ゴブリン騎士と農民姫   作:照喜名 是空

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ゴブリン騎士の結婚その①凱旋

◎ゴブリン騎士の嫁とり

 

それから、ゆっくりと時間をかけて翌日の夕暮れごろにゴブリン騎士とその妻はシモンズ氏の村に帰ってきた。

まずは酒場に向かう。

 

「酒場……ですか。中に入るのは初めてです」

「あんずるな。どうどうとしておればよい。私もよくしていただいた」

「はい……」

 

開きっぱなしの扉をくぐると労働を終え、酒場にたむろする人々の目線が二人に向いた。

ゴブリン騎士はそっと前にでて妻の手を取りずかずかとカウンターに向かう。

 

「マスター、冷たいエールをたのむ」

「おお、あんた……無事に帰ったんだね。そちらが例の娘さんか?」

「ああ、私の妻となった。ジャクリーヌ、顔を……」

「え、ええ……」

 

ジャクリーヌはフードの奥の仮面をずらし、マスターにそっと顔を見せる。

これも帰り道で決めていたことだ。どのみちこの村からゴブリン騎士の牧場に嫁入りするのだ。

知られてもまあ問題はあるまい。

シモンズ氏の立場が悪くなるならば、いっそアッシュピーク村に来てもらえばいいのだから。

 

「……そうか、そういうことだったのか」

 

マスターはジャクリーヌの顔を見て息をのみ、そして全てを察した。

 

「……それで、竜人さまは?」

「息災にされている」

「そうか……それはよかった。ああ、よかったよ……おめでとう。お二人さん。じゃあこいつはおごりだ。飲んでいきな」

「ああ、かたじけない」

「ありがとうございます」

 

そうして、出されたのはオレンジ色のカクテルだ。

実際にオレンジとレモンを絞って入れている。

 

「あの、これは?」

「蒸留したリンゴ酒(シードル)、薬酒、そこにオレンジとレモン。古いレシピさ。名前を……ハネムーン。チェイサーには新鮮な氷水……しあわせになりなよ。お二人さん」

「……ありがとう、ございます」

「かたじけない」

 

そっと、グラスを合わせて乾杯ししずかに口をつける。

初恋のように甘酸っぱく、香り高い。

どちらともなく、笑みが漏れた。

 

「うまいな」

「ええ、本当においしい……」

「ありがとうマスター。これは水の礼だ」

 

ゴブリン騎士は少し多めに金を支払おうとするが、マスターはその手をそっと押しとどめた。

 

「うけとれないよ。それは新しい生活の足しにしてくれ」

「返す返す、かたじけない……」

「いいんだ。おめでとう」

 

チェイサーの水もすっと飲み、一息つくと二人して慣れた様子で椅子をおりて外に出る。

何も言わずしずかに見守ってた群衆ははぁ、とため息をつき、二人が出ていくと誰ともなく顔を見合わせ、笑いあった。

あたたかな笑いであった。

 

◎父と娘

 

そうして二人はシモンズ氏の家についた。

カナリアンテをそばに座らせ、その辺の木につなぐ。

ノックをすると待っていたかのようにシモンズ氏が出てきてジャクリーヌを抱きしめた。

 

「おお、おお……よかった。よく戻ってきてくれたジャクリーヌ。何もされていないかい?」

「ええ、竜人さまはなにもされていません。ゴブリン騎士さまも」

「そうか……ありがとう、ゴブリン騎士。よくやってくれた」

 

シモンズ氏はジャクリーヌを離し、しゃがんで目線を合わせてゴブリン騎士に尋ねる。

 

「それで、以前の話なのだが……もう一度、考えてはくれないか?」

「あ、ああ……その話なのだが……ぜひ、お受けしたい。いや、こういわせてくれ。あなたの娘をどうか妻にいただけるだろうか?」

 

不器用な男と男の空気があった。シモンズ氏は涙と共に笑顔を顔に出して、何度もうなずいた。

 

「ああ、ああ……!ふつつかな娘だが、ぜひもらってやってくれ……ジャクリーヌ、どうか、幸せに……!」

「はい、お父様……」

 

再び父と娘は抱き合い、そしてシモンズ氏は娘の額にキスをすると涙ぐみながら離した。

 

「シモンズ殿。できれば数日間この村に滞在したいと思うのだが……その、父と娘。つもるはなしもあろう」

「ああ……そうしてくれるか?それから、どうか義父と言ってくれ」

「うむ……義父殿」

「ありがとうございます。あなた……」

「いや、よいのだ。当然のことだ」

「うふふ」

「ははは……」

 

