ゴブリン騎士と農民姫   作:照喜名 是空

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クリスマスマーケットに行こう

◎冬ごもり

 

いよいよ雪がちらつき始めると、村人も冒険者も冬ごもりの時期に入る。

農村では一家族で豚を一頭二頭ほど潰し、燻製(ハム)やスパイス漬けに加工する。

一冬をそれで乗り切るのだ。

そしてその肉を買うために、あるいは冬至祭(クリスマス)のプレゼントや飾りつけのためにクリスマスマーケットが街では開かれる。

つまり、クリスマス商戦である。

 

「皆さん!冬至市(クリスマスマーケット)に行きましょう!今日はその前祝いです!」

 

今宵はその準備ができた前祝い。母屋の食堂に皆そろっていた。

ぼんやりと明るいランタンとロウソクの明かり、暖炉の薪のはじける音。

長テーブルだけでは収まらず、使い魔たち用に低いテーブルとイスを出している。

そしてその二つのテーブルの上にはどんとどでかい豚の頭が一つづつ乗っている。

これもまた目玉商品の一つであり、味見と称したねぎらいである。

 

「ええ、頑張って作りためましたものね」

「牧人がハシバミを売るって初めて聞いたッス」

「昔からある家内安全の縁起ものですだよ」

 

秋口から初冬にかけて、冒険が減ると冒険者たちは内職をする。

とくに、牧人(テイマー)は冬になるとハシバミの飾りを縁起物として売ることもある。

というのも、牧人(テイマー)は薬師や産婆と同様にある種の異端的性格を有するからだ。

そこでテイマーは一計を案じ、クリスマスリースにハシバミを編み込んで大々的に売ることにしたのだ。

 

「ゴブリン騎士は山に枝取りに、ボクは飾り作りに……頑張ったよねえ。売れるといいねえ」

「うむ……ハシバミやヤドリギを取るのにはなかなか苦労した」

 

ゴブリン騎士は冬の山に入り高木に宿るヤドリギを切り取り、コボルト術士は錬金術でぴかぴか輝く飾りをそれはもう工場のように作ったのだ。

 

「……手仕事というものも、暇がつぶれてよい……」

「先生、お手伝いいただきありがとうございます」

「……よいのだ……」

 

今夜は、その出立の晩であり皆で母屋の食堂に集まり宴となったのだ。

皆の手には温かいホットワインの杯が。

 

「では、本年の苦労をねぎらう意味も込めて……いや本当に皆さんありがとうございます。特にゴブリン騎士さんとコボルト術士さん。あなたたちがいなければマジで何度も死んでましたから……皆さんとの出会いに!乾杯(メリークリスマス)!」

「ああ、出会いに」

『メリークリスマス!』

 

ゴブリン騎士は皆の顔と妻の顔を見て兜の奥で笑い、杯を掲げた。

あたたかいワインが喉を通っていく。

味付けに入れられたシナモンやカルダモンの香りが心地よい。

明日が楽しみだ……

 

 

◎夜明け

 

夜明け。ちらほらと雪が降り始め、東の空に太陽が昇る。

遠くでは城塞都市の明かりが良く見える。

息をのむほど、美しかった。

 

「……世界は、美しいですね」

「ああ、私もいつも驚かされている。そなたと出会えてから特にな」

 

ゴブリン夫妻はカナリアンテに、残りのメンバーは馬車に乗っている。

二人の吐く息が白い。それすらも幻想的であった。

 

「はい、私も……きっとずっとこの時を覚えているでしょう」

「ああ……きっと忘れるものか」

 

遠慮がちに、太陽の明かりが空を青く照らし始めた。

やがて、城塞都市の関門が見える。少ないながらも隊商たちがクリスマスマーケットに向けて並んでいる。

テイマーの一党もこれに続いた。

レンガ造りの関所では大きな門が開かれ、脇に門兵たちが雪の降る中手続きを行っている。

 

「はい次。おお、あんたテイマーさんたちじゃねえか。久しぶりだな!」

 

関所の門兵が親しげに笑った。どこかで見た顔だ。確か……

 

