奸臣に反逆凌辱されたい内政チート転生姫様vs奸臣のフリをする善良ハゲデブ宰相   作:RKC

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22話 幸薄凡骨下痢陛下

 私――レア王国女王のクレアが隣国の女王ソフィアと出会ってからしばらく経つ。彼女は私と違い、農業改革を成功させるなどの実績を残している立派な為政者だ。

 

 けれど、仕事の時以外は良く笑うし良く怒る。とても一国の長とは思えないが、私は感情を表に出すことが苦手なため、公私を分けるその姿はかえって魅力的に思えた。

 

 その上、ソフィアは小説家としても優れていると思う。彼女の書いた本が流行ったという事実はないが、少なくとも私だけは彼女の創作物の虜だ。

 

 ソフィアと私は外交相手というだけでなく、先生とファンの間柄でもある。彼女は私に本を送り、私はその感想を彼女に送っていた。

 

 それだけでなく、個人的な文のやり取りもしている。書き連ねるのはお互いの性癖について。

 そういったセンシティブな内容のため、家臣の検閲でバレないように柑橘水で文の余白に文字を書き、火であぶって文字を浮かび上がらせるという方法でやり取りをしている。本は贈り物の中に混ぜれば誤魔化せるが、書簡はここまでしないといけないのが面倒だ。

 

 私はソフィアの小説で好きな人に従属したい願望を開花させたが、彼女の今のトレンドは“失う事”らしい。

 

 なんとなく分かる気がする。ソフィアは稀代の天才だ。いくつもの成功を積み重ねてきた。しかし、その成功の分だけ失敗できないというプレッシャーも強いのではないだろうか。だからこそ、積み上げてきた成功を失いたい、0に戻してしまいたいと。

 

 しかし、責任ある立場のソフィアは勝手に0に戻るわけにもいかない。だからこそ、創作で気を紛らわせているのだろう。

 

 そこまで考えて少しうれしくなった。あのソフィアの秘密を世界で私しか知らないのではないだろうか、という優越感。

 

 ともかくソフィアと文通を重ねるうちに随分な月日が経った。そんな時に訪れたのは疫病の流行。罹患した者は下痢と発熱に悩まされ、10人に6人が衰弱して死ぬと言われている。

 

 そんな恐ろしい疫病に対して、私は何もできなかった。疫病が流行った時期の文献を漁って、その対処法を行ってみるがどれも効果が無い。やはり私は無能だ。新たな局面に対応するだけの力は無い。

 

 民が死んでいくのに何もできない自分を呪っていると、ソフィアから文が届く。そこには疫病の対策が記されていた。対策の理由も記されているようだが、私では理解できない記述も多い。

 

 しかし、ソフィアが考えたことであればきっと正しい事なのだろう。私は教えてもらったことを国に周知して実践させる。

 

 ……こうして凡人がソフィアの事を盲目的に信じ、その分彼女のプレッシャーが増しているのだろうか。

 

 そう思うと、ほとほと自分に嫌気が差す。とはいえ、やはりソフィアの教えは正しかったようで、新たに病気になる者が減っていた。

 

 やはり彼女は天才だ。今までに疫病の広がりをここまで見事に食い止めた者がいただろうか。少なくとも書には記されていないだろう。

 

 そして、そのような方法を何の見返りもなく教えてもらったことが怖い。一度も確立されていなかった疫病の感染を食い止める方法など、国家機密扱いでもおかしくない。ソフィアは善意で私に教えてくれたのだろうか?

 

 たしかに個人的な文のやり取りをしており、私とソフィアの仲は良いと言えるだろう。しかし、それだけで国家機密を教えるだろうか? いったい何の考えがあって……。

 

 怖くなった私はソフィアに会いに行こうとした。どのみちこれだけ救いの手を差し伸べてくれたのだ、会ってお礼を言わなければいけない。

 

 ただ、手紙の中に“疫病は病人から人へ移る。”という記述があった。下手をすれば私が疫病をソフィアに移してしまう可能性もある。

 

 しかし、私は未だに疫病にかかってはいない。病人ではないため大丈夫だろう。それよりも、これほどの事をしてもらって対面でお礼を言わない方が失礼だと。私は常識的に判断してしまった。

 

 非常事態において凡人の常識がどれだけ足を引っ張る事か、私は思い知らされることになる。

 

 

 

 

 

 エリュシオン王国に書状を出し、正式に招かれた私は国境を越えてエリュシオンの王都へとたどり着いた。

 

 そこでエリュシオン王国の宰相に迎えて貰った。どうやらソフィアは王宮を留守にしているらしい。何をしているかは宰相も知らないようだ。

 

