奸臣に反逆凌辱されたい内政チート転生姫様vs奸臣のフリをする善良ハゲデブ宰相   作:RKC

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3話 宰相

 最近、姫様が鍛冶屋に滅茶苦茶な注文をしていると聞いた。“何かよくわからない物を鍛冶屋の都合を無視して、さっさと作れと言ってくる”。そのような内容を悪口にならないよう迂遠で、婉曲で、冗長かつ間接的に報告を受けたのだ。

 

 どうせ突発的な思い付きでろくでもない事をしているのだろう。肩を落としながら宮廷の庭を歩いていると、庭で紅茶を飲んでいる姫様を見つける。そういえば姫様と個人的に話をした事は無かったな、と思いながら声をかける。

 

「これはこれは姫様、ご機嫌麗しゅう」

 

「あぁ、宰相か。ご機嫌よう」

 

 いつもの姫様と様子が違う。王様や王妃様と一緒にいる時は、“おとーさま! おかーさま!”などと年齢よりも少し幼い口調で話していたにもかかわらず、今はまるで大人が話すような口調。

 

「やはり姫様はいつ見ても美しいですな。女神に勝るとも劣らないその美貌! 流石は王家の選ばれた人物!」

 

 大仰に持ち上げておく。長い間の宰相生活で王様や王妃様の機嫌を損なわないように身に付いた世渡り術だ。姫様はまだまだ子供、世辞と疑われる事も無いだろうし大げさに言っておくぐらいが好感度を良く稼げるはず。

 

 いや、そもそも世辞というよりは事実に近い。それほど姫様の容姿は整っている。長く艶のあるストレートの銀髪。ルビーの様な真紅の瞳。絹の様な白い肌。まさに生きる芸術品。

 

 姫様の肖像画を描いた絵師たちは、皆姫様の美しさをキャンバスに描ききれず、発狂していたほどだ。

 

「そういう宰相はいつ見ても醜いな。そのハゲ散らかした頭。中途半端に髪を残すぐらいなら全部剃ったらどうだ? その方がまだ見栄えが良いぞ」

 

 言われて、思わず頭を押さえる。私も中途半端に髪を残すよりは、いっその事剃ってしまった方が見栄えは良いと分かっている。しかし、髪は神から賜ったとされる神聖なもの。それを剃ってしまっては神に見放されてしまう。

 だから私はこうして少ない髪を守っているというのに……。怒りを抑えながら愛想笑いを浮かべる。

 

「はは……これは手厳しい。

 姫様はティータイムのようですが、あちらの使用人たちには何をやらせているのですかな?」

 

 姫様は私に一瞥もくれず私の頭の事を(けな)してきた。その間、姫様がじっと見つめていた使用人について聞いてみる。

 

「アイツには畑を作らせてる」

 

「畑、ですか」

 

 どうして王宮の庭で畑を作る必要があるのだろうか。わざわざ庭師が手入れをしている一角を更地にしてまで。

 

「新しい農具と農法の効果を見るためにな」

 

 言われてみると、確かに使用人は今までに見たことのない農具を使って畑を耕している。牛が引くような(すき)に似ているが、少し形状が違う。

 

「あれは(すき)のようですが、何が新しいのですか?」

 

 私がそう言うと、姫様は不遜な笑みを浮かべながら立ち上がった。

 

「ついてこい。体感させてやる」

 

 姫様に連れられ畑の近くまで来た。

 

「こっちが(すき)(くわ)で耕した土。こっちが新しい農具で耕した土だ。土の色が違うだろう?」

 

 (すき)(くわ)で耕した土は淡い土色。新しい農具で耕した土は深い黒味のある土色だ。

 

「新しい農具は地中深くの土を表面にまで掘り返す。表土の痩せた土地では無く、肥沃な地中の土で農業が出来るってわけ。しかも新しい農具の方が効率が良い」

 

「ははぁ」

 

 地中の肥沃な土か。本当にそうなるかはまだ分からないが、少なくとも効率に関しては明らかだ。新しい農具の方が(すき)(くわ)に比べて2倍近い土をすでに耕している。

 

「これはなんと革命的な。これがあれば未開拓地の開発も効率的に……もしや鍛冶屋に作らせていたのはこれだったのですか?」

 

「まぁな」

 

 前言を撤回する必要があるかもしれない。姫様のしていることはろくでもない事では無かった。全く新しい試みで成果を上げようとしている。

 

