ゴブリン騎士と農民姫   作:照喜名 是空

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冒険の章 一年目・春
村の防衛①狼退治


◎狼退治

 

「今度の冒険は私向きなんですよ!」

 

街から依頼のあった辺境の村までゆく馬車の中、御者台に乗ったテイマーはゴブリン騎士とコボルト術士に話しかけた。

朝日を浴びる草原の中に一本道がどこまでも伸びてゆく。

 

「ほう、たしか村をあらすおおかみを退治する……だったか?」

「ええ、テイマーの仕事は動物が関わることならなんでもありますから。退治するだけじゃなくって、動物と話して交渉でなんとかすることもありますよ」

「しかし、けものに対価をしはらうかわりものはそれほど多くはあるまい」

「ええまあ、それはそうなんですけどね。街では結構お肉とかを対価に鳥さんたちを使ったりもします」

「じゃあ、こんかいはたいじってこと?」

「いえ、一頭二頭は退治するかもしれませんけど、基本的には脅して追い払う形になります」

 

ぽっこぽっこと馬は走り、代わり映えのしない一面の丘と草原をゴブリン騎士はちらりと見た。

馬車の中は快適だ。白い幌がかかり、窓からは涼しい風が入ってくる。

馬車の内部には両脇にベンチが据えられ、奧には荷物が詰められる。

 

「すべて殺してはいけないのか」

「あー、『自然の輪』のせい?」

「それは?」

「えっとねえ、草をたべて鳥やねずみがそだつでしょ、それをフクロウがたべて、さらにそのフクロウを…っていう仕組みなんだけど、一番上にいるオオカミやクマをぜんぶ退治しちゃうとねえ、ふえすぎたシカとか鳥が草を食べすぎて森がしぬの」

「よくわからんが、ようはやりすぎは何事もよくないということか」

「ええ、まあそういうことです。だから何匹か退治したら私がびしっと言うんです。『人の村に近づくとこうなる!おまえたちは森に帰れ!』ってね」

 

毅然とした様子で決め台詞を言ってみせるテイマー。

いささか迫力には欠けるが、それでもプロとしての威厳はそれなりにあった。

 

「なるほど、見せしめというわけか。いいだろう、腕がなるな」

「ふふふ……頼りにしてますよ!それに今回はこの子もいますから!」

 

ぶるる、と水妖馬(ケルピー)がいななく。

見た目は立派な白馬だが、よく見れば鱗やひれ、えらがある。

そしてなによりわずかに透けていた。

アンデッドだ。この水妖馬はゴブリン騎士以前にいたテイマーのものである。故に、すでに死んでいる。

今はかりそめの体を得ているだけだ。

 

「古竜様にもらったアイテムは本当にすごいですよね。二四時間に半日だけとはいえ、この子を蘇らせてくれるなんて……」

「あーそれはねえ、もともとそのケルピーの幽霊がごしゅじんのそばにいて、ちゃんと再契約してくれたからだよー」

「死んでからも私のそばにいてくれたなんて……いい子だね」

「うむ、みあげた忠誠心だ」

 

水妖馬の首にかかっている鎖につながれたメダルがその魔道具である。

名を『魂呼びのメダル』という。

テイマーはこれを三個さずかった。

そしてテイマーのかつていた従魔は三体。一時ではあるが、計五体の従魔を従え、さらに死霊術をかじりつつある、というのが現在のテイマーだ。

銅級冒険者にしては破格といえるだろう。

 

「あれっ、ごはんのにおいがするよーあとねえ、牛のにおいもするねー」

「んー、遠くに見えてきましたね!あれが依頼の村みたいです!」

 

遙か遠くに、わずか三〇件ほどの集落が山肌にしがみつくように見えた。

 

◎村にて

 

集落には昼過ぎには着いた。

今は村長の家で遅めの食事をいただきながら話を聞いている。

 

「それでは、事情はだいぶ変わってきますね……狼がゴブリンを乗せて襲ってくるなんて」

「そのとおり、状況は悪化しましてのう、出せる金はわずかですが、上乗せしましょう。人手も出しますでな。受けてくれますじゃろうか」

 

相手はいかにも村の古老といった様子の髭を生やした老人だ。

 

「主よ、どうする」

「……わかりました、見ての通り私の従魔はゴブリンとコボルトですが、それでも無体な扱いをしないというなら、やります」

「ありがたい、村の衆にもよく言っておきますでの」

「とにかく、少しでも急いだ方が良いですね。村の周囲に罠を張ります。人手を貸して下さい!」

「わかりましたじゃ」

「ご馳走になりました!行きましょう」

 

テイマーが椅子から立ち上がると全員がそれに続く。

村長の家を出て、村の外周へ。

深い森との境目、林が茂っていたり、背の高い草が茂っていたり。

そこにわずかに切れ目のように道が続く。

 

