ギルド、掲示板前の「円卓の間」。
四方の壁に大きな掲示板と真ん中に大円卓、周囲に小さな丸テーブルがいくつもある広間だ。
「依頼!緊急依頼です!北方の鉱山を占拠したゴブリンの大討伐依頼がドリーマー辺境伯から出ています!」
ギルドでは慌ただしく「討伐」への準備が進められていた。
皆、それぞれに武装してこの依頼が正式に出るのを今か今かと待っていたのだ。
「へっ、それでそりゃあいくらなんだい受付の姉ちゃん」
「一日につきなんと一人金貨5枚です!ギルドと辺境伯の共同出資なので今回は大盤振る舞いですよ!食事付きです!」
槍を持った黒皮鎧の斥候が尋ね、ヒュウと口笛を鳴らした。受ける気のようだ。
「軍との連携は?」
「えー……それですが、皆さんは依頼を受けた人は一時的に辺境伯軍の指揮下に入ります。現地で指示に従って下さい」
「なるほど、部隊を率いるのは?」
烏羽の騎士が腕組みをしながらたずねる。彼の慎重な性格が現われている質問だ。
「騎士サー・マクシミリアンが隊長となります。彼は辺境伯が冒険者であったころのパーティーの一人です。冒険者にたいしそこまで無茶はさせないと思います」
「だろうな。あれは無意味に捨て駒は作らん御仁だ。いいだろう、彼が頭であるというならば受けよう」
「聞いたな、野郎共!戦争だ!クソッタレのゴブリン……いや、侵略者共を叩き返してやれ!」
「そして、ゴブリン騎士さんとテイマーさん、貴方たちには指名で依頼が入っています」
今までギルドの喧噪を聞いていたテイマー一党に目が向けられる。
オーク詩人、コボルト術士、テイマー。そして、ゴブリン騎士。
珍しいフルメンバーだ。
皆、覚悟と決意をすでにしてきた顔だ。コボルト術士はいつもの通りだったが。
「……そうであろうな。皆、覚悟はしてきた」
「もちろん、勝つつもりですけどね!」
「そう言ってくださると思っていました。では、読み上げます」
受付嬢が片手に持っていた羊皮紙をめくって掲げる。
「『いつか話していたその時が来た。約束の通りゴブリン王の討伐を金貨百枚で依頼する。貴殿の一党にはこの戦いの旗頭になってもらう。ゴブリン王への道は我々が作ろう。ゴブリン騎士とゴブリン王の因縁を終わらせられたし。なお、今回の依頼は今回の作戦のみに適用される。適時同様の依頼が来ると思われたし』」
一呼吸おいて受付嬢は続けた。
「なお、追記としてゴブリン王国側からゴブリン騎士さん、およびテイマーさんたち一党を名指しで引き渡し要求を受けていましたが、ドリーマー拍は断りました。その際の文言がこれです。『我々の騎士たちは、我が領土と領民を守るために命を捧げる覚悟がある。そしてそれは我が領民たるゴブリンの騎士と彼の主人、一党についても同様である。彼らもまた我々の一人であり、貴君らにお渡しすることは決してない』」
ゴブリン騎士とテイマーは一瞬驚いた様子を見せた後、深くお辞儀をした。
認められたのだ。ゴブリン騎士達が公式に領民として。そこにあったのは深い感謝だった。
そのある種ヒロイックな状況はギルドの士気を上げた。おそらくは、辺境伯の狙い通りに。
歓声が響き渡り、皆がゴブリン騎士達を祝福する。
「友よ!やったな友よ!貴公もこれで正式に我々の一人なのだ!めでたいことだ。そして、辺境伯に、この戦に!誉れあれ!」
「ああ、ありがたいことだ。友よ……貴公にも感謝を。ここまでこれたのは貴公の、そして皆のおかけだ」
「ウワッハハハ!なに、これは貴公らが勝ち取ったものだ!そして、これで終わりではないぞ貴公?いつか来ると覚悟していた戦いがいよいよ来るのだ。怨敵と戦場にて決着をつける!騎士の名誉よな!」
「ああ、名誉なことだ……感謝に耐えん。必ずやあの男を討ち果たしてみせよう!」
ばしばしと重装騎士がゴブリン騎士の肩を親しげに叩く。
ゴブリン騎士はかすかに感謝と感動、そして武者震いに震えながらうなずいた。今はフルフェイスの兜があってよかった。涙ぐむ姿を見せずに済む。
「いやーこれは歌にしがいがあるのう。まさかとは思っておったが本当にこんな日が来るとはのう……」
「ああ、まったくだ。今回ばかりは、歌を作るのはあんたに任せるよ。これはあたしらの物語だろう?演ずる本人が歌っちゃ興ざめだ。あんたが歌に残してくれ」
「そんな縁起の悪い事を言うでないわ!オーク詩人、おぬしも添削するのじゃよ!こんな大仕事わらわ一人に任すでない!」
「はははっ、戦いのど真ん中で戦った後に歌を作れって?人使いが荒いねえ、でも、覚えておくよ」
「必ずじゃぞ!」
「ああ、死ねなくなった」
テイマーやコボルト術士も同様に人々に囲まれ、まるでお祝いだ。しかしそれは戦への不安と高揚の裏返しでもある。
そして、騒ぎが一段落した頃、烏羽の騎士が愛刀『
「皆、この物語に馳せ参じる者は!伝説に歌われるまたとない機会だぞ!」
『屍喰らい』。
見た目こそただの
何千、何万の敵を斬り殺し、その怨嗟を飲んだ刀は異様な迫力がある。
なんども修理、打ち直しされて強度や見た目は普通であるにも関わらず、伝説に歌われる武器なのは理由があるのだ。
その重々しい迫力がまた場をよく演出した。
「ならば一番手は私だ!この重装騎士ジーク、友の戦いに手を貸そう!」
重装騎士が背中に背負った
「じゃあ俺もいくぜェ、アッシュピーク村の剣士トニー!先生の一番弟子だァ!」
次々に剣が掲げられる。まるで、まさに伝説に歌われるにふさわしい光景であった。
「しょうがねえなあ、つきあってやるよ俺の名は残さなくていいぜ」
「まあ……後ろから見てやるくらいはするわい」
黒皮鎧の斥候の槍が。狐人巫女の
「もう俺だって一人前だ!」
「私だっていつまでも初心者じゃないもの!」
猟師の鉈が。小さな魔女の杖が。
「むろん、私もだ。煽っておいて私だけ抜けるなどせんよ」
烏羽の騎士が。
「だとよ!おらゴブリン騎士なんとか言え!おめえが今回の主役だ!」
ゴブリン騎士はその光景に感謝の涙を流していたが、いつまでも泣いているわけにはいかない。
はっと前を見て深呼吸を一つ。
「……皆、ありがとう。感謝にたえん……私の因縁のためでなくともよい、この街を守るため、一時でもよい力を貸してくれ!ここまでお膳立てしてもらったのだ。勝とう、勝とう皆!この街のために!」
「おお!」
「この街のために!」
歓声は大きく、長く続いた……
これが後に長く伝説に伝わる『ゴブリン騎士と円卓の冒険者』である。
『屍喰らい』
ありふれた剣鉈。標準的でふりやすく、クセがない。
ただし何度も改修を重ね、かえって頑丈になっている。
烏羽の騎士はかつて戦場で屍漁りをしていた。
これはその最初の武器であり、その銘も初心を忘れぬためである。
何千、何万の敵を斬り殺し、その怨嗟を飲んだ鉈は異様な迫力がある。