◎野外の料理
「だが、飯のまえに最低限の処理はしておかねばな。少年猟師、魔法剣士、手伝いを頼めるか?」
「ああ、慣れてるよ。これだけ大きいのは初めてだけど」
「うむ、やるのだが」
ゴブリン騎士は魔牙猪の首筋を切って最低限の血抜きを、少年猟師は腹を切って内藏を掻き出し、魔法剣士はその腹に魔法で氷を作って詰め込む。
その間にコボルト術士と少女術士は料理の用意をする。
「うーん……狩りは初めてじゃないけど、やっぱり血抜きは慣れないわね」
「慣れた方がいいよー。普段から肉を狩りに行ってみれば?」
「そうね……鳥とかから慣れようかしら」
「それがいいんじゃないかなあ」
手際よくコンロを組み立て、魔法で出した水を大鍋にかけて湧かす。
「ところで何を作るの?」
「とりあえず干し麦飯をお湯で戻しておかゆにするよー。ゴブリン騎士、そっちはどう?」
「ああ、問題ない。心臓と肝だ。これは細かく切って鉄板で焼く」
「生で食べるのもおいしいのだが?」
「虫がいるかもしれぬ故、よく焼いたほうがよい」
「なるほど」
ゴブリン騎士もまたフライパンの上で細かく切った猪の心臓とレバーを焼いていく。
味付けは塩のみだ。真に新鮮で良い肉は塩だけでうまい。
「頃合いだな」
ジュウジュウと肉が焼ける良い匂いがして、少年剣士はごくりと唾を飲む。
「さあ、皿を出されよ。私が盛ろう」
「うおお、美味そうだ。お願いします!」
「私のは多めに頼むのだが」
「飲み物は?ワインがあるけど……」
「水で薄められて飲まれよ。まだ酔うわけにはゆかぬ」
「わかったわ」
皆が鉄皿を出し、ゴブリン騎士が麦粥の上に肉を盛っていく。
焚き火を輪になって囲み、皆はそのへんの石や切り株を使い座る。
「いただくわ。これは肉粥なのかしら、それとも
「どっちでも良いのだが?うむ、うまい!」
「やっぱ狩りたての肉はうめえなあ!」
「おいしいねえ」
「うむ、うまい
思えば最初にテイマーにもらった食事も肉粥だった。今ではすっかりと好物になった。
そうして今度は自分が振る舞う番になっていることを、ゴブリン騎士は感慨深くかみしめた。
そこに馬の足音が聞こえる。
「あっ、休憩ですか?皆さん」
「うむ、テイマー殿、すまない。
「テイマーさんの分もあるよー。猟師さんたちの分もね」
「うーん……わかりました。いいでしょう。一端休憩にしましょう。そろそろ地元の皆さんも来られますしね」
テイマーは一つため息をついて、輪の中に入った。
「うん、やっぱり新鮮な肉は美味しいですね」
「ああ、後でカナリアンテにもわけてやろう」
そこに地元の猟師たちも追いついてくる。
「おお、やっとるなあ。わしらも混ぜてくれるか」
「ええ、大丈夫ですよ!あとできれば残りも今日中に終わらせたいので、誰か案内をつけていただけると助かります」
「おう、メシ食ったらな。肉はちょいと買い取らせてもらうよ。村で宴をしたいからな」
「いいですよ。残りの皮や牙はギルドのルールで貰いますけど」
「ああ、かまわんよ。おーい皆!飯だ!」
『おおー!』
そこからはちょっとした宴会だった。
地元の猟師たちは酒を飲み、肉を食らう。
「そいじゃあ、おめえらはゆっくり飲んでてくれ。俺はちょいと冒険者さんたちを案内してくるよ」
「おお!ありがとな冒険者さんたち!たすかったよ!この猪がいなけりゃ俺らも楽ができる」
「このうめえ肉にもありつけたしな!おいお前ら乾杯だ!」
「おう!冒険者さんに乾杯!」
『冒険者さんに!』
地元の猟師達が一斉に杯を掲げる様はなかなかのものだった。
冒険者達の顔が思わずほころぶ。
「見よ、これが貴公らが勝ち得たものだ。この喜びと誇りを忘れないでほしい」
「へへっ、いいことすると気分が良いな!」
「そうね。小さくてもやったんだわ」
「うむ、それはそうと次があるのだが」
「ああそうだな……急ぎでやろう」
◎巻きでやる
実際、そこからは早かった。
毒蛇の巣窟は山肌の一角にちょっとした洞穴があり、その中に蛇が満ちている、といったものだった。
