ゴブリン騎士と農民姫   作:照喜名 是空

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勇者からのクエストその⑥剣王祭

◎剣王祭

 

そして、翌朝。

剣の丘を前にして、参加者達は集っていた。

剣士達だけでも数千はいる。救護隊などもあわせれば万に届くだろう。

皆、それぞれに剣や槍を構え、さながら合戦前だ。

彼らがにらむ先の剣の丘もまた、すさまじい景色だ。

 

「これが剣の丘か。壮観だな」

「ああ、すさまじい……」

 

なだからな丘の上全てが墓標のように立つ剣で埋め尽くされている。

その中心である頂上にはまるで剣で出来た玉座のようにみっしりと剣の山ができていた。

おそらくあの中に剣王の剣もまた、あるのだろう。

 

「剣士達よ!!よく集まった。時は満ちた!祭りだ!そして祀りの時間だ!」

 

先頭を切る勇者のスピーチが始まった。

勇者パーティーはいつもの軽装ではなく、黄銅色の鎧に身を包んでいる。

その壮麗で美しい様といったら、まさに王者の風格であった。

 

「奉られし剣たちよ!そして剣王グレイよ!約束通り俺は益荒男達を連れてきたぞ!さあ、戦おうではないか!」

 

勇者は腰に佩いた黄金のロングソードを抜き放ち、剣の丘に構える。

 

「戦祭りだ!勇者オレリアスの名の下に剣王祭の開催を今宣言する!!」

『おおおおお!!』

 

勇者が剣を掲げると誰ともなく鬨の声が上がる。

始まるのだ。戦いが。

するとその声に応えたかのようにボウッと白いモヤが丘のそこここで立ち上がり、やがて人の形を取って突き立った剣を抜き始める。

両軍互いに構え、緊張が走る。

そして、開始を告げるかのように丘のてっぺんにひときわ大きい偉丈夫の影が立ち上がり、並の人の背丈ほどもあるまるで板のようなグレートソードを抜いた。

そして、剣を突きつけるような構えの一礼。剣士達の間に伝わる古い礼。開戦礼だ。

 

『オオオオオオ!!』

 

剣王グレイの鬨の声。それは万の剣士たちの声に決して負けてはいない。

その号令と共に、白いモヤの幽鬼たちが集まった剣士たちに向かっていった。

 

「いくぞ!!ついてこい!!」

 

勇者が悠々と敵軍に向かって歩いて行く。

いち早くついて行くのはゴブリン騎士だ。

 

「『仙歩(ゴーストステップ)』!一番槍はいただかせてもらう!」

「派手な技にたよるなよ、ゴブリン騎士。よく見ろ。学べ、盗め。そして、楽しめ!」

「応!」

 

すれ違う瞬間に、勇者は微笑んでゴブリン騎士へのアドバイスを授けた。

悔しいほどに、この場に合っている。まさに主役だ。

 

「さあどうした!ゴブリンの騎士に遅れを取る気か!?進め!闘え!戦士達よ!!」

「お、おお!先生ェ俺もいくよォ!」

「友が行くのであれば私とて臆しておられん!!行くぞ!!」

 

友が、弟子が続く。そしてその後に万の戦士達が。

祭りが、始まったのだ。

 

◎剣王祭序盤

 

巧い。ゴブリン騎士は一人目を切り倒してそう思った。

力や速さは自分よりむしろぬるい。だが、全てが的確な手を差されている。

剣を振ればその先に相手の剣がある。避ける方向を巧みに潰される。足運び、間合いの取り方、呼吸。

全てがやりにくい。そういえば、ここにある剣は全て何らかの形で引退した戦士達の物だ。

 

「これが老兵(ベテラン)の老獪さというものか……なるほど巧い。やりにくい」

 

それでも戦いになっているのは相手が配慮しているからだ。

数の有利があるにも関わらず囲んでこない。剣だけで戦い、卑劣な手や魔法、闘技を使ってこない。

何より殺意に薄い。

要するに祭りということで相手が楽しんでいるからこそ勝負が成り立っているのだ。

 

「見て盗めというのはこういうことか……勉強になる!『弄月!』」

 

今もゴブリン騎士は闘技で強引に活路を切り開く。

確かにそれで数体は消えるが、まるで勝っている気がしない。勝たせてもらっている、指南されている。

下手をすれば負けるより心が折れそうだ。

そして、次から次に新しい相手が斬りかかってくる。

 

「分が悪いか……?」

「友よ!先走りすぎだ!『金城鉄壁』!」

「先生ェ!速ェーよ!『立待月』!」

 

