ゴブリン騎士と農民姫   作:照喜名 是空

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実りの章 一年目・秋冬
交易会に行こう!その①


◎祭りだ!

 

それからゴブリン騎士は時にソロで、時にパーティーで活躍した。

夏が過ぎ、季節は早秋になった。

 

テイマーの牧場は少しづつ軌道にのってゆき、羊や山羊、鶏やウサギといった比較的飼いやすいものから順調に増えていった。

思った以上に懐にも余裕ができた。

 

もちろん、その間にもゴブリン王国は成長を続け、油断ならぬものとなっていったが。

 

 

「交易会に行きましょう!」

 

始まりはいつものようにテイマーからだ。

 

「交易会?」

「春と秋にあるんス。春は冬にこつこつ作り溜めてたモンを売るんス。秋は刈り取りが終わったモンの豊作祭りっスね。家畜の買い付けとかもやってるッス」

 

ゴブリン騎士の疑問に錆猫が答えた。

 

「うちでも羊毛や毛糸を売りますし、そろそろロバか馬が欲しいですしね……いえ、ケルピーに不満があるわけじゃなくってですね。誰でも使える荷運び用の家畜がいた方がいいでしょう?」

「なるほど、手伝わせていただこう。わたしはなにをすれば?」

「たのしそうだねえ、僕もいくよー」

「じゃあ、ゴブリン騎士さんは力仕事で……コボルト術士さんは荷造りを!」

「まかされた」

「わーいやろうやろう!」

 

そうして、作業が始まった。

といってもさほどの面倒は無い。売る物は今年は羊毛とそれから作った毛糸だけだ。他に売れそうな物はチーズがあったが、やはり家庭料理の域を出ていなかった。また、冒険に必要な物資でもあるので、チーズの出品は取りやめた。

 

「よし……と。こんなものか」

「良い感じですね!じゃあ行きましょう!」

「留守は任された……表舞台は今を生きる者の特権……存分に楽しんでくるが良い」

 

留守番は幽霊剣士と近所の人がすることとなり、残りの生者全員で行くこととなった。

なにしろ一種のお祭りである。楽しまねば損だ。

なお、留守番の報酬はオルゴールや書籍といった嗜好品が代価である。

近所の人々からは香料や香辛料などの嗜好品も頼まれている。

お土産もきっちり買うこととなってしまった。

 

「じゃあ行くよ水妖馬(ケルピー)!」

 

馬車で朝早くに出て、昼前までには城塞都市へとたどり着いていた。

城門前の検問はやはりいつもより混んでいる。

本格的な開催は明日なのだが、早めに詰めかけている者も多いのだ。

 

「ずいぶん人が多いな……出店できる場所はあるのだろうか?」

「あっ、それは大丈夫です。一月前にギルドで予約してますから」

「テイマー殿はさすがぬかりないな」

「プロですからね!」

 

のろのろ、のろのろと馬車は進み、人と馬車でごった返す中でようやく所定の場所へとたどり着いた。

馬車は駐車場に止め、車上荒らし防止の白教の「盗人除けの札」を貼っておく。

持ち主が決めた解錠の呪いを知っていなければ馬車に触れるだけで電撃が走る仕組みだ。

裁きの神である白銀の騎士神らしい札と言えるだろう。

 

「じゃあ、交代で店番をしまして、皆さんにもお小遣いを……」

「ありがてえですだ!」

「有難っス」

「ゴブリン騎士さんとコボルト術士さんはあとで一緒に買い物行きましょうね!」

「うむ、いぞんはない」

「それでいいよー。幽霊剣士さんのお土産の本は任せてね」

 

かくして出店である。

とはいえ、売るものが羊毛と毛糸なのだからやることはひどく単純だ。

お客が来れば値段交渉をして売る。実にシンプルである。

 

「羊毛を羊二頭分くれ。銀貨二四枚くらいでどうだ」

「あー……それだとちょぉっと……三〇枚は欲しいっスねえーダメならよそ当たってくれっス」

「一頭あたり一五枚はフェルトの値段だろう。無加工ならもう少し安くできるはずだ」

「いやあ、うちも商売なんでぇ……」

「じゃあこれはどうだ?金細工の宝石だ。オマケでつけるからせめて二五枚だ」

 

商人がぎらぎらしたブレスレットを持ち出してくる。

こういった物々交換も交易会の楽しみの一つだ。

 

