◎依頼を受けてみよう
灰色の石造りの無骨な建物。広い内部にはそれなりに良い絨毯が敷かれ、木製のカウンターが並ぶ。
併設された酒場には少ないながらも昼間から冒険者がたむろしていた。
テイマーとゴブリン騎士は酒場には寄らずに受付へと急ぐ。
「なるほど、
ギルドの受付はなんとも困った顔でテイマーとゴブリン騎士をながめた。
「は、はい……まとめるとそうなりますね……」
「やはりソロでゴブリン退治は無茶だったのでは?」
「そう思います……」
テイマーはしょんぼりと椅子に小さく座り、ゴブリン騎士はばつが悪そうに窓の外を向いた。
「ともあれ、成功は成功です。金貨5枚ですね。どうぞ」
「ありがとうございます。次の依頼なんですが、安全な採取系からやろうかと」
「ではこれはいかがです?」
受付が依頼の書かれた羊皮紙をテイマーに見せる。
紙は高価である。見て覚えるか、木片にでも書き写すのが一般的だ。
「結晶古竜の洞窟で薬草採取、ですか。良さそうですね」
「では、期限は3日です。急ぎの依頼ですので量は少なくて構いませんよ」
「わかりました!」
トラブルを避けるためにテイマーとゴブリン騎士はそそくさとギルドを後にした。
◎武器を受け取ろう
ゴブリン騎士とテイマーは一通り買い物を済ませると、ドワーフの武器屋に戻った。
買った沢山の物資はテイマーの持つ魔法のポーチにしまわれた。
これは内部が大きめの倉庫くらいあり、いくら詰め込んでも重くならない不思議な品だ。
当然高い。
テイマーが家を持てるほどには安定した収入を持つベテラン冒険者という証拠だ。
「親方さーん、戻りましたよー」
「おう、嬢ちゃんか。できたぞ」
ドワーフの親父が汗をぬぐって風呂敷に包まれたゴブリン騎士の装備を地面に広げる。
「おお……」
「お前さんのだ。つけてみろ」
「ありがたい」
さっそくつけてみる。
銀色に輝く騎士兜、籠手、足甲、皮の胸当てに鞘に入ったショートソード。鉄の
いささか手間取ったが、紐を結ぶくらいならばゴブリン騎士には問題なかった。
「つけ心地はどうだい」
「もんだいない。もっとごわごわするものかとおもっていたが」
「そりゃお前、その兜は肌の当たるところにはちゃんと皮を張ってあるからな」
「すばらしい」
「どれ、鏡で自分の姿を見て見ろ」
姿見をドワーフの親父が指さすと、ゴブリン騎士は足早に鏡の前に立ってみた。
黒いインナーの布の服に、マント、そして鈍く輝く鎧。腰には質素だが綺麗な鞘に入ったショートソード。
まさに空想していた理想の自分だ。
「お、おお……すばらしい。てんしゅよ、あなたは最高のぶきやだ」
「へっ、ご満足いただけましたか騎士様?」
「さいこうだ」
感動したと言わんばかりのゴブリン騎士に、芝居がかって応ずるドワーフの親父。
両者とも、性質は違えど満足した様子だ。
「お似合いですよ。良い感じですね!親方さん、ありがとうございます!」
テイマーもほほえましそうに笑顔でうなずく。
「へっ、こっちも面白え仕事ができたから満足ってもんよ。どれ、裏庭に試し切りのカカシがある。最終確認だ、振っていきな」
「ああ!」
「ありがとうございます!」
裏庭に抜けると、雑草がまばらに生えた中に弓用の的と、試し切り用の藁のカカシがおいてある。
「よし……やってみろ」
「わかった」
ゴブリン騎士は兜の奧で目を細めると、すらりとショートソードを抜いてあっという間にカカシまで距離を詰めた。
すばやく流麗な走りだ。
その勢いのまま回転してカカシの根元を切り、胴を切り上げ、ジャンプして首を一刀のもとに斬り捨てた。
ばさりとカカシだったものが地面に落ちると、ドワーフの親父はその断面をしげしげと見る。
「問題ねえな。見事なもんだ。巨人殺し流、『月輪』か……どこで覚えたんだか知らねえが巨人殺し流なら、こいつもいるんじゃねえのか?」
ドワーフの親父はゴブリン騎士に鍵縄を投げて渡した。
「あ、ああ……たしかにそれが必要だ。てんしゅよ、どこでその名を?このわざはそういう名前だったのか……」
「まあ、有名な流派だからな。それは使えるか?」
「もんだいない」
「んじゃ、もう少しデカい的を出すか」
ドワーフの親父がしゃがんで地面に手を当てると土が盛り上がり大きな人形が出来た。
人間の上限か、平均的なオーガくらい、あのゴブリンチャンピオンより少し大きなくらいだ。
「てんしゅよ、これをきっていいのか」
「やってみな」
「ああ!」
ゴブリン騎士は左手の円盾を腰にしまって鍵縄を持つ。
ドワーフの親父とテイマーは興味深そうにそれを見ていた。
しゅ、という音がすれば鍵縄のフックが土人形の首に引っかかり、ゴブリン騎士が縄を一ひねりすると首輪のようにロープが土人形の首を一周する。
さらにゴブリン騎士がひらりと地面を蹴れば、あっという間に土人形の首にまで跳んでいく。
肩車をされるような体制になると、ショートソードですぱりと首を落す。
ただの鋼剣であるにもかかわらず、こうまで見事に斬れるのは紛れもなく熟達の技だと言えよう。
「す、すごいですね……」
「できるじゃねえか」
「ああ、てんしゅのすばらしい装備のおかげだ。なにか礼をしたいが……あいにく、ありがねはすべて主にあずけてしまった……」
ドワーフの親父が鼻を鳴らす。
「へっ、そんじゃあ死なずにまたそいつの手入れをしに帰ってこい。そんでもってそいつで手柄の一つもあげてみせるんだな」
「……かたじけない」
ゴブリン騎士は収刀するとそれは見事な騎士の一礼をして見せた。
「私からもありがとうございます。すごく良い装備にしてくれたんですね……あっ、鍵縄のお金は?」
「いらねえよ。それより、次も冒険に行くんだろ?どこに行くんだ?」
「結晶古竜の洞窟で薬草採取です!」
「ああ、なんだか貴族の嬢ちゃんが熱を出したとかだな。いいじゃねえか。ま、明日辺りにでも馬を飛ばして行ってやりな」
「ほう、このいらいの薬草は貴族の娘のために……なるほどひとだすけか。すばらしい」
「ゴブリン騎士さんらしいですね……じゃあ今日はゆっくり体を休めて、明日こそ冒険に行きましょう!」
「ああ!」
装備は整った。さあ冒険だ!