周囲の幽鬼を吹き飛ばして重装騎士の大盾がうなる。

追いついたトニーが横から幽鬼を刺し貫く。

 

「すまん、だが敵を侮るな!だれもかれも、剣が巧い」

「ああ、ここに来るまででよくわかった!これが年期の差というわけか……」

「でもパワーは弱ェ!無理くり押し切るもんねェ!」

「うむ、トニーは相手の土俵(フィールド)で闘うな!力押しでいけ!」

「ウッス!」

 

切り倒す、切り倒す。まるで死を求めてくるかのように幽鬼たちが迫る。

 

「とはいえ、手加減されているというのは心がおれるな……!」

「しかし、されておらねばもう我々は死んでいる!出し惜しむな友よ!『真空刃』!」

「仕方あるまいか……『かりそめの刃』!」

 

もはや手段を選んでおれぬと重装騎士の両手大剣から風の刃が走る。ゴブリン騎士は手元に幻影の短刀を造って投げていく。

遠くから歌が聞こえる。詩人(バード)たちの歌だ。

 

『我らの剣、剣王に捧ぐ祈り込めたる。全てをかけ、勝利への狼煙を!』

 

心が奮い立ち、身体が軽くなり、力がみなぎる。

まだ、戦える。

 

「歌か……」

「ああ、よい物だな。これこそ祭り、戦祭りよ!!」

「応!まだまだいけるぞ、友よ!」

「ハッハー!やべえよこれが祭りかァ!楽しくなってきたァ!」

 

斬って、斬って、斬りまくる。

無我夢中の切り合いはまるで祈りのようだった。

 

『おお勇猛たる剣王よ。奉られたる剣士の魂よ。我らは決して諦めず、力を合わせて戦う』

 

荒野に、剣士達のための歌が響く……

 

◎休憩

 

どれほど戦っただろう。気がつけば、ゴブリン騎士は無駄な力が抜け、技が冴えていっている事に気がついた。

幽鬼たちの技巧派な剣に引きずられているのだ。

 

「なるほど、よく見て、学べとはこのことか……しかし……」

「友よ一端退くぞ!このままでは押し切られる!トニーが危ない!」

「も、もう無理ィ……」

「わかった、退こう。命あっての物種だ!殿(しんがり)は私が!」

「うむ!『吹き飛ばし』!」

 

重装騎士のシールドバッシュが道を作る。そこにゴブリン騎士が後ろを警戒しつつ撤退していく。

目指す先は詩人達の合唱団の隣、ヒーラーたちの救護所だ。

実際、全員切り傷に打ち身と細かな傷が至る所についていた。

何より、体力も限界だ。

 

「すまん!救護をたのむ。弟子が限界のようだ。私も傷はたいしたことがないが、すこし、つかれた……」

「うむ!水を頼む!もうずっと戦い続けなのだ」

「おう、ゴブリン騎士んところのやつやな!よう戦ったで!あとはダーリンたちに任しとき!『中治癒(ミドルヒール)』!ほらテイマーさん、自分ところの人ら戻ってきたで!」

 

勇者パーティーの聖女エヴリンが陣頭指揮をとっているようだ。

すぐにテイマーと再会できた。コボルト術士にオーク詩人もいる。

 

「ゴブリン騎士さん無事ですか!」

「ああ、子細ない」

「くたくたじゃないですか!もう休みましょう!死んじゃったら元も子もないですよ!家にいる家族を思い出してください!」

「う、うむ……すまぬ」

「やーすごいねー。こっから見てるとよくわかるよー。剣士の戦いってのも花があっていいねえ。はいこれ氷水」

「かたじけない……」

 

コボルト術士が皆に氷水を配っている。彼も心無しか疲れて見えた。相当な数のけが人を治して回ったのだろう。

重装騎士たち3人は荒い息をつきながらたまらず氷水を飲み干す。

疲れた身体に冷たい水が甘露のように染み渡った。

 

「やるじゃないかい三人とも!あたしゃ心底しびれたよ!これが戦ってやつなんだねえ。今日の歌はノって仕方ないよ!」

「あ、あざっす姐さん……」

 

オーク詩人がトニーの背中をばしばし叩いて三人にオレンジを投げ渡す。

 

