◎廃坑
ゴブリン王国は今は使われていない廃坑をいくつか占拠した。
北の山岳地帯の奧、忘れ去られた場所だ。
<な、なんだおめえら!>
<ゴブリン王国軍だ。この場所をいただく。ああ、心配するな。お前らも従うなら飯はちゃんとくれてやる。仕事はしてもらうがな>
元々いた少数のゴブリンたちはゴブリン王国軍の軍勢に恐れをなした。
ほとんどはその数と栄養ある食事で鍛えられた体格に戦う前から降服するか、さもなければあっけなく掃討される。
<よし、2か3は生かしておけ。この辺りの情報が欲しい>
<へへえ、若様……>
陣頭指揮に当たっているのはゴブリン暗殺者の長『鷹』とトロル拳法家だ。
一つ廃坑を取ればそこを足がかりに隣の廃坑を取っていく。
決して人間達がいる今現在つかわれている鉱山に近づかずに。
<『鷹』よ。廃坑をまかせる。貴様、王から下賜されたキノコを作れ>
<わかった。トロルよ、そちらは地上で鍛冶場と住処をつくってくれ。廃坑を隠すのも忘れずにな>
<了解した>
二人の指揮により着々と廃坑が要塞化していく。
<労働者たちよ!その女たちよ!これよりここが貴様らの家だ!ここで貴様らはキノコを育て飯を作り、子を増やす!ここが貴様らの安住の地であり、本国の植民地となるのだ!ゴブリン王国に栄光あれ!>
<え、栄光あれ!>
引き連れたゴブリンたちが口々に喋った。
<ど、どういうことだ?>
<さあ?ここで働いて王国のための飯を作れってよ>
<俺たちに何の得があるんだ?>
<さあ……まあ、すくなくともここじゃ働いてりゃよくって、戦わなくてもいいんだとよ>
<へえ、そりゃいいな。それで女は?>
<さあ……王国から女房つれたやつはいいけどなあ。娘ができたらもらうとか……?>
<めんどくさそうだな、それ……ワイロでも贈ればいいんだろうが……>
女達や戦士ではない労働者たちを入れ、キノコを栽培させる。
うでっぷしが弱かったり、怠惰なゴブリンたちはこの農民階級というものに甘んじることになった。
<戦士達よ。貴様らの仕事はこの炭鉱を隠し守る。そのための前線基地なり。さらにここではいずれ労働者たちも来る。貴様らの使う武器を作るためなり。貴様らのための酒を造る。それだけではない。戦士たる貴様らにゴブリン王、娯楽を与えん。軍楽隊と女を授ける。楽しむが良い!>
酒と女、そして音楽。つまり酒場の併設はゴブリンの戦士達に好ましく受け入れられた。
<ウオオオ!>
<戦士になった甲斐があったぜ!>
<ああ!訓練はつらかったけどな!王様はちゃんとご褒美をくれる!>
<いい王様だ!王様万歳!>
その反応を待ってトロル拳法家は付け足した。
<むろん、これは王よりの褒美。ならば貴様らは王に忠誠を誓え。王のために戦い、王の財である民のために戦え。敵が来れば命をかけるのだ!>
<やってやらぁ!>
<お、おう!>
その場のノリで安請け合いするゴブリンがほとんどだったが、中には確かな戦士の誇りに目覚めつつあるものもいた。
<そして王も、我ら臣も貴様らを見ている。勇敢に戦え、されば栄誉を与えん。さらなる褒美を期待せよ。だが戦で働かぬものには罰が待っている!わかるな。勇敢に戦え>
<お、おう……俺は勇敢に戦う!>
<お、俺ももちろんだ!>
<ほんとか?訓練さぼってるときあるだろお前……>
<ご褒美があんならやるさ……そうだろ?お前は勇敢にならないのか?>
<も、もちろん俺も勇敢にやるさ!強くなってやる!>
<だよな、だよな!へへへ……>
ともあれ、ゴブリンの戦士達の士気はそれなりに高くなった。
かくして、廃坑による住居と農場の確保、地上部による要塞と鍛冶場の建設が始まる。
いずれは戦士達による狩りとブドウなどの果実を取るための農園、さらには酒造が始まるが、それはまだ先の話だ。
◎製鉄所
ある程度の開拓が落ち着いた頃、ゴブリン王国からトロル拳法家が弟子とした職人ゴブリンたちがやってくる。
<よく来た。弟子共よ。貴様らはこれより新しい鍛冶場を作る。故に適当に労働者を連れてこい。職人にも酒場を与えん。励め>
<へ、へえ親方……ここに、また一からですかい?>
<そうだ>
<うへえ……野郎共気合いを入れろ!女房共に食わすためだ!働くぞ!>
<お、おう!>
<それから貴様ら職人階級には我がこの勲章を与えん。これがあるならば、酒場にて飯を食う権利が保障される>