 姫様が王宮の外に出る事はほとんどない。つまり、外部からの情報無しに独力でこの農具を思い付いたという事。子供ならではの柔軟さか、神童のなせる(わざ)か……どちらにせよ素晴らしい功績だ。

 

 姫様は私の驚いた顔を見て、不遜な笑みを深めていた。こういう所には子供っぽさが垣間見える。

 

「他にもあるぞ。除草具に脱穀機、穀物とその他ゴミの分別機」

 

 姫様が指差す方にはそれらしき見たことのない農具が置かれていた。短期間であれだけの数の開発をしたというのか。

 

「この場でお前にその効果を見せてやれないのが残念だがな」

 

「姫様の発明です。試すことも無く素晴らしいのは明らかでございます」

 

「ふん、当然だ」

 

 姫様は嬉しそうに笑っている。子供らしく褒められるのは好きらしい。

 

「新しい農法の効率の良さもそのうち見せてやる。私が女王になった暁には国民を今の倍に増やし、農民の割合を今の半分以下にしてやるからな」

 

「はは、それは楽しみですな」

 

 子供らしく大口も叩くらしい。もしもそんな事が出来たなら永遠に語り継がれる英雄になれるだろう。増えた人口、浮いた農民で他の事業に力を入れる事ができ、周りとの軍事力、文明力の差は広がる一方。世界征服だって夢では無くなるのだから。

 

 バキッ!

 

 そんな時、王宮の玄関の方から何かが壊れる音が響いて来た。

 

「今の音は何だ?」

 

「恐らく馬車の車軸が折れる音でしょう」

 

「車軸か。バカ丸出しの言葉だな。そんなものを使っているから故障が多くなるんだ」

 

 すると姫様は過激な発言をする。

 

「は、はぁ……しかし車軸を使わなければいったいどうやって車輪を配置すれば良いのですかな?」

 

「車軸で左右の車輪を繋がなくても、左右の車輪が独立して回るようにすれば良い。そうすれば左右の車輪が別の速度で回転できるだろう。それと比べて車軸で車輪を繋いでいると左右で同じ回転数にならざるを得ない。

 するとカーブの時に外輪の方が移動距離が多いにもかかわらず、左右の車輪が別の速度で回転できないせいで外輪が引きずられる。それが故障の元になっているわけだ。それに無理やり引きずるせいで余分な力が必要になる。非効率、非叡智極まる」

 

「そ、そうなのですかな?」

 

「まぁ、口で言っても分かりづらいだろうな。ついてこい」

 

 姫様に連れられて王宮の玄関まで行くと、そこには車軸の壊れた馬車が一台と、故障していない馬車が一台。故障してない方を使ってカーブを曲がらせてみた。すると、確かに外の車輪がガリガリと音を立てて引きずられている。

 

「な?」

 

「た、確かにそうですな」

 

「それに見ろ。車軸を通さないといけないせいで車軸の上に荷台を置かざるを得ない。車軸を無くせば荷台の位置も下げられて、乗り降りや荷物の積み下ろしが楽になるし、重心が下がるから姿勢が安定する。

 まぁ、車輪を独立させるせいで頑強さが低くなるから補強する必要はあるがな。そうすると重くなるのが困りものだ」

 

 姫様は車軸を蹴りながらそう解説してくれる。

 

「むむむ……」

 

 まったくもって姫様の言う通りだ。姫様の発想力、聡明さは農具だけの一発屋ではなく本物かもしれない。まだまだ子供だというのに、これほどの開発を行えるとは……。

 

 王宮の玄関から宮庭のテーブルがある場所まで戻る最中に思う。

 

 もしも姫様が善良な性格を持っていたら、この国は化けるかもしれない。

 

 しかし、姫様の噂を聞く限りはとても善良な性格とは言い難い。なにやら使用人に排便を命じたり、その人糞と他の何かを使用人にかき混ぜさせたり。

 極めつけは――

 

「そういえば姫様。この前、使用人に怪我を負わせたそうですな。何やら火薬の暴発と聞きましたが」

 

「あぁ、銃の爆発の件か。それがどうかしたか?」

 

「いえ、使用人に怪我を負わせた件についてどうお思いですかな?」

 

 姫様は即答する。

 

