよ!それに冒険してめずらしいモンスターは捕まえたいですし!」

「そうか……ならばあんしんした。だが、芸のひとつも覚えねばならんか……?」

 

ゴブリン騎士は真剣に考えるが、悩むのはやめた。騎士として主の夢は応援したい。そこに共に並び立てるならば。

七面鳥の脂が、ひときわ美味く感じる。新しい冒険が始まる予感がした。

 

「はっはっは!ゴブリン騎士どんにはもう剣ちゅう一芸があるでなかか!演舞でもすればよか!」

「演舞か。それもいいな。ああ、それはいい……テイマーどの、私もあなたの夢を全力で応援するぞ!」

「うふふ、これも新しい冒険ですね。わくわくしてきました!」

「そうならゴブリン騎士どん。おはんの夢は何じゃ」

 

ゴブリン騎士は一息ついて酒をあおったが、自分の手番にやや慌てた。

 

「わたしか。わたしは主君に仕える騎士になるのが夢だった。今まさに叶えている。だが……次の夢というのもわるくない。夢、か……さて何にしたものか」

「そいならゴブリン騎士どん。嫁ばもらえ!子を山とこさえてゴブリン騎士団ばつくらんね!主に仕官できたなら、あとはお家ぞ。一族郎党仕えるんじゃ!」

「し、しかしわたしは見ての通りゴブリンだ。女性にゴブリンの嫁になれなどわたしはいえない」

「議ば言うな!おはんほどの男じゃ。探せばおる。そいに、ゴブリンとて女子(おなご)はたまにおるでなかか」

「……それはまことか」

 

心底驚き、むしろ静かにゴブリン騎士はたずねた。

このロンド王国ではそれは失われた知識だった。まれにいるメスゴブリンは「ゴブリン殺し」の毒霧と共に見向きもせずに殺されるようになったから。

 

「おはん知らんじょったか!雪深き山、熱か南国、痩せた地にたまにいよる」

「そうか……そうか!」

 

ゴブリン騎士の声に希望が灯っていくのが傍目からもわかった。ゴブリン騎士は力強く何度もうなずく。

 

「腹ば決まったようだの」

「ああ!わたしの新たな夢はゴブリンのよめをもらい、ゴブリン騎士団とし、終生テイマーどのに仕えることだ!」

「いいですねえ!乾杯しましょう、乾杯!」

 

テイマーがゴブリン騎士と武家者のグラスに酒をつぎ、三人はグラスを掲げる。

 

「ああ、新たな夢に!」

「よか旅路に!」

「新しい冒険に!」

『乾杯!』

 

再び、グラスが合わさり宴は続く。

テイマーとゴブリン騎士は新たな夢、新たな冒険に向けて決意を新たにした!

 

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