「これ本物っスか、コボルト術士さん」

「あー……一応?本物は本物だねー。売ることができるくらいには本物だよー銀貨五枚っていうと微妙だけど、三枚くらいはあるかなー」

「んー、じゃあ交渉正立っス。ゴブリン騎士さんブツをお願いするッス」

「うむ、まかされよ」

 

荒縄でぎっちりと縛った羊毛を商人に手渡すと、商人は魔法の鞄に入れる。

 

「良い取引だった。また来年」

「まいどっス」

 

交渉は主に錆猫がやり、鑑定はコボルト術士、力仕事が赤毛とゴブリン騎士の仕事だ。

とはいえ、客はそうそう来る者ではない。暇な時間が発生する。

ゴブリン騎士は最初は用心棒よろしく威圧感を出して立っていたが、これはテイマーに止められた。

 

「えっと、威圧感を出すよりもですね。技を見せて盗めば逃げられないという所を見せてはどうでしょうか?」

「う、うむ……あまり威圧してもよろしくないということか……ぜんしょする」

 

そこでゴブリン騎士が取り出したのは良い感じの木の棒と小石だ。

これを棒の先で小石を立てる。なかなかのバランス感覚だ。

それに加え、時折小石を宙に飛ばしてはまた棒の先に止らせる。

やがて、まるで魔法のように棒の先で小石が舞う。

ほとんど曲芸だった。

コボルト術士がこっそりとゴブリン騎士の足下に鉢を置いた。中にはわずかばかりの小銭を入れておいて。

 

「これは?」

「きにしないでねー、そのうちわかるから、続けて続けてー」

「う、うむ……」

 

騎士の格好をした小さな種族が、小石を弄ぶ曲芸をする。

これは良い客寄せになった。

あっという間にゴブリン騎士の足下の鉢に小銭が投げられていく。

 

「う、ううむ……複雑な気分だ」

「でもみんな楽しそうだよ?」

「そうか……そうだな」

 

気がつけば棒と小石はくるくると宙を舞い、時に精妙なバランスを見せる。

一息つけば、拍手が生まれていた。

見世物になったつもりはないが、楽しんでもらえたならばまあそれでよいではないか。

そう納得する事とし、丁寧に騎士の一礼をする。

鉢を見るとかなりの額があった。

 

「テイマーどの、これを……」

「いえ、それはゴブリン騎士さんが稼いだお金です。お小遣いの足しにしてください。どうしてもというなら、アイデアを考えたコボルト術士さんと山分けしてください」

「うむ!半分は受け取ってくれ。コボルト術士どの」

「えへへ、じゃあもらっちゃうよー。ね、ゴブリン騎士。こういう芸を見せるのも悪くないでしょ?ゴブリン騎士の技は牧場でもちゃんと役に立ってるよ」

「う、うむ……かたじけない。心配をかけた」

「じゃあ行きましょう!食べ歩きをしつつ、馬を買います!」

 

テイマー一行は夕暮れの交易市を歩き始める。

交易会でまさに街はお祭り騒ぎだ。

この期を逃すまいと屋台が建ち並び、菓子や食べ物を売り始める。

揚げドーナッツやリンゴ飴、飴のようにグルグルに巻かれた焼きウインナーは手始めだ。

鉄板の上に並ぶのはミニピザやクレープ。

中にはブタや鶏、ウサギの丸焼きが串刺しにされて火の上をぐるぐる回る。

 

「ようゴブリン騎士!食ってかねえか」

「斥候殿、なぜ貴公が肉屋の屋台を?」

「これもつきあいだよつきあい。ダチが肉屋なんだ。金も稼げるしな!オラ先輩の店だ。なんか食ってけ」

「うむ、では巻きウインナーを一つ……」

「しけてんなあ!おまけにこいつも食ってけ!」

 

黒皮鎧の斥候は皿代わりのカチカチで皿型に焼いた黒パンの上にこれでもかと雑多な肉を盛る。

豚の角煮から、ホルモン、羊肉のざく切りに細切れのウインナーまで山盛りだ。

その上にでん、と巻きウインナーが乗る。

まるで肉のパフェアラモードだ。

 

「こ、これほど……?」

「金は銅貨五枚でいいぜ。良いから食え!冒険者は体が資本だぞ」

「たしかに安いが……うむ、わかった。私も男だ。このくらいは食ってみせよう」

「良い返事だ!もっといるか?」

「いや、結構だ」

 

ゴブリン騎士は困り果てた顔でテイマーとコボルト術士を見るが、二人とも苦笑するばかりだった。

まあ仕方あるまい、と片手に皿代わりの黒パンを載せて食べ歩く。

 

「ま、まあ少しは食べますから。今日は晩ご飯いらなさそうですね……」

「どうせ知り合いに会うだろうから、みんなで別ければ?」

「うむ、すまぬ……」

 

街には陽気でのどかな音楽が流れる。この牧歌的な音色はバンショーだろうか?