そうして三人はたどたどしいながらも温かな夕飯を食べ、そして夜になると父と娘は何事か話し合っていた。

だが、ゴブリン騎士はそれを聞くことはない。己が立ち入るべきことではないからだ。

 

◎ギルドにて

 

数日が過ぎ、三人はシモンズ氏の馬車にジャクリーヌの嫁入り道具を乗せて城塞都市までもどってきた。

 

「とまれ!なんだその大荷物は?あんたはゴブリン騎士じゃないか。なにかあったのかい?」

「ジャクリーヌ、すまんが顔を……」

「え、ええ……」

 

ジャクリーヌが仮面を外すと顔見知りの門番は驚き、そして納得した。

 

「あー……そういう……そういうことか。おめでとうゴブリン騎士。結婚式はもうしたのか?」

「う、うむ……そういうことだ。やはりきちんとした方がいいだろうか?身内だけでひっそりとやるつもりだが」

「やっちゃいなよ。金とかいろいろ面倒なら冒険者ギルドの酒場を借りてやっちまえばいいぜ」

「そ、そうだな……うむ、その手があるか」

「派手にやってくれよ!ただ飯たかりにいくからな!」

「ああ、門番殿にはいつも世話になっているからな……もし予定が合えばきてくれ」

「おう!幸せにな!」

「ああ……」

 

こうしたことが何度か。その度にジャクリーヌは恥ずかしそうにしていた。

だがやがて町の皆がゴブリン騎士に親しげにしているのを見て、恥ずかしがる必要も恐れる必要もなさそうだと安心した様子だった。

ギルドに着くころにはすでに話はうっすらと広まっていた。

 

「受付殿、依頼達成だ」

「はい、おめでとうございます。シモンズ氏のサインも間違いなく……おめでとうございます、シモンズさん。大丈夫ですよ、ゴブリン騎士は信頼できる男です」

「ええ、この数日でよくわかりました。安心しました……ああ、それから依頼達成は間違いありません。料金はここに」

「はい、間違いなく」

 

料金は右から左に手数料を引いてゴブリン騎士の手元に渡され、手続きが終わるころにはゴブリン騎士の周りはいつもの人々が集まっていた。

 

「わが友ゴブリン騎士よ!そなた結婚するとはまことか?その、そちらの女性が……」

「ああ、わが友重装騎士よ。紹介しよう。私の妻となる女性ジャクリーヌだ。ジャクリーヌ、こちらはわが友だ」

「夫がお世話になっております。この度この人の妻になりましたジャクリーヌです。よろしくお願いします」

 

そう言うとジャクリーヌはもう慣れた様子で仮面を外した。

おお……と皆がうなった。なかなかの美少女に見えたからだ。

 

「うむ!わが友にはこちらも世話になっておる。よろしくな奥方どの。それで結婚式はするのか?ギルドでやるのがおすすめだぞ!」

「ああ、そのつもりでいる」

「わっはっは!そうかそうか!みんな!そういうことだ!友よ!前祝にぜひ飲んでいけ!奥方も義父殿もだ!金は私が出そう」

 

重装騎士がカウンターにじゃらりと金貨の束を出すと、その上に烏羽の騎士もさらに大量の金貨を置いた。

 

「クックックッ、水臭いぞ重装騎士。その奢り、私も出そう。よくやったな貴公。おめでとう」

「やべえな!おいゴブリン騎士俺ぁひとっ走りテイマーさんところに知らせに行ってくるわ。ほかに伝えとく奴いるか?」

「黒革鎧の斥候どの……すまない、感謝する。では『太陽の武器屋』のドワーフどのと、町の東門の門番殿に頼む」

「おう!俺の酒も残しといてくれよ!」

「ああ!」

「めでたいのう!祝い酒じゃ!前祝じゃあ!皆で思いっきり祝うのじゃあー!重装騎士、いつものやるのじゃいつもの」

「うむ!各々がた杯を掲げよ!我らが武勇、ゴブリン騎士の勝利、そして彼らの未来に!幸福あれ!」

 

酒場にたむろする冒険者たちも皆杯をかかげ、笑った。

 

『乾杯!』

 

それから宴の主役であるゴブリン騎士とジャクリーヌ、そしてシモンズ氏は引っ張られるように一番目立つ席に連れ込まれ、大量の料理と酒をテーブルに置かれることとなった。

かくして、狂乱の結婚式が幕を開ける!

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