ゴブリン騎士と農民姫   作:照喜名 是空

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第一次ゴブリン王国紛争その③進撃のゴブリン

◎進撃のゴブリン

 

そこからの動きはゴブリン側は極めて早かった。

その日のうちから工兵隊を出し人類圏の寸前まで領土を拡張。

簡易な街道と砦を作りすぐにでも進軍可能にした。

その間、わずか2日。工兵隊の昼夜を問わない突貫作業の成果だ。

 

<万歳!万歳!ゴブリン王国万歳!>

<ゴブリン王様ご親征!ゴブリン王様ご親征!>

<万歳!万歳!進軍万歳!>

 

一仕事終えて休んでいる工兵隊の前を本命の兵士たちが通り過ぎ、それを工兵たちは笑顔で見送る。

ちぎれんばかりに手を振って、中には疲れを忘れて飛び上がって喜ぶ者すらいた。

貫頭衣の上から簡易な鉄板による鎧兜。手には槍、腰にはナイフ。ちゃんと靴すら履いている。

今までの野生生活を覚えている世代のゴブリンには涙が流れるほどかっこよく写った。

 

<すごいな、これが俺たちゴブリンだってのか>

<ああ、まるで勇者か軍隊だ>

<バカ!本物の軍隊だ。見ろよきちんと行進してる……かっこいいなあ>

<ああ、かっこいい。ゴブリン軍万歳!>

 

その声を聞いて行進するゴブリン兵たちはかすかににやける。

たまに敬礼を返す者もいた。しかし誰も私語を喋らず黙々と歩く。

彼らは今や訓練された兵士そのものになったのだ。

 

やがてゴブリン軍は夜を待ちわずかに休息し、そうして北の坑道への関所を襲った。

北の関所。ここはいわば山脈を隔てたドワーフの国とロンド王国の境界だ。

人類の最北端。辺境も辺境。

駐留していた兵士はわずかなものだった。

 

「なっ、なんだ!?ゴブリン!?ゴブリンなのかこれは!?」

「軍勢だと!?ゴブリンの……?くそっ、この数ではどうしようもない!関所を放棄しろ!撤退だ!」

「囲まれています!撤退……できるのでしょうかこれは……」

「くそっ!ゴブリン共め!」

 

故に、勝敗はあっという間についた。

包囲され撤退すらできなくなった騎士たちに、しかしゴブリンたちは交渉をもちかけた。

 

「おおい!人間の騎士さんよぅ!生きて帰りたきゃこいつを近くのご領主さまにもっていきな!ここは俺たちがもらうからよぉ!返してほしけりゃこいつを読んでよくよく考えてくんな!さもなきゃ戦だってこっちの王様がいってましたぜぇ!」

 

投げ込まれる羊皮紙の紙。丁寧に封蝋とあて名まで書いてある。

「ゴブリン王からドリーマー辺境伯へ」とあった。どうやら本当に敗残した人間達を伝令として使うつもりのようだ。

しばし考え、騎士達は自分たちが生き残るにはどうやらそれしかないと理解した。

 

「わかった!必ず伝える!伝えるから我々を逃がしてくれ!」

「おお逃げろ逃げろ。どうぞ逃げなせえ。ちゃんと伝えてくだせえよ?」

「わかった!わかった!」

 

そうして、伝令となった敗残兵たちによりゴブリン王からの文がサイラス・ラスター・ドリーマー辺境伯に届けられるまでわずか3日。

人間側はちょうどサイラス辺境伯が冒険者ギルドに大規模ゴブリン討伐の依頼を出そうとしていた時だった。

平和になれすぎていたのだ。この戦いにおいて初手を人間側はゴブリンに渡してしまうこととなった。

 

「それで、これがゴブリンの軍……ゴブリン王国からの手紙だって?」

「はい、呪いがかけられているか確かめましたが間違いなくただの手紙です。内容は……先日の北の街道調査への報復、といいますか……どうやらあの北の坑道を占拠しているようです。数も五千は下らぬでしょう」

 

ドリーマー辺境伯の執務室。執事と共に彼は受け取った書状を見ていた。

 

「間違いねえな……いつだったか研究塔を襲ったやつらだろうよ。研究の成果とやらをあいつらは最大活用したってわけか」

「おそらくは。書状を見てみましょう」

「ああ、そうだな」

 

【城塞都市の領主様ドリーマー辺境伯へ】

 

我々ゴブリン王国は、貴都市の人々から受けた迫害、占有した廃坑、および街道に対する問題について、解決のための提案を致します。共存と平和の実現を目指すべく、以下の要求をお伝えします。

 

・賠償の一環として、食糧、金属物資、医療品などの必要な物資を貴都市より供給していただきます。これは共存のための支援として捉えております。

・我々の生活領域として、貴都市の放棄した廃坑および周辺部の森を金貨千枚によって我々ゴブリン王国が買い取り、貴都市より割譲していただきます。この領土は自治権を有し、我々の文化や習慣に基づいた統治が行われます。

・また、貴都市に所属するゴブリンの騎士、および彼の一党ついては、我々の領民として引き渡していただきます。彼らは我々の社会において重要な存在であり、共存のための連携を築く上で必要です。

 

これらの要求を受け入れていただくことで、ゴブリン種族と貴都市との間における紛争を終結させ、平和的な共存を実現することができます。

この提案に対する貴都市のご検討をお願い申し上げます。共に理解と調和を深め、互いに利益をもたらす未来を築いてまいりましょう。

 

【敬具。ゴブリン王より】

 

これを読んだドリーマー辺境伯たちは顔をしかめた。

 

「あー、つまり。なんだ……この間の討伐に対して賠償としてメシやら鉄やら寄越せと。あとあの坑道を金貨千枚で買わせろと。なるほどなあ……」

「それと、あのゴブリン騎士とその一党も要求しています。これは……無理でしょう。最終的にはこの条件で停戦することになるかもしれません。ですが、戦わないうちからこれはいささかふっかけすぎかと」

「だよな、ふざけやがって。しゃあねえ、戦争か。よしわかった今から返事を書くぜ」

「それがよろしいかと」

 

【外交文書】

 

ゴブリン王へ。本邦の領土に対する貴君の要求に対し、当方は以下の通り返答いたす。

 

一、貴君の要求は全面的に拒否される。坑道は我が都市の所有であり、故に貴君らの不当な占拠は認められない。

二、当方は、正当な権利と領土の保護に全力を尽くす覚悟がある。我々の使命は、領民の安全と繁栄を守ることである。

三、戦争は事の是非を決する手段として選ばれる。当方は、武力による衝突を避ける努力をしたが、貴君の要求が不合理であり、我々の理念と価値観に反するものであるため、これ以上の譲歩はできない。

四、我々は、我々の正義と信念に従い、戦いの結果を受け入れる。どのような結果になろうとも、我々は誇り高く立ち向かい、領土と自由を守るために闘う。

五、我々は団結し、勇気を持って立ち向かう決意を固めた。貴君の軍勢に対しては、最大限の抵抗と防衛を行う。

我々の騎士たちは、我が領土と領民を守るために命を捧げる覚悟がある。

 

そしてそれは我が領民たるゴブリンの騎士と彼の主人、一党についても同様である。

彼らもまた我々の一人であり、貴君らにお渡しすることは決してない。

 

【敬具。城塞都市の領主ドリーマー辺境伯より】

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