ゴブリン騎士と農民姫   作:照喜名 是空

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勇者からのクエストその②勇者の試し

 

中庭の練兵場についた勇者は辺りを見回してつぶやく。

 

「狭いな。壊さず暴れるのには一苦労しそうだ。だが、ハンデにはちょうど良いか。さあ、誰から来る?」

「では一番槍は私がもらおう。ルールは?」

 

人込みから前に出てきたのはゴブリン騎士だ。

 

「ほう、ゴブリン騎士か。ちょうどよかろう。そちらは好きに武器を使え。こちらは素手と闘技を使う。案ずるな、俺は斬りつけられたくらいではもはや傷はつかん。勝敗だが……俺が認めればそれで合格とする。良いか」

「なんと……わかった、信じよう。遠慮なく、胸をお借りする」

「では来るがいい!」

 

勇者は仁王立ちで素手のまま、ゴブリン騎士は一礼の後に剣を抜いた。

自然体の勇者に対し、ゴブリン騎士はただならぬ威圧感を覚えた。

ただ対峙しただけでもわかる力量。存在感。

伝説はウソではないと直感が理解する。今目の前にいるのは古竜よりも危険な生ける伝説だと。

 

「出し惜しみは抜きで行く。『立待月』!」

 

故にゴブリン騎士が選択したのは最も強い技であった。

解き放たれた矢のように力強い速さで突きを繰り出す。

 

「なるほど。ただのゴブリンではない。よく練り上げられている。実力だけで言えば銅か銀程度だな。小兵の身でそこまで至った事、賞賛に値する」

「お褒めにあずかり、光栄だ!『弄月』三連!」

 

勇者は軽く1歩だけ避けて軽々とかわして見せた。

完全に技量で上回れている。だが、だからこそゴブリン騎士は奮い立った。

自分を中心に球状に斬撃が舞う。緩急をつけて近づきながらだ。

さながら刃のついた大球が転がってくるようなものだ。

常の相手ならばミンチになっているだろう。

 

「だが……そこで小さくまとまっているのはいただけんな」

 

しかし相手は勇者。常の相手ではない。勇者は己を傷つけうる攻撃だけを見切って剣の腹を軽く叩いて(パリィ)き返し、ゴブリン騎士の首を掴もうと手を伸ばす。

しかしゴブリン騎士もただではやられない。

相手が攻めに転ずる一瞬のスキを縫ってするりと腕をかわして飛び跳ねて空中に躍り出る。

 

「ご指導、痛み入る……!『穿ち』!」

 

上空から剣を伸ばしてミシンのような百裂の突き。

しかしそれも軽く前に避けられるだけで避けられてしまう。

 

「なるほど、烏羽と競り合うだけはある。人を超えた動き、そこまでは至れたか。だが……英雄の力とはこういうものだ!刮目せよ!『かりそめの刃』!」

 

勇者の手元に黄金の光が集まると、光で編まれた半透明の短剣が握られ、振り向きざまに放たれた横薙ぎの一撃がゴブリン騎士を襲う。

 

「ぬおお!」

 

防ぐまでもなく、その余波の風圧だけでゴブリン騎士は吹き飛ばされる。

 

「褒美だ。もう少し遊んでやろう」

 

黄金の短剣が投げられては、また勇者の手元に新たな輝く短剣が生成される。

一瞬のうちに放たれたその数、20本。

手がぶれて見えるほどの早業だ。

 

「おおお!」

 

だがゴブリン騎士にとってはむしろやりやすい。格上からの猛烈な追撃。慣れたものだ。

素早く転がり回り、立ち上がって回避に専念する。

受けるのは無理だろう。軽く振られた風圧ですら手に余る。

受ければ剣が折れるか、腕が折れる。

故によけきった。ゴブリン騎士の技量は回避だけで言えば手抜きをしている勇者に届くのだ。

 

「存外にやるものだ。だが、これで終わりとしよう。加減はしておくゆえ、死ぬなよ」

「善処しよう」

 

勇者の手に光が集まり、今度は黄金のロングソードが生成される。

 

「『英雄の一撃』!」

「『仙歩(ゴーストステップ)』!」

 

軽く振られた大上段からの降り下ろし。それだけで中庭の土がえぐれ、衝撃波がゴブリン騎士に迫る。

対するゴブリン騎士はステップによる機動力でなんとか回避し背後を取らんとする。

 

「ぐうっ……!」

 

衝撃波はほぼ回避できた。だが、そこからさらに攻めに転じるにはもはや体力がない。

せめて一息つければ、上がった息を回復できるのだが。

 

「まだやるか?」

「いや……」

 

ゴブリン騎士に突きつけられる黄金の幻影剣。

そこに美しい音色と歌声が響いた。

 

『黄金よ、月明かりよ輝け。勝利の喜びは決して一人ではない。共に戦い、栄光の美酒に酔おう』

(猛れ)(勇気よ)!」

 

ゴブリン騎士の体に力が湧いてくる。まだまだやれる気がしてくる。

 

「ほう……?ゴブリン騎士のパーティーか。乱入とはいささか無粋だが……」

「なあに、ついでにあたしらの試験もしちまってくれよ。あたしは詩人(バード)!あんたたちの武勇を称えるのが仕事さ」

「僕はヒーラーとしてだけどね。こういうこともできるよー」

 

勇者は少し考え、自らの体にも力がみなぎってくることを自覚し、うなずいた。

 

「よかろう!興が乗った。3対1、受けてやろうではないか!」

「かたじけない。私の身内がすまないな……」

「良い!許す!かかってくるがよい。どこまでくらいつけるか、魅せてみよ!」

「語るに及ばず!」

 

そこからは良い勝負だった。

最盛期の体力とカンを取り戻したゴブリン騎士は果敢に勇者に食らいついた。

それでも力でははるかに劣るために、剣の打ち合いは極力避け、次から次に技を繰り出し合う、といったものだったが。

 

「合格だ!見事なり。これからも励めよ、ゴブリン騎士。小さくまとまるな。この世界にはまだまだ上がいる!」

「ご指導、かたじけない。この時間、値千金であった」

 

時間にすればほんの数分だっただろう。だが、数時間はたったように感じた。

 

「すっげー……」

「ねえあんた、本当にアレに挑むの?」

「できるかできないかじゃないんだよ!これを見て奮い立たなきゃウソだろ!」

「ウワッハッハ!友よ見事な戦いであった!この重装騎士ジーク、奮い立ったぞ!」

 

気が付けば、冒険者たちは拍手をしていた。

まるで嵐がぶつかり合うような勇猛な戦いを見て高ぶらなければ冒険者ではない。

 

「さあ次の者は!」

 

次々に名乗りが上がった……

ひとまずは、祭りの勧誘は大成功と言えるだろう。

この中でどれほどが残るかは、わからないが。

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