彼女を見つけたのは偶然だ。
有馬かなが所属した新生B小町。
そこにいた同メンバーの星野ルビー。
彼女は似ている。星野アイに。あまりにも似すぎている。
そしてB小町が新たに投稿したMV。
彼女の瞳に、表情に惹きつけられた。彼女の表情は、絶望と怨嗟と憎しみを静かに語っていた。
俺は確信した。
彼女は星野アイの血縁者だと。
俺はペンを取る。
彼女は妹だろうか?可能性はゼロでは無いが、年が離れすぎている。
いとこだろうか?娘だろうか?娘なら納得できる。
仮に、だ。星野アイを殺害した人間がまだ生きているとしたら。
お母さんを奪った人間を許してなんかやらない、と。
彼女の感情を繋いで線にして、繋いで形にして、さらに繋いで絵にしていく。
このMVを撮った人間に感謝をしたい。彼女の激情を見る事が出来たのだから。
俺も許さないよ。俺の星を、描きたいと思えた、最初の人を奪った人間を。
そうだろ?星野ルビー。
<あかね視点>
「!!……何……これ……」
私はSNSに流れて来た、その絵を見て息を飲んだ。
これは彼の絵だ。普段、表には公開しない彼の絵だった。
話題になったB小町のMVの中のワンシーン。
どんな心境の変化があったのか?
星野ルビー
それはいつもと毛色が異なっていた。憐憫を感じさせる絵には躍動感が無く、まるで時が止まったかのようだった。その静の形が、より言葉を強調していた。
『許してやらない。絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に。』
黒い悪魔。その黒い羽は画面に収まりきらない程大きく、萎びていた。
私に届いた感情は恐怖だった。怨嗟に呑まれたその表情はまるで自分が恨まれているかのよう。
彼は気付いてしまった、思い出してしまった。星野ルビーに動かされてしまった。
私は部屋を飛び出した。
「何!あれ!」
彼の部屋の扉を開け、開口一番私は叫んだ。
彼は思い出したかのように話す。
「……あぁ。あの絵の事か。」
私の事は特に気にした様子も無く、彼はいつも通りペンを走らせていた。
「あの映像見て、感情揺さぶられない奴なんていないっしょ。俺はそれを描いただけ。俺なりの解釈を加えてな。」
彼は私の星野アイの設定を知っていたのだろうか?いや、誰にも話した事なんてない。
彼は気付いてしまったのだ。星野ルビーの感情から、彼の憧れを殺めた人物がまだ生きている事を。
彼には進んでいて欲しかった。
彼は進んだ。私の想像していたのとは全く違う方向に。
彼は同じ道に進んでしまうのか?アクア君と同じ道を。
どこで間違えた?交わらないと思っていた二人を交わらせようとしているのは誰だ?
カミキヒカル
彼に変えられてしまうのか。
アクア君だけじゃなく、ひーくんまでも。
私には誰も助けられないのか?
「ひーくんは、ひーくんは復讐なんてしないよね?」
「……犯人には然るべき罰を受けさせる。法にのっとってな。」
やはりそうか、彼は止まらないか。
彼から絵の続きを奪った人間を許してはくれないか。
気付いてしまった彼は止められないのか?
「……そっか。」
どうして、とは聞けなかった。
彼の絵に答えは出ている。
私の大切な人たちは何故、間違った方に行ってしまうのか。
彼には言えない。犯人の名前を。
悟られてはいけない、アクア君との繋がりを。
私は自分の家に戻った。
「……酷いよ……こんなの酷すぎるよ……」
彼には前を見て、過去の事なんて忘れて欲しかった。
でもあのMVをきっかけに彼は戻ってしまった。彼は気付いてしまった。
彼は私の押す手をひらりと躱して、未来では無く過去へと戻っていってしまった。
彼は前を進んでいた筈なのに。
気付かなければ、前を進んでいた筈なのに。
奴を止めれば、ひーくんは前に進める。
奴を止めれば、アクア君の復讐も終わる。
私が、終わらせる。
<アクア視点>
B小町のMVは非常に話題を呼んだ。
そしてもう一つ、とあるイラストレーターの絵も評判となった。
H/K。本名、梶光。そしてあかねの幼馴染。
描かれていたのは、PV内で話題になった星野ルビーのシーン。
その絵は異質だった。
彼の絵を知る人からすると更に異質に感じただろう。
彼の絵の特徴だった動きの表現は無く、周囲から音を奪ってしまったかのような、完全な静。そして向けられる強烈な怨嗟。
『許さない。』
ルビーは彼と対面した事は無い。
彼女の激情を現実以上に強く、たった一人で描き上げる。
そして彼の絵を見て気付いた事がある。
彼は俺と同じ感情を抱いているということを。
星野アイを殺した犯人に対する強い恨み。
やはり、この男とは一度話をしてみたい。