 このように彼女が独断専行することはたまにあるらしい。護衛は連れていくため大丈夫だと言っていた。

 

 ソフィアが戻るまで私は王宮に宿泊させてもらう事に。とはいえ、1日もせずに彼女は王宮に戻って来た。

 

 久しぶりにソフィアと対面する。相変わらずの美少女だ。しかし、その顔は私を見るなり険しくなる。

 

「クレア殿? なぜここに?」

 

 その険しい顔に私の心臓は縮み上がる。

 

「そ、その……疫病の対策を教えてもらったお礼を……」

 

「わざわざ対面で言いに来たのか……常識的には確かにそうだが、今は非常事態。疫病の蔓延防止が最優先にされるべきだ。

 明日にでも荷物をまとめて帰った方が良い。クレア殿が病気を移されるとも、移すとも限らん」

 

 私が病気を移す。その可能性を示唆されて、言い訳せずにはいられなかった。

 

「し、しかし私は病気に罹っておらず……」

 

「病気には大抵無症状の時期がある。症状は出てないのに人に病気を移せる、疫病からすれば絶好の好機だ。……それについてもきちんと書いておくべきだったな」

 

 私の言い訳は一刀両断される。心臓を鷲掴みにされたような気持ち悪さが襲ってきた。

 

「私……私、何てことを……」

 

「落ち着け。まだ移したとも移されたとも決まった訳じゃない。とにかく今日は遅い。ここに泊まって、明日の朝すぐに帰った方が良い」

 

 ソフィアの言葉に私は首を縦に振るしかない。すぐに貸して貰った部屋に籠る。ベッドの中で“どうか何もありませんように”、とずっと祈っていた。

 

 

 

 

 

 しかし、神は私の祈りを聞き遂げてくれなかった。朝、目が覚めると頭が熱い。対照的に体には寒気が断続的に襲ってくる。

 

 私はベッドの上でシーツに包まって怯えていた。

 

 防疫の方法を教えてもらったにもかかわらず、私は常識に囚われて何という失態をしてしまったのか。悔いる暇もなく、扉の向こうから声が聞こえる。 

 

「クレア殿、調子はどうだ?」

 

 “疫病にかかっていたため部屋に入らないでください”

 

 そう告げるのが今の私の最低限の義務。しかし、無能の私はほんの少しでも失望の目を向けられる時間を伸ばしたくて、何も言わなかった。

 

「失礼するぞ」

 

 部屋の扉が開く。最悪な事に、その瞬間グルグルと腹が蠕動(ぜんどう)する。

 

「クレア殿、その様子だと……」

 

 私が病気だと察するソフィア。それだけでも身を引きちぎられそうな痛みが胸に走るのに、私の尻は主人の意志を無視して腹の異物を勝手に吐き出す。

 

 シーツにシミが広がった。

 

「見ないで……見ないでください……」

 

 ほんのわずかに存在していた自尊心が完膚なきまでに破壊された。

 

 

 

 

 

 以降、私は隔離され治療を行われる事となった。私としてはこのまま見殺しにでもして欲しかったが、一応は王宮に訪れた客人。私が死ねばソフィアの名声に傷がつく。

 

 だとしても納得できない事が一つあった。ソフィアが私を看病する事だ。感染の恐れもあるのにどうして一国の女王が看病を請け負うと言うのか。

 

 周りの役人たちも止めようとしていたが、ソフィアは全てを跳ねのけたらしい。

 

「医者は男ばかりだ。下痢している所を異性に見られたいか?」

 

 それが理由ならソフィアがやらなくとも、女の使用人に介護方法を教えてやらせればよいのではないだろうか。

 

 結局、ソフィアが直々に介抱してくれる理由は最後まで分からなかった。

 ただ、感染の危険を冒してまで看病してくれることは嬉しかった。

 

 

 

 

 

 病気は長引いている。

 熱い、寒い、気持ち悪い。本当に死んでしまいそうなほど苦しい。

 

 そうなると、病気にかかった時は“このまま見殺しにしてくれ”、と思っていたのも忘れて命が惜しくなる。私は何処まで行っても凡骨だ。

 

「ソフィア殿……私は……このまま死んでしまうのでしょうか……?」

 

 気づけばそんな弱音が口から零れる。“死んでしまう“と後ろ向きな事を口に出した瞬間、体から生気が抜けていくのを感じた。

 

「私が看病してやってるんだ。死ぬ方が難しいぞ」

 

 ソフィアの力強い言葉に少しだけ力が戻る。確かに彼女の様な天才に任せておけば安心だ。少なくとも私が何かするよりかは。

 