「愚民が1人傷ついた所で何とも思わん。宰相の様に政治が出来るわけでも無い。貴族の様に土地を治めているわけでも無い。私の様に王家の尊い血を引いているわけでも無い。ただの消耗品だ。

 そんな消耗品に傷病手当を出してやったんだ、その使用人は頭を地面にこすり付けて私に感謝するべきだな。にもかかわらずさっさと使用人を辞めおってからに。まぁ道具に腹を立てても仕方あるまい」

 

 この言い草か。怪我をした使用人に手当が出ている事には安心するが、やはり姫様の性根は王様や王妃様譲りらしい。私が内心で肩を落とす中、姫様は更に続ける。

 

「そうだ、お前にも銃の威力を見せてやろう。そこの使用人、あっちの倉庫から鉄の筒と、近くにある包みを持って来い」

 

 姫様に捕まった使用人は嫌な顔をしながらも、命令通り姫様が“銃”と呼ぶ鉄の筒と付属の包みを持って来る。姫様は使用人に命じながら、何やら準備を終えたようだった。

 

「じゃあ火縄に火をつけて引き金を引いてみろ。あの木の板を狙ってな」

 

 使用人は震えていた。それもそうだろう、あの銃とやらは爆発する恐れがあると知っているのだから。

 

「ひ、姫様。あの銃とやらは爆発するのではありませんか?」

 

「ちゃんと火薬の量は前回から調節してある。爆発するような事にはならない。……多分」

 

 最後にぼそっと呟いた言葉が酷く物騒だった。

 

「いいから撃て!」

 

 強く命令される使用人。震えていたが、彼の身分で姫様に逆らえるはずも無く引き金を引いた。

 

 パァン!

 

 乾いた大きな破裂音。同時に目の前の木の板が割れる。

 

「まぁこの火力なら有効距離は20mって所か。というか上手く当たったな」

 

「姫様、今のはいったい……」

 

「銃。弓に代替する火薬を使った飛び道具。こいつは良いぞ? 銃を頑丈にして火薬の量を増やせば弓より飛距離が伸びる。それに素人の使用人でも使えただろう? 弓と比べて訓練の期間が少なくて済む。

 農業改革で浮いた農民に銃を持たせれば、十分な戦力になるだろうな」

 

「か、火薬ですか? そんな貴重なものを使うとなると、数を揃えるのは無理なのでは……」

 

 火薬にこんな使い道があったのは驚きだ。しかし、火薬は原料の硝石の入手が難しいはず。姫様が言う様に兵器として数を揃えるのは不可能だ。

 

「だから火薬に必要な硝石を人工的に作る実験をしてる。あの小屋の中でな」

 

 姫様が指差したのは、とんでもない悪臭を放つ小屋。確か姫様が命令して糞尿と土を使用人に混ぜ合わさせている場所のはず。あれは嫌がらせでは無かったのか。

 

「し、しかしあそこは、その……糞尿を混ぜ合わせている場所では? それがどうして硝石を作るという事に?」

 

「硝石を作るには洞窟の土を使うと良いと言われている。だから洞窟の土の状態をあの小屋で再現しているだけだ。

 洞窟の様に日の当たらない、雨を凌げる奥まった小屋。コウモリの糞の代わりに人の糞。土は適当に麻畑から持って来た。まぁ、気長に数年待て。実験で結果が出れば火薬を量産できるようになるからな。

 それに銃を実用化に耐える強度にするにはもっと固い鉄が必要だ。とりあえず今は水車動力で(ふいご)を動かして……」

 

 正直、姫様の言う事を全ては理解できなかった。ただ、考え無しに使用人を虐めているわけでは無いのは確かだ。

 しかし、わざわざ糞尿を用意するために公開排便させる必要はない。やはり姫様の性根は王様や王妃様寄りと言える。

 

「私が女王になれば、富国強兵を成功させてやる。富んだ民からは更に税を搾り取り、周りの国は瞬く間に占領してやるさ。だから宰相も長生きしろよ。占領のついでに他国の綺麗所を奴隷としてくれてやるからな」

 

 子供らしくない提案に思わずたじろいでしまう。

 

「な、何をおっしゃりますか姫様」

 

「ん? 私が子供だからと言って遠慮することは無いぞ。お前が兵士の魔女狩りに口を出して女を手籠めにしているという噂は聞いているぞ」

 

 最悪な噂を立てられてしまっている。それは誤解だというのに。

 

