ゴブリン騎士と農民姫   作:照喜名 是空

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勇者のクエストその⑤剣王祭前夜

◎剣王祭前夜

 

夕暮れになると、船は川の上空を遡上し目的地に着いた。

砂漠の真ん中に国中から猛者達と、それを目当てにした商人達が集まり大きなキャンプを作っている。

ただ一夜の歓楽街だ。

 

「これは……すごいな。まるで交易会ではないか」

「話に聞くバザールみたいだね。こりゃあ」

 

色とりどりのランタンが無数に飾り付けられ、暖かい光を放っている。

その下で戦士達が飲み食いし、商人達が剣やスクロールを売っていた。

 

「さあ、戦士達よ!明日の朝までに船に戻ってくれば良い!今夜は呑み、英気を養え!とはいえ、明日は死闘を覚悟せよ。疲れを残さぬ程度に騒げ!」

「やったァ!」

 

勇者についてきた十数名の冒険者たちから歓声が上がる。

 

「ああ、それから耳寄りな情報を授けておこう。ここで売られているスクロールは基本的に闘技だ。故に、この間俺が見せた『かりそめの刃』も料理人が見せた『真空刃』もあるぞ。探すが良い。では解散!」

「うおー!呑むのじゃ!食べるのじゃ!食べねばやってられないのじゃあ!」

「トニー、小遣いをやろう。まあ、ほどほどに楽しんで来るが良い」

「ありがとう先生ェ!」

 

それぞれにばらけ、祭りを散策することとなった。

ゴブリン騎士も冒険者として活動して2年が経った。自分の小遣いくらいはある。

さて、どうしようか……と考えていると、重装騎士に声をかけられた。

 

「友よ、聞いたか?あの闘技が販売されていると。これは一つ店を見るだけでも行ってはみまいか?」

「おお、それは良い案だな友よ。それに私は妻子に土産の一つも買ってやりたい」

「ほう、良い心がけだな。どれ、一つ散策してみるとしよう」

「うむ!」

 

幻想的な光景を歩きながら、そのへんの商人からつまみと酒を買って飲む。

買ったつまみはやはり黒パンの皿に乗った焼肉(ケバブ)だ。

 

「くうー!やはり美味い!祭りの肉というのはやはりひと味違う!」

「ああ、違いないな、友よ。ところで気になるのだが……スクロールとはどういったものだ?勇者の口ぶりでは一読すれば闘技が身につくようであったが」

「ああ、あれか。あれはな……ふーむ、言ってみれば魔道具の一種よ。闘技の元々の持ち主が特殊な加工をした魔法の紙を持ってだな、祈りと共にその闘技に思いを馳せる。すると他の者が読めばその想いが伝わり、闘技を習得する……といったものらしい」

「なんと……自らの技の極地である闘技を紙に込めると?そのような魔道具があるのか」

「そうだ。しかし欠点も一つあってな。スクロールは職人により手間暇かけて作らねばならぬ上、使い捨てだ。故に安くはないぞ」

「……そうであろうな。自らの奥義を売るのだ。安売りしてよいものではない」

「ワッハッハ!違いない!」

「して、いかほどなのだ?そのスクロールとやらは」

「たしか、金貨5枚から10枚……といった所であるな」

「ううむ……出せなくは、ないか」

「うむ!」

 

しばらく歩くと、お目当てのスクロール屋はあった。

絨毯の上に無数のスクロールと、店主らしきターバンの男が座っている。

 

「さあいらっしゃいいらっしゃい!剣王祭名物、闘技のスクロール屋だよ!今夜は特別ご奉仕だ!なんと勇者の技「かりそめの刃」が金貨8枚!どうだいそこの騎士さんたち!」

「ほう、それは丁度良い。こちらの小さき友はまさにそれを探していてな。私は『真空刃』を探している。どうだ、あるか商人殿」

 

痩せて背が高く、うさんくさい雰囲気を放つ店主はにやりと笑った。

 

「へえ、こりゃあ騎士様。もちろんありまさあね。それ以外にも色々ありますぜ?これがリストでさあ」

「ほう、古王朝剣技から赤獅子流まで……品揃えが広いな」

「それだけじゃあありませんぜ。お二人には要りませんかもしれやせんが、基本的な技の『クイックステップ』から『突撃』『ウォークライ』……パーティーメンバーに覚えさせて損はありませんや。どうです?一ついかがですかい?そっちの小さな騎士さんは?」

「うむ、友よ。リストを見るが良い」

「ふむ……たしかに魅力的だな。しかし資金がいささか心許ないのだが……」

「うむ、たしかになかなかの金額だ……」

 

お目当ての「かりそめの刃」は買える。しかし土産までは買えそうにない。どうしたものか……

 

「へえ、それでしたらお二人、お二人の闘技を売りませんかい?騎士様でしたら、『突撃』くらいはできるでしょう?ご安心を!売っても騎士様から闘技がなくなるわけじゃあござんせん。写し(コピー)がこの白紙のスクロールに出るだけ……損な話じゃないでしょう?」

「だそうだ。どうする、友よ。私は幾ばくか売るつもりだが」

「ううむ……師から習ったこの技……売って良いものか……しかし、ううむ……情けない話だが、いかほどで買っていただけるか?」

「わかりやした。それなら話は早い。丁度そのへんが開けてますね?あっち側の砂漠に向かって一つ試し打ちしてみてくださいや。そいで査定しやす」

「……わかった」

 