「主よ、罠は何にするつもりだ」

「まず柵は絶対に必要です。出来るなら堀かせめて落とし穴もあれば……」

「そのとおりだ。かのうならばそのうちがわにロープもはりたい」

「でもこれ全部は今日中には難しいですよね……」

「うむ……」

 

村の外周を見回りながら、二人はうなってしまう。

そもそもそんな強固な防備があればこんなことにはなっていない。

そこにコボルト術士がへっへっへっと口をあけながらこう言った。

 

「んー、突進をはばめればいいんだよね?」

「そうだ。すこしでもいきおいをそいで負傷したところを殺す」

「なら、こういうのはどうかなー?」

 

コボルト術士の説明に二人はまたもや唸ってしまった。

 

「そんなことがかのうなのか?」

「えーっと、術式としては出来ると思います。でもこれだけの規模を一人でとなると……」

「そこはだいじょうぶだよー触媒をいっぱいつかうからねー」

「なるほど……それで行きましょう!」

「うむ、いぞんはない」

 

◎まるで魔法、まさに魔法

 

それからの行動は早かった。

まずゴブリン騎士が外周にそって藪を切り開いていく。

その後ろをコボルト術士が本人の身の丈ほどもある杖で線を描いていく。

最後にテイマーが線の上に定期的に貴石と何かの種を置いてゆく。

 

「なんだありゃ」

「なんでも、まじないの準備じゃと」

「あんなんで本当にうまくいくんか」

「わからん……とにかく、邪魔はするでない」

 

この線を描く作業はわずか2時間ほどで終わった。

小さい村なのだ。

そして、村の中心部にある井戸の近く。そこで儀式は始まった。

 

『慈悲深き地母神よ。この供物を受け取り、この土地に手を触れたまえ-『豊穣』』

 

コボルト術士の目の前には簡易な祭壇と鍋で煮られた煮物、それから鹿肉が大量にある。

それら供物が光り、宙にわずかに浮き、そして地面がまるで口のような形に割れてばくんと飲み込む。

もうその時点でコボルト術士の腕前に疑いを持つ者はいなくなった。

 

『妖精王よ、契約に基づき、この豊穣なる大地にあなたの技を。茨よ壁となり守れ!「茨の垣根」』

 

外周部に置かれた種が芽吹き、あっという間に成長して茨の生け垣となって村を取り囲んでいく。

村人から喜びのどよめきが上がった。

 

「あー、つかれたー。これで壁はできたかなー?」

「ああ、じゅうぶんだ」

「これだけあれば……あとは皆さん!生け垣の内側にロープを張って下さい!」

「おお!やってやるぜ!」

「さすがは冒険者さまじゃ……我らに出来んことをする」

 

そうして、準備は万端。あとは夜を待つのみだ。

 

◎準備

 

そうして2日の時間が過ぎ去った。

ゴブリンと狼たちは警戒して襲撃に来なかったのだ。

だが、その間に村の防備はさらにすすんだ。生け垣の外には掘がしかれ、ロープが張り巡らされ、落とし穴も掘られた。

あるいは、村人は木を削り出して簡易な槍を作ったり、器用な者は弓をこしらえた。

むろん、その間テイマー達が何もしなかったわけではない。

 

「きょうこそは乗りこなしてみせるぞ」

「あ、はい。じゃあ出しますね……『我を守護せし霊よ、契約に従い、我が前にかりそめの姿となりて現われるべし』」

 

『魂喚びのメダル』が浮かび、うっすらとした姿から赤い獣になっていく。

まるでマグマのような体色の狼……それがテイマーのかつての従魔、妖精狼(ガルム)だった。

 

「ガルル……」

「よーしよし、いい子だね!いつもありがとう!じゃあ、ゴブリン騎士さんを背中に乗せてくれる?」

 

テイマーはわっしゃわっしゃとガルムを抱きしめて撫でる。ガルムの尻尾がぱたぱたと揺れ、口元が笑う。

しかし、ゴブリン騎士の単語が出たとたんに笑顔がなくなった。

 

「ガウッ」

「ガルムは何と?」

「嫌みたいですね……」

「うーむ……こやつをいちど殺したのは同胞であるいじょう、しかたないのだが……しかしガルムよ、これは主を守るためなのだ。先達としていろいろおもうところはあるだろうが、まげてたのむ。私とともに戦ってくれ!」

 

テイマーがそれを妖精語で翻訳してガルムにささやく。

 

「グウ……ガウウ?」

「ね、そこをなんとか……ゴブリン騎士さんは私を守ってくれているのはわかるよね?」

「ガウウ……」

 

ガルムは眉をしかめて嫌そうな顔をする。

しかし最終的には嫌そうにしながらも、さあ乗れとばかりにゴブリン騎士の前に座った。

 

