ゴブリン騎士と農民姫   作:照喜名 是空

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勇者のクエストその④驚くべき美食

◎料理と海と

 

「海だ!海が見えたぞ!!」

 

冒険者の一人が窓を指さした。

ゴブリン騎士たちもまた窓を見る。初めて見た海は空の上からだった。

果てしなく広くそして、波立っている。

 

「これが、海か……すごいな、友よ……」

「ああ、そうだろう。友よ。私の祖先はこれを越えてきたのだ」

「なるほど、北の民が勇猛を好む理由がわかる気がする」

「ウワッハッハ!そうだろう!しかしこうなると海の幸が食べたくなるな……」

 

そのようなことを話していると、伝声管から勇者の声がした。

 

「我々はこの海岸線を辿り、今夜には目的地につく!しかし休息もまた必要だ!故に一時着陸し、我がパーティーの料理人の技を見るが良い!各自皿と食器(カトラリー)を持って外に集合!」

 

ゴブリン騎士たちは顔を見合わせ、うなずいた。

昼飯の時間だ!

 

「海の幸か。楽しみだ」

「先生ェ!俺海のモンなんて初めて食うよォ!」

「私もかなり久しぶりですね……美味しいと思いますよ。見た目は少し、ちょっと、アレですけど」

 

テイマーは軟体生物を思い出して苦笑する。

そして、飛行船はゆっくりと砂浜に着陸した。

ゴブリン騎士たちは船から下り、砂浜を踏みしめた。

ぬるい潮風が頬をなで、磯の匂いが鼻をくすぐる。

 

「これが、海か……広いな。そして美しい。これを見れただけ儲けものというものだ」

「ウワッハッハ!そうだとも!これで美味い飯まであるのだ!戦祭りにも力が入る!」

「うむ、して勇者どのたちは?」

 

そこに堂々たる高笑いが聞こえてきた。

 

「おーっほっほ!皆様ごきげんよう!本日の調理を務めますは私、勇者パーティーの錬金術師兼料理人、ジュリア・ロセッティですわ~!」

「素材の捕獲は、詩人兼戦士のジョルジョ・デル・モンテが務めさせていただくよ!」

 

お嬢様らしい料理人と、王子然とした詩人だ。

ふたりはまるで演劇のように大仰にしながらも、見る者を惹きつける美しさがあった。

詩人はリュートを弾くと、ひときわ高く一音を鳴らした。そしてしばらく目を閉じ、開けると口を開く。

 

「ああジュリア、よさそうなものがあった。海底にセレスタルスターと大アワビ。メインディッシュはグランドロブスターに赤身サメなんてどうだろう?」

「いいですわね。では、いつもどおりよしなにお願いしますわ」

「もちろん!じゃあいくよ!」

「お願いいたしますわ。さあ、調理開始(アレ・キュイジーヌ)ですわ~!」

 

料理人がお玉を兼ねた杖を振ると海岸に氷の茨で出来た大きな籠ができあがった。

それは人外の魔技と化した卓越した氷魔法によるものだ。

戦士が指先から鋼糸を垂らし、振るうと空中に海藻が飛んでいく。

 

「では皆様前菜の海藻サラダを調理いたしますわ~!」

 

料理人は大剣ほどもある包丁を構えると目にもとまらぬ速さで何度も振るう。

 

「『闘技・真空刃』!ですわ~!」

 

空中を飛ぶ海藻があっという間に細切れになり、氷の籠に全て入っていく。

 

「ではアワビを!」

「よしきた!」

 

熊ほどもある大アワビが同じように空中で切り刻まれ、水魔法による茹だった水球に入れられ一瞬で茹で上がっていく。

これも氷の茨の籠に見事に収まる。

 

「『錬金・調味料作成』!ですわ~!」

 

空中にドレッシングによる巨大な水球がうねり、あるいは香辛料の雨が降る。

そうして。全てを空中で調理して数十人分のサラダがでんと砂浜に鎮座した。

誰も言葉を出せぬほどの絶技であった。

 

「皆様ナイフとフォークの用意がよろしいこと~!?さあ、「海鮮サラダ」どうぞ召し上がれ~!!」

「戦士達よ!見とれておらぬで食うが良い!食事はまだまだ続くぞ!」

「お、おォ!俺ァ食うぜ!こんなうまそうなモン見てるだけなんて耐えられないもんねェ~!」

 

真っ先に行ったのはトニーであった。冒険鞄からナイフとフォーク、皿を持ってサラダを盛っていく。

他の冒険者たちもつられておそるおそる皿にサラダを盛っていく。ゴブリン騎士のパーティーもだ。

 

「う、うめえ!初めて食う味だよォ~!」

「これは……うまい。新鮮、といえばいいのか……海と同じ香りがするな。うむ、これはうまい」

「うむ、これよこれ!これが磯の香りなのだ!」

 

まず騎士たちが毒味の如く口をつけると、続いてテイマーやコボルト術士たちが食べはじめる。

 

「あー、そういえば貝とか海藻ってこんな味でしたね」

「でもこれ、普通に料理人さんの腕前がすごいんだと思うよー?めちゃくちゃおいしいもん」

「こりゃあ、歌にも表せないね……」

 

各自が舌鼓を打っている間にも調理は続いて行く。

家ほどもあるウニが業火にかけられている横で同じくらいのロブスターが茹でられスープになる。

まるで鮭のような赤く美味しい身とイクラのような卵を持つ赤身サメが空中で海鮮丼にされていく。

 

「しかし……料理人どのはすごいな……あの刃物さばき、参考になる」

「うむ……剣士としても一流。勇者パーティーとはかようなものなのだな……」

 

こうなるともはや驚きと共に称えるしかない。あまりにも桁外れなものを見ると、人はそうなるのだ。

 

「スープは「グランドロブスターのビスク」!メインディッシュは「海鮮丼」ですわ~!さあ!めしあがれ~!」

 

そうして作られた料理はまるで輝きを放っているかのようだった。

巨大ロブスターのスープは巨大真珠貝を皿にして出され、中にはサプライズとばかりに頭ほどもあるどでかい真珠玉が浮いている。

海鮮丼はシャチくらいの大きさが合った鮭もどきのサメの刺身と卵。そして巨大ウニ。

その口内に展開する芸術にただただ感動するしかない味の暴力であった。

 

「う、うまい……口の中に、海がある……」

「ううむ……これを食うと常の海の幸が食えなくなるな……」

「おっ、ゴブリン騎士のそのセリフ、歌に使わせてもらうよ。しかしうまいね……」

「これ宮廷料理よりきっとおいしいんじゃないかなあー」

 

真に美味しすぎるものを前にすると人は厳粛になる。

宴は粛々と行われ、人々は夢見心地のまま船に戻ったのであった。

 

 

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