かしまし幽姫   作:凰太郎

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うちら陽気なかしまし幽姫 其ノ一

 

【挿絵表示】

 

 事後処理が始まる。

 いつも(・・・)の事後処理が始まる。

 仰ぎ眺める白き円月は幻像と紅く染まり、異様な形態へと変貌した。

 髑髏(ドクロ)の陰影を浮かばせた妖月。

 決して〝人間〟には見えない〈現世と霊界の狭間〉に在る(あや)(おぼろ)──。

 それ(・・)はギィィと鈍い軋みに開き、門と閉ざしていた異界の入口(いりぐち)を開通させる。

 つまり〈冥界〉へと通ずる霊道だ。

 降り注ぐ月明かりは脆く繊細ながらも確固とした(みち)となり、その上を牛車が降りて来る。牽引する牛はいない。先導に囲うのは高貴な公家装束の(むくろ)達。

 やがて、わたし達の目の前に降り立つと、()も無関心とばかりに回収作業に専念し始めた。

 大きな……とても大きなピザ箱を牛車へと積み込む。

 中身はこんがりと火が通ったイカ玉──あの〈手洗い鬼〉だ。

 慣れた手際よさに詰め込み作業は終わり、そのまま不吉なデリバリーは帰還していく。

 わたし達は、その昇天を見送り続けた。

 奈落堕ちの昇天だ。

 これで何度目だろう?

 初めて見る光景ではない。

 幾度(いくど)も体験している。

 毎回〝結果的に〟だけれど……。

 何故か意図せず〝こういう流れ〟になってしまうんだけれど……。

「これから、あの〈妖怪〉は閻魔大王に裁かれて妖獄へと収監されるんだよね」

「ええ。そうですわよ、お菊ちゃん。刑期を終えるまでは現世(シャバ)に出て来られませんわ」

「そっか」

「そして、出て来る頃には、みんな立派な〝高●健〟として更正されていましてよ」

「ならないよッ?」

「人呼んで『網走(あばしり)人外(じんがい)()』……クスクス♪ 」

網走(あばしり)じゃないし!」

 何をトンデモないトコをブッ込んできたの?

 お露ちゃん!

「んだよ、お菊? 釈然としねぇ感じだな?」

「う……ん。今回のは、ちょっとだけ可哀想かな……って」

「は? 何で?」

「考えてみたら、あの妖怪たいした大事(おおごと)なんか起こしてないんだよね。単に〈学校の怪談〉として〝怖がらせていた〟だけで、誰かを殺したりしたワケじゃない……」

「「盗撮してたじゃん?」」

「してないよッ?」

 その濡れ衣、晴れてないのッ?

「ったく、ンな事かよ」と、お岩ちゃんは物臭に頭掻き。「アイツァ、やり過ぎた(・・・・・)……だから、アタシ等から睨まれた。それだけの事だろうが」

「そう……かなぁ?」

「見てみろ? この在り様を」

 (あご)で指し示す光景は、半壊した校舎にボコボコと荒れ果てたグラウンド。

()のせいで、こんなにもヒドイ惨状になったと思ってるんだ?」

 お岩ちゃん。

「そもそも、わざわざアタシ等がこんな面倒事に首を突っ込むハメになったのは()のせいだ?」

 お岩ちゃん。

「それにアタシゃ六万円も擦ってんだ! 腑に落ちねぇだろ?」

 それは間違いなくお岩ちゃん。

「だから八つ当たりしただけだ」

 ハッキリ言ったよ、この幽霊(ひと)

 ハッキリ「八つ当たり」って言ったよ。

 晴れやかな笑顔に白い歯を輝かせて。

「気にする事でもありませんわよ。お菊ちゃん」

「あ……お露ちゃん?」

「だって、ブ男でしたものー♪  どんな目に遭おうとノープロブレーム★」

 顔で格差したよ。

 イケメンかどうかが法律だったよ、この色情霊(ビッチ)

 スチャラカなゲスの極みオバケ達を感慨から除外し、わたしは再び月を仰ぎ眺める。

 白かった。

 おどろおどろしい異様は治まり、本来の白い満月が涼やかな光を発していた。

 綺麗な円月。

 それは、お皿のように見事な純白で……。

 そう、お皿のような……。

 お皿…………。

 ……………………。

「うふふふふ♪  お皿もらえるー♡ 」

「おーい? ヨダレ拭けー?」

「鼻血もですわー?」

 叙情も正当性も、どーでもよくなったわ。

 この世は〝お皿〟が絶対正義だもの。

「お岩、お露、お菊」

 不意に背後から聞き覚えのある声が呼び掛けてきた。

 振り向けば、小柄な美少女の姿。

 繊細に通った唇と薄い鼻筋が端正な顔立ちを形成し、眠気にも勘違いさせる眼差(まなざ)しは無抑揚に涼しい。

 少々奇異な出で立ちで、華やかな着物ながらもミニスカート仕様。艶やかに赤く長い髪は染めているワケでもなく紅蓮のような地毛──そのボリューミーさから歌舞伎の〈赤獅子〉を想起(そうき)させた。右手に携帯する杓棒は叩くに適した大きさで、額には位牌然とした光沢を照る黒塗りの名札冠──そこには達筆な崩し文字で『閻魔』と書かれている。

 こんな奇妙な少女は一人(ひとり)しかいない。

 既知(きち)の仲だ。

 そして、出来れば会いたくない。

 嫌っているワケではないけれど……。

 彼女(・・)に会うという事は、そのまま〝面倒臭い展開〟へと直結しているから。

 

 

 

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