あの記憶は何時のモノだったのだろうか。
字も読めなかったから幼稚園かそれ以下だったのは間違いない。
最初の衝撃は今も心に焼き付いている。
テレビに映るアイドルユニット。その絶対的なセンター。
眩く煌々と、永遠と輝く様にも見えた一番星。
強い光の前で人はここまで焦がされてしまうものなのだろうか?狂ってしまうものなのだろうか?
俺はあの時、あんな昔に狂ってしまった。
一番星は非業と共に落ちてしまった。
でも、あの時感じた心の騒めきは何時だって思い出す事が出来た。
その光の幻影を今も追い続けている。
もう完成しない物語の続きを俺は描きたい。
これは、眩い一番星に狂わされた少年の物語。
そして、星を追う一人の少女の物語。
ーーーーーーー
朝は誰にだって等しく訪れる。
PiPiPiと耳障りなアラームを消し、一つ伸び。寝不足気味の頭に活を入れる。
俺の名前は梶光。見た目は普通の高校2年生。中身も普通の高校2年生。決して謎の黒い組織に不思議な薬を飲まされて小さくなった某探偵ではない。
普通の高校生と違う所と言えば、仕事として絵を描いているって所。その多くはきゃわいい女の子の二次元絵ばっかだけど。
一応、世間では新進気鋭のイラストレータ―として活動させてもらっている。
どうして絵を描き始めたのかは……恥ずくて口外したくは無い。
「はよ~」
家族への挨拶もそこそこに朝食と身支度を済ませ、玄関で靴を履いているとスマホから着信音。
まぁ良いだろと無視を決め込み、玄関の扉開けて家を出た。出先で待ち構えていた人影が、ひょいこちらに顔を向けて来る。
「おはよう!ひーくん。あと1コールで出なかったら、また家にお邪魔する所だったよ。」
「はよ。もう一緒に学校行くの止めない?学校違うんだし。僕らもう高校生ですよ。小学生みたいなムーブを繰り返すのはお互いに非効率だと思うんだが。」
お互い挨拶はそこそこに、いつもの通学路を歩き出す。
「で、本音は?」
精一杯の抗議の意味を込めた発言は完全に無視された。
「もっと寝たい。というか今日はズル休みしたかった。最近締め切りが近けぇやつ多いんだよ。積みゲーが増えてストレス溜まるんだよ。」
「そんな事だろうと思った。売れっ子は辛いねぇ。よしよししてあげようか?」
「要らねぇよ。」
彼女の名前は黒川あかね。家が近所と言う事もあり昔から付き合いのある、所謂幼馴染である。
黒髪で清楚系美少女と言った風貌である。俺基準だと中身はコールタールの様にねちっこいオカン気質のやべぇ奴である。
「ねぇ、『今ガチ』って知ってる?」
「あぁ。あの男女が一緒に生活して告白して何やらって、男女の恋愛を食い物にしてる畜生な番組ね。っていうか俺の事、世間知らずの異常者か何かと勘違いしてない?」
「そ、なんとその番組に出演することになりました!あとさ、ひーくんの言い分だと、私これから番組の食い物にされる事になるんですけど!」
そんな事言いながら、番組の出演が決まった事が嬉しいのか、嬉しそうにくるくる回っている。
「俺個人の意見なんで曲げるつもりは無いし、事実には変わりないだろ。なーんで畑違いな仕事取って浮かれてるんだか。」
「でもさ、テレビに出れる機会なんて早々ないからね!有名になるチャンスはモノにしないと!」
ビシィとこちらを指さし、売れるきっかけは逃すつもりのないご様子。
「お、言ってくれるねぇ。劇団ラララライの有望株は大変だ。」
「ラが一個多い!」
「あれ?吉本系の芸人グループじゃなかったっけ?」
「違うから!ちゃんとした劇団だから!」
「いやー業界には疎いからなぁ俺。」
「嘘!わざとやってるの分かるからね!」
「ちょま!ギブギブ!今落ちたら洒落にならないから!」
彼女の怒りポイントに触れてしまったのか、後ろに回り込まれてヘッドロックを決められる。
女の子特有の甘い匂いやら胸の感触やらを堪能したい所だったが、こいつマジでシメに来てるぞふざけんなよ後先考えずに行動するの止めてくれよ朝っぱらから人様に迷惑かけたくない小市民だよこっちはよ!
男女の膂力の差を見せつけ、何とか力づくで引きはがし距離を取って叫ぶ。
「ハァ、ハァ、ハァ、マジ危なかったふざけんな!」
「はぁ、はぁ、仕留め損なった。」
ふーと息を整え、頭に酸素を巡らせる。この女が危ない奴なのは百も承知。
そんな時の対処法はただ一つ……謝罪である。
「だがしかし、俺は大人なのだ。先程の殺人事件は水に流そう。そしてすまなかった。」
「謝罪は受け入れます。だけど私は根に持ちます。次は無いからね。」
「なんでや。」
「で、話戻すけどさ、これからは収録とか稽古とか忙しくなりそうだから、今までみたいに朝時間合わせるのは難しいかも。」
「そっすか。本格的に女優黒川あかねもめでたく芸能界デビューってか。俺としては朝ギリギリまで寝てられるから願ったり叶ったりだ。」
「なにおぅ。だらしない生活に戻るようなら直ぐに粛清に行くからね。ひーくんのお母さんに行っておくから。」
「……うわぁ抜け目ねぇな。」
彼女の言葉を聞き、俺はがっくりと肩を落とした。彼女の監視の目からは逃れられ無いみたいだ。
分かれ道にたどり着く。学校が違うからここで別の道に進むことになる。
お互いに別れの挨拶をし、道を進み出す。
後ろを振り返る。
ずっと同じ道は歩けなくて。時の流れは止められなくて、少しずつ変わって行く関係も、物理的に離れていく距離も時間も。切り捨てて、割り切って、無理やり納得して、俺らは大人になるのだろうか?