<へえ、ありがとうごぜえやす……>
戦士と職人には酒場の利用権を兼ねたネックレスなどのアクセサリが贈られた。
これがゴブリンたちの名誉欲を刺激した。
熟練の職人にはより飾りの多いものを。戦で効を成した者にはこの飾りを……ゴブリン王国に階級と勲章という制度ができたのだ。
もちろん、これは盗まれる事も多かったので、やがて焼き印という形を選ぶゴブリンも増えた。
◎酒場
おいらは軍楽隊のザンニだ。
酒場でいつも楽器を弾いている。気ままで楽しい職だ。
女房のシエラはこの酒場で歌姫としてまるで女王様のように振る舞っている。
ハーピーとしての歌声、そして軍楽隊を設立させた効は俺たちを成功者にした。
おいらたちは賭けに勝ったんだ。
<おい楽師、歌を頼む歌を。まったく疲れるぜ戦士ってのはよお>
<へえ、戦士さま。何を歌いやすか?>
<まかせる。明るいやつがいい。シケた歌なんか聞きたくない>
<わかりやした。シエラ、『戦士の歌』を頼みまさあ>
<ええ!いいわよアナタ。楽隊、始めるわよ!>
<へい!>
おいらは今や慣れ親しんだドラムを叩く。
同僚は笛やら弦を鳴らす。女達はその曲に合わせて歌を歌う。
かつてバラバラで適当だった俺たちの音楽は、いまやちゃんと曲になって響き合っている。
そいつが誇らしい。
<おっ、いいじゃねえか。酒と肉を持ってこい!おい野郎共宴だ!>
戦士達がやってきた。獣の皮を腰と背中に巻いて、鉄のナイフと棍棒を下げている。
このナイフこそが戦士階級の証だ。料理人も包丁が支給されてるが、意匠が違う。
<おう隊長!やってるじゃねえか……今日の狩りも上手くいったからな。このままいけば俺らも新しい勲章がもらえるんじゃねえか?今度は腕に焼き印入れてもらわなきゃな>
<へっ、バカいうな……戦士は戦にでてこそだろ>
<ちがいねえ!野良のゴブリン共の洞窟をまた落してえ!>
<ああ、奴隷はいくらいてもいいからなあ>
肉は戦士達がちょくちょく狩ってくる。戦がないときの戦士達のためにトロルさまや暗殺者さまたちが考えたんだそうだ。
最近じゃあ獣を取り過ぎねえようにトロルさまが止めるくらいなんだと。
毎日毎日ある程度は肉がある。当然、焼いた方が美味い。だから肉焼きがうまいやつがだんだん料理人になっていった。
なんの技もねえ労働者たちも薪拾いや料理を運ぶ……なんてんだっけ?ウエイター?の仕事がある。
この国は皆が支え合ってできてんだ。
<おまちどうございやす。肉焼きです>
<おお、塩が効いててうめえ!酒は?>
<へえ、すぐもってきやす>
<早くしろよ!>
木の板に肉が乗ってやってくる。見てると腹が減りそうだが、夕暮れまえに焼きキノコと干し肉を食ったことを思い出して曲に集中だ。
このリズムに乗る一体感といったらたまらない。
この『酒場』はかなり広い。だから曲も歌もよく響く。
木を地面に突き立てて作った柱。
枝を組み合わせ、編み目みたいにした上に土と落ち葉を重ねて作った屋根。
そりゃあ、人間達の家に比べりゃ貧相だが、俺たちにも家や酒場が作れるようになったんだ。
<しかしこの酒場もだいぶぜいたくになったよなあ!>
<ああ、俺らが獣をとってくるおかげだ。それにたくさん働いたもんな!>
<ああ、家を建てるのは大変だった……>
俺らが座る地面も獣の毛皮が。壁の代わりに職人たちが織った布を使っている。
機織りも今じゃ名誉ある職だ。
おかげでおいらも服と帽子がもらえた。道化のパリッとした衣装を着て音楽を奏でるのはおいらたちの名誉だ。
<へえ、酒です>
<おっ、人間のやつか!赤いやつだな!これはうめえんだ。おい乾杯だ乾杯!>
<おう乾杯だ。皆飲め!>
<おう!>
ウェイターが酒を持ってくる。酒は最近ようやく少しづつおいらたちでも作れるようになったらしい。
なんでもブドウや果物を沢山とってきて壺に入れて作るんだと……その壺にしたって鍛冶屋のやつらが必死で土をこねて作っている。
奪ってた時は気にしなかったが、作るのってこんなに大変なんだなあ。
<文明に!>
<おう文明に乾杯!>
ゴブリンのおいらたちが自分たちで作った酒場の中で肉を料理して、自分たちで音楽を奏で、酒を飲む。
おいらがその風景の中にいることがとても誇らしい。これが王様の言ってた文明ってやつか……
そろそろ書きためが心元なくなってきたので少し間を開けます。
すいません…11月1日からまた更新します。