◎換金と還元
夜が明けたら皆で剣の丘に散らばる『剣の貴石』を拾い集める。
一見、ただの鉄鉱石に見えるこれは、無数の魔剣の力を凝縮したもので素材としての性能は極めて高い。
冒険者たちはおおむねその場で商人たちに売り払ったり商品と交換してしまったが、テイマー一行は最小限の現金化をした後、城塞都市へと持ち帰った。
「地元に還元するのが大事ですからね!」
「なるほど、武器屋の店主がよろこぶ顔が見えるようだ」
現金も大事だが、このような貴重品を地元で売り流通させるのが貢献となるのだ。
実際、『太陽の武器屋』では店主は破顔して喜んだ。
「おっ、無事に帰ってきたか。よく生きてたなお前さん」
「ああ、重装騎士殿のおかげだ。それで店主、これを買い取ってもらいたい」
カウンターの横に土嚢袋が4つ。
魔法のポーチから出した『剣の貴石』がおかれる。
ゴブリン騎士のものだけでなく、テイマー、コボルト術士、オーク詩人のものも含まれているのだ。
「おお、『剣の貴石』か!持って帰ってきたのか!やるじゃねえか。いいのか俺に卸して。鍛冶屋より商人の方が高く買うぜ?」
「良いのだ。店主には世話になっているからな。テイマー殿がぜひ店主に買って欲しいと……」
「へっ、ありがたくて涙がでらあ。だが、全部売るのはやめときな。どうせ息子に剣をいつか買うんだろ?」
「ああ」
「じゃあ、いくつかはその時のためにとっときな。子供には良い剣を持たせたいだろ」
「……そうだな。助言、かたじけない。いかほど取っておけば良い?」
「お前さん、ガキは何人作るつもりだ?」
「そうだな……おそらく2,3人はできるだろう」
「じゃあちと余裕をもってこんだけはとっときな」
ドワーフの店主がカウンターの上で貴石をより分け、袋に入れてゴブリン騎士に渡す。
「かたじけない。いつか息子が大きくなった時は必ず」
「ああ、楽しみにしてるぜ。それから、こっちが買い取りの金だ」
「……これほど。かたじけない」
買い取り金額は予想より高かった。600金貨ほどだろうか。馬車がいくつか買えるほどの金だ。
それだけの金額をあっさり出せるドワーフ店主の財力のたまものだ。
「いいんだよ。おまえさんは太客だからな。投資だと思や安いもんだ」
「ありがたい」
この思わず顔がほころぶほどの金貨袋は後にテイマーの牧場経営に使われ、存分に成果を発揮する事となる。
◎家へ
ギルドでは勇者パーティーといくばくか言葉を交わし、いつかの再会を願って別れた。
聞けばあの料理人ドワーフが森でトレントに会いに行く時のパーティーが勇者パーティーだったらしい。
あの密林を踏破したことを知った勇者は一層ゴブリン騎士を気に入ったようだった。
いつか訪れるゴブリン王国との戦いで助勢を約束してもらえた。
そして、ギルドに預けていたカナリアンテと馬車に乗ってようやくアッシュピーク村に帰ってくる。
もう夕暮れだ。家々に灯りがつき、村は優しい灯りに包まれている。自分たちの、小さな家も……
「ちちうえー!」
「アーサー!待っていてくれたのか。また少し大きくなったか?」
「うん!」
アーサーがカナリアンテから降りたゴブリン騎士に抱きつく。
ゴブリン騎士は手甲のはまった手でアーサーの黒髪を撫でた。とても愛おしい。
幼子らしい張りのある緑の顔が満面の笑顔を作る。
「そうか。良い子にしていたか?母上や乳母殿を困らせていないか?」
「うん!うん!」
「よくやった。今日は父がお伽噺を聞かせてやろう」
「わーい!」
ゴブリン騎士はアーサーが言葉がわかるようになる少し前から寝る前に読み聞かせを行っていた。
そう、己の母が愛憎を込めて行ったアレだ。
それは呪いに等しくとも、しかしゴブリン騎士にたしかな理性をもたらしたのだ。
故に、アーサーが人の中で生きて行くには必要だろうと妻と話し合っていた。
「さあ、帰ろう」
「はーい!」
帰ろう、愛しき我が家へ……