「ありがとうガルム!えっと、ゴブリン騎士さんなんか『乗れるものなら乗ってみろ』って感じみたいです」

「かたじけない。主よ。そしてガルムよ。ではいくぞ!」

「バウッ!バウバウバウッ!」

 

かくして、ゴブリン騎士は妖精狼(ガルム)に乗って村の中をすっ飛んでいった。

 

「うおお!どう!どうどう!ガルムよ、もうすこしゆっくりと!ぬう、やはりただの狼とはちがう……!」

「バウバウバウッ!ヘッヘッヘ……」

「ぬう……だがまだまだだ!」

 

ゴブリン騎士が振り落とされてはガルムが『情けないやつだ』というように嗤う。

その度にゴブリン騎士は立ち上がってまた乗る。

この二日間で見慣れた光景となっていた。

 

「だからねえ、地母神へのおまつりは年に一回、お肉とハーブをそなえるといいよー」

「なるほど、ありがたい……それだけで『豊穣』の効果が畑にも及び、なお続くとは……」

 

一方のコボルト術士は村長に魔法や神事についての相談を受けたり、範囲回復魔法でけが人を直したりしていた。

おかげで村からは一人の病人もけが人もいなくなった。

大忙しである。そしてコボルト術士の仕事はそれだけではない。

 

「ぬうっ……ふんっ!」

 

ゴブリン騎士が借り物のショートソードを振るう。

十分な溜めを与えられた一撃は闇夜に青白い神秘の光を残した。

 

「あっ!ちょっとひかったよーそのかんじそのかんじ!」

「なるほどこれが魔力というものか……」

「だいぶ魔力がへってるねー『魔力贈与(マナコンバート)』!」

 

コボルト術士の身の丈ほどの杖が光り、ゴブリン騎士の体に光が降り注ぐ。

 

「やはりもともとの量がすくないのか?」

「ううん、魔力運用のむだがおおいんだとおもうよー、こればっかりはれんしゅうだねー」

「すまんな、私の修行につきあってもらって」

「いいよー魔法をおしえるのも好きだからねー」

 

ゴブリン騎士がドワーフの武器屋から借りた代用のショートソード。

これはわずかではあるが月の貴石による強化がされており、『溜め』を可能とする。

月の魔力を纏った一撃はより鋭く、重く、敵の体を切り裂くのだ。

 

「よし、いまの感覚をわすれぬうちにもういちどだ!」

「がんばってねえ-」

 

コボルト術士の一日はなかなかに濃密と言えた。

 

「ギルドへの連絡はこれでよし……と」

 

テイマーも三体目のかつての従魔である三つ足鴉を使い、ギルドへの報告を伝書鳩のようにして行ったり、森の小動物を手なづけて偵察を行ったりと準備に余念がない。

 

そして、三日目の夜が訪れた。

今夜もテイマーたちは馬車をテント代わりに、馬車の前で竈を作って食事をする。

今夜のメニューは肉麦粥のキノコ添えだ。

 

「しかしみょうだ……ゴブリンは、これほど早く狼を手なづけられるものではない」

「そうなんですか?」

「ああ、だいたいはながい時間をかけて餌づけするか、巣からこっそりと子をさらう。いきなり群れごと配下におけるものではない」

「確かに足跡からも何か警戒心が薄いような、何か変な感じがするんですよね」

 

ぐつぐつと煮える粥をお玉で掬い、テイマーが皆に取り分けていく。

麦肉粥はおおむねどの種族でも食べられる冒険の定番だ。

これが野外での活動となると、干し肉にビスケット、チーズにドライフルーツといった乾き物一辺倒になる。

 

「ゴブリンシャーマンがいるのかもねー。たのしみだなあ、ゴブリンシャーマンの術!」

「ありうる。そのときは頼りにしているぞ、コボルト術士どの」

「うん、ありがとー」

 

木のスプーンを使い、皆が椀を空にした頃、鐘の音が響きわたった。

 

「敵襲ー!!ゴブリン共が来たぞ-!」

 

森の方から、ゴブリンライダーたちの掲げる松明が見える。数はおよそ20。

戦いの時間だ。

 

「よし……戦のじかんだ」

「はい、行きましょう!」

「やろうやろう!」

 

戦いが始まる!

 




『借り物の小剣』
ゴブリン騎士がドワーフの武器屋から借りた代用のショートソード。
これはわずかではあるが月の貴石による強化がされており、『溜め』を可能とする。
月の魔力を纏った一撃はより鋭く、重く、敵の体を切り裂くのだ。

『魂呼びのメダル』
手の平ほどの銀色のメダル。鎖がつけられており、首輪としても使える。
半日の間、契約した霊にかりそめの命を与える。
死してなお従う霊達はまことの忠臣と称えられた。
このメダルは妄執にも似て、ほのかに暖かい。
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