ゴブリン騎士と農民姫   作:照喜名 是空

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第一次ゴブリン王国紛争その⑤『北方街道の会戦』

◎第一次ゴブリン王国紛争「北方街道の会戦」

 

「改めて、貴様ら冒険者隊を指揮するマクシミリアンだ!作戦を説明する!」

 

冒険者隊を先導する騎士が振り向いて声を張り上げた。

ゴブリン王国が布陣する北方の砦まで歩いておよそ1週間。

大勢の騎士や軍人たち、戦馬や装甲馬車(ウォーワゴン)、冒険者たち。

それだけではない、炊き出しのための食糧隊や楽隊、さらには娼婦達。

いわば基地が移動しているようなものだった。

久方ぶりの本気の戦争だとわかる。

 

「貴様ら冒険者隊の役割は囮だ!ゴブリン王はゴブリン騎士と決着をつけようという考えが常に頭を過ぎる!それを利用して貴様らに注目している隙に辺境伯軍の本隊が周囲のゴブリン共の数を減らす!本作戦の目的は敵の司令部と部隊の分断だ!我々騎士隊が命を張って貴様らをゴブリン王の前まで送り届けてやる!あとは貴様らの仕事だ!決着をつけてこい!」

「おおお-!」

 

マクシミリアンは荒くれ者を束ねる軍人、といった騎士だった。

ともすれば威圧的と見えるこの男が実は細やかな気遣いや手加減をしているとわかったのは出立から3日ほどたってからだった。

今ではすっかりゴブリン騎士やテイマーと打ち解けている。

 

「そういうわけだ。サー・アラン!お前のために命を賭ける連中だ!何か言ってやれ!前に出ろ!」

 

マクシミリアンは半分は皮肉を込めてゴブリン騎士をサー・アランと呼ぶ。

もう半分はある程度は騎士として認めてもいるのだろう。ゴブリン騎士はそれがうれしかった。

ゴブリン騎士はカナリアンテの手綱を操り、隊列の前に出た。行軍中なのだ、皆、歩きながらとなる。

ゆらりと隊列の前に音も無くカナリアンテが降りたち、その上からゴブリン騎士が声を発する。

 

「感謝いたします、サー・マクシミリアン。では手短に……皆、感謝する!ここまで来たのだ、多くは言わぬ。貴公らと轡を並べて戦えることを誇りに思う!共に勝利を!」

「共に勝利を!」

 

冒険者隊の士気は一週間の行軍を経てもなお高かった。

歓声と共に共に勝利をと皆が唱える。

 

「では、テイマー殿の方に戻ります。私は主の従僕でありますから」

「お堅いやつめ!だがそこが気に入った!サー・アラン戻ってよし!」

「了解であります、サー・マクシミリアン」

 

◎会戦

 

そうして、とうとう両軍は北の砦の前、広い野原でまみえた。

じわじわとお互いの姿が目に入るようになり、やがて顔が見える距離で互いは布陣を終え、一時停まった。

駆け抜ける風、静寂。緊迫。

そしてどちらともなく進軍ラッパが鳴り合った。

 

「打ち合わせ通りだ!冒険者隊、護衛騎士隊、進撃する!魔法師団と後詰めは援護しろ!いくぞ命知らず共!戦争の時間だ!」

「うおおお-!」

 

テイマー一党は冒険者たちと騎士達に守られながら進撃する。

その真っ先、最先端をいくのがサー・マクシミリアンだった。

このような野戦においては貴族が一番槍として先導する。眼前に広がる何千、何万の軍を前に、一度も後ろの味方を振り向かず。

それは仮に部下が誰一人ついてこずとも貴族として戦うべき場面で義務を果たすという凄絶な覚悟の現われだ。

 

「あれが騎士。義務のために剣を抜く者……!」

「すごいですよね。ゴブリン騎士さんがあこがれる理由が少しわかった気がします」

「ああ、素晴らしい。行こう、テイマー殿、皆。我らは我らの義務を果たしに」

「ああ!腕が鳴るってものさ!」

「久々に遠慮無しにやれるねえ」

 

そして、その姿を見て後ろからついて行く兵士たちは奮い立つのだ。

 

「弓隊、魔術師団!打ち方はじめ!サー・マクシミリアンには当てないように!」

「了解!弓隊、撃ちます!」

「了解、魔術師団、詠唱完了!撃ちます!」

 

サー・マクシミリアンの頭上を越えて味方からの射撃が飛んでいく。

それだけで一番槍を狙ったゴブリン達の戦列がばたばたと倒れた。

 

<こ、これが戦争か……>

<馬鹿野郎ビビるな!やるんだ!今がその時だ!勇敢に戦え!>

<そうだ勇敢に戦え戦士共!一番槍で生きて帰った者には五本指勲章が与えられる!死んだものは必ず赤の武神と藍の女神に迎えられる!『黄金の館』への一番乗りだ!行けー!>

<撃て!シャーマンも撃ちまくれ!あいつだ!あの一番槍の騎士を狙え!>

 

ゴブリン兵たちも恐れながらも決して逃げようとはしない。戦いへの高揚があるのだ。

そうして、両軍の一番槍同士がぶつかり合った。

 

<一番槍だあああ!!この俺、ゴブリンウォリアーのガガルが!>

「やかましい!だが勇敢さは称えよう!死ね!」

 

ガガルはオークと見紛う大きさのゴブリンウォリアーだった。鎧と盾、手には槍だ。

サー・マクシミリアンも同じくフルフェイスの金属鎧に中盾(カイトシールド)、武器は薙刀(グレイブ)

勝負は短かった。

ガガルが突きだした槍をマクシミリアンは『纏い』をしたグレイブから出る光波で槍ごとガガルの腰を真っ二つだ。

体格に優れた大型ゴブリンよりも、人の積み重ねた冶金技術と魔力による身体強化が勝ったのだ。

 