「とりあえずこれでも食って休みな!もうしばらくはクライマックスまで時間がありそうだよ」

「うむ……時にオーク詩人よ。貴公は詩人としてだけの参加なのか?貴公は弓手でもあり、斧もたしなむだろう」

「本業は詩人さ。剣王祭なんだよ?弓は御法度。たしなむくらいの斧じゃね……なら、歌ってた方が役に立つってもんさ」

「そうか……しかしなるほど……あの中に私はいたのだな」

「ああ、誇りな」

 

遠くから見るとよくわかる。まさに合戦さながらに戦い合う戦士と幽鬼たち。

打ち鳴らされる剣戟の音。血の臭い。よく命があったものだと実感する。

 

「友よ、あちらを見ろ。剣王と勇者殿が戦っているぞ……とてつもないな……」

「ああ、あれが人の戦いか……」

「うむ……人と言うよりあれは神々の戦のようだな」

 

重装騎士が指さす先で、剣王と勇者が戦っていた。

それはまだ互いに闘技をほぼ使っていなかったが、それでもとてつもないものだった。

剣の一撃は地を割り、空を裂き。足運びは空を駆け、人外の速さで地を走る。

ぶつかり合う剣戟ときたら、グレートソードをナイフのように振り回す剣王がおかしいのか、それともそれとロングソードで打ち合う勇者がおかしいのか。

単純な肉体強度(スペック)が人間のそれではない。

人外の膂力と人の技。その極地の戦いを見て二人の心は揺れ動いた。

 

「すさまじいな……」

「ああ、すさまじい……」

「心が沸き立つ」

 

ゴブリン騎士は憧憬を。

 

「心が折れそうだ……」

 

重装騎士は恐怖を。

 

「我が友、重装騎士よ。大丈夫か?」

「すまん……我が友よ。私は臆病者だ。あの戦いを目にして、手が震えるのだよ」

「友よ……」

「我が友、ゴブリン騎士よ。貴公がうらやましい。強き者を見て奮い立てる勇猛さが貴公にはある」

「いや、我が友よ。これは蛮勇の類いだ。血に餓えているのと何も変わらない。貴公が正常なのだ」

「しかし、私は勇敢に戦いたいのだ。貴公の勇気を分けてもらいたいよ……」

 

落ち込む重装騎士を前にゴブリン騎士は言葉を失ってしまった。

元よりゴブリン騎士はゴブリンの中で異常者の類いだ。それを自覚している故に安易に自分のようになれとは言えないのだ。

 

『闇が忍び寄る夕べ、疲れた騎士たち。長い戦いの果てに、勝利の日々を思い出す。だが今宵は別だ、苦しき試練が待つ』

 

そこに流れてくるのはオーク詩人の呪歌だ。歌い出しは静かなものだった。

 

『それでも我らは、挑戦し続ける。振り向くな。立ち止まるな。騎士の名誉を思えば、何を恐れることがある?誇りを掲げ、信じる道をゆけ』

 

呪歌(チャント)が疲れた心に染みいる。歌が心に熱いものを滾らせる。

 

「勇気が欲しいんなら、そりゃああたしの専門だ。今日はノッてるって言っただろ?どうだい、少しは勇気がでたかい?」

「……そのようだ。震えが止った。おお、友よ、震えが止まったんだ!ウワハハハ-!」

「そりゃよかった。十分休んだら、また行ってきな!死ぬんじゃないよ!」

「ああ!かたじけない。オーク詩人殿に感謝を!」

「私からも礼を。友の心を救ってくれた貴公に感謝を」

「なんだい、照れるじゃないない……ああ、それなら狐人巫女にも言っときな」

「狐人巫女共にも?」

「この歌、あの子が教えてくれたんだよ。重装騎士がビビってたら歌ってやりなって」

「そうか……そうか!ゴブリン騎士よ。まだ私はやれそうだ。貴公は?」

「子細ない、では行くか友よ?」

「ああ!」

 

二人はオレンジを食べ、ポーションを飲み干すと、疲れた身体に活を入れて立ち上がった。

 

「あ!ゴブリン騎士さん。行くんですか!?あの中に!?」

「うむ、友が行くならば私もいかねばならない。それに……あの戦いを見て私も滾るものがある」

「はあ……しょうがないですね。あんまり無理はしてほしくないんですが……」

「すまん、死なぬ程度にしておくつもりだ」

「もちろんですよ!じゃあ、私からもこれを……『従魔の癒やし』!『魔力贈与(マナコンバート)』『魔力最大化』『三重詠唱』『従魔への加護:盾・盾・盾』!」

「おお!かたじけない!力がみなぎる!」

「絶対に死なないで帰ってきてください!」

「ああ、誓おう」

 

二人の騎士が、戦線に戻る。

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