 その時、尻から軟便が漏れた。ベッドの尻の部分はくりぬかれており、便はそのまま下の便器に落ちる。 

 

 落下の音が部屋に響く。ソフィアにも聞かれた事だろう。人前で排泄をする恥ずかしさはすでになく、むしろ別種の快感を覚え始めていた。

 

 病気で頭がおかしくなったわけでは無いと思う。信頼できる相手に自分の恥部を晒す。これも一種の従属ではないだろうか。そう思うようになっただけだ。

 

 感染の危険を厭わない数日の看病を経て、私の中でソフィアの存在が限りなく膨張している。額に氷袋を当てられて少し楽になれば、考えるのは彼女の事ばかり。

 

 初めて読んだソフィアの小説のように、彼女に支配されて分相応に扱われたい。彼女に従属したい。そんな気持ちが膨れ上がるたびに、自己嫌悪に陥った。

 

 私はしたい事、何かしてもらう事ばかり考える浅ましい人間だ。私がソフィアに対してできる事は何か無いのだろうか。

 

 ……ソフィアは“喪失したい”と手紙に書いていた。ただ、私は看病されて生かされている。感染の危険があると理由を付けて放り出せば、私は簡単に死んでいただろうに。

 

 しかし、そうしなかったという事は、彼女にとって私は喪失するに足る者ではない。

 

 熱に浮かされながら導き出した結論にボロボロと涙が出た。何もしてあげられない無力感とソフィアから特別には思われていない事に悲しみが止まらない。

 

「大丈夫だ」

 

 私が泣いているのを見てソフィアが頭を撫でてくる。今はその優しさすら私にだけ特別に向けられる物ではなく、誰にでも発揮する優しさとしか思えなくて、殊更(ことさら)に悲しくなった。

 

 

 

 

 

 それ以降の事はあまりよく覚えていない。気づけば熱は下がり、危篤状態は脱していた。

 

「起きたか。体調はどうだ?」

 

 ソフィアが声をかけてくれる。恐らく、付きっきりで看病してくれていたのだろう。

 

「おかげさまでこの通りです」

 

 私は力こぶを作るポーズをするが、病気でやつれてしまっており、とても元気そうには見えなかっただろう。

 

「しばらく療養して栄養を付けて良い。完治しても1〜2週間ぐらいは体内に病気の元が残ってもいるしな」

 

 その言葉には素直に従う。病気に関しては私の意志で行動しない方が良いだろうと思って。

 

「……今回は本当に申し訳ありませんでした」

 

「全くだ。これに懲りたらもう少し臨機応変に行動することを覚えた方が良い」

 

 己の浅慮を謝ると、ソフィアは全く責めないでもなく、かといって強く叱責するでもない。その態度が今の私には一番ありがたかった。

 

「命を救われて大きな借りを作ってしまいました。何か私にできる事は無いでしょうか」

 

 私がそう言うと、ソフィアは本当にあっけらかんと言う。

 

「じゃあ、私の国を滅ぼしてくれるか?」

 

「……はい?」

 

「手紙でもやり取りしただろう。私の最近のマイブームは“喪失”だと。今まで手塩にかけて成長させてきたこの国が無くなったら気持ち良いと思ってな」

 

 私が絶句しているのを見てソフィアは続けて言う。

 

「……いや、冗談だ。そうまともに受け取るな」

(クレアちゃんみたいな弱小国じゃ流石に私の国を滅ぼすなんて無理だろうしね)

 

 その言葉に落ち着きを取り戻す。国を滅ぼして欲しいなど正気で言えるはずもない。それが現実のものとなれば民も多く死ぬことだろう。感染の危険も顧みずに私を助けてくれた優しいソフィアがそんな事の実現を許すはず無い。

 

 逆に少しでも本当だと思ってしまった自分が恥ずかしくなった。ただ、完全な冗談という訳でも無いのだろう。ソフィアが喪失したがっているのは、手紙に書いてあった通り本心のはず。

 

「とにかく今は休め。恩返しはいつものように私の本を読んで感想を書いてくれれば良い」

 

 ソフィアが指差す先には小説が数冊。彼女が過去に書き溜めた物だろう。

 

「食事は持ってこさせるから扉の隙間から受け取ってくれ。食器はそこにある蒸留酒で消毒してから返却する様に。……この後1週間は自室に引きこもりか……」

 

 ソフィアは注意事項を述べて、部屋から出て行ってしまった。私の病気が移っていないと良いのだが。

 

 

 

 

 

