すこやかな
◎すこやかな成長
それから、さらに2年がたった。
アーサーは成人し、冒険者になりはじめたという所だ。
双子は武術を習い始める3才になり、レオナールは格闘に才を見せ始め武人めいた性格に育ち、方やゴドリックは物静かで物作りに才能を発揮して鍛冶屋への道を歩み始めていた。
「『偉大なる太陽神よ!あなたの矢を一時かしたまえ『雷の短槍』』!」
アーサーはテイマーの作成した霊馬に乗り、手にバトンほどの短い雷の槍を生み出して鳥に放つ。
大きめのアヒルほどの鳥の魔物は雷に打たれて落下した。
「とどめだ!『流星脚』!」
レオナールの蹴りが鳥の首を切断する。彼は魔力を纏わせ手足を刃とする闘技を彼は習得していた。
「お見事です二人とも。調理は任せて下さい」
ゴドリックは魔物の体を布袋に入れて兄弟達と同じく霊馬に乗る。
三兄弟は常のゴブリンと異なり、緑色の艶やかな肌を持つ子供のような顔のゴブリンとして成長した。
「うむ!ゴドリーの料理はうまいのだ!父上もきっとよろこぶのだ!」
「ああ、大兄上。キャンプに帰ろう」
ここはかつてゴブリン騎士とテイマーたちが歩きキノコを求めて踏み入った大森林の入り口付近である。
ゴブリン騎士は息子達が大きくなると春先から夏の間にこうして時折キャンプに出かけるようになった。
もう1、2年もすれば彼らは大人としてそれぞれの道を歩み出していくだろう。
ゴブリン騎士はそれまでに可能な限りを託したい、あるいは親として世話を焼いておきたいと考えたのだ。
「父上ーっ!」
「おお、皆帰ったか。無事で何よりだ」
ゴブリン騎士の横には巨大な熊の骸。依然ゴブリン騎士の腕は衰えていないのだ。
側には熊から切り落としたであろう肉を食らうカナリアンテがいた。
カナリアンテもまた度重なる闘いと強い魔力を持った魔物の肉を与え続けられたため、ヘラジカのような大狼となっていた。
「親父、その熊は?」
「ああ、向かってきたのでやむなく倒した。今、肝を煮ている故少しつまみなさい」
「さすがは父上なのだ……一太刀で首筋が切れているのだ」
「見ろ大兄上。この切り口、我らではこうはいかん」
「うむ、まるで鏡みたいなのだ」
「兄上、レオこの肝煮おいしいですよ。命に感謝を」
「うむ、いただきますのだ!」
「いただくぞ親父」
レオナールとアーサーが感心する。彼ら三兄弟はこのようなキャンプで狩りへのためらいをすでに克服していた。
そして、同時に命への感謝もきちんと教えられていた。
「ああ、少しつまんだらお前達が狩ってきた獲物を捌こう。何を狩ってきた?」
「よくわかりませんが、白く大きな鳥です。氷の魔法を使ってきました」
「なかなかすばやかったのだ。でも打ち落とせたらレオが一撃でやってくれたのだ!」
「フン、大兄上がほぼ倒したようなものだろう」
レオナールはむっつりと照れたように横を向いた。
なんだかんだで彼ら家族は円満にやっている。こうなるまで色々と思春期のあれこれがあった。
偉大すぎる父、強すぎる兄、レオナールが拗らせることも、ゴドリックが卑屈になることもあった。
しかしそれらを上手く乗り越え、家族は今は仲良くやっている。
レオナールはゴブリン騎士の連れてきた旅の
これはゴブリン騎士の名声と人徳による出会いであったが、ゴブリン騎士当人は周囲の人々の善良さに深く感謝をしていた。
「これです父上」
「ああ、フェアリースワンか。良く肥えて美味そうだ。傷も少ない。皆、腕を上げたな」
「えへへ……そうですのだ?」
「親父の境地にはまだ至れんがな……」
「父上、これはどう料理しましょう」
三者三様の答えをゴブリン騎士は満足そうに聞く。
ああ、ようやく家族水入らずの時がすごせるようになった。ここまで育てるのはとても大変だった。だがやってよかった。
「うむ、お前達は若いのだ。これからゆっくり腕を磨いて行けば良い。父はお前達をすでに冒険者としてやっていけるまで鍛えた。ああ、ゴドリック。肉は辛めのステーキかタレで焼き鳥に。肝は塩焼きが美味いぞ」
「ではそのように。レオ、さばきましょう」
「うむ!できあがりがたのしみなのだ!父上、アーサーも精進しますのだ」
「冒険者として……か。早く活動して名を上げたいものだな」
そんな他愛もないことを喋りながらゴブリン一家は鳥を解体して調理していく。
解体は皆でやったが、調理はゴドリックの出番だ。鳥をドワーフ風の濃い味付けで焼いていく。
ゴドリックは鍛冶に道を見いだしてからはまずは村の鍛冶屋、そしてゴブリン騎士行きつけの太陽の武器屋のドワーフに師事している。
その過程で料理もまた上手いとわかったのだ。徒弟とあらばまかないを作る事もあるのだから。
「鳥もも肉の火炎苔和えドワーフ風、肝の塩焼き、つけあわせはワインと黒パン、熊肝シチューです」
皿に盛られたのは香辛料である火炎苔の赤が美しいもも肉ステーキ、ほとんど生レバーに近い塩焼き、アルコールの薄いワインにカチカチのパンをシチューにつけたもの。
どれも香ばしい香りを漂わせている。
「うまそうなのだ!いただきますのだ!」
「ああ、いただこう」
アーサーとゴブリン騎士に続き皆が食べ始める。
「うまいのだ!さすがゴドリーなのだ!」
「ああ、いい辛味だ」
「ありがとうございます」
香ばしくとろける脂、岩塩の効いた血の味のレバー。優しく味付けされたシチュー。
得に野外、輝く星の下で食べるにふさわしい美味と言えた。
「ところでこの間の討伐でまとまった金が入ってな……そろそろ三人にちゃんとした武器を買ってやりたい。お前達何が良い?」
その言葉に三兄弟の目が喜びに見開かれ、フォークを動かす手が止った。
「おお!それはありがたいですのだ!もちろん直剣がいいですのだ!父上と同じ
「俺は……そうだな、
「私は自分で作ってみたいですね……」
「まあまあ、こういうときはみんなで貰うのだ!」
「うむ、遠慮せずもらいなさい。父が皆に送りたいのだ。少し早いが、成人祝いのようなものだ」
「ではレイピアを。手本にもしたいので……」
「うむ、それは良いな」
ゴドリックは武術の才は少なかったが、それでも軽いレイピアによる突きは及第点にまで及んだ。
「強化はどうする?最低一回は単純強化をするのを進めるが……とはいえ、ゴドリックは手本にもする故、そこは任せるが」
「アーサーは実は貴石に当てがあって……たぶん太陽の貴石になると思うのだ。単純強化も2回はしたいし……」
かつて見習い魔女が作った貴石の花は、今や美しい果実をつけている。きっと中からは貴石が出るだろう。
「俺はそうだな……雷など便利そうだ。古竜殿にいただいたという貴石、あの中にもあっただろう、親父」
「私は月の貴石をまだ余っていれば使わせて下さい。父上の月明かりの輝き……私もまた、手にしたいのです」
「うむうむ……」
やはり皆、男だ。武器のことになれば話題は尽きない。こうして、夜は更けていく……
間近に迫った、旅立ちを見据えながら。