ゴブリン騎士と農民姫   作:照喜名 是空

35 / 83
遺跡探索③奇妙な人々

◎奇妙な人々

 

少女達に案内された家はやはり奇妙なものだった。

モルタルのような何かで作られた半球状のかわいらしい家。

窓が左右につき、正面には入り口がある。

 

「さ!ここだよ!わたしたちのお家!」

「うむ、おじゃまするぞい」

「おじゃまする」

「なにそれ!あいさつ?おもしろーい!」

「ああ、あいさつじゃよ」

 

内部は木の床に絨毯が敷かれ、真ん中には床に座る形式のテーブルがあった。

 

「のみもの作るね!ちょっと待ってて!」

「いや、おかまいなく……気にせんでよいよ」

「そう?でも作っちゃったよ」

 

サリアは素手でリンゴのような実を握りつぶしてジュースを作っていた。

そしてどういう理屈か、キッチンに備えられたねじのような装置から水を出して手を洗い、ジュースを薄める。

さらに戸棚から栗のような木の実を取り出して皿にもりつける。

 

「おやつ食べよう!落ち着いたら話そう!」

「おいしいよ、食べようよ」

「食べたらお話しよ!」

 

少女達に勧められるまま、ジュースを飲み、木の実の皮を剥いて口に放り込む。

どちらも、驚くほど甘く、美味しい。

 

「う、うむ……それでなんじゃが、お母さんとかお父さんはおられるかの?」

「私はアイノのお母さんだし、イズスはお父さんだよ!」

「……う、うむ……そうか……では他の大人の人はおられるかのう…」

「私おとなだよ?子供も産めるし、みんなだいたいこれ以上大きくならないよ?」

「う、うむ……?」

 

二人は今度こそ言葉を失ってしまった。

どうやらここの住人は子供から大きくならず、そのまま子を産むようだ。

よく見えれば、サリアはスカートを、イズスはズボンをはいている。

顔立ちや体つきもよくよくみれば、イズスのほうが中性的で胸も平坦だ。

 

「ううむ、ならばこう……体が大きくて……そう、年をとってる偉い方はおられるか?村の長のような……」

「おお!そうだのう!神の船について聞きたくてな!おお、そうじゃそれに……」

 

混乱からなんとか立ち直ったゴブリン騎士が先に口を開いた。

 

「えっとー、それならアンゲルテさまかな!物知りで、ずーっと昔から生きてるの!そういえば、体も大きいよ!」

「おお、うむ……その方から話を聞きたいんじゃが……」

「いいよ!食べたら行こうよ!」

 

それから簡素なおやつを食べるまで、いくらかの事が聞き出せた。

彼らはこの森で果実や木の実を食べて生活しているらしい。

そして、大人といえるものはアンゲルデさま、という存在以外おらず、彼らはほとんど年を取らずに生きている。

死ぬときも、一ヶ月ほど前からなんだか元気がなくなり、食欲が減って、気がつけば眠るように死ぬようだ。

無垢な子供達による優しい楽園……そう、言えるのだろう。

 

「……ジャレオン老、楽園とは、なにか恐ろしいものだな」

「ああ、どうやら天の国とはわしら俗人が入って居心地がいいもんではないらしいの。老い先短い時にこんなこと知りとうなかった」

「だいじょうぶ?おひるねする?」

「いや、大丈夫じゃよ……」

 

アンゲルデ様の住処は、森を少し進んだ先にある教会のような小さな建物だった。

 

「アンゲルデさま!はいるよ!」

「どうぞ。おあがりなさい」

「はーい!」

 

アンゲルデ様は、女神のような顔をした修道女のような格好の女性だった。

背が高い。オークより少し小さいくらいで、すらりとした体型だ。

 

「サリア、良く来てくれましたね。お客様を連れてきてくれて、ありがとうございます。私から出向こうと思っておりましたので、丁度良かったのですよ。さあ、お菓子をあげます。皆で食べなさい」

「わーい!」

「それから……私たちは少し難しい話をします。お家に帰りなさい」

 

アンゲルデは静かな凄みを持った女性だったが、サリアには慈母のような笑みを見せていた。

 

「んー、ふたりは?」

「ふたりも、二人のお家に帰れますよ」

「そっかー。じゃあ、お別れだね!じゃあね!」

「ああ、ありがとうの」

「うむ……かたじけない」

 

そうして、二人はアンゲルデに向き直った。

今度こそ、真実が明らかになるだろうと。

 

「どうぞ、こちらへ……座って下さい」

 

教会内部を歩く。玄関に講堂、そして食堂。

円筒形のふかふかした布製の椅子。そして木のテーブル、それから上座にあるアンゲルデの大きな椅子。

 

「さて……何から説明したものでしょうか。とりあえず、私は貴方たちを害する気はありません。幾ばくかのお土産をお渡しし、それから帰っていただくつもりです。理由は、お分りですね?貴方たちにとっても、ここは居心地の良い場所ではないと解ったはずです」

「……彼女らを守るためか?」

「ええ、世俗の人々に知られれば無事では済まないでしょうから」

「ああ、過ぎた純粋無垢は毒だわい。わしも、神代の事と、ここの事について聞いたら帰るし、ここに通じる道は閉ざしておくわい」

「賢明です。あなたがせねば、こちらから閉じる予定でした。どのみち、ここには二度と来れないでしょう……ゆっくりと聞きたいことをお聞き下さい」

 