「サー・マクシミリアン。無事か?」

「その声は烏羽か!全員ついてきているな?愉快な出前の始まりだ!ゴブリンの王とやらにサー・アランを送り届けるぞ!」

「ああ、全員後ろからついてきている。共に勝利を」

「おしゃべりする暇があるなら手を動かせ!」

「動かしているとも。心外だな」

 

烏羽の騎士はまたもやコレクションの一つ「栄誉の石盾」を使い自分とマクシミリアンに結界(バリア)を張る。

それだけでほとんどのゴブリンの呪術や矢が弾かれていった。

武器として使えるマジックアイテム。そのコレクションによる手札の多さ。それが烏羽の騎士の真価なのだ。

 

<いくぞおお!!>

「思ったより強ええじゃねえか……だがあいにく強いゴブリンなら見慣れてるんだよ!」

 

そのすぐ後ろ、歩いて10歩もない距離の前線では人間とゴブリンがすでにぶつかり合っていた。

そこかしこで切り合い殴り合いが起こっている。乱戦だ。

 

<やれる!やれているぞ!人間と正面から戦えている!訓練は無駄じゃなかった!>

「くそっ、つええ……けどその動きは知ってるもんねェー!」

<ちくしょう……だが、まだまだ……!>

 

トニーがゴブリン兵の手練れと戦う。剣のぶつかり合いはわずか1分ほどでトニーの勝利となった。

だが、これは彼が今日一日で経験する戦いのほんの序章である。

そんなことがそこかしこで起こっていた。

戦いは熱狂の中に入ろうととしている……

 

◎決戦

 

そうして、戦いが始まってどれだけ経っただろうか?

太陽の位置はまだ昼下がりだ。半日も経っていない。

だがそれでも人間側の最前線は疲労困憊だった。一戦一戦ではまあ勝てる。常のゴブリンと比べると決して楽ではないが。

しかし何時間も戦い続ければ到底満足に戦えない。手傷は増え、疲労は溜まり、動きは悪くなる。

 

「これがまことにゴブリンか……?いや、私が言えたことではないが」

<くそっ……俺とお前、何がちがう……>

 

ゴブリン騎士達も冒険者たちに守られた状態であるとは言え、少しずつ疲労がたまってきていた。

手傷はまだない。だが、いずれはわからない。

だが、それでも彼らはやり遂げた。

 

「見えたぞ!ゴブリン王だ!俺たちが血路を作る!冒険者隊は前に!一騎打ちを邪魔させるな!行け!」

 

サー・マクシミリアンと烏羽の武器から出る光波でゴブリン軍の包囲が崩れる。

そこに騎士達が入り込み、片っ端から『纏い』による長大な光剣で次々になぎ払う。

できたのはゴブリンの血肉でできた赤絨毯だ。

 

「行くぞ!ようやく出番だ!」

「しゃあねえなあ……オラ行ってこい!花道だぞ!」

「友よ!行こう!」

「えらいところに来てしまったのじゃあ……」

「行きましょうゴブリン騎士さん!オーク詩人さんは弓で牽制を!コボルト術士さんはいつも通りで!『従魔の癒やし』!『魔力贈与(マナコンバート)』『魔力最大化』『三重詠唱』『従魔への加護:剣・盾・盾』!」

「ついでにコイツも持っていきな!≪勇敢なる騎士よ、宿敵と決着をつけよ。因縁の精算をここに。英雄譚はここにあり!『勇猛(ブレイブ)』>」

「……ああ、行こう!」

 

そうして。ついに両者は向かいあった。

 

「久しぶりだな。……剣を変えたか。そっちの方が良い」

「ああ、久しいな。あの時は無様を見せた。だが次はない……決着を、つけよう」

 

巨大な体躯に王冠、赤い壮麗な貫頭位(チュニカ)。立派な鎧にマント。それはまさにゴブリンの王者といえた。

対するは巨狼カナリアンテを降り、蛍色の小剣(ショートソード)を構える全身甲胄の小さな騎士。

 

「くっくっく……もうすこしゆっくりと話していけばいいものを。とはいえ、戦場か。仕方あるまい」

「ああ、こちらには時間がないのでな……ゴブリン騎士アラン・スミシー!()()()()()()()()に一騎打ちを申し込む!」

 

ゴブリン王は一瞬驚いた顔をした後、深く笑った。

 

「はじめて俺の名を呼んだな!()()()()()!」

「ああ、バザデ。返答はいかに」

 

彼は大きく笑った後、うなずく。

 

「ああ、受けよう、アラン!一騎打ちだ!」

「そうか、是非に及ばす。貴公を殺そう。今日、ここで」

「そうだ。それでいい!やってみせろ!あの夜のように!」

 

ゴブリン騎士もバイザーの下でかすかに微笑んでいた。

戦場の血なまぐささをかき消すように、一瞬爽やかな風が吹いた。

今、この瞬間二人の男は真の友となったのだ。

 

「おい、誰も手出しはするな!悪魔術士、手下を下がらせろ!」

「はっ。ご武運を、王よ……ああ、これが見たかった!みな、下がりなさい。王の決闘です。()()()()()()()()()()()!!」

 

悪魔術士の歓喜の声と共にゴブリン達が下がり、冒険者たちと睨みあう。

誰もが解っているのだ。この戦の趨勢はここで決まると。

ゴブリン王は『血濡れの大鉈』を取りだし、構える。

同じくゴブリン騎士も『月明かりの小剣』を構え、突きつける。

『開戦礼』だ。

一瞬の静寂……皆が固唾を呑み、そして両者は弾かれるように斬りかかりあった!

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