◎祭りの後
戦いが終わり、ひとまずは貴石を集める前に休息と宴をしよう、ということになった。
汗をお湯につけたタオルでぬぐい、鎧や剣についた汚れを落す。
塩を入れたレモン水を山ほど飲み、軽くパンを食べる。
いきなりの重い食事は吐く可能性があったからだ。
「おわったな……アラン殿よ」
「ああ、ジークどのは大事ないか?私もさすがにこたえた」
重装騎士は鎧の全てを外し、シャツとズボンだけの格好で地面に倒れ込んでいた。
ゴブリン騎士も座り込んで、胸当てと手甲を外し、タオルで身体を冷やしながら金物のコップでレモン水を飲んでいる。
「うむ……それもあるが、我が友よ。私は勇敢に戦えただろうか?今更になって手が震えるよ。思えば、アレは歌の力を借りたかりそめの勇気だったのかもしれぬ」
重装騎士が夕闇に染まる空を見ながら、ぼそりと言った。
その言葉にゴブリン騎士は振り向いて電光石火の速さで応えた。
「何を言うか!ジーク殿、貴公は勇敢に戦った。共に戦った私が言うのだ。誰にも否定などさせぬ!」
それはまるで、今まさに第三者に重装騎士が臆病者の誹りを受けたかのようであった。
しかし、重装騎士は疲労も合わさってか、さらに弱音を吐く。
「しかし、しかしだな。勇者殿や貴公はまさに英雄の戦いであった。それに比べ、私は……」
「ジーク殿、それは違う。貴公の盾なくば、勇者殿はともかく私は潰されていただろう。あの場で貴公は間違いなく私の頼りになったとも!それは貴公自身がどう思おうが、私の真実だ」
沈み込む重装騎士の心をゴブリン騎士は引っ張り上げるかのように熱く語った。
重装騎士自身がどう思おうが、それはゴブリン騎士にとって本当に真実なのだ。
「……ありがとう、友よ。ならば私も私ではなく、貴公を信じよう。貴公の言であれば、信じられる……!」
「ならばよかった……しかし、あの時がまるで夢のようであったというのは、私も同感だ。実感がない」
「お、おお。そうか。実は私もなのだよ。ウワッハッハ……おそろしくもすばらしい、夢のような時間であったなあ……」
「ああ、まったくだ。ハハハ……」
そうして、一息ついて。
「宴じゃーっ!」
「ゴブリン騎士さん、お疲れ様です!もうみんな始めてますよ!」
二人は宴会場に顔を出した。ゴブリン騎士も今は鎧を外した黒いシャツとズボン、そして兜姿である。
そこには酒を飲み、飯を食べる仲間達の姿があった。
「いやー、重装騎士にゴブリン騎士、まさかおんしらが剣王に突っ込んでいくとはのう。無茶しすぎなのじゃよー。肝が冷えたわ」
「ウワッハッハ!実際やっていた私も今思えばぞっとする。だが、我が友は違うぞ!まこと勇敢に戦ったのだ!」
「俺ァへばっちまいました……惜しかったなー!もうちょっと体力つけねェとなァ」
「いやいや、これは蛮勇というもの。褒められたものではないのだ。ハハハ」
などと笑いながら軽口を叩き、宴の中へ。
今回は砂丘ということもあり、皆がそのへんに座って飯を食っている。
余裕のある者は絨毯や布を引いているが、皆おおむね地面に直だ。
「まったくじゃよ!短命種はその命の短さ故に輝くモノとは知っておるが……ゴブリン騎士よ。お主は妻子がいるのじゃから、もすこし落ち着くのじゃ!」
「う、うむ……返す言葉もない」
「今後は命を大事に行きましょうね……!ゴブリン騎士さんが死んだら困りますし、悲しいですよ」
主に真顔で諭されればさすがにゴブリン騎士も反省する。
「すまない。これからは主や妻子を守るような戦いでない限り、あまり無茶はせんと誓おう」
「頼みますよ!」
「ああ」
テイマーは苦笑すると、とっておいた肉料理をゴブリン騎士に差し出した。
「わかりました、信じます。じゃあお腹が減ったでしょう。沢山食べて、疲れを癒やしてくださいね」
「かたじけない……いただこう。うまいな、これは」
「ロック鳥のポットローストだってさー。すごいよね勇者パーティーの料理人さん。皆の分作ってたよ。はいこれお酒」
「おっとコボルト術士どの。これはかたじけない」
ビーフシチューのような茶色いスープに角切りの野菜と肉が入っている。
よく煮られているようで、口の中でほろほろと崩れた。うまい。
「こんな大きな大鍋でね!うちのギルドのエルフよりもすごかったよ。まあ、味はどっちもいいけどね!」
オーク詩人が笑いながら酒をあおる。
後方で演奏しながらも戦いを見ていたのだ。滾るものがあったのだろう。
「そう、こーんな大鍋」
「こんな大鍋か。ハハ、それはいい」
皿の肉をつつきながら、誰にともなく配られた酒を飲む。
「皆、乾杯しようではないか!勝利の後には乾杯だ!」
「ああ、それは良いな。何に乾杯する?」
ゴブリン騎士の目線に重装騎士が笑ってうなずいた。
「貴公の武勇と!」
ゴブリン騎士もまたうなずく。
「貴公の勇気と!」
「そして、剣王に!誉れあれ!」
「ああ、誉れあれ!」
杯が掲げられ、笑い声と共に冷えた酒を皆、煽った。
とても、うまかった。
そして幾たび、杯が重ねられただろう。
「オーク詩人殿。思えば貴公の歌には助けられた。あの場で臆病者にならずにすんだのは貴公のおかげだ。重ねて感謝をもうしたい」
「何言ってるんだい!あの歌はハナから勇気がないやつには効かないもんさ。あたしはそれを思い出させただけだよ。誇りな」
「ああ、ありがとう。ならば、今もう一曲たのむ。祭りの終わりにふさわしいものを」
「あいよ」
重装騎士が銀貨をそっとオーク詩人に渡した。オーク詩人はバンショーを取って弾き始める。
「鋼の刃が奏でる誇り高き音色は、剣王への弔意を示す歌声。荒野に響く、永遠の勇士の賛歌」
それは勇壮ながらも厳かな鎮魂歌であった。
「剣を掲げ、誇りを胸に。剣の丘に立ち昇る煙の中、天に誓う。永遠に剣王の名を讃えん、我らの歌」
一人、また一人と寝落ちて行く中、ゴブリン騎士たちは静かにその歌声を聞いていた。
「良い歌だ」
「ああ、良い歌だな……」
星空の下、赤茶けた砂漠に歌が響く……