ゴブリン騎士と農民姫   作:照喜名 是空

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次代の章 五年目・春
アーサー三歳の誕生日


◎三年後

 

それから、三年がたった。季節ごとにいろいろな冒険や思い出があった。

だが、それはここでは語ることはない。

アーサーは健やかに成長し、兄弟には双子の男の子が生まれた。

多少のわがままや駄々をこねることはあった。いたずらもまああった。

行きすぎればゴブリン騎士の平手が飛ぶこともあった。

だがまあ、常識の範囲内で厳しくも暖かい家庭であった。

 

「三歳の誕生日、おめでとう。アーサー」

「はいなのだ!父上も母上も、乳母様も!レオとゴドリーもみんなみんな大好きなのだ!」

「にーにー!」

「おめでと!」

 

ここはゴブリン騎士の家。皆が集まってリビングでささやかな誕生日パーティーがされていた。

三歳。ゴブリンで言えば幼児ではない。五歳がおおむね元服だとすれば、ちょうど少年だ。

 

「さあ皆、母様がケーキを焼いてくれたぞ」

「わーい!」

「どうぞあなた、切り分けてください」

「うむ、私がやろう」

 

小さなテーブルの上に大きなリンゴのタルト。色鮮やかなそれは祝いの席に実にふさわしかった。

ゴブリン騎士がタルトを切り分け、皿に盛り、全員に分ける。

子供達はそれをお行儀良く待っていた。躾が行き届いている以上に、祝いの席の雰囲気がそうさせているのだ。

 

「さあ、いただこう。食べなさい、皆」

「はーい!」

「うわー!おいしいのだ!母様ありがとうなのだ!」

 

飴色に焼かれたリンゴのタルトはとろけるように柔らかく甘い。幸福の味だ。

アーサーはフォークで器用に切り分けて食べていた。双子はまだスプーンだ。

 

「いいのよ。アーサーも最近は良い子にしてましたからね」

「はいなのだ!もう三歳だから、良いことと悪いことはわかりますのだ!」

「そうか、それは良いことだ。そんな良い子のアーサーに父からプレゼントがある」

「えっ!ほんとうなのだ!?」

「もちろんだとも、少し待ちなさい」

「はいなのだ!」

 

ゴブリン騎士は自室に入り、プレゼントを出す。それは誕生日リボンで飾られた木剣だった。

ゴブリン騎士が手ずから頑丈な木材を選んで削り出したものだ。ゴブリン騎士のショートソードによく似ているが、やや小さい。

ゴブリン騎士はこれを削り出すにあたってドワーフ武器屋に監修を頼んだが、その時こっそりと武器屋が木刀に祝福をかけておいたことは誰も知らない。

 

「家の中では振り回してはならんぞ」

 

そっと父から子へ剣が渡される。アーサーの顔がほころび、ゴブリン騎士を見上げた。

 

「わあ!剣なのだ!じゃあ、父様……」

「ああ、明日から剣を教えよう。前々からアーサーが習いたがっていたのはちゃんと覚えているぞ。先生にも言ってある」

「やったー!」

「にーにーいいな!」

「いいなー!」

 

アーサーは木剣をぎゅっと握りしめ、満面の笑顔で頭を下げた。

 

「ありがとうなのだ父様!先生にも、あとでお礼を言うのだ!」

「うむ、だが良い機会だ。アーサーだけでなくゴドリックとレオナールもよく覚えておきなさい。『力を畏れよ』。武器持つ者は武器を、魔法を持つ者は魔法を畏れなさい。それは正しく用いなければ時に自らを滅ぼす。力とはそういうものだ。いつでも、正しいと思ったことのために使うのだ。わかるな?」

 

ゴブリン騎士は優しくアーサーの頭を撫でて静かに言った。

 

「正しいこと……?大切なひとや、よわいひとのために使うのだ?こう……悪いことのためにはつかいませんのだ」

「うむ、それで良い。良いと思った事をしなさい。人を不幸にするのではなく、幸せにしてあげられるように」

「わかりましたのだ!レオ、ゴドリーわかったのだ?」

「あい!」

「あい、にーにー!」

 

双子は母譲りの可愛らしい顔で笑った。柔らかく滑らかな緑の顔で。

ゴブリン騎士は、それを見て心から幸福を感じた。

とても暖かな、しかしどこにでもありふれているはずの家庭の一場面だった。




「アーサーの木剣」

ゴブリン騎士がその息子アーサーのために作った木のショートソード。
子供用であるため、常のものよりやや短い。
しかし、ドワーフの手により付呪がかけられた木材はとても頑丈だ。

いつでも、正しいと思ったことのために使いなさい。


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