「このような場合には通常は煮え湯を注ぎ、その上から毒液を振りかけるが……今回はコボルト術士どのに手早くやってもらう」
「いいよー『魔力よ、燃え滾り、形と成せ。熱在りながら決して炎でないもの……『滾る
沸き立つマグマはあっという間に毒蛇を残らず灰に変えた。
続いては大毒花。森の中にちょっとした小屋くらいある気味の悪い花が咲いている。その花粉が毒なのだ。
「普通であれば、遠くから火炎瓶などを投げて対処するが……今回は魔法剣士が凍らせた後に少女術士によって爆破する」
「わかったわ!」
「うむ、『氷の精よ。冷たく穏やかな死をもたらす風をおくれ、冷気よ、吹きすさべ『吹雪』』」
魔法剣士の指輪から光が漏れ、白い冷気の霧が現われたと思えば魔法剣士の指さす先に飛んでいく。
猛烈な冷気はあっという間に大毒花を氷像にしてしまう。
「いくわよ!『
どがん、という派手な音と共に大毒花は砕け散り、氷の削り粉となった。
大ネズミに至っては『ゴブリン殺し』の毒煙が役に立った。
「洞窟などの閉所にいる敵はこれが有効だ。だが毒は一日で消えるがそれまでには絶対に誰も入るな」
「これで死んだの?」
「生きているならば、今頃死ぬ気でこちらに逃げてくるだろう」
それらが終わる頃には夕方となっていた。主に移動に時間がかかったのだ。
何しろ街道沿いとはいえ、森に囲まれた村だ。魔物が居るところまで山の中を歩くのだから。
「いやー、早かったな!これで夏くらいまでは安心だよ。ごくろうさん。終了のサインを」
「ええ、またよろしくお願いしますね」
テイマーはそこまでやることはなかったが、それでもきちんと監督していた。
「では、村の宿屋を一晩借りますね!」
「ああ、お疲れさん」
村に帰ると、猪肉によるお祭りがまだ続いていた。
なお、カナリアンテには哀れに思ったのか、村人がすでに肉をくれていた。
「はい!というわけで一日目はこれで終了です!お疲れ様でした。宿は村の宿屋を使います。安全第一ですからね」
「そういうものなの?」
「ええ、無理して夜中移動してもいいことないです。お金の節約のために野宿もあんまりオススメしません。それよりはしっかり休んだ方が良いです」
無理してゴブリンに捕まったテイマーの言葉には重い実感がこもっていた。
「ふむ、合理的なのだが」
「ふいー、これから10日、毎日これかあ……」
「飯を食ったら、寝る前に少しばかり鍛錬をする。といっても短い時間で教えられることは少ないが……」
「うへえ……」
「飯さえしっかり食えれば文句はないのだが?」
「わ、私も?」
「杖術を使うのだろう?組み手の経験は必要だ」
「わかったわ……」
「それに貴公、少年猟師よ。強くならねばならんのだろう?」
「ああ!わかってらあ!」
「その気概だ」
かくして、食事の後に鍛錬が始まった。
「まず、これを教えておこう。『つかの間の剛力』という……私も最初にこの技を習った」
ゴブリン騎士は銅貨を取り出すと、指先で真っ二つに折って見せた。
「マジかよ……」
「貴公、持てる手札は一つでも多い方がよいぞ。今回はパーティーでやった故さまざまな手段がとれた。それ故の早さであると忘れないでほしい」
「うむ、一人でする狩りとは違うのだが」
「それにこれは闘技だ。少女術士にもできるかもしれん」
「それは魅力的ね。かわいくないけど……」
「俺は良いと思うぞ、リズ」
「もう」
軽く座学をやった後はひたすら組み手だ。
単純な格闘であるならばゴブリン騎士の技量は3対1でも新人を圧倒する。
「これでもかなり本気なのだが」
「小さく素早い相手は得意ではないようだな、次」
「いくわよー!」
「思ったより筋がよいが、脇が甘い。次」
「やってやらあ!」
「盾を上手く使え。飾りではないのだから」
この多人数によるチャンバラは思いの他村人にウケた。
宴をやっているそばでやっていたのもある。
その中には目を輝かせている子供も……こうして、人は冒険者になっていくのだろう。