ゴブリン騎士と農民姫   作:照喜名 是空

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遺跡探索②神の船

◎遺跡探索②

 

遺跡探索は朝から始まった。

このティリスターの廃遺跡(ダンジョン)は半ば土に埋もれた巨大な建物の一部だ。

なめらかな表面にはびっしりと何かの文字が描かれている。

 

「中にはいるぞ。ああ、罠の類いは心配いらんよ。皆、取り尽くされておる。宝もな」

「それでも、まだ何か見つかると?」

「ああ、隠された部屋があるはずじゃ……」

 

横ではロムルス商会に雇われた職人たちが思い切り遺跡にハンマーを叩きつけ、無理矢理掘削しようとしている。

 

「……ひどいもんじゃ」

「ああ、敬意というものはないのだな……止めぬのか?」

「言って聞くならの。無理じゃろう」

「そうか」

 

やかましい掘削音から逃れるように二人は奧へ奧へと入っていく。

 

「しかし……これは何をかいているのだ?」

 

ゴブリン騎士は壁を撫でながらその表面に書かれた文字を見る。

 

「ああ、それはのう。いろいろじゃよ。ほとんどがその時の政府のお告げじゃったり、巷の噂じゃったり、ときには暗号化された絵じゃった。あとは愚にもつかん愚痴とかな。おそらくこの遺跡が生きておった頃はその日によって文字が変わったようじゃよ」

「この全てが……?とてつもないな」

「ああ、とてつもないんじゃよ。じゃが今はもう何の宝もない……」

「ではなぜここに?」

「それでもな、時折見に来たくなるんじゃ。まだ何か残ってないか、とな……一日二日で何か見つかるわけもないのはわしも解ってるんじゃよ」

「……そうか」

 

まるで点検するかのように遺跡内部を調査していくジャレオン老。

やがて、ある行き止まりの壁で足を止めた。

 

「……これは」

「どうしたのだ?」

「わずかにじゃが、壁に隙間ができとる。扉があるぞ!」

「なんと。新しい発見なのか?」

「うむ!さて、どうやって開けたものか……」

 

よくよく見れば、ゴブリン騎士の指1本分ほどの隙間が床と壁の間にできている。

ゴブリン騎士の頭にひらめくものがあった。今こそこの技を使うときだ。

 

「これは上に押し上げればよいのか?」

「うむ……おそらくはの」

「ではわたしに考えがある。まかされよ」

「おお、たのむぞ」

「黄金の大樹、巡る生命、あふれ出す力。『つかの間の剛力』!うぬぬぬぬおおおお!!」

 

ゴブリン騎士は隙間に指をかけて、渾身の力で持ち上げた。

やがてずりずりと言う軋みを立てて隠し扉が開く。

立て付けがわるかったのか、ジャレオン老とゴブリン騎士がなんとか入れそうなだけ開いて扉は止った。

 

「ふう、ふう……どうだ?」

「おお、おお!やった!やったぞ!」

 

ジャレオン老はランタンの明かりを隙間から差し入れて確認する。

火は消えない。つまり、中では息ができるということだ。

未知の洞窟に入る際には、空気に必ず注意が必要なのだ。

 

「……わしが先に入る。もし中に毒気がたまっておってわしが倒れたら、このロープを引っ張って助けるんじゃ」

「わかった、まかされよ!」

 

すっかり取り尽くされたはずの遺跡で未発見の空間……二人は嫌がおうにも興奮する。

『宝』の一文字がどうしても脳裏に浮かぶのだ。

やがてロープをくくりつけたジャレオン老が中に入り……やがて中から淡い光が漏れ出した。

 

「大丈夫か!ご隠居どの!」

「あ、ああ……大丈夫じゃ。わかる、解るぞ!ここをこうして……こうじゃ!やった!やった!神の船はまことにあったのだ!」

 

どうやら大丈夫のようだ。ゴブリン騎士も身をかがめて内部に入る。

そこは不思議な空間だった。おそらくは廊下なのだろうが、壁面がつやつやと輝き、その上を淡く輝く文字が流れている。

そしてジャレオン老が指揮者のように指を動かす度に文字は動き、色とりどりに輝く。

 

「ここは?」

「さらなる別の区画に『跳ぶ』ための前室じゃよ!いいか、ここをこうして……ああこうか。これで……よし!」

 

ジャレオン老がまた指を動かすと、廊下の突き当たりに波打つ鏡のようなものが現われた。

楕円形で水面のようにわずかに波打っている。銀色で、まるで水銀だ。

 