その中に異彩を放ちながらも調和する雅やかな音色。狐人巫女の琵琶(イースタンリュート)だ。

 

「酒じゃ酒じゃ-!飲めや歌うのじゃあ-!騒げ騒げ-!」

「狐人巫女殿はいつも通りだな……」

「おおっ!テイマー一行ではないか!おんしらの歌を歌ってやろうかえ?その肉をつまみに少しよこすのじゃ!そしてそこの重装騎士の酒屋でエールを買うのじゃ!」

「あはは……盛り上がってますね、じゃあ歌は一曲だけ控えめにお願いしますね。肉は余ってたのでどうぞ好きなだけ取って下さい!」

「うむ、ぜひコボルト術士の歌を頼む」

「うひひ、謙遜しよってからに!まあよいわ。では『コボルト術士、共同墓地で一五人の黒魔術師を鏖殺す』の段を……」

 

歌は妖しくも激しいものだった。

おおむね、邪教の魔術師が粋がるが、コボルト術士に全て技を封殺されて、一五人がかりでも打ち合いで拮抗し、最後には竜のシャウトでばったばったと倒されたという話だ。

おそらく、三人がソロで活動していた時期の物だろう。

 

「おお、さすがコボルト術士どのの魔術の冴えよ!どうであった?貴公とてさすがに苦戦したと思うが」

「んーまあ相手の引き出しが少なくって面白くなかったねあの件。スクロールも目新しいのは3つくらいだったし」

 

コボルト術士はいつのまにかちゃっかり買っていたリンゴ飴をガリガリ噛みながら平然と言った。

実際、彼にとっては雑魚だったのだろう。

 

「ははは、コボルト術士どのにかかれば魔術師とて雑兵か。まあそうであろうな」

「でも歌に歌われるのは気分が良いね!」

 

コボルト術士の口元がにっこりと笑う。へっへっへ、と舌が出た。

 

「うむ!いずれまた三人の冒険の歌ができればよいな」

「ありがとうございます、狐人巫女さん。これ、少ないですが」

「おひねりいただいたのじゃあー!ほら皆もおひねりをするチャンスじゃぞ!ではテイマー殿も祭りを楽しんでの!」

「はい!」

 

少し進めば重装騎士が上半身裸でどんがどんがと腰にくくった大太鼓を叩いていた。

周囲にも似たような上半身裸の筋肉男たちが同じように太鼓を叩いている。神秘的な笛の音色に合わせ、重厚なリズムが熱を生む。

演奏が一区切りつくと、ウォークライのような雄叫びをあげて男達は太鼓のバチを振り上げた。

 

「イ゛ェ゛ェ゛ァァアア!!……おお、ゴブリン騎士どのか!貴公も交易会に来ていたのだな!」

「ああ、もちろんだとも友よ!勇壮なえんそうであった!このゴブリン騎士、胸に熱くたぎるものがあったぞ!」

「おお、わかるか。我が一族は北の海の出でな。平素は酒造を生業としておる。私もこうして手伝っているというわけだよ」

「なるほど、それで酒の屋台と一緒に……一杯もらおう。それとすまぬが肉があまってしまってな。腹が減ったであろう、すこし食べてくれまいか」

「おお、良いとも友よ!肉を肴に乾杯しよう!」

「うむ!」

 

ゴブリン騎士が銅貨を渡すと、豪快にタルに木のジョッキを入れてエールが差し出される。

ジョッキそのものも魔法で作られた巨大な氷にさっきまで突き刺さっていたもので、冷えた口当たりが大変にうまい。

 

「貴公の勇壮なる演奏と!」

「我らの武勇に!」

「乾杯!うわはははは!」

 

一息に飲み干し、肉をがっつく。これこそ祭りの醍醐味である。

 

「ゴブリン騎士さーん、行きますよー」

「おっとすまぬ。馬を買いに行くとちゅうであった。ではまたな!」

「うむ!楽しまれよ!」

 

そうしてやってきた城塞都市の壁外にある家畜市。

喧噪を離れたそこには烏羽の騎士がいた。

いつもの鎧姿ではなく、ロングコートにトップハットで紳士の装いである。

それでも腰にサーベルを下げているが。

 