飴色の木のテーブルに、窓からの光。煌めく埃。爽やかで落ち着いている。

どうにか、自分たちの常識が通じそうな場所だ。

ジャレオン老はしばらく考えて、口を開いた。

 

「ではまず……ここは一体『何』なのじゃ?それで、ここを管理しとる貴女は何者なんじゃ?」

「一つ一つ答えましょう。私はあなた方が天使や女神と言う古い存在です。白銀の騎士神と共に、星の海を渡り、この世界にたどり着いた不死のモノ……」

「なんと……いや、やはりと言うべきかの。神の船にいると言うことは、そういうことじゃろう」

「ええ、そしてここが何か、ですが……神話にはお詳しいですか?大繁栄期の崩壊、その時の記述にこんなものがあったはずです。

『やがて人々は罵り合い争い初め、とうとう神の武器を持ち出すに至った。ここで神々は大いに嘆き悲しみ、人々から過ぎたる文明を奪った』

『そして人々に枷をはめられた。過ぎたる欲に、過ぎたる野蛮さに。怒りに、悲しみに、嫉妬に。黒く邪な心に枷をはめられた』

『そうして、人々はわずかばかり、優しくなった』

あの子達は……その試みの一つです。『枷』は最初から完成していたわけではありません。今でも完璧なものは作れておりません。あの子達は、枷をはめる代わりに、邪な心そのものを切り取った種族です。われわれ神々は、人をよりよく優しい生き物にしようとしました。ですが、結果は見ての通りです。あまりに穢れなく優しいと、生きてゆけない……あの子達は、いくつもの習作の一つ……ですが、産まれてしまった以上、面倒は見ねばなりません」

「つまり……ここは神々の箱庭、あるいは牧場のようなものなのかのう……!?」

「言葉を選ばずに言えばそうです。我々は人の形のモデルケースとして彼らを作りました。作った以上は養わねばなりません」

「そうか……」

 

それから、ジャレオン老はいくつか神の船について専門的な質問をしたが、ゴブリン騎士には状況を把握するので精一杯だった。

ここは神の船であり、故に目の前のアンゲルデは女神であり、あの少女達はアンゲルデが作った『罪なき人』なのだと理解した。

つまりは……ここは昔話で語られる妖精国や楽園、そういったこの世ならざる場所で、女神と妖精の住まう地、そのように思えば良い。

そうなんとか飲み下した。

 

「さて、そういうことですので……財宝を求められて来たあなた方には気の毒ですが、わずかばかりのお土産で我慢して下さい」

「も、もちろんじゃ。これ以上欲をかこうとは恐れ多いですじゃ。それに……わしは神の船にたどり着き、その真実を知れた。それでもういいですじゃ」

「う、うむ!勝手に立ち入った身のうえで、これ以上何かをいただこうなど、女神様にいえようか」

 

アンゲルデは満足そうに微笑み、うなずいた。

 

「あなた方はどうやらまともな心を持っているようですね。我々の試みも、無駄ではなかったようです。それに、ゴブリン騎士……あなたは混沌のモノ、ゴブリンであるのに、清い心を持っておりますね。いいでしょう。気に入りました。少し近づきなさい。加護を与えます」

「は、ははあ!」

 

ゴブリン騎士はアンゲルデの前に跪く。

アンゲルデは心地よい声で呪文をささやき、ゴブリン騎士の鎧に手を触れると、青い蔓草のような文様が鎧に刻まれる。

 

「『空調』の魔法をかけました。これでその鎧は暑い時には涼しく、寒いときには暖かくなるでしょう」

「ありがとうございます!」

「ジャレオン。あなたには神の船の証拠としてかつて用いられていた金貨を渡しましょう」

「ありがとうございますじゃ!」

 

ジャレオン老は深々と頭を下げ、小さな金貨袋を受け取る。それでも20枚以上はあっただろう。

 

「さあ、この場所の思い出を受け取り、貴方たちの居場所に帰りなさい。貴方たちが帰るべきはここではないのだから」

 

そして、アンゲルデが近くにあった姿見の鏡を指さすと、鏡が波打ち、ティリスターの遺跡の風景を映し出す。

その時、爆発音が鳴った。

 

「これは!?」

「……どうやら、他にも紛れ込んだ者がいるようですね。これは、あなた方の仲間ですか?」

 

アンゲルデが鏡をもう一度指さすと、村で暴れる武器商人たちが写る。

 

「これは……知り合いですじゃ。ですが仲間ではありませんじゃ。ゴブリン騎士、すまぬが……」

「ああ、許せん輩だ。アンゲルデ様、こやつらは我々がまねいてしまった厄介事。わたしが討ち果たしましょう」

 

武器商人の手下達は少女達を捕まえ、押し倒そうとしている。

アンゲルデは不愉快そうに顔を歪め、そしてうなずいた。

 

「いいでしょう。あなた方がこの不埒者の仲間でなく、倒して下さるというのならば協力しましょう」

「ありがたい……女神様とともに戦えるとはなんたる栄誉」

「急ぎなさい、猶予はあまりありませんよ。さあ、鏡の中に……」

「ははっ!」

 

アンゲルデが鏡を操作すると、鏡が波打った。どうやら入ることができるらしい。

ゴブリン騎士はためらいなく鏡の中に入っていった。

 

「あのう、わしは……」

「戦えないのでしょう?待っていなさい」

「ははあ!」

 

アンゲルデはゆるりと立ち上がり、鏡へと消えた。

ジャレオン老はただそれを祈るように見ていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。