「ええと、前にお会いしましたよね。たしか……そう、ご領主さまのお城で?」

「ああ、門番のフェーロだ。前は城で案内したっけな。今日はクリスマスマーケットだからな。俺も駆り出されてる。テイマーさんもクリスマスマーケットか?」

 

テイマーが御者席から手を出してフェーロから必要書類を受け取り、羽ペンでサインする。

フェーロは笑顔でそれを受け取ると『入場よし』のスタンプを押した。

 

「ええ、牧場をやってまして。肉とか羊毛とか飾りとか売るんですよ」

「へえ、じゃあ夜勤が終わったらあとで行ってもいいか?」

「ええ、もちろん!」

「じゃあまあ頑張ってな。入場よし!はい、じゃあ次」

「ええまた後で!」

 

何やら良い雰囲気でテイマーはフェーロと別れた。

ゴブリン騎士は妻と顔を見合わせて笑った。これは彼女にも春が近いのだろうか?

 

 

◎クリスマスマーケット

 

ゴブリン騎士は屋台テントの設営を終える。

椅子代わりに用意していた木箱に座って一息ついた。

周囲には同じような屋台が並び、祭りのにぎわいが近いことを示している。

とはいえ、まだ暗い朝方だ。人通りが少ない。

 

「あなた、お疲れ様です」

「なに、一度やったことだ。勝手はわかっている」

「では、朝ごはんにしましょう」

「うむ、馳走になる」

 

今日の朝ごはんはスパイス肉の瓶詰だ。

これは伝統的な保存食で、唐辛子と岩塩、コショウを肉の玉ねぎ炒めに混ぜ、さらにそれを多量の麦を敷き詰めた瓶に入れる。

瓶を湯で満たし、さらに瓶ごとゆでる。こうすることで何重にも殺菌されて半年は腐らない。

これもまたテイマーの目玉商品の一つだ。

今回はまかないとして商品の中からいくつか出したわけだ。

 

「なるほどあのビンがこうなるわけか……」

「ええ、テイマー様の郷土料理だそうです。私も初めて知りました」

 

スパイス肉の瓶詰は食べるときにさらに一度茹でる。

そして中身を取り出すと、肉のスパイス炒めと炊きあがった麦でパエリアとなる。

 

「おお、これは刺激的な味わいだな」

「お口に合わなかったでしょうか?」

「いや、うまい。体が温まる」

 

唐辛子にコショウで味付けた肉だ。当然辛い。

そのためにあえて脂身を使ったり麦を入れたりするのだ。

実際、味は悪くない。冬にはちょうど良いピリ辛の味だ。

 

『おいしい!やすい!瓶詰肉!冬はずっと持つ!羊毛も飾りもあるよ!おいしい!やすい……』

「あれは?」

「あああれはねえ、すんごい簡単なゴーレムだよ。教えた言葉をずっというだけなの」

 

屋台の机の上では犬のぬいぐるみがしゃんしゃんと小さなシンバルを鳴らして客寄せの口上をえんえんと言っていた。

 

「な、なるほど……心なしかコボルト術士どのに似てるな」

「似せたんだよ。せっかくだから顔も売っておきたいしねー」

「うむ……これがあれば便利だな」

「そうでしょ?あっ、瓶詰おいしかったよゴブリン騎士の奥さん」

「あらまあ、ありがとうございます」

 

その横ではテイマーたちが早速朝から商売に精を出していた。

朝から並んでいた隊商たちもまた、商品を買いに来たわけである。

実に商魂たくましい。

 

「豚肉を売ってるのか?じゃあこっちは牛肉が余っててな……交換するか?」

「ええ、お願いします。生肉ですか?それとも加工済ですか?」

「おっ、肉の瓶詰か。懐かしいな……一つもらおう。妻に土産が欲しい」

「有難っス。リース飾りもどうすか?」

「他はリースに羊毛か。覚えてるか?夏に来た客だよ。また買いにきた」

「ああ!あのブローチの!あれ役に立ったですだよー」

 

雪の降りしきるまだ暗い朝に、実に元気な事である。

 

「皆、張り切っているな。私も負けていられん」

「ええ、お手伝いしましょう」

「がんばってねえ」

 

かくしてゴブリン騎士の人生で二回目の祭りが始まった。

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