商人が指さした先はバザールから外れてただただ広大な砂漠が広がっていた。

店の並ぶ通りの裏側というわけだ。

ゴブリン騎士はおもむろにそのへんの石塊を掴み、師に心の中で詫びてから闘技を発動した。

 

「……『つかのまの剛力』」

 

石塊は手の中で粉々に砕ける。

 

「おお、『つかのまの剛力』ですかい。バフ系としては便利でよく使いまさあ。そうですねえ……2金貨で!」

「……かたじけない。ではあと二つほど見せよう」

「ぜひ勉強させてくだせえ!」

 

商人は笑顔でおだてるが、その胡散臭いヤクザな態度は隠しもしない。口元にはキセルをくわえてさえいる。

これが彼の流儀なのだろう。

 

「『仙歩(ゴーストステップ)』!」

 

ゴブリン騎士は砂漠にわずかな足跡だけ残してとんでもない距離を移動した。

商人の顔が真顔になった。

 

「『弄月』!」

 

今度はゴブリン騎士を中心に球状の斬撃が空を切る。

商人はパイプを落した。

 

「こりゃあ……こりゃあ掘り出しモンだ……へっへっへ、小さな騎士様もお人が悪い。それだけ技の引き出しがあるなら、ほらもっとあるでしょ?もちろん今の二つだけで『かりそめの刃』はお譲りしまさあ。でも、もうちょっとお互いに儲けてみやしませんか?」

「……あいにくだが、師より授かった剣をこれ以上安売りする気はない。それで十分だ。代わりに妻子への土産になりそうな物を出してくれると助かる。金貨4枚まで出そう」

「……へっ、欲のないお方で……そっちのでかい騎士様は?」

「うむ!私とて安売りはせんぞ!とはいえ、払う物は払う。『鉄壁』!」

 

重装騎士の身体がぼんやりと光る。魔力を鎧のように纏い、防御力を上げているのだ。

 

「ああ、それも小回りの効くバフでやすね。いいでしょ、お勉強しまして……金貨2枚!どうです?」

「それならば真空刃も買えるな……!取引成立だ」

「まったく、次があるならもっと見せてくだせえよ。私ゃ普段は王都にいます『スクロール屋のジルヴァ』でさあ。よろしくごひいきに……」

「うむ!私はドリーマー辺境伯領の城塞都市に住んでいる重装騎士ジークである!」

「同じく、ゴブリン騎士アランだ」

「へえ、騎士様たちが例の……なるほど噂以上だ。明日の剣王祭、生き残ってくだせえよ、今後とも騎士様たちとはよしなに取引させてもらいまさあ。ぜひまたお越しくだせえ……へっへっへ」

 

かくして、ゴブリン騎士たちはスクロールを手に入れた。

見た目は美麗な背表紙のついた羊皮紙の巻物だ。

 

「して商人殿。これを読めば闘技が身につくと……?」

「へえ、手に持って開いて見ればいいんでさ。ただし、座ってすることをお勧めしますぜ」

「あいわかった」

 

ゴブリン騎士は『かりそめの刃』のスクロールを広げて見てみる。

その瞬間、強い酒を飲んだように頭にカッと衝撃が走った。

流れてくる情報、想い、記憶。それは誰かのひたむきな修行の記憶だ。

そして強制的に理解した。どう魔力を流し、どう動けばそれができるのかを。

 

「……なるほど、これは強烈だ」

「どうです?ひとつ、お試しになってみては」

「ああ、やってみる『かりそめの刃』!」

 

サブ武器として今も使っている小さなナイフを思い描く。

ゴブリン騎士の手に蛍色に薄く輝く半透明の刃が現われた。魔力で編まれた半実体の刃だ。

消えろと念じると、それは砕けて消えた。欠片も空に解けてゆく。

 

「問題ないようだ。して、対価のこちらが売る闘技だが……どうすれば?」

「へえ、こっちの新品のスクロールを手に持って、まず技の名前と技の概要を唱えて、それから頭の中で使うところを考えて、あとはスクロールがやってくれまさあ」

「わかった」

 

新品の白紙のスクロールを手にする。

 

「闘技『弄月』

一瞬の間に無数の斬撃を球状に放つ。

狙いはつけられずまた振り回すのみなので、一撃一撃は叩きつけとしても軽く、切り傷としても浅い。

ただ、高速の斬撃は相手の視界を塞ぎ、細かな傷は集中を妨げる。

しかし熟達者はこの技で一撃一撃を狙い打つ」

 

頭の中をまさぐられるような感覚に、ゴブリン騎士はただ修行の日々を思い描く事で耐えた。

 

「……なるほど、あまり気分のいいものではないな」

「へへへ、そりゃあ金貨4枚分ですからね。さあ、どんどんやってきやしょう」

「……わかった」

「ううむ、たしかに、これは……ええいだが新しい闘技のため。むしろ苦労無しで手に入るよりよほどましというもの……!」

「うむ……違いない」

 

かくして、ゴブリン騎士と重装騎士はへろへろになりながらもなんとか帰り着いた。

なお、確認してみたが問題なく今までの闘技も使え、二人とも安堵した。

 

「明日に疲れが残らねばよいが……」

 

ゴブリン騎士は剣王との戦いに思いを馳せつつ、眠りに入る。

その頃にはすっかりと頭の不快感もなくなっていた。

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