「どんな女が好きだ? 北方の真白い大きな女か? それとも南方の浅黒い女か? 好きな所から攻めてやるぞ」

 

 現状でもこの性格。子供ならば性格を変えることも可能かと思ったが、難しそうだ。加えて性格を変える為に道徳を説いても、それで姫様が改心してくれなければ私は疎まれ、追放されてしまう可能性が高い。そうなれば、現状の危ういバランスすら崩れて本格的にこの国は終わってしまう。

 

 しかし、このまま手をこまねいていれば……。あくどい性格をしていながら、天才的な発想力を有する姫様が実権を握ればいったいどうなってしまう事か。

 

 ただ姫様は褒められるのに弱かったり、自分の発明を自慢したがったりと精神的につけ込む隙はいくらでもある。

 

「そうですなぁ……西のレア王国の姫様。貴方様が女王になる頃にはちょうど熟れている年齢でしょうなぁ、グッフフフ……」

 

 性格を変えるのが難しいのならば、いっそのこと懐に飛び込んでしまおう。姫様が悪政を敷いた時に私が調整できるように。

 私が悪徳貴族のような発言をすると、姫様は不遜な笑みを深める。

 

「姫様が狙いか。良い性癖だ。いや、本当に。とはいえ、私が女王になる時に熟れているかは怪しいところだな」

 

「? それはいったいどういう……」

 

 姫様の発言の真意はつかめない。とはいえ、姫様に取り入ると決めた以上はここで媚びを売っておかなければ。

 

「そういえば錬金術師の元に入り浸っていたようですが、そこでも何か発明をされたのですかな?」

 

 姫様は嬉しそうに話し始める。

 

「火薬の改良をな。銃が爆発したのも火薬の改良をしすぎたせいだ。全く頭が痛い」

 

「グッフフ、それはひとえに姫様が優れすぎているせいですな。天才に付きまとう税と思うしかありません」

 

 私が褒めれば、姫様は饒舌に語る。

 

「ま、人類の叡智をもってすればどうにでもなる税だ。私の様な王家が税に悩まされるのはスマートじゃないからな」

 

「まったくもってその通りですな」

 

 やっぱり褒められるのに弱いらしい。天才的とはいえ基本的には子供か。こういう場面だけを切り取れば可愛らしく思えるのだが。

 

「他に発明したのは……銀に反応しない毒とか」

 

 しかし、続く姫様の言葉にゾッとさせられる。

 

「銀に反応しない、毒……」

 

 私が意味深長に復唱すると、姫様はふっと笑う。

 

「冗談だ冗談。そんなものがあれば好きなだけ毒殺し放題だからな。欲しいのは確かだが、そんな都合の良い物はありえない。ま、もしも完成すればお前にも分けてやるぞ」

 

「そ、それはありがたい」

 

 姫様の口調から判断するに、とても冗談とは思えなかった。もしや本当に銀に反応しない毒を……。

 

「おっと、私には盛るなよ?」

 

「は、はは……」

 

 姫様の急な発言に愛想笑いを返す事しか出来なかった。

 

「宰相も忙しいだろう。長い間引き留めて悪かったな。また機会があれば付き合ってくれ」

 

 そうして初めての姫様との会話は終わった。取り残された私は姫様の言葉について考える。

 姫様は単純だが、その発想力と聡明さは認めざるを得ない。だからこそ不思議だ。“毒を持っている”という、ともすれば疑われかねない発言をした真意は。

 

 ……いや、分かり切った事か。私に対する牽制なのだろう。“いつでもお前を毒殺できるぞ”と。

 

 背筋を冷や汗が伝う。彼女に取り入り、政治を調整するのには命の危険が伴いそうだ。だがやるしかない。それが宰相の地位にいる者として最低限の責務だ。

 

 

 

              ♢

 

 

 

 宰相とのコミュニケーション。なかなか良かったんじゃないか?

 ハゲデブ煽りでヘイトを貯めつつ、現代人知識マウントを取って気持ち良くなりつつ、最後には毒殺を匂わせる発言。これで私が両親を毒殺して女王になった時、“新しい女王はあろうことか自らの両親を毒殺した不届き者だ!”、というように宰相が私を摘発する良い理由になるだろう。

 

 凌辱のための完璧な伏線張り……何と叡智(えいち)的な事か。このまま凌辱目指して頑張るぞい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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