「これは……」

「次なる階層に通じる道じゃよ!わしはゆくぞ!老い先短い命、ここで賭けんでどうする!」

「ご隠居!またれよご隠居!ううむ行くしかないか……」

 

老人はロープを外すと鏡に飛び込み、消えてしまった。ゴブリン騎士は迷ったものの後に続く。

 

◎神の船

 

鏡を抜けた先は明らかに人の手入れがされている美しい森。

その中にいくつも集落のようなものがある。

半球状の硬質な建物は家だろうか?まったく見たことがない建築様式だった。

そして一番に目を引いたのは……空中に浮かぶ虹色の貴石。見ている間にも形を次から次に変えている。

美しい森には見たこともない巨大な青い鉄のカニのようなものや、見たこともないほど美しい人々が穏やかに歩いている。

 

「な、なんと……」

「お、おお……おおお……言い伝えはまことじゃった……ここが、こここそが!神の船じゃったんじゃ……!」

 

そして、その全てがおそらく建物の中なのだ。なにしろ、自分たちはそれを高い壁の上にある渡り廊下から見ているのだから。

 

「やったなご隠居!おめでとう、と言うべきか……」

「おお、おお……ありがとうゴブリン騎士よ。お主が生き証人じゃ。わしはやったぞ!やったんだ!」

 

ジャレオン老はしばらく男泣きに泣いていた。ゴブリン騎士もそれをそっと見守った。

やがて、ジャレオン老が気を取り直すと二人は探索を再開した。

 

「よし……いくぞ!ここの全てを見るまで死ねぬ!」

「ああ、行ってみよう」

 

下へ降りるべき階段はすぐに見つかった。どうもこれも金属でできているらしいが、錆び一つない。

かつんかつんと音を立てて二人は降りていく。

地面に降りる。柔らかい芝生だ。みずみずしく綺麗に刈られている。

だが、そんなことよりも優先すべき事があった。目の前に現地住民らしき少女達がいるのだ。

 

「ええと、のう……話は通じるかの?」

「なあに?あなたたち、初めて見る人たちだね!だあれ?どこから来たの?」

「わーい、めずらしいぞ!あそぼうよ!なにする?それとも疲れちゃった?おひるねする?」

「銀色の人、なあにそれ?ヘルメット?あつくない?」

 

少女達は短めのスカートに精巧で上質な衣服を着ている。あるいは、短いズボンをはいている子もいた。

数は三人。まったく警戒心がなかった。

 

「なんと言えばいいかの……外というか、上というか……遠くから来たんじゃよ。誰か大人の人はおるかのう」

「うむ……申しおくれた。こちらはジャレオン老、私はゴブリン騎士。なんと言えば良いのか……探険……?そう、探険にきたのだ」

 

それに対し、少女達は笑顔のままで楽しそうに答える。

 

「大人?わたし大人だよ!イズスも!あっ、わたしサリア!ジャレオンロウに、ゴブリンキシ、だね!」

「たんけん?なにそれ?!面白そう面白そう!あっ、でも疲れてそうだよね!おみずのむ?」

「ゴブリンキシ?なにこれ?なんでこの固いので体を覆ってるの?あっ、わたしはアイノだよ」

 

異様に愛想が良い。距離感が近い。

アイノという少女に至ってはゴブリン騎士の鎧をぺたぺた触っているし、イズスはジャレオン老の手を引こうとしている。

 

「と、とりあえず落ち着いて話せる場所に行きたいのう……」

「うむ……それと少女とは言え女性、あまり不用意に男にふれないでくれまいか」

 

少女達はきょとんとした顔で不思議そうにしたが、それでもよくわからないなりに触れられるのは嫌そうだ、と理解した。

 

「そっかー、ふたりはあんまり触られるのいやなんだね!ごめんね!」

「じゃあおみずのんでおやつ食べよう!いっぱいお話しよ!」

「疲れてるの?だいじょうぶ?じゃあお家いく?やすめばなおるの?」

 

少女達は離れると、ゆっくりとした歩調でゴブリン騎士たちを自らの家へと案内し始めた。

 

「ご、ご隠居……何か妙だ。悪意は感じないが……」

「うむ……悪意、そうじゃ。悪意がなさ過ぎるんじゃ。どうもここは常とは違う場所と考えておいた方がよいの」

「ああ……奇妙な感覚だ」

 

ともかく、二人はついて行くこととした。

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