<アクア視点>
あかねのスマホが震える。
「あ、ひーくんの配信始まった。あとで見よっと。」
「ひーくんて誰?」
「ひーくんはね、私の幼馴染。H/Kの名義でイラストレーターやってるの。私と初めて会った時から鉛筆とノートを持って、ずっと練習してたなぁ。」
昔を思い返すように彼女は目を細める。幼馴染か。
「俺と有馬かなの様なもんか。」
「それとはちょっと違うかな。二人は昔知り合って、高校に入ってからまた再会したでしょ?」
「まぁ、そうだな。」
「私たちは家も隣で、ちっちゃい頃から一緒にいたんだ。どちらかというと、アクア君とルビーちゃんの関係の方が近いかも。」
彼について検索してみると、Wikipediaにページが出てくる。幾つかのライトノベル、TCG、ソシャゲの挿絵を描いているのが見つかる。
SNSのアカウントもあったので、投稿されている作品をいくつか見てみる。
「……かなり上手いな。」
素人目でも上手いとすぐに分かる。
その上、目を引きつける引力の様なものが、キャラから感じられる。
ただ、絵の出来の割に仕事の実績が少なく感じた。載っていないだけで、これ以外にも仕事があるのかもしれないが。
「だよね〜。学生だから生活全部を仕事には出来てないけど、大学とか社会人になって時間が出来たら、もっと売れてくと思うよね。あとね、」
これは私だけ知ってる秘密だけど、と前置きしてあかねは小声で話し始めた。俺以外誰が聞いてるわけでは無いだろうに、と思いながら顔を寄せる。
彼女いわく、彼個人の傑作として表に出ていない絵があるらしい。それはB小町の元センター星野アイと有馬かな。今投稿されている以上の作品を、彼は描き、外部には出さずに保管しているらしい。
彼はその絵に何を込めたのだろうか?興味があった。
データは貰っているのかと聞くと、彼女は首を振った。そこまでは出来なかったらしい。
「ひーくんはね、探してると思うんだ。星野アイ以上の輝きを放つ人を。でも難しいよね、中々そんな凄い人なんて現れないよね。」
そんな存在は永遠に現れない、と俺の中で断定するのは彼女を色眼鏡で見ているからだろうか。
「あかねは描いてもらったことは無いのか?」
演技という点では、今のあかねは有馬かなに負けず劣らずだとは思うのだが。
「ひーくんはね、私は描いてくれないんだ。私はまだ彼の描きたいレベルには至ってないみたい、ちょっと凹むよね。でも、だから頑張ろうってなるんだけど。」
彼女は少し悲しそうな顔をする。
「東京ブレイドの公演あったでしょ?彼、描いたんだ。今のかなちゃん。……すっごく悔しかった。」
東京ブレイドの彼女たちは俺の目から見てもどちらかが劣っているとは思わなかった。
あかねは彼の絵を見て負けを確信したみたいだが、彼女はあの講演にかなり思い入れがあった。負けず嫌いな彼女に負けを認めさせる程の絵か。少し興味が沸く。
「一度見てみたいもんもんだな。」
「どうだろ?今度聞いてみるよ。」
「出来ればで良い。」
才能のがある者の周りには、才能が集まる。
黒川あかねには才能がある。おそらくH/Kにも。
どちらがどちらかに引き寄せられたのかまでは、分からないが。
「……ねぇ?」
「なんだ?」
「誰かの背中を押すのって悪いことだと思う?」
「どうした薮から棒に。……一般論だが、それが本人にとって良いことなら、押してやっても悪いことではないと思うぞ。」
「……そっか。そうだよね。間違っては無いよね。」
背中を押した相手はこの幼馴染なのだろう。
そこそこ長い付き合いになりつつあるので、察しは付く。
「あかねは良いと思ったのか?」
「……本当はね、嫌だった、かも。でも、足踏みして前に進まないのを見てるのはもっと嫌だった。でも結局、私の行動はただのお節介でその人は直ぐに進んでいっちゃったんだけどね。空振っちゃった。」
そう言って彼女は自分の掌を見つめる。
「……変な話になっちゃった、ゴメンね。デートの続きしよっか。」
この会話でどうしても分かってしまう。
彼女の前を走っているのか彼か。彼女の星は彼か。
彼の才能は彼女にとって眩い程なのか。背中を押さずにはいられない程に。
まぁ今は良い。俺の復讐の相手はもう居ない。もう解放されたんだ。俺がこれから何をしたいのか、普通の日常を謳歌しながら決めていこう。
大変申し訳無いのですが、作品の都合上、原作の時系列を弄ります。完全なネタバレとまでは言いませんが、原作と比べ、映画編含め時系列の展開が早くなります。ご承知おきください。