ゴブリン騎士と農民姫   作:照喜名 是空

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オークの嫁エルフのユリア

◎原初のエルフ

 

かくして、テイマーはオークの家族を手に入れた。

ギルドへの説明やら登録で一悶着あったものの、無事に報酬を持ってアッシュピーク村に帰ってくることができた。

 

「ああ、貴公。感謝するよ。あのままでは私たちは餓えて死んでいたか、討たれていただろう」

「いえいえ、こっちにも人手が必要でしたから」

 

オークたちの母ユリアは、黒髪のエルフだった。

背が高く、豊満で、しっとりとした色気がある。

黒いローブと魔女帽、それに黒い狼の毛皮を纏っていた。

今は床に布をしいて座っている。足が悪いのだ。

 

「それに、急な話だというのに部屋まで……私にできることは少ないが、可能な限り協力させてもらうよ」

「いえ、それよりも……いいんですか?その、オークの皆さんと一緒で……」

「かまわない。元より虜囚として死を待つ身だった。そこを()()に口説かれてな……子にも、あの人にも情くらいわくというものだ」

「ユリアさんが良いというならいいですが……」

 

オークたちとユリアは、牧場の一角にある使い魔小屋に入る事となった。

地下にコボルト術士が部屋を作っているが、地上部分はもてあましていたあの使い魔小屋である。

今回のように大量の増員を見込んでわざわざ広く作った小屋だ。本懐と言えよう。

 

「それよりも虜囚って……申し訳ないんですが、事情を聞いてもいいですか?」

 

ユリアはぽつりぽつりと、悔やむように語り出した。

 

「ああ、当然だろう。もう何百年も前のことだ。私はこの星『ノヴァリス』にたどり着いた神の船の『乗客』たちの子孫として産まれた。私は大繁栄期の『人間(エルフ)』なのだよ。その頃の私は愚かで……世の中に不満を持ち、虚言を弄して不和を煽った。その果てに大繁栄期の終わり『大破壊』を招くとはまるで思わずに……我々はただの私欲と端金のために、『(AI)』を本気で怒らせてしまったのだよ」

「……うわあ、マジですか……」

 

さすがにテイマーの度量といえど、神に真っ向から刃向かったと言われれば引く。

それは敬虔な信徒でなくとも、この時代の一般的な感性だ。

 

「もちろん、反省はしている……二度とあのような事をするつもりはない。だが……それでも許されぬ事をした自覚はある。この言葉自体を疑われるだろうことも……それでも、私をここに置いてくれるか?」

 

さすがにテイマーも悩んだ。即答しずらい質問である。

 

「うーん……うーん……答えづらいですねえ……でも、今更追い出すというわけにもいきませんし。とりあえず後で白教の誓約を結びましょう。そうしましょう」

 

白教の誓約には、特定の犯罪行為を行ったら即死するというものもある。

ユリアの行動はこれである程度縛れるだろう。

奴隷契約に悪用されそうな制度だが、当然そんな抜け道をしようとすれば悪用しようとした者は即死させられる。

白の騎士神は苛烈なのだ。

 

「ああ、当然だな。ともあれ、ありがとう。ここに置いてくれて感謝するよ……」

「いえいえ……本当にここではやらかさないでくださいね!?」

 

かなり必死のお願いであった。ユリアは薄く微笑んでうなずく。

 

「もちろんだ……それで、何をすればいい?詩人(バード)呪術師(ソーサラー)の真似事くらいはできるが、長い囚人生活で足が萎えてしまってな……冒険者としてはあまり活躍はできないだろう。すまない」

「ああ、それでしたら丁度良いのがありましてね。子守です。今うちは子守がけっこう大変でして」

 

ユリアは少し驚いた顔で微笑んだ。エルフの詩人にそんなことを頼む者も珍しいのだろう。

 

「子守?ふふ、いいだろう。母として6人の子を育ててきた。できるとも。見るのはあなたの子か?」

「いえ、ゴブリン騎士さんの子です。ああ、ちゃんとゴブリンのお嫁さんを貰ったんですよ」

「ゴブリンの夫婦?珍しいこともあるものだな……いいだろう。やってみせるよ」

 

ユリアは節くれ立った太い枝でできた魔女杖を支えにしてゆっくりと起きる。

テイマーは手を貸そうとしたが、やんわりと断られた。足が悪い事になれているのだろう。

 

「ああ、それから……私の家族には何をさせればいい?」

「それはですね、牧場の手伝いをしてもらおうと思ってます。何しろ人手が必要ですから」

「そうか、たまには冒険や狩りに連れて行ってやってくれ。彼らの本分はそれだからな」

「ええ、冒険でも頼りにしてますよ!」

 

◎牧場の小さな家

 

ゴブリン騎士の家は牧場の一角に作られている。

住む者に合わせて、全てが低く小さく設計されているため非常にかわいらしい。

暖かで明るい色彩も合わせてまさに小人の家だ。

 

「ちーち!まーま!」

「そう、私がそなたの父で、あちらがママだ。良い子だ」

「これだけ育つのが早いのに、ちゃんと覚えているものですね」

「ああ、きっと賢い子に育つぞ」

 

ゴブリン騎士の子、アーサーは今や人間の膝丈くらいになって、家の中を走り回っている。

顔は母に似て人間のそれだ。肌色こそ緑で、耳が尖っているものの、ゴブリンの子とは思えないほどかわいらしい。

ゴブリン騎士は我が子の愛しさにすっかり親馬鹿になっていた。

 

「ゴブリン騎士さん、お話が……」

 

玄関をテイマーがノックする。ゴブリン騎士の家は非常にシンプルで、玄関から暖炉のあるリビングが直接繋がっているのだ。

 

「ああ、テイマー殿。今お開けする」

「てーまーど!てーまーど!」

「おお、そうだ。我々の主君である方だぞ。わかるか?」

「しゅーくー」

「良い子だ」

 

ドアを開けるとユリアの腹のあたりが見えた。

やはりエルフにゴブリンの家は小さすぎるようだ。

かがんでなんとか入る。

 

「ええっと……ご存じでしょうが、これからはユリアさんに乳母をやってもらいますね」

「そういうこととなった。ジャクリーヌ殿、それからゴブリン騎士殿。よろしくな」

「あらまあ……助かります。何しろやんちゃ盛りで……」

「だれー!?」

「お前の乳母になられるユリア殿だ。お前のお世話をしてくれる方だぞ」

「うーば、うーば」

「かわいい子だ。うまくやっていけそうだよ」

「それはよかったです。本当に助かります。今までメイドの方にも手伝っていただいておりましたが、メイドの方はお家の事もやらねばなりませんでしたから……」

「ふふ、ジャクリーヌ殿は育ちがよいのだな。そう畏まらずとも、乳母として気楽に接してくれ」

「は、はあ……」

 

黒い魔女が小さな家のリビングにでんと座っている。

かなりの存在感だが、アーサーはとくに恐れることなくそこら中を走り回っていた。

きっと彼は勇敢で古風な話し方の騎士になるだろう。




『ノヴァリス』
この星の名。
遠い昔、地球から旅立った神々の船は長い星の旅の末ここにたどり着いた。
かつて、人々と神々は今よりずっと優れた技術を有していた。
なお、この言葉の意味は『新しい開拓地』であるという。
今はもう、その由来を知るものも少ないが。
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