「あれっ、烏羽の騎士さんじゃないですか」

「ほう、貴公テイマー殿か。どうされた?新しい従魔でも買いに?」

 

烏羽の騎士は木箱に腰掛け、後ろには何やらテントがある。彼も店番らしい。

 

「当たらずとも遠からずですね。荷運び用に馬を買いにきました!」

「ほう、そうか……であれば受付はあちらだ。あの老婆殿に聞くが良い」

「ありがとうございます。ゴブリン騎士さんたちは少しこのへんでゆっくりしててください。ゆっくり選びたいので……」

 

言うが早いかテイマーは馬を選びに市場へと歩いて行く。

 

「おいおい貴公、私は子守ではないのだぞ……」

「すまぬ。烏羽殿の邪魔はせぬ。あちらのベンチで休んでいるとしよう」

「いや構わんとも。それならば私の店の品でも買っていってくれ」

「烏羽どのの店……ほう、これか。この箱は一体?」

「オルゴールだ。後は手慰みに作ったブリキの玩具だな」

 

木箱を積み重ねて作った即席のテーブルの上には白い布が敷かれ、その上にブリキの玩具やら箱形のオルゴールが並んでいる。

大体は箱を開ければ曲が流れる小さな物だ。中にはパンチカードがくっついてハンドルを回して奏でるオルガニートすらあった。

 

「ほう……聞いてみても?」

「壊さねばそれでよい。貴公、どうやら買う気のようだな」

「ああ、我が師に無聊を慰めるオルゴールをと頼まれていてな」

「師か。巨人殺し流の……うわさは聞いている」

「ああ、その方だ。さてどれが良いか……」

 

オルゴールの箱を開いてみる。優しげな音色が秋風に解けていった。

いくつか聞いてみるが、善し悪しがわからない。

 

「たしか、剣に生き、剣に死したとされる方だったな。ならばこの曲はどうだ」

 

烏羽の騎士はわざわざ木箱の中から古びたオルゴールを取り出し、ねじを巻いて奏でた。

不思議な曲だった。不安になるような、寂しいようなそれでいて、安らかな眠りのような……

そう、それは月明かりにどこか似ていた。きっとこれは鎮魂歌なのだろう。

 

「……良さそうだ。買わせていただく」

「ククク、まいどあり。ところで貴公。先ほどからそちらも気になっているようだが……」

 

烏羽の騎士がオルゴールを布に包みつつ、指さす先にはブリキの騎士人形のおもちゃがあった。

 

「……いや、少し童心をおもいだしただけ。買うほどではない」

「そうかね?大の男とて、心には少年を飼っている物だ。それは誰しも、私もだ……」

「……いや、やめておく」

「ふむ……貴公、たまには心の潤いというものを大事にしたまえよ。張り詰めているばかりではいつか折れるぞ」

「……ああ、りかいしている」

 

ゴブリン騎士がばつが悪そうにオルゴールを受け取ると、コボルト術士がオルゴール数個に本を何冊か。さらに香料もカウンターに出していた。

 

「ところでこの本とこの本、後コレとコレとコレもくれる?」

「うむ、良いとも。コボルト術士どのには解っているだろうが、こちらの魔術書の術は……」

「悪用しないよ?」

「くれぐれも頼むぞ」

「うん。それよりもこの絵本いいね。僕も初めて見るのが多いよ」

「お気に召していただいたようで何よりだ。ところで、忘れずにな」

「うん、ヤバいよねこの術」

「うむ、理解しているならばよい……ゴブリン騎士殿、これが男の買い物というものだ」

「……ううむ」

 

結局、しばらく悩んだ後ゴブリン騎士も騎士人形を買った。




「盗人除けの札」
持ち主が決めた解錠の呪いを知っていなければ馬車に触れるだけで電撃が走る呪符。
裁きの神である白銀の騎士神らしい符と言えるだろう。

「古びたオルゴール」
木製の箱に綺麗な鉄製の縁取りがはめられたオルゴール。
ねじ回し式で、箱を開けると音が鳴る。
不安になるような、寂しいようなそれでいて、安らかな眠りのような……
それは月明かりにどこか似た曲である。きっとこれは鎮魂歌なのだろう。

「ブリキの騎士人形」
精巧にできた銀色の騎士人形。
ねじを回すとゆっくりと歩きながら剣を振る。
大の男とて、心には少年を飼っている物だ。
時には心に潤いも必要だろう。
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