ギーツエクストラ 仮面ライダーチークヘッズ from:ぼっち・ざ・ろっく 作:きゅー。
ビギン・アンド・リスタート
あれは、私が中学1年生の春のことだった。
ちょうどお父さんから借りたギターで、毎日6時間ぽつぽつと練習し始めた頃。
慣れない運指やコード進行に四苦八苦、そしてぶつりと切れた弦の感触。そして繰り返し、繰り返しの反復練習の毎日。
そうしているうちに指はすっかり傷んでしまい、気がつけばすっかりあちこちにちょっとした傷を作ってしまった。
動かすと、ちくりと走る指の痛み。上から絆創膏を貼ったら誤魔化せるんじゃないかと思ったけど、全てが消えるわけじゃなかった。
少し埃っぽい匂いと、遮光カーテンが陽の光を遮る部屋に、私のため息が静かに溶けゆく。
廊下からは、同級生なのか、それとも上級生か。
人と人の賑やかな、陽キャ丸出しな笑い声や会話が聞こえてきた。
どうか、見つかりませんように。
人と関わり合うのが大の苦手な私の時間は、こうして過ぎていく。
そんな時、
「───おめでとうございます」
人っ子ひとりいない学校の図書室に篭っていた私に、何処からともなく突然声をかけてきた人がいた。
どこか朝のテレビ番組のアナウンサーさんを思わせる、透き通った声。
それに、深夜にやってるアニメのコスプレと見紛うようなモノトーンの衣装。
当然、学校の制服なんかじゃない。
予告もなしに、突然目の前に現れた現実離れしすぎた光景。
私の脳みそは思考を止めて、すっかりフリーズしてしまった。
えっ誰ですか、と目の前の女の人に聞きたかったが、言葉が上手く紡げない。きっと誰かに決して見せられたもんじゃない、変な顔をしてるんだろうな、私。
するとその女の人は、黄色く、硬質な小箱のような物を差し出して、微笑みを浮かべながら私にこう告げた。
「今日からあなたは仮面ライダーです、後藤ひとり様」
そう。この日を境に私の世界は、否応なく変わった。
いや違う。決定的に"変わってしまった"んだ。
小箱を受け取ったその先に待ち構えていた、"あの出来事"が、やがて大きなうねりとなって、降り掛かる事になるなんて。
この時の私には、何ひとつ想像できなかった。
******
デザイア神殿。
そこは市井の人々が暮らす世界とは隔絶した空間に存在する、
その中の一角、プレイヤーたちの休憩所にあたるサロン。
そこで、白と赤のカラーに彩られた不気味な仮面を被った1人の人物が、置き電話を使い、何者かと連絡を取り合っていた。
「いかがですか?そちらの"お子さん"たちの様子は?」
仮面の下から響くは、女性の声だ。
物腰がゆったりとしていて、柔らかさのある口調だった。
受話器の向こうから、しゃがれた男の声が水を撒く音とともに聞こえてくる。
『ああ…元気にすくすく育っているよ!感謝してもしきれない程さ…ゲームマスター」
心の底から嬉しげに話すその男の名は…アルキメデル。
彼はDGPのミッション失敗により消滅したエリアを利用して作られた施設…ジャマーガーデンの主だ。
彼の主な仕事は、DGP内にてプレイヤーの敵役に回る存在、ジャマトの生産・育成にあった。
『あんたが開いてくれたゲームのおかげで、こっちは大助かりだぁ…』
「いえいえ…私は職務に忠実なだけですから」
ゲームマスターは謙遜する。
その職務は、仮面ライダーとなったプレイヤーたちの生き様そのものを命懸けのゲームを通して演出し、その魅力をオーディエンスに提供する事だからだ。
もともとDGPはリアリティライダーショーであり、3.5次元を生きるオーディエンス…未来人たちの娯楽として誕生。
異なる次元や時代を飛び越えて、彼女たちゲームマスターは様々なDGPの有様を演出してきた。
プレイヤーたちを体力や運、知略を駆使するゲームに参加させ、デザ神への篩にかける者。
エンターテイメント性を重視し、嘘と裏切りの共同生活をプレイヤーに課す者。
ある者は終わりなきプレイヤー同士の闘争を行う、血を血で洗うバトルロワイアルを。
そしてまたある者は、悲劇的な結末を求めるオーディエンスの声に応えて、プレイヤーたちごと時代を終焉に導いた。
DGPに参加するプレイヤーたちの進むべき道や、その命の行方は、最早ゲームマスターの手のひらで転がされているといっても過言ではない。
彼女がDGPにて開くゲーム。
それは一体、この世界に何をもたらすというのか。
「…でも、今度も期待しておいて構わないですよ、アルキメデル…もうすぐそちらにまたお届けしますから」
『ほほう、そりゃあ楽しみだ』
「ありがとうございます。それでは…足がつくといけないので、またお話しましょう」
さらなる策謀を思い描き、ゲームマスター・フセルは、仮面の下で不気味な笑いを浮かべながら、電話を切る。
手元にはハリネズミに似た意匠が刻まれた、プレイヤーの個人識別用端末…ライダーコアIDがあった。
「さて…熟成させたあなたのギラギラは、どんな味がするというのかしら」
淡い桃色をしたそれを専用のベルト、デザイアドライバーや各種マニュアルとともにミッションボックスに封入する。
「今の彼女には…これなんかが相性がいいかもしれない」
フセルはもう1つ、アイテム専用の鮮やかなピンク色をしたミッションボックスを取り出した。その中にはDGPのゲーム攻略に役立つアイテム、レイズバックルが収納されている。
今回、彼女が選定したのは"ビートレイズバックル"。
数ある強力なバックルの1つで、専用武器のビートアックスを用いて炎や冷気、雷といった属性攻撃を行え、遠距離・近距離を問わない戦いが可能な代物だ。
「…プレイヤー誰しもに"希望"はあげないとね…?」
つぶやきつつ、2つの小箱を携えたフセルはサロンから何処かへと歩みを進めていく。
新たなるデザイアグランプリ。
そのゲームの幕が、人知れず開こうとしている。