黒川あかねに幼馴染がいたら   作:さっきのピラニア

9 / 12
MV

彼女を見つけたのは偶然だ。

有馬かなが所属した新生B小町。

そこにいた同メンバーの星野ルビー。

彼女は似ている。星野アイに。あまりにも似すぎている。

 

そしてB小町が新たに投稿したMV。

彼女の瞳に、表情に惹きつけられた。彼女の表情は、絶望と怨嗟と憎しみを静かに語っていた。

 

俺は確信した。

 

彼女は星野アイの血縁者だと。

 

俺はペンを取る。

 

彼女は妹だろうか?可能性はゼロでは無いが、年が離れすぎている。

いとこだろうか?娘だろうか?娘なら納得できる。

仮に、だ。星野アイを殺害した人間がまだ生きているとしたら。

お母さんを奪った人間を許してなんかやらない、と。

 

彼女の感情を繋いで線にして、繋いで形にして、さらに繋いで絵にしていく。

このMVを撮った人間に感謝をしたい。彼女の激情を見る事が出来たのだから。

 

俺も許さないよ。俺の星を、描きたいと思えた、最初の人を奪った人間を。

 

そうだろ?星野ルビー。

 

 

 

 

<あかね視点>

 

「!!……何……これ……」

 

私はSNSに流れて来た、その絵を見て息を飲んだ。

 

これは彼の絵だ。普段、表には公開しない彼の絵だった。

話題になったB小町のMVの中のワンシーン。

どんな心境の変化があったのか?

 

星野ルビー

 

それはいつもと毛色が異なっていた。憐憫を感じさせる絵には躍動感が無く、まるで時が止まったかのようだった。その静の形が、より言葉を強調していた。

 

『許してやらない。絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に。』

 

黒い悪魔。その黒い羽は画面に収まりきらない程大きく、萎びていた。

私に届いた感情は恐怖だった。怨嗟に呑まれたその表情はまるで自分が恨まれているかのよう。

彼は気付いてしまった、思い出してしまった。星野ルビーに動かされてしまった。

 

私は部屋を飛び出した。

 

「何!あれ!」

 

彼の部屋の扉を開け、開口一番私は叫んだ。

彼は思い出したかのように話す。

 

「……あぁ。あの絵の事か。」

 

私の事は特に気にした様子も無く、彼はいつも通りペンを走らせていた。

 

「あの映像見て、感情揺さぶられない奴なんていないっしょ。俺はそれを描いただけ。俺なりの解釈を加えてな。」

 

彼は私の星野アイの設定を知っていたのだろうか?いや、誰にも話した事なんてない。

彼は気付いてしまったのだ。星野ルビーの感情から、彼の憧れを殺めた人物がまだ生きている事を。

 

彼には進んでいて欲しかった。

彼は進んだ。私の想像していたのとは全く違う方向に。

彼は同じ道に進んでしまうのか?アクア君と同じ道を。

どこで間違えた?交わらないと思っていた二人を交わらせようとしているのは誰だ?

 

 

 

 

カミキヒカル

 

 

 

 

 

彼に変えられてしまうのか。

アクア君だけじゃなく、ひーくんまでも。

私には誰も助けられないのか?

 

「ひーくんは、ひーくんは復讐なんてしないよね?」

 

「……犯人には然るべき罰を受けさせる。法にのっとってな。」

 

やはりそうか、彼は止まらないか。

彼から絵の続きを奪った人間を許してはくれないか。

気付いてしまった彼は止められないのか?

 

「……そっか。」

 

どうして、とは聞けなかった。

彼の絵に答えは出ている。

 

私の大切な人たちは何故、間違った方に行ってしまうのか。

 

彼には言えない。犯人の名前を。

悟られてはいけない、アクア君との繋がりを。

 

私は自分の家に戻った。

 

「……酷いよ……こんなの酷すぎるよ……」

 

彼には前を見て、過去の事なんて忘れて欲しかった。

でもあのMVをきっかけに彼は戻ってしまった。彼は気付いてしまった。

彼は私の押す手をひらりと躱して、未来では無く過去へと戻っていってしまった。

彼は前を進んでいた筈なのに。

気付かなければ、前を進んでいた筈なのに。

 

奴を止めれば、ひーくんは前に進める。

奴を止めれば、アクア君の復讐も終わる。

私が、終わらせる。

 

 

 

 

 

<アクア視点>

 

B小町のMVは非常に話題を呼んだ。

そしてもう一つ、とあるイラストレーターの絵も評判となった。

 

H/K。本名、梶光。そしてあかねの幼馴染。

 

描かれていたのは、PV内で話題になった星野ルビーのシーン。

 

その絵は異質だった。

彼の絵を知る人からすると更に異質に感じただろう。

彼の絵の特徴だった動きの表現は無く、周囲から音を奪ってしまったかのような、完全な静。そして向けられる強烈な怨嗟。

 

『許さない。』

 

ルビーは彼と対面した事は無い。

彼女の激情を現実以上に強く、たった一人で描き上げる。

そして彼の絵を見て気付いた事がある。

彼は俺と同じ感情を抱いているということを。

星野アイを殺した犯人に対する強い恨み。

 

やはり、この男とは一度話をしてみたい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。