 翌日。私は運ばれてくる朝食を食べて、ソフィアに渡された小説を読むだけの怠惰な一日を過ごしていた。

 

 扉がノックされる。昼食の時間だろう。私は扉に向かった。

 

「クレア陛下」

 

 その時、扉の向こう側から声が聞こえた。

 

「疫病対策のため、扉越しに話しかける不敬をお許しください。私はソフィア陛下にお仕えする武官の一人、スカールと申します」

 

「何の用でしょうか?」

 

 いきなり話しかけられた事に驚きながらも耳を傾ける。

 

「クレア陛下はソフィア陛下とお二人で居られる時間が長かったと思います。その時に、その……ソフィア陛下から何か耳を疑うような発言を聞いたことはございませんか?」

 

 “じゃあ、私の国を滅ぼしてくれるか?”

 

 一応この発言が当てはまるだろうか。しかし、いくら家臣とはいえソフィアの性癖について話すのは(はばか)られる。

 

「い、いえ。別にそのような事は……」

 

 否定するが、スカールという家臣は私の声の調子から心当たりがあると思ったのか追及してくる。

 

「失礼ながら本当でしょうか? “陵辱”や“喪失”などとおっしゃっていたのであればお話しください。私は誤解を解きたいだけなのです」

 

 その発言から、恐らくスカールはソフィアの性癖を知っている。その上で何か誤解があると……。

 

 気になった私はソフィアとの会話をスカールに話した。すると扉の向こうの声は途端に悲哀を帯びる。

 

「……今の陛下は気がふれておられるのです」

 

 スカールは語った。少し前の内乱でソフィアは拉致され、暴行されかけた。そのショックで自分は凌辱されたり喪失するのが好きだと思い込むようになってしまった。彼女の発言は本意ではない、と。

 

「そういう事情のため、どうかこの事を口外しないでいただきたいのです。

 ……失礼ながら、このような醜聞が広がり、エリュシオン王国が侮られるようなことがあれば、実質的な傘下にあるレア王国にも不利益が及ぶ事も考慮下さい」

 

 そう言われて私は混乱していた。おおよそ理解不能な事を突き付けられたからではない。話の整合性の取れなさに混乱していた。

 

 ソフィアは内乱の際に暴行されかけて以降、凌辱・喪失が好きになったと勘違いしたらしい。しかし、私がさっきまで読んでいたソフィアの官能小説は陵辱がメインの物語であり、それの執筆日時は4年前となっていた。

 

 ソフィアは明らかに内乱よりも過去に凌辱作品を書いている。執筆日時が嘘の可能性もあるが、ソフィアは複数の作品を書いている。あれだけの作品を内乱が起きてから今までの間に書き上げるのはまず不可能。

 

 つまり、ソフィアは内乱の前から凌辱の趣味があったと言う結論にどうしても落ち着いてしまう。

 

「その……スカールさん、えっと……非常に言いにくいのですが……」

 

 私はその事実をスカールに話した。ソフィアに頼んで自作小説を借り、それの日時さえ見れば私の論の証拠になるのではないかとも言った。

 

「いや、そんなまさか……」

 

 扉越しでも唖然とした雰囲気が伝わって来る。その場は一旦解散となった。

 

 それにしてもエリュシオンの王宮でソフィアの性癖が広まっていて、しかもそれが彼女の気がふれた結果という事になっていたとは……。

 

 自分の性癖を信じてもらえなくて、あまつさえ腫物のように扱われた彼女が気の毒に思えた。……いや、すんなりと受け入れた私の方がおかしいのだろうか。

 

 とにかくこれでソフィアの性癖は家臣たちに正しく認められる事だろう。……それの何が良いのかはよく分からないが。

 

 そこまで考えてある可能性にたどり着いた。もしかしたら、平和裏にソフィアを喪失させることができるかもしれない、と。

 

 冗談だがソフィアは私に“自分の国を滅ぼしてくれ”、と過激な発言をした。あの様子だと家臣たちにも滅茶苦茶言っているのではないのだろうか。

 

 もしそうなら、そのイメージを利用して“ソフィアに国を任せるのは危ない。ただ彼女の知識や閃きは有用だから、実権だけを奪って名誉役職についてもらう”、と提案すれば家臣たちに受け入れられる可能性も……?

 

 いや、女王とはいえ外様の私の提案を受け入れる事はまずないだろう。しかもこんな突飛な提案。そう思いながらもソフィアに何かしてあげられる機会を前に、私の心は止まらなかった。

 

 私の様な凡人がとても為せることではないかもしれない。ただ、ダメで元々だ。人生で初めて為すべき